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「ペイペイ」に負けた

以前PayPayを使いたくない、という旨の記事を書いた。
理由は簡単。「名前が軽すぎる」からだ。
金銭の授受を任せるにしては、どうにもこの「ペイペイ」という名前の語感が軽すぎるように感じる。
だから私はPayPayを使わない。
これからも意地でも使わんぞ、という内容だった。

時の流れは恐ろしいもので、あれから2年が経った。

結論から申し上げると、私はいま、PayPayを使い倒している。
しかもPayPayにのみ対応しているから仕方がなく、という感じでは断じてない。
他に支払いの選択肢がある中でも、PayPayを使えることがわかれば、積極的に使ってしまうことがあるくらいだ。
店舗での支払いはもちろん、それに加えて、友人との金銭のやり取りにも使いまくっている。

……どういうこと?あれだけこき下ろしておきながら。
私がPayPayだったら、「ペイペイ!」と甲高い声を上げながら、手近にあるできるだけ硬い物を振り上げ、歯茎を剥き出しにして、執拗に追いかけ回すことだろうと思う。
まあ落ち着きなさいよ。武器を下ろしなって。
使ってあげてるんだからいいじゃないの、ねえ。
よしよし、どうどう……。
まあさ、そこでちょっと話を聞きなさいよ。

いや実際、PayPayは確かに便利だ。意固地になって使わなかった頃よりも、使い始めてから便利さに感謝することの方が多いかもしれない。
やっぱり支払いの利便性には勝てない。
小銭をじゃらじゃらさせたり、財布からカードを取り出したりするくらいなら、PayPayに頼ってしまいたくなるのだ。
しかしまだ私は、PayPayに「負けた」とは思っていない。
「PayPayありがとう」と感じることも多い反面、
「おいPayPay」「どうしたPayPay」と首をひねってしまうことも多々あるのだ。

いちばん「おい!」と突っ込みたくなるのは、使うときの音声だ。
支払いをしたとき、「ペイペイ♩」とごきげんな音声が流れるのだけれど、これがシンプルに恥ずかしい。
いいじゃん、電子音でさ。
【決定.mp3】とか、【勘定.mp3】みたいな音で。
ジャラン!とか、シャキーン!とかでいいじゃないの。
なのになぜ「ペイペイ♩」ってさ、げんきに自己紹介をしちゃうのかね。
お前の名前を誰が呼びましたか?
あ〜はいはい、立たない立たない。いいからそこに座ってなさいよ。

しかもアプリで設定をして、音量設定をかなり小さくしている上でこの音量ですからね。
たまにデフォルト、いや、むしろそれ以上の大きさで設定している人に出くわすことがあるのだけれど、
そうなるとレジ前で「ペイペイ!!!!!!」と爆音で自己紹介をするPayPayに鉢合わせることに自動的に相成りますので、もうさ、落ち着きな、あめちゃんあげるからこっちおいで、深呼吸深呼吸、なんて声をかけたくなってしまう。
どうした?部活か?顧問きびしめの野球部か???とでも問い詰めたくなるほどのげんきさだ。

音量を変えられるのはありがたいし、ミュートにできない仕様なのにも理解ができる。
知らん間に決済が終わってたら怖いし、かと言って済ませたと思っていて処理されていないのも怖いし。
だが、音量を変えられるくらいならいっそ、他の電子音に変更できるようにしてほしいものだと思う。

ただまあ、ここまではギリギリ許せるのだ。
便利さと恥ずかしさを天秤にかけたときに、なんとか「便利さ」の方に傾いている状態である。
しかし決定的に「ぐぬぬ」と思ってしまうことがある。

レジにて決済をする。
スマホのバーコードを出す。
ペイペイ♩」と音声が流れる。
……うん、まだいい。ここまではいい。
問題はそのあとだ。

支払いが終わったあと。
おもむろに、
「スクラッチチャ〜〜〜ンス!!!!」
と、甲高い声で選手宣誓するのだ、PayPay氏は。
どんなにスマートに会計をしても、その音声が流れるとたちまち
はずかち〜〜〜〜〜〜〜!!!!」と思い、身を翻してそそくさとレジを後にしてしまう。

……そんなことある????
レジで会計処理をした店員もちょっとさ、「ああ、スクラッチチャンスするんだこのひと」って感じで思っちゃうだろうし。
しかもそんな恥ずかしい体験を経た直後に、
ざんねん」と画面に表示されるのだからやってられない。
なんでだよ。恥ずかしがらせるならせめて、たのしい気持ちにさせておくれよ。
なぜお前が勝手に宣誓して、お前が勝手に「ざんねん」がってるんだよ……。

しかも輪をかけて恥ずかしいのが、レジに数人客が待機しているとき。
一人が「ペイペイ♩「スクラッチチャ〜〜〜ンス!!!!」の連続コンボを決めると、次の客も「おっ」という顔をして同じコンボを決めることが何度かあったのだ。
ペイペイ♩「スクラッチチャ〜〜ンス!!」
ペイペイ♩「スクラッチチャ〜〜ンス!!」
ペイペイ♩「スクラッチチャ〜〜ンス!!」
とコンボが続くと、謎の連帯感が生まれてくる。
レジ前で、「今キャンペーン中!」っていう告知になっているわけだよね。
連鎖的に使いたくなる仕組みがそこにあるということだ。

おい。なんだよ。
マーケティング、大勝利じゃないかよ……。
しかし……う〜む……なんとも歯がゆいような、むずがゆいような、そんな感情を抱いてしまうのだ。

いっそのこと、チャンスを手放すから、もう少しお利口になってもらえないものだろうか。
いきなり沈黙を守れとは言わんよ。
だから野球部からせめて、化学部くらいの声量に変えてほしい。

ちなみにこの前、はじめてスクラッチで4ポイント当たったのだけれど、
「4円」をちゃりんと投げられる代わりにこの仕打ちなのだとしたら、やはり私はPayPay、お前にはおりこうに、椅子にすわっていてもらいたくなってしまうのだよね。

しかしどうだろう。
もし、「当選確率を上げる方法があるんですよ」と、ある日PayPayが商談を持ちかけてきたら。
「ただしね。それと引き換えに、激しいサンバのリズムと共に、大音量で『スクラッチチャ〜〜〜ンス!!!!』の合唱が始まります」なんて言われたら。
「確実に1万円分あたるんですよ。どうですか。サンバのリズムでおどりませんか」とささやかれたら。

もうそうなったら、サンバのリズムに乗っかって、レジ前で小躍りすること待ったなしだろう。
その時には、どうか指をさして笑ってほしい。

ご覧よPayPay、これが本当に「ざんねん」な人間の末路というものだ。
(アキレス腱をのばしながら)