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PFAPA症候群

PFAPA症候群(Periodic Fever, Aphthous stomatitis, Pharyngitis, Adenopathy Syndrome)は周期性発熱, アフタ性口内炎, 咽頭炎および頸部リンパ節炎を特徴とする疾患である.
1987年に周期性好中球減少症に似た周期性発熱の症候群の12例をMarshallら報告がPFAPA症候群の最初の報告であり(*1), その後多くの症例が報告されるように一般的に知られるようになった.
日本においては2001年にKawashimaらによって初めて報告された(*35).


疫学

発症率
PFAPA症候群に小児における自己炎症性疾患のうちでもっともよくみられるものと考えられている.
ノルウェー人で行われた研究では, 罹患率は5歳までの小児の人口1万人あたり2.3人と推定されている(*28).
また後述のように遺伝的素因がPFAPA症候群の発症に関与していると考えられていることから, 地域によって罹患率の違いが存在する可能性がある. 実際白人では黒人やヒスパニックと比べて罹患しやすいとも報告されている他(*20), イスラエルでの研究でも地中海系の方が非地中海系の人々よりも発症しやすい可能性が示唆されている(*36).
ただし日本人での罹患しやすさについては知られておらず, 実際に日本でどの程度の患者数がいるかもわかっていない.

発症年齢
一般的には5歳未満で発症し, 特に3歳前後で発症するという報告が多く(*2, *20), 日本人を対象とした研究でも発症年齢は2.7歳±1.6歳と報告されている(*23).
一方でノルウェーでの研究では発症年齢の中央値は11か月と報告されており(*28), より低年齢でも発症する可能性があることは考慮すべきだろう. .
また5歳以上の小児で発症する例も存在し(10-30%前後)(*6, *23), また成人での発症例も報告されている(*3)ため, 年齢によってPFAPA症候群の診断が除外されるわけではない.

性差
やや男児の方が発症しやすいとする報告が多く, PFAPA患者の約60%を男児が占める(*2, *20)

家族歴
PFAPA症候群は家族性地中海熱などの自己炎症性疾患と異なり, 当初は散発的に発生すると考えられていた. しかしCochardらの研究によりPFAPA症候群の患者において家族歴を有することは少なくないことが指摘され(*34), その後同様の結果が報告されるようになり, 現在ではPFAPA症候群においては一定の家族内集積性があると考えられている.
ManthiramらはPFAPA患者においては, 両親や兄弟にPFAPA症候群や反復性咽頭炎, 反復性アフタ性口内炎の既往歴を有する割合が高いと報告しており4), 家族歴を聴取する上では家族内でも個々人により臨床像を示すことはある.
家族歴がみられる割合は研究により幅が広いが, PFAPA患者の26-78%で, 家族内にPFAPA症候群や反復性の発熱の既往を有する人がいたと報告されている(*5, *6).

危険因子
PFAPA症候群における危険因子についてはあまり知られていない.
フィンランドで行われた症例対照研究では, 対照と比べてPFAPA症候群患者では母の喫煙率が高く, 母乳栄養であった割合が低かったこと, また環境因子として家に水槽がある割合が高かったことが報告されている(*7)


病因

PFAPA症候群は家族性集積性があることから, 他の自己炎症症候群と同様に発症には遺伝的素因が大きく影響していると考えられている.
PFAPA症候群の患者のインターロイキン(Interleukin: IL)-1βに関連する遺伝子を分析したKollyらの報告では, 約20%にNLRP3のvariantを示されている(*31).
また欧米やトルコ人でのPFAPA症候群患者のコホートを分析した研究では, IL12AやSTAT4, IL10に関連する領域でのvariantがPFAPA症候群発症のしやすさと関連があるのではないかということ示唆されている(*32). またこのバリアントは再発性アフタ性口内炎やBehçet病においてもみられたことから, PFAPA症候群とこれらの疾患と関連性を有する可能性があることも示されている.
その他, 危険因子を分析した一定の環境要因の存在が疑われるものの詳細については不明な点が多い.


