見出し画像

21.ぼくのかんがえたさいきょうのかつどん

 ネットではよく「都会と田舎、どちらが住みやすいか論争」が起きている。そこで、若い頃は都会に住んでいたけど家庭の事情やら何やらで地元に戻った、そんな全国に4千万人ほどいそうなUターン組の私から「特定の嗜好に限定」した上でのアドバイスを送らせてもらおう。

「ジャンクフードが好きなら田舎には帰るな」これに尽きる。

 確かに田舎にも色々とメリットはある。私のケースを例に紹介しよう。
 私が住んでいるのは秘境と言っても差し支えない程のド田舎だ。よって、都会感覚からすればビックリするほど不動産価格が安い。関東時代の上司がたまたま私の地元の近くを運転していた際、助手席の奥さんが建売住宅の値段を見て「安っ!うちの土地代だけでうちより広い家と土地が手に入るじゃない!」と叫んだらしい。叫ばれた側に属する私からすれば何とも言えないモヤモヤを感じるのだが、おかげでこんな貧乏人でも僻地に猫の額ほどのわずかな土地と、ウサギ小屋程度の家を持つことが出来たので家賃に困らない。
 あと、これは都会にお住いのサウナ愛好家から激しく嫉妬されそうなメリットだが、サウナが驚きの村民プライス250円だ。関東に住んでいた頃は毎週「お風呂の王様」で一回1,200円くらい払ってたので、これは経済的にかなり大きい。

 食関連では田舎らしく農業が盛んなので単純に野菜が安い。それに専業農家や、土地だけは余ってるので家庭菜園をする親戚や知人がいるのでお米や野菜をもらえることがある。去年の秋は白菜と玉ねぎだらけで困った。食べても食べても減らない。しょうがないので片っ端から煮込んで無水カレーを作って消化した。
 ちなみにこれは私が田舎で生まれ育ったからだ。「田舎に引っ越したらご近所さんに農家がいて野菜を分けてくれる」なんて夢みたいなことを考えてる人もいるようだが、それは漫画でよくあるラッキースケベと同レベルの妄想であり、貴方が「給料を貰ったからご近所さんに少し分けてあげよう」と思うのと同じくらい非現実的だ。よっぽどご近所付合いが上手くいってない限り、まずそんなことはない。田舎も意外と世知辛い。
 畜産業も盛んなので、焼肉が安くて美味い。都会に住んでいた頃に日本で1番有名と思われる某高級店に行ったことがあるが、地元の焼肉屋より美味しいかと言われるとそうでもなかった。正直、大きな違いは感じられなかった。「地元で食べれば同じ値段で3倍以上食えるな」と、何故だか損した気分になったのは筆者の貧乏性ゆえだ。「残りの人生は焼肉に捧げたい」そんな焼肉に対する高いモチベーションをお持ちなら、畜産が盛んな田舎に住むのもありかもしれない。ただ、住む場所と季節、風向きによっては牛舎の臭いがすることがあるので要注意だ。
 
 私個人の田舎住まいのメリットはこれくらいだろうか。正直、ジャンクフードをこよなく愛する者としてはこの程度では割に合わない。
 当たり前だが田舎暮らしはチェーン店が少ないという絶望的なデメリットを背負っている。実際にどれくらい少ないかと言うと、自宅から車で半径一時間以内に存在し、休日のお昼に利用出来そうなお店がこれくらいしかない。

マクドナルド
モスバーガー
ロッテリア
リンガーハット
丸亀製麵
吉野家
すき家
やよい軒
ガスト
来来亭
ペッパーランチ
ココ壱番屋

一応、超メジャーなチェーンはある程度揃っている。私も田舎へ帰る前は「これだけあれば大丈夫だろう」と高を括っていたものの、実際に住んでみると全然足りなかった。ジャンクフード喰いとしては物足りないラインナップだ。この程度の選択肢ではその日の胃袋にジャストフィットする選択が出来ないことがある。
   
 おかげで「どっかのチェーンが進出してくれないかな」と祈る日々だが、最近とあるチェーン店が進出してきた。狂気を孕んだメニューを次々と考案することで有名な「かつや」だ。こんな田舎、こんな小さなマーケットに進出してくれたお礼に一度は挨拶に行くのがジャンクフード喰いの仁義なのだろうが、ちょっと行くのを躊躇っている。何故なら、ビビってるから。その殺人的ボリューミーさと真っ向勝負出来る自信が私にはない。
 過去記事でもちょくちょく言及させて頂いてるが、加齢のせいか近年の私の胃袋は明らかな縮小傾向にある。よって、「かつや」「伝説のすた丼」「ラーメン二郎」「