おたふくかぜワクチン Q&A
おたふくかぜとはどのような病気でしょうか?
おたふくかぜはムンプスウイルスによって引き起こされる病気です. 流行性耳下腺炎とも呼ばれます.
耳の下側にある耳下腺と呼ばれる唾液を作っているところに炎症が起きて, 耳下腺の腫れ(耳下腺腫脹)がみられるのが特徴的です.
おたふくかぜワクチンはどのようなものですか?
おたふくかぜワクチンは原因の感染症におけるリスクを軽くするために開発された生ワクチンです.
他の多くのワクチンと同じく注射で接種します.
おたふくかぜワクチンは任意接種であるため, 接種する場合には費用がかかります(医療機関によって異なりますが, 1回5000-6000円程度です).
いつからできますか?何回接種した方がよいですか?
おたふくかぜワクチンは1歳になってから接種することができます.
また合計で2回接種するとより効果的であるため, 2回接種が推奨されています(*1).
<参考>
*1 日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール(http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=138)
どのようなスケジュールで接種しますか?
上述の通り1歳をすぎてから合計2回接種します.
具体的には
・1回目: 1歳になったら接種
・2回目: 就学前1年間で接種
するようなイメージになります(*1)
他のワクチンと一緒に接種することはできますか?
1歳になったら, 以下のようなワクチンも接種することができるようになります.
・ヒブワクチン[追加接種]: 3回目から7か月以上空いているかに注意!
・肺炎球菌ワクチン[追加接種]
・MR(麻疹風疹)ワクチン[1回目]
・水痘ウイルスワクチン[1回目]
1歳になったら同時に5種類のワクチンを接種する機会ができますが, これらは同時に接種することは可能です.
これらを同時に接種することによって特別に安全性への問題が高まったりすることはこれまで報告されておらず, 一般的に接種は行われています.
どのような効果がありますか?
ワクチンの効果は報告によって様々ですが, 小児科の世界標準となっている教科書であるNelson Textbook of Pediatricsでは以下のように記載されています: (*2)
・1回接種: 78% (49-92%)
・2回接種: 88% (66-95%)
従って1回接種でも効果はみられますが, 2回接種の方がより高い効果が得られることが期待されます.
ただし2回接種しても効果は100%ではないため感染してしまうことはあります.
また効果の持続期間に関しても1回接種で10年以上, 2回接種で15年以上と上述の教科書では記載されています.
ただし全員で等しくこのような効果があるわけではありません.
ベルギーの研究では, ワクチン接種後から期間が離れている方が罹患しやすいことが示されており, 4年後でもわずかに罹患率が高まっていました(*3). このことから数年後であってもわずかに効果は低下しているかもしれません.
*2 Nelson Textbook of Pediatrics 21th edition.
*3 Outbreak of mumps in a vaccinated child population: a question of vaccine failure? Vaccine 2004; 22: 2713-2716
おたふくかぜは自然に治るのになぜワクチン接種が行われているのですか?
ワクチンおたふくかぜの原因であるムンプスウイルスによる病気で後遺症を残したり, 死亡したりするリスクを減らすことが目的です.
おたふくかぜを引き起こすムンプスウイルスは, おたふくかぜだけではなくその他にもいくつかの病気を引き起こすことが知られています.
具体的には以下のようなものが挙げられます(*4): (カッコ内は発生率)
・難聴 (感染した人の0.01-0.1%) (*5)
・無菌性髄膜炎 (感染した人の1-10%)
・脳炎 (感染した人の0.1%)
・死亡 (脳炎発症患者の1-5%)
・精巣炎 (感染した成人男性の15-30%)
・卵巣炎 (感染した成人女性の5%)
・急性膵炎 (感染した人の4%)
これらの病気のうちで難聴や脳炎は将来後遺症を残すリスクがあり, また脳炎では死亡してしまうこともあります.
こういった病気のリスクを下げることがワクチンの目的ですので, おたふくかぜが自然に治るというだけでワクチン接種の必要がないとは考えない方が好ましいかもしれません.
*4 Mumps. Lancet 2008; 371(9616): 932-944
*5 An office-based prospective study of deafness in mumps. Pediatr Infect Dis J 2009; 28(3): 173-175.
おたふくかぜのワクチンを接種してもかかった人を知っています. 効果も100%でないなら接種する意味はないのではないでしょうか?
上記の通り, 2回接種した場合でも効果は100%ではありません. そのためワクチンを2回接種した場合でもおたふくかぜにかかってしまうことは当然あります.
ただしワクチン接種を行うことでリスクは下がることは多くの研究から確かめられています. 誰が感染して症状が出て, 誰が重症化するかはわかりません.
そのためワクチン接種したあとにかかった場合でも, もしかしたら合併症・重症化を防いでいるかもしれません. ただそれも当然わかりません.
そのため個人の経過だけでは判断できませんので, これまでの行われてきた質の高い研究結果の方が判断材料にする方が好ましいと思われます.
従って結果的にはおたふくかぜにかかってしまう可能性があったとしてもリスクを下げているという意味では, 他のワクチンと同じように推奨されます.
世界中でおたふくかぜワクチンはどのように用いられていますか?
おたふくかぜワクチンは世界中の多くの国で定期接種化されています.