病態形成

病因の項でも述べている通りPFAPA症候群ではIL-1βが発熱時の病態形成に大きな役割を果たしていると考えられている(*31, *32).
またI型免疫応答も病態形成に大きな役割を果たしていると推測されている(*32). 実際に発熱発作時に血清中のIL-1βやIL-6など様々な炎症性サイトカインやケモカイン値が上昇していることが報告されている(*26, *32).
また発作間欠期においてもTNF-αやIL-18は上昇していることが示されている(*10)


臨床症状

概要
PFAPA症候群は病名のとおり, 主に周期性発熱, アフタ性口内炎, 咽頭炎および頸部リンパ節炎がみられることが特徴である. ただしこれらの症状は必ずしも全て揃うわけではなく, Hoferらの報告ではアフタ性口内炎, 咽頭炎, 頸部リンパ節炎が全てみられた症例は全体の43.5%であった(*6).
また同じ患者において, エピソード毎で必ず同じ症状がみられるわけではないことも示唆されている(*2).
さらに, 上記の特徴的な症状以外にも様々な臨床症状がみられる可能性がある点には注意が必要だろう.

発熱
発熱は突然起こり, 悪寒を伴うこともある. 発熱は高熱となり体温が40℃を超えることもある.
通常その他の臨床像とともに発熱することで発症するが,ときに倦怠感や易刺激性, 咽頭痛, アフタ性潰瘍が先行することがある.
発熱の期間は平均4日間程度(*2, *23)であるが, 個人や発症からの期間によって幅がある.
また発熱のエピソードとエピソードの間の間隔は約1か月超で, 当初は比較的規則的であると考えられていた(*20). しかし近年のまとまった報告では, エピソード間の期間はより長く数か月となる場合もあることが示されている(*2, 5, *23).

咽頭炎
咽頭炎は発熱のエピソード中にはほとんどの場合伴う症状であり, 約90%でみられる(*6, *23).
また扁桃炎も伴うことも多いほか, 白苔の付着がみられることも多いことが示されている(*23)

頸部リンパ節炎
両側の非化膿性リンパ節炎がみられることがあり, 62-94%程度でみられる(*2, *5).

アフタ性口内炎
PFAPA症候群では大きさが1cm未満のアフタ性口内炎が通常1-4個程度形成される(*2)
アフタ性口内炎は病名にも含まれている特徴的な臨床所見であるが実際にはみられる頻度は咽頭炎や頸部リンパ節炎と比べて低く, 全体の38-68%程度でみられる(*2, *6, *11).

その他の症状
発熱や特徴的な3つの症状以外にも様々な症状がみられることがある.
よく知られているものとしては腹痛(20-50%), 嘔気・嘔吐(20-40%), 頭痛, (18-65%), 関節痛(10-30%)が挙げられる(*2, *5, *11, *20).
またIgA腎症と合併したとする症例報告はあるものの(*29), 現時点では関連性の高い合併症は知られていない.


検査

一般的な血液検査
発作中では中等度の白血球数増加と血清CRP値上昇, 血清アミロイドA (SAA)値上昇がみられる. 69%の患者で発作中の血清CRP値が5mg/dLを上回っていたとする報告はあるが(*6), 上昇値には幅があると思われる(*25).
またプロカルシトニンは一般的に上昇しないとされている(*8, *25).

IgD (Immunoglobulin D)
PFAPA患者では血液検査でIgD値上昇がみられることがあり, 頻度は研究により幅は大きい(22-100%)(*9, *10, 11, *23).
日本人を対象としたTakeuchiらの研究では, 36.2%で10mg/dLを上回っており(*23), 血清IgD値上昇は後述する診断基準のsupportive criteriaの項目の1つとなっている.


診断

診断は通常その他の診断を除外しつつ, 診断基準を参考にして行われる.

診断基準
1999年の報告で用いられたThomasの診断基準(表1)がよく知られた診断基準である(*20).

