するめなことば・その2
噛めば噛むほど味が出る、愛すべきことばたち。
前回に引き続き、いくつか並べて愛でてみる。
コールセンターで働いていた友人のことば。
当時食品メーカーの問い合わせ窓口で働いていた彼は、商品に対する質問や、苦情を受け付ける業務をしていた。
とある客からの入電があり、食品の中にあろうことかカタツムリが殻ごと混入していたというのだ。
そこでテンパりまくった友人は、「あっえっ左様でございますか恐縮です……」と電話口でぺこぺことあたまを下げ、動揺するあまりにわけのわからぬまま発してしまったのだ。「失礼ですが、カタツムリはお亡くなりになってましたか?」と。
対象と話者との関係性がめちゃくちゃである。もみくちゃもいいところ。
あっけにとられた客は「はい。私がみたときには、既にお亡くなりでしたよ……」と、すこし暗い声でそう返し、たちまち怒りのボルテージが下がったそうだ。結果として彼のとっさの一言は、コールセンター業務として、ある意味すばらしいものだったと評されるべきかもしれない。
朝のコンビニで店員さんが発したことば。
「おねがいします」と言ったのに全然あたためてくれなかったからさびしかった。言ったからには責任持ってあつあつにしてほしかった。
行きつけの美容師(かなりのギャル)が発したことば。
カットとブローが終わった後、決まって「スタイリングします?」と聞いてくれる。いつもならそのままどこかへ出かけることが多いのでお願いするのだけれど、その日は特に用事もなかったので不要である旨を告げたのだ。
そこで発せられたことばである。
ちなみに、スタイリングをお願いするときは、
「おっけ〜です!ってことは今日はお出かけってことですね!?いいな〜!さいこうですね〜!」とにこにこしながら髪を整えてくれる。
二択のいずれも正答にしてくれる素晴らしい人間性に、わたしは決まっていつもふにゃふにゃにされてしまう。
父が発したことば。ひさしぶりにふたりで美術館にでも行こうとなり、展示の前に直接レストランで待ち合わせをした。予約をしてくれていた父が先についており、わたしが合流した際に発せられたことばだ。
もちろんメンバーとは父、わたし。以上!おわり!終了!であるにもかかわらず、仰々しい物言いに思わずわらってしまった。
店員さんがにっこりしながら「フルメンバーですね。了解です!」と返したのはじつに見事で、おもわず手を打ち鳴らしそうになってしまった。
妹が発したことば。飾り気のないワードチョイスに、そこはかとないおかしみを感じた。
母が発したことば。これはまた随分意識が高いな……そうか、私も政治のひとつやふたつ、関心をもたねばなるまいな……と思ったけれど、よくよく話をきいていたらどうやら「ミニマリスト」と言いたいのを間違えていたようだとわかり、にやにやがとまらなかった。
知人が発したことば。彼はどうぶつの森が大好きなのだが、めちゃくちゃな凝り性で、あらゆるものをコンプリートしなくては気が済まないらしい。
季節ものの家具や洋服などもせっせと集めており、色違いのものも収集しているそうだ。
そしてこのゲームはじつに奇妙で、住人の好感度をあげると、住人自らが、おのれがピンで写ったプロマイドをくれるという、なんとも狂気じみた風習があるのだ。
そこで手っ取り早く好感度をあげるために、石を集めてトンテン!カンテン!とトンカチでDIYをし、ひたすらテトラポットを作っては、ねらった住人にプレゼントするのが一番効率がいいらしい。
「しかもね。ラッピングするんだよ。あの子たちそうすると、石だろうがなんだろうがよろこんでくれるから」
そう言いながらコーヒーをすすり、彼はほほえむのだ。聞きようによってはもはやサイコパスである。
「ああ、パッチの家も、マーサの家も石まみれだよ。そろそろ写真をくれるかな」
そう言ってふたたびコーヒーをすすり、なんでもなかったように他の話題を持ち出す彼。だけどもわたしの頭の中では、家の中がテトラポットで埋め尽くされてもなお、自分の写真を差し出す住人たちのこころの闇ばかり考えててしまう。心の中がラッピングされた石でいっぱいになる。その後何を話したか、まったく覚えていない。
するめなことば。
つづきはまた、ことばがあふれた頃に!