2019年2月(*追記 2020年でも基本的には状況は変わっていません)にWHOから発表されたデータには以下のような図があります(*6).
緑色に塗られた国がおたふくかぜワクチンが国の予防接種プログラムに取り込まれている(定期接種化)ところです.
世界地図を見ていただけるとわかるように, 世界の多くの国でおたふくかぜワクチンが定期接種化されています(もちろん面積が広い国の多くが緑色になっているため, よりそう見える, というのもあります).
それだけ世界的にもおたふくかぜワクチンは重要なワクチンであると認識されているのかもしれません.
*6 https://www.who.int/immunization/monitoring_surveillance/routine/en/の"Vaccine introduction slides"から引用
日本で使用されているワクチンと海外で使用されているワクチンでは違いはありますか?
まず大きな違いとしては単独ワクチンか混合ワクチンか, という違いがあります. 日本とアメリカを例にあげると以下のようになっています:
・日本: 単独のおたふくかぜワクチン
・アメリカ: MMRワクチン(麻疹・おたふくかぜ・風疹)
また使用されているウイルスの株も以下のように異なります:
・日本: 星野株, 鳥居株
・アメリカ: Jeryl-Lynn株
(その他にもRIT 4385, Urabe Am9, Rubini, Leningrad- Zagreb, Leningrad-3といった株が用いられています)
ワクチン接種後の副反応としてはどのようなものが知られていますか?
おたふくかぜワクチン接種後の主な副反応としては以下のものが知られています.
・耳下腺腫脹
・無菌性髄膜炎
・その他(アナフィラキシー, 難聴, 精巣炎)
耳下腺腫脹
おたふくかぜワクチンを接種してから約10-14日後に耳下腺の腫れ(耳下腺腫脹)が起こることがあります.
この耳下腺腫脹は自然に回復します.
無菌性髄膜炎
稀にワクチン接種後3週間程度で無菌性髄膜炎が発生することが報告されています(詳しい発生率は後述しています).
これに関しては主に
・無菌性髄膜炎は基本的に良性疾患で後遺症を残さない
・無菌性髄膜炎の発生率は自然に感染するよりもはるかに低い(自然に感染した場合 10-100人に1人 : ワクチン接種後の場合 約10000人に1人)
という点からリスクよりも効果の有益性の方が上回ると考えられています(*4).
その他
他のワクチンも同様ですが, アレルギー反応が生じることがあり, 特に重症な場合にはアナフィラキシーを起こすことがあります. アナフィラキシー自体の発生は極めて稀で, 約100万接種に1回程度です.
また難聴と精巣炎といったものもワクチン接種後の副反応として報告されていますが, 関連すると言えるほど十分な情報はありません. いずれにせよ, これらも発生は極めて稀です.
情報によってワクチン接種後の無菌性髄膜炎の発生率が違うのですが?
副反応の項目で述べたとおり, おたふくかぜワクチン接種後に無菌性髄膜炎が発生することがあります.
ワクチン接種したうちでどのくらいの割合で無菌性髄膜炎が発生するか, ということに関して様々な情報があります.
まず添付文書では1600-2300人に1人の割合で, ワクチン接種後に無菌性髄膜炎が発生したという報告がある, という記載があります (*7, *8)
ただしワクチン接種後に発生した無菌性髄膜炎だからといって, 必ずしもワクチンが原因で起こるとは限りません.
ワクチンが市販されたあとに行われた研究では, おたふくかぜワクチン(星野株)接種後に起こった無菌性髄膜炎の多くはワクチン以外の原因によるものでした(*9). この研究では約1万に1人の割合で発生しているのではないかと推測しています.
現在のところでも1万から4万人に1人程度と推定されています.
*7 添付文書「乾燥弱毒生おたふくかぜワクチン(星野株)」北里第一三共
*8 添付文書「乾燥弱毒生おたふくかぜワクチン(鳥居株)」武田薬品工業
*9 Vaccine adverse events reported in post-marketing study of the 30 Kitasato Institute from 1994 to 2004. Vaccine. 2007; 25: 570-576
定期接種になったら接種しようと思いますが, それからでは遅いですか?
確かにワクチンの費用は負担になるものです. そのため定期接種となって自己負担になくなってから接種したいと思われるかもしれません.
親御さんがおたふくかぜやおたふくかぜワクチンについての情報を読んだあとに答えたアンケートに基づいた日本の研究があります(*10).
この研究では任意接種のままでワクチンを2回接種すると答えた人は61.7%であったに対して, 定期接種になった場合は92.1%が2回接種すると答えています. この結果からも, 有益であることを知った場合でも費用負担がある場合には二の足を踏んでしまうことは少なくないことが示唆されています.
ただし今のところおたふくかぜワクチンが定期接種となる予定はありません.
<更新歴>
2019/6/2: 公開
2019/6/2: 公開後, 「定期接種になったら接種しようと思いますが, それからでは遅いですか?」の一部分を修正 (表現の誤りを訂正)
2019/6/3: 「情報によってワクチン接種後の無菌性髄膜炎の発生率が違うのですが?」の一部分を訂正(約10000万人と誤記載されたものを, 約1万人に修正)
2020/7/3: 2020年について言及した内容を追記