(表1) Thomasの診断基準
1. 若年(5歳未満)発症の規則的な反復性の発熱
2. 上気道症状がなく, 以下の症状のうち1つ以上を伴う
 a) アフタ性口内炎
 b) 頸部リンパ節炎
 c) 咽頭炎
3. 周期性好中球減少症が除外される
4. エピソードとエピソードの間で完全に無症状の期間がある
5. 正常に発育, 発達している

しかし5歳以上での発症例が存在することなど, 実際にはPFAPA症候群の臨床像は多彩であり, Thomasらの診断基準を満たさない例でも実際にはPFAPA症候群と考えられるケースが少ないことが指摘されるようになった(*13).
近年に新たに2つの診断基準が提示された(表2), (表3) (*22, *23).

(表2) Takeuchiらの基準 (*23)
Required criteria
8日間未満(平均4日間)で続く体温38℃以上の発熱で, 1年間で最低4回再発する
Supportive criteria
 1. 発症年齢が5歳未満
 2. 白苔を伴う扁桃炎もしくは咽頭炎
 3. 以下の臨床徴候のうち少なくとも1つ以上を伴う
  a. アフタ性口内炎, b. 頸部リンパ節炎, c. 咽頭痛, d. 嘔吐, e. 強い頭痛
 4. 咳がない
 5. 家族歴
 6. CRPやSAAといった炎症性臨床所見が発熱エピソード中に著明に上昇し, 発熱がないときには正常
 7. 血清IgD高値
 8. 副腎皮質ステロイド薬の効果が非常に高い
-----------------------------------
診断: Required criteriaを満たし, supportive criteriaを5つ以上満たす
可能性あり: Required criteriaを満たし, supportive criteriaを4つ満たす
(表3) Eurofever/PRINTOの基準 (*22)
以下の8項目のうち少なくとも7つを満たす場合にPFAPA症候群と診断される
・咽頭扁桃炎が存在する
・エピソードの期間が3-6日
・頸部リンパ節炎が存在する
・周期性がある
・下痢がない
・胸痛がない
・発疹がない
・関節炎がない
--------------------------
感度: 97% / 特異度: 83%

実際にはこれらの診断基準を参考にしつつ総合的に判断すべきであろうとは考えられる.

鑑別診断
周期性好中球減少症やその他の周期性発熱症候群(家族性地中海熱, 高IgD症候群, TNF受容体関連周期性症候群[Tumor necrosis factor receptor-associated periodic syndrome: TRAPS], クリオリピン周期熱症候群[Cryopyrin-associated periodic syndrome: CAPS])が鑑別診断として挙げられる.


治療

副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン; プレドニン®)
発熱時に0.5-2.0mg/kg/doseのプレドニゾロンの単回投与によりほぼ全例で反応性がみられと一般的には認識されており, 単回投与で効果が得られたなかった場合には2回目の投与も考慮されうる.
Hoferらは63%が単回投与後にすみやかに解熱した一方, 32%では部分的な反応にとどまり, 5%では反応がみられなかったと報告している(*6). またその他の研究でも90%前後で効果があると報告している(*21).
またpredonisone 0.5mg/kgと2mg/kgでの効果を比較したYazganらの研究では, 両者に明らかな効果の違いはなさそうであることが示唆されている(*37).
発熱以外の症状に対しても効果はあるが, アフタ性口内炎では改善するのにやや時間を要する可能性が示されている(*12).

シメチジン(タガメット®)
ヒスタミンH₂受容体拮抗薬の1つであるシメチジンには免疫修飾効果があることが示唆されており, Federらの報告によりシメチジンがPFAPA症候群の発作に対して予防的効果を有することが示唆された(*37).
ただしその後の主な研究では, 投与された患者のうち効果は示したのは約30%程度であり, 効果は限定的であることが示唆されている(*2, *20, *21). 近年のTakeuchiらの報告では発作を抑える効果が51.6%の患者でみられたとしており, 従来の報告よりも高かった(*23).
以上より, 効果は限定的であると考えられるもののPFAPA症候群の予防において選択肢の1つとはなりえると考えられる.
また2022年に報告されたシメチジンとコルヒチン(後述)の効果を評価した無作為対照研究でもシメチジンの発熱発作を減少させる効果が示されたほか, シメチジンとコルヒチンでは効果に明らかな差はなさそうであることが示唆されている(*41).
シメチジンの投与量は報告により異なるが, 日本では一般的には15-30mg/kg/日 分2程度で使用されている(*10, 23). またシメチジンの細粒には苦味があるために投与できない場合もあることもある(*30).

