好きな作家の話【中井英夫】
好きな国内作家を聞かれた時間違いなく挙げるのは、中井英夫、山田風太郎、江戸川乱歩、横溝正史の四人。もう少し広げると丸谷才一、岡嶋二人、夢野久作あたりが入ってくる感じかな。
で、今回は中井英夫についてです。
中井英夫が好きなんです。
何を何回読んでもその文章の美しさに震え上がり酩酊してしまうのはダントツでこの人。
文庫版全集に「ことばの錬金術師」とありましたが本当にその通りで、ずっと読んでると高濃度のアルコールをしこたま飲んだみたいにヘロヘロになってきます。なので少々ずつ、じっくり摂取するのが(個人的には)望ましい。
どうですかこの読んでるだけでクラクラするような文章。凄まじくないですか。
他にも美文をほこる作家はたくさんいるんでしょうが、これまで私が読んできた中で、真正面からぶん殴られるような美の衝撃を感じたのはダントツで中井英夫でした。濃密すぎて息切れがしそう。
これだけキラビヤカでウツクシイ文章なのに、中井英夫の小説ってどれも、どこかしら、何かを拗ねてるような感覚がある気がします。いや、それが正解かどうかは知らないですよ。知らんけど。何となく、下から上へじと~~っと睨めつけてくるような。暗がりから光を見つめてるような。そんな「陰の者」の気配がするんです。
多分この文章でどストレートな恋だの愛だの光だのを書かれていたら、そこまでハマらなかった気がするんですよね。「文章はきれいだけどお話はつまんない」で終わってた(私にとっては)。
キラビヤカにじっとりしてるんです。なんか。美々しいのに薄暗いんです。どこか。そこが好きなんです。
暗いからこそウツクシイというのか。
日光ではなく月光のウツクシサというか。
黒い炎というか。
毒入りの美酒。
ツヤヤカな白蛇。
静かで暗くて美しくてじっとりしてて、でもゴリゴリ自己主張はしてくる感じ。好きな人はめっちゃ好き。ダメな人はとことんダメ。なんかそんなイメージです。
ちょっとした因縁というか。
私にとってはちょっと因縁のある作家でもあってですね。うちの両親見合い結婚なんですが、交際期間中、父が母に『虚無への供物』を貸したそうで。母は「こんな小説があったのか!」と感動して、それが割と決め手っぽくなって結婚したそうで。
こっちにしてみりゃ「やめときゃいいのに……」「いらんことしやがって英夫……」ですよ正直。この父親というのがまあまあろくでもないタイプのアレで、端的に言うと私そっくりな人間だったので。場所がどこであろうとキレたら大声で怒鳴り散らかすタイプのおっさんでした(※私はそれはしないですよ)。話し始めたらなんぼでも恨みつらみが出てきちゃうのでやめときますけども。
ちなみに私という人間についてはこちら↓
好きな作家には違いないけど。
で、正直ついでにもうひとつぶっちゃけてしまうと、中井英夫の作品、私、全部をちゃんと読んだわけでも内容を覚えてるわけでも、まして全部を理解してるわけでもないんです。多分この「高尚な雰囲気」に酔ってるだけ! みたいな部分もかなりあります。読後の感想が「なるほど分からん」しか出てこないものもちょこちょこあったりした記憶が……(しかもそれが何だったかもあんま覚えてなかったりするんです)
すごく恥ずかしい話なんですけど。一時期、こう、高すぎるプライドをこじらせた上でのマウンティング行為的に、中井英夫の作品は全部目を通しているし全部理解している、みたいな顔をしてたことが。ありました。あああ恥ずかしい……。ごめんなさい……全部は読んでませんしさっぱり分かりません……
日記やエッセイなんか全然読めてないですし(中井英夫の日記って気分がどんどん沈んでいくのであんまりちゃんと読む気になれない……)、小説も「わかりやすい好きなやつ」ばっかり読み返してるので、そういう意味では「大好き」って言いながら全然詳しくないんですよね……
そういえば「中井英夫についての本」みたいなのも一応持ってはいるんですけどほぼ開いてないです。
読んだ中で好きな作品は
1:とらんぷ譚
2:人形たちの夜
3:虚無への供物
という感じなんですが、とらんぷ譚の中でも『悪夢』と『真珠母』は「ちょっとよく……わかんなくなってきた……」という記憶が強くって(もうどんな話だったかも曖昧)、しょっちゅう読み返すのは『幻想博物館』と『人外境通信』ばっかり。お話としてわかりやすいのじゃないとついていけなくなっちゃうので……文章はどれもこれも最高なんですけど。
(ちなみにとらんぷ譚の中で特に好きなのは『チッペンデールの寝台』『大望ある乗客』『火星博物館』あたりです。『虚無』は紅司さん推しです)
考えるちから。
思えば私、「自分の頭で考える」ってことをほぼしてこなかったんです。何についても物事の表層をなでていくだけ。何についても考えない。「理解するための努力」を一切してこなかった気がします。そういう姿勢も、今の自分の惨状を形作る一因だったりするのかしら。
今回、改めて「やっぱり中井英夫好きだわ~~!」って気持ちを再確認して。でもそうしたら、理解を諦めてほったらかしにしてる作品があるのがこれまで以上にもったいなく思えてきました。
せっかくなので。今年は中井英夫の作品のどれかをどこかで読み返して、一度じっくり、じ~~~~~~っくり考えてみたいと思います。正解を出すとか出さないとかじゃないです。正解とかは多分ないです。ただ自分なりに、「これわけ分かんないけど私なりに考えてみたらこういうことなんじゃないかなって」みたいな。そういう結論に達してみたい。
今回別に「学び」とか「自己受容」とかそんな話をするつもりは全然なくて。単に「好きな作家の話しよう」「じゃあ中井英夫だ」みたいに書き始めただけなんですけど。何だか新年にふさわしい目標を見つけてしまいました。何かのお導きかな。
「読んでみた、そして考えてみた」的な記事も、今年中になんとか書けるように頑張ってみます。何読もう? あんまり記憶にないのがいいな。完全に中身を忘れちゃってるやつは「完全に分かんなくて放置・忘却した」可能性が高いから。頑張ってみます。
(おまけ)
個人的にめっちゃくちゃ好きなのが、この文章力で「いかにピーマンが嫌いか」を綴ったくだり。
すごくないですか? 私こんな詩的に「ピーマンがきらい」って言ってる人初めて見たんですけど! わけ分かんない! わけ分かんないけど好き!
以前、漱石が自転車の練習する話を読んだことがあったんです。その時これを思い出しました。「なんて文章力の無駄遣いを……」みたいな感覚。だいすき。うん。やっぱり中井英夫好きです。わけ分かんないけど!
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