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アムロジピンはラセミ体

アムロジピンはIUPAC名だと
3-Ethyl 5-methyl (4RS)-2-[(2-aminoethoxy)methyl]-4-(2-chlorophenyl)-6-methyl-1,4-dihydropyridine-3,5-dicarboxylate
この名前からわかるとおり、R体とS体の等量混合物、ラセミ体です。

アムロジピン KEGGより

▶アムロジピン
高血圧症、狭心症の薬。
▶IUPAC名
化合物の構造から付けた名前。
▶ラセミ体
鏡像異性体の等量混合物をラセミ体という。旋光性という性質を示さない。
▶鏡像異性体
右手左手のように、かがみ合わせの関係。立体的な構造(R体、S体)が異なるため重ね合わせうことはできない。旋光性という性質を示す。


日本薬局方では
「性状 本品は白色~帯黄白色の結晶性の粉末である.
本品はメタノールに溶けやすく,エタノール(99.5)にやや
溶けにくく,水に溶けにくい.
本品のメタノール溶液(1→100)は旋光性を示さない.
融点:約198℃(分解).」とあります。
不斉中心を有するが旋光性を示さない記述があり、ラセミ体だろうとわかります。

▶日本薬局方
日本で使われるベーシックな医薬品について規定したもの。法律に定められた公的な規範書。
▶「本品……旋光性を示さない.」
鏡像異性体であるものがラセミ体か否かを示すための表現。ただの鏡像異性体なら旋光性を示すが、ラセミ体は示さない。
▶不斉中心
鏡像異性体をもつ化合物の多くに見受けられる特徴のあるもの。多くは炭素。


さて、異性体をもつ医薬品の多くは、その異性体同士を比較すると効果が異なります。一方の異性体は効果が高く、もう一方は効果が低いなどです。
そのため、効果の高いものと低いものが混ざった混合物(ラセミ体)から効果の高いもののみを取り出すことで、薬効が上ることが予測できます。
例えば、ゾピクロン(アモバン®)からエスゾピクロン(ルネスタ®)などが有名でしょう。

実はアムロジピンも異性体(R体か、S体か)によって効果が異なるといわれています。
S体はL型カルシウムチャネルの遮断作用がありますが、R体のその作用はおよそ1/1000といわれております(PMID:11791006)。
それではR体の方はなにも効果がないのかというと、NOの産生を高めたり、アテローム性動脈硬化症など平滑筋細胞遊走の状態の治療に有用とされています(USP:6080761)。

▶カルシウムチャネル
カルシウムイオンの通り道を調整するもの。L型は骨格筋や平滑筋に、N, P/Q, R型は神経系に、T型は洞房結節に存在する。これが働くと細胞の中にカルシウムイオンが入り込み、結果として筋肉が収縮される。
▶L型カルシウムチャネル
血管の筋肉が収縮されると、血管が縮まり、血圧が高くなる。ホースを潰したら勢いよく水を撒けるようなもの。
L型カルシウムチャネルを阻害すると、逆に血圧が下がるため高血圧症に使われる。


L型カルシウムチャネル遮断作用は異性体によって異なりますが、
おもしろいことにT型などL型以外のカルシウムチャネルについては異性体に依存しない(R体でもS体でもよい)という研究もあるそうです。

じゃあ、純粋にL型カルシウムチャネルの効果だけが欲しいと、エスゾピクロンのようにS体のみの製剤はないのかと思いますが、ありませんね。
アムロジピンのS体のみを精製するコストと、需要や臨床的な効果が見合わないのでしょうか。
一応、ラセミ体とS体のみを比較した臨床試験があり、良好な結果がでてます(PMID:27586538)。


ジヒドロピリジン系も非ジヒドロピリジン系も、それ以外の医薬品も、ラセミ体結構あります。もっと調べてみたいですね。