コルヒチン
コルヒチンの炎症に対する効果の作用機序は不明なところはあるが, PFAPA症候群と臨床像が類似している家族性地中海熱に対しては効果が認められていることから, PFAPA症候群に対してもよく用いられている薬の1つである.
Tasherらの9例でのケースシリーズ研究では発熱期間が14日以内の頻発患者に対してコルヒチン(0.5-1mg/日)を予防投与し,ほとんどの患者で発熱期間の延長(平均1.7週から8.4週)を認めたと報告している(*16).
また, その他でもいくつかの小規模な研究でコルヒチンでPFAPA症候群での発作予防に効果的であることが示唆されている(*17, 40).
従って, コルヒチンもPFAPA症候群の発作予防における選択肢の1つとはなりえるかもしれない.

 Anakinra (IL-1受容体拮抗薬) (日本では未承認)
前述のとおりPFAPA症候群ではIL-1が病態形成に大きく関与していると考えられている(*31, *32). そのため組み換えIL-1受容体阻害薬であるアナキンラが有効である可能性はある.
実際にアナキンラを投与した5例では有効であったとする報告はある.
ただしアナキンラは高価な生物学的製剤であること, また基本的には自然治癒が期待できる疾患であり, その他にも効果が期待できる治療法が複数あることから, 実際にアナキンラが選択される例は極めて限られると考えられる.

扁桃摘出
PFAPA症候群に対して扁桃摘出術は非常に有効な治療法であり, 効果については多くの報告がある.
研究により有効率に幅はあるが一般的には90%超で有効であると報告されており(*13, *14), 2019年のコクランレビューでも有効であるとされている(*24).
扁桃摘出の術後発熱のエピソードがみられなくなることが多く, また術後に発作が残存した症例でも短期間で発作が消失することがある(*15).
扁桃摘出術を受けたPFAPA症候群の児を前向きに評価したLanttoらの研究では, 5%の児に反復した発熱がみられていており, それらの児では口蓋扁桃の再成長がみられた頻度が高かったと報告している(*39)
以上より, 有効率の高さなどを考慮するとPFAPA症候群において扁桃摘出は有効な治療の選択肢と考えられるが, 手術におけるリスクなどとその他の治療の有効性などと総合的に考慮する必要があると思われる.

ビタミンD
PFAPA症候群患者25人のビタミンD状態を調べた研究では, 80%にビタミンD欠乏症, 20%にビタミンD不足があり, 健康な対照群より有意にビタミンD値が低かったと報告されている(*18). ただし実際にビタミンD投与がPFAPA症候群患者に有効かどうかは不明である.


予後

PFAPA症候群は通常自然治癒する疾患である. 患者によって発作がみられる期間には大きな幅はあるものの, 多くの症例では10歳までに症状はみられなくなる(*2, *11, *20, *21).
長期的な経過観察を行ったWursterらの報告では, 50/59例は完全に治癒しており, 発症から治癒までの平均期間は6.3年であった(*21). 一方で観察期間中に治癒に至らなかった患者がいたものの, 経過観察期間中にエピソードの発生頻度が低下し, 発熱などの症状の程度も弱くなるといった経過をたどることが報告されている(*21)

またPFAPA患者ではMMRワクチンの1回接種後にムンプスに対する免疫能が不十分かもしれないという報告があり(*19), その他の免疫学的な影響についても存在するかもしれないが, 現時点ではほとんど知られていない.


<参考文献>
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