水痘(水ぼうそう)ワクチン (ver.1)

<更新履歴>
2019/3/27: 初版
2019/3/28: 「1回目を接種してから6か月以上あける必要はありますか?」追加
2019/6/10: 「どのような効果がありますか?」に小児の帯状疱疹の内容を追加


水痘(水ぼうそう)とは?

水痘(水ぼうそう)は水痘帯状疱疹ウイルスに初めて感染した場合に引き起こされる, 一般的にもよく知られた感染症です.
小さく赤い発疹が出現して, 水疱(水ぶくれ)ができ, さらに破れてかさぶたになって治っていく病気で, 色々な種類の発疹が多くの体の部位でみられます.
また発熱がみられることもあります.

多くの場合には後遺症無く自然治癒しますが, 時に中枢神経系の合併症(脳炎や小脳炎, 脳梗塞など)などがみられることがあります.


水痘ワクチンはどのようなものですか?

水痘ウイルスワクチンは水痘帯状疱疹ウイルスが原因の感染症におけるリスクを軽くするために開発された生ワクチンです.
他の多くのワクチンと同じく注射で接種します.
水痘ワクチンは定期接種で, 自己負担なく接種することができます.


いつからできますか?何回接種した方がよいですか?

水痘ワクチンは1歳になってから接種することができます.
また合計で2回接種するとより効果的であるため, 2回接種が推奨されています(*1).

<参考>
*1  日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール(http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=138)


どのようなスケジュールで接種しますか

上述の通り, 1歳をすぎてから合計2回接種します. 1回目と2回目の間は3か月以上あけて接種することになっていますが, 標準的には6か月以上間をあけて接種します(日本小児科学会でもそのように推奨しています[*1])

具体的には
・1回目: 1歳になったら接種
・2回目: 1歳半〜2歳になるまでに接種
するようなイメージになります.

<参考>
*1  日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール(http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=138)


1回目を接種してから6か月以上あける必要はありますか?

上述の通り, 日本小児科学会では6か月以上の間隔が推奨されています. 具体的には「1回目から6-12か月あける」とされています.
では6か月以上あける必要があるかというと, 必要性を示す根拠はありません. 実際, 最低3か月以上あけて必要があることは知られています(*8)

従って1回目から3か月以上あいていれば2回目を接種しても問題ないと言えるでしょう.

<参考>
*8  Safety and immunogenicity of one vs. two injections of Oka/Merck varicella vaccine in healthy children. Pediatr Infect Dis J. 1996 Jan;15(1):49-54


他のワクチンと一緒に接種することはできますか?

1歳になったら, 以下のようなワクチンも接種することができるようになります.
・ヒブワクチン[追加接種]: 3回目から7か月以上空いているかに注意!
・肺炎球菌ワクチン[追加接種]
・MR(麻疹風疹)ワクチン[1回目]
・おたふくワクチン[1回目]

1歳になったら同時に5種類のワクチンを接種する機会ができますが, これらは同時に接種することは可能です.
これらを同時に接種することによって特別に安全性への問題が高まったりすることはこれまで報告されておらず, 一般的に接種は行われています.


どのような効果がありますか

水痘(水ぼうそう)
水痘ワクチンでは水痘(水ぼうそう)の発症の可能性を低くしたり, あるいは発症した場合でも症状を軽くする可能性を高くする効果があります.

1回接種と2回接種での効果を検討した様々な研究では, 以下のような効果があることが示されています:(*2)
・1回接種:
 ・水痘を約80%減少させる
 ・中等症から重症の水痘を約98%減少させる
・2回接種:
 ・水痘を約95%減少させる
1回接種でも効果はありますが, 2回接種の方がより効果は高いと考えられます.

また日本での水痘ワクチンの定期接種が始まった前後での水痘の発生状況を調べた調査があります. その結果は下の図のように2015年に定期接種となってから, 水痘の発生数が減少している傾向が示されています.(*3)
(参考*3の図を引用).

以上から, 水痘ワクチン接種により水痘発症のリスクが低下すると言えそうです.

小児期の帯状疱疹
水痘帯状疱疹が感染したあと, 体内に潜伏するようになります. そのウイルスが再活性化して引き起こされたものが帯状疱疹です.
帯状疱疹は高齢者でみられやすいですが, 小児を含めていずれの年齢でもみられる可能性はあります.

水痘ワクチンと小児の帯状疱疹の発生率を検討した研究では, ワクチンが小児での帯状疱疹発症のリスクを下げる可能性があることが示唆されています(*8).


中枢神経系の合併症
水痘ワクチンでは水痘だけではなく, 水痘による合併症のリスクも低下させる可能性が示されています.
特に水痘では熱性けいれんや脳炎・小脳炎, 髄膜炎, 脳梗塞といった様々な中枢神経系の合併症がみられることが知られています(*4). 中枢神経系の合併症では後遺症を残すリスクがあり問題となるため, そういった病気がワクチンによって減少するかに着目した研究が行われています.

