抗体の名づけかたが変わる ○○マブじゃなくなる?
WHOの国際一般名(international nonproprietary name:INN)を学んだり、情報を得たりするSchool of INNに登録しています。そこで抗体医薬品の命名法を変えるとの連絡がありました。
昨年末ごろから情報はあったのですが、現在は2022年5月のものが最新となっております。
従来は、単一の抗体(モノクローナル抗体、monoclonal antibody:mAb)という意味から、名前の最後に-mab[マブ]と接尾辞を付ける決まりでした。(このような医薬品の名前の付け方・共通点をステムといいます)
今回、この接尾辞が大きく変わりました。
2021年末からの変更点としては、記載順が変わり、それぞれの詳細が提示されました。(そのため、-tug、-bart、-ment、-migの順に紹介しているほうが新しい情報です。正しいとは限りませんが)
❶未修飾抗体 -tug
とくに修飾されていないモノクローナル抗体は-tugになります。
今まで-mabで名づけられていた多くの抗体がここにあたるため、-mabのままでいいじゃないかという意見があったそうです。しかし、ほかにも抗体のステムが変わるので混乱を招かないよう-mabを廃止して-tugにしようとなったそうです。未修飾といっても、キメラ抗体やヒト化抗体はこちらに分類されます(なんでや)。
-tugは未修飾の免疫グロブリン( =unmodified immunoglobulins)からきているそうです。
ほかの案として-cabがあったそうです。-cabは-mabからそれほど変化せず、抗体医薬とわかりやすいネーミングですね。しかし、-ab、-cabで終わる医薬品が多く紛らわしいとの意見もあったそうです。一方-ugはほとんど使われておらず、煩わしさがないためこちらにしようということになったそうです。tは使用頻度の低い文字からランダムに選んだとされています。
❷人工抗体 -bart
対して修飾されたものは-bartになります。
例えば、Fc領域のアミノ酸配列を変化させてFc受容体への結合能を変化させるなどです。
-bartは人工の抗体(= artificial immunoglobulins)からだそうです(2022年5月)。しかし、2021年の資料では(antibody artificial)としています。こちらの方がわかりやすいですね。
❸フラグメント抗体 -ment
フラグメントの名のとおり、抗体の断片です。例えば、Fc領域はないがFab領域のみのもの、Fc化単鎖抗体タンパク質(scFv-Fc)などです。
-mentはフラグメント(= immunoglobulin fragments)からと、上記と比べて素直なネーミングです。
❹多重特異性抗体 -mig
複数の抗原に結合できるような抗体になります。
ただし、一つの相補性決定領域(complementarity determining region:CDR)で複数結合できるもの(交差反応など)は含まないとしています。
-migは多重特異性抗体(= multi-specific immunoglobulins)から頭文字をそれぞれ持ってきているので覚えやすそうです。
現在すでに命名されている医薬品はこれら❶~❹に変わることはないとは思いますが、既知の医薬品でどれに該当するか考えてみましょう(日本承認外はアルファベット表記)。一応、旧表記も分解してみます。
catumaxomab
→tum(腫瘍)/axo(三機能性抗体)/mab(モノクローナル抗体)
この医薬品は抗EpCAM(上皮細胞接着分子)抗体の半分と、抗CD3抗体の半分で構成されています。
2つの抗原に結合できる抗体薬品のため→❹
ブリナツモマブ(ビーリンサイト®)
→tum(腫瘍)/o(マウス)/mab(モノクローナル抗体)
ブリナツモマブは遺伝子組換え一本鎖抗体(scFv-scFv)。抗CD19抗体L鎖・H鎖、抗CD3抗体H鎖・L鎖の結合した二重特異性 T 細胞誘導(BiTE)。つまり、フラグメント→❸
ビメキズマブ(ビンゼレックス®)
→ki(インターロイキン)/zu(ヒト化)/mab(モノクローナル抗体)
ビメキズマブはIL-17A と IL-17Fの中和抗体です。一見2つの物質に結合できるように見えますが、この抗体自体のCDRは1つです。そのため-migには含みません。→❶
セルトリズマブ ペゴル(シムジア®)
→li(免疫調節)/zu(ヒト化)/mab(モノクローナル抗体)
セルトリズマブは抗TNFα 抗体 Fab'フラグメントです。そのためフラグメント→❸
ラニビズマブ(ルセンティス®)
→anibi(血管新生)/zu(ヒト化)/mab(モノクローナル抗体)
ラニビズマブは抗VEGFモノクローナル抗体のFab断片です。こちらもフラグメントですね→❸
この構造の医薬品は?
これはFc領域は抗体由来でしょうが、Fab領域はありません。
となると❸でも❹でもないから、❷の人工抗体?
……ではありませんね。
これはエタネルセプトでした。IgG1のFc領域とTNF受容体を結合させたリコンビナントタンパクですね。おとり受容体として有名です。
名前がすぐ変わるということはないと思いますが(これから名づけられて世に出てくるまで時間がかかるため)、新しいルールを今のうちに知っておくのは大切ですね。
また、名前からはFc領域の有無がわからなかったので、今回の命名法の変化は構造がわかりやすくなりありがたいですね。(覚えることは増えますが……でも構造や作用に沿った名前の方が覚えやすいね)
なお、本投稿はGoogle翻訳程度の理解なので間違っていることがあると思います。ご指摘いただけますとありがたいです。
抗体はネギの形してるんだよ~~って言われたののでヘッダーはネギ。
参考
1) WHO:INN 73rd Executive Summary.2021.
INNでmAbの名前を変えようという議論のサマリー。
2) WHO:New INN monoclonal antibody (mAb) nomenclature scheme.2021.
昨年末に発表された新ルール。
3) WHO:New INN monoclonal antibody (mAb) nomenclature scheme (May 2022).2022.
今月発表された新ルール。
4) 佐藤健太郎:薬にまつわるエトセトラ抗体医薬の「マブ」がなくなる?命名ルールの変更が決定.薬読,2022.
日本語で読みやすい。新ルール浸透のため表記ゆれにならないよう、この記事で使われている和名にそろえた。
5) List of therapeutic monoclonal antibodies,Wikipedia.
英語版wikiの図を引用してる。
6) 日医工:エタネルセプトBS皮下注非臨床試験.
エタネルセプトの図を引用した。
+ 各医薬品の添付文書,IF.