ドイツで水痘ワクチンが自己負担なく接種できるようになった時期の前後での中枢神経系の合併症の発生状況を分析した研究があります(*5).
その研究では, 水痘ワクチンが自己負担なく接種できるようになった後から中枢神経系の合併症のリスクが低下している傾向が示されました(特に7歳までの)

従って, 水痘ワクチンは水痘だけでなくその合併症も減らす意味でも有益性があるかもしれず, そういった意味で積極的な接種が勧められています.

<参考>
*2  Global Varicella Vaccine Effectiveness: A Meta-analysis. Pediatrics. 2016 Mar;137(3):e20153741
*3  国立感染症研究所. 水痘ワクチン定期接種化後の水痘発生動向の変化 ~感染症発生動向調査より・第3報~ (掲載日: 2017年10月20日)
*4  Central nervous system complications of varicella-zoster virus. J Pediatr. 2014 Oct;165(4):779-85
*5  Decline of Neurologic Varicella Complications in Children During the First Seven Years After Introduction of Universal Varicella Vaccination in Germany, 2005-2011. Pediatr Infect Dis J. 2017 Jan;36(1):79-86
*8  Incidence of Herpes Zoster Among Children: 2003–2014. Pediatrics 2019 June 10


接種したのに水痘を発症している人がいるようですが, 意味はあるのでしょうか?

上述の効果の項目でも触れているとおり, 効果は100%ではありません. 従って, 水痘ワクチンを接種しても水痘を発症する人がいます. そういったワクチン接種後の水痘のことをbreakthrough varicella (決まった日本語はないです)と言います.

ワクチン接種後の水痘について分析した研究があります.(*6)
その研究ではワクチン接種後の水痘では, 接種をしていない場合の水痘と比べて軽症となる割合が高いことが示されました. 具体的には発疹が少ないや発熱がみられにくいといったことがみられました.
ただ, 一部では接種していない人と同程度の症状がみられた患者さんがいたのも確かです.
従って水痘ワクチンを接種すると, 発症した場合でも軽症となりやすいが軽症とならない場合もあるようです.

ワクチンはリスクをなくすことはできませんが, リスクを下げる有効な手段であることには代わりはありません.
リスクを管理する上では, 可能な限りリスクを下げる方法がとられるため, そういった点でワクチン接種は意味があると考えられます.

<参考>
*6  Varicella disease among vaccinated persons: clinical and epidemiological characteristics, 1997-2005. J Infect Dis. 2008 Mar 1;197 Suppl 2:S127-31


ほとんどの場合自然治癒する病気ですし, 昔はみんな罹っても問題なかったようですが, 意味はあるのでしょうか?

確かにほとんどの場合は重症化せず, また大きな問題なく自然治癒します. ただそれはすべての患者さんに言えることではなく, 一部では合併症を起こして問題が起こることがあります. 水痘であっても油断はできない感染症です.

具体的には水痘の合併症として脳炎や脳梗塞, あるいは肺炎を起こした例では, 一定の割合で亡くなったり後遺症を残しています.
免疫機能が抑制されている方ではそういった重症化のリスクは高いですが, それまで健康だった人でもこういった合併症を起こす可能性はあり, また誰がそういった合併症を起こすかはわかりません.

そういった点から, リスクを少しでも下げる, そしてその可能性が示されているワクチン接種は意味があると考えられ, また推奨されています.


安全性は?

ワクチン接種後に一定の割合で副反応が生じることが知られています.
具体的な副反応としては局所の反応と全身性の反応が挙げられます.

局所の反応
ワクチン接種部位に痛みや発赤が生じることがあり, 副反応の中では最も頻度が高いです. これらの局所反応は自然に治癒するもので大きな問題は生じません.

全身性の反応
全身性の反応としては, 他のワクチンと同様に一時的な発熱がみられることがあります.
また, 少ない例ではありますが全身性に水痘でみられるような発疹が数個(平均5個)出現することもあります. これらの発疹は水疱とならないこともあります.

上記にような様々な副反応はみられますが, 大きな問題が生じるリスクは極めて低く安全性が高いワクチンと考えられています.
従って, 効果とのバランスを考えてもワクチン接種は有益であると推定されます.

<参考>
*7  American Academy of Pediatrics. Varicella-zoster virus infections. In: Red Book: 2018 Report of the Committee on Infectious Diseases, 31st edition.

まとめ

・水痘ワクチンは1歳以上で合計2回接種する
・水痘(特に重症例)の発症を減らす効果があるほか, 中枢神経系の合併症を減らす効果がある可能性も示されている
・水痘ワクチン接種後にも水痘を発症することはあるが, 接種していない人と比べると軽症となりやすい
・一部で副反応はみられるが, 安全性は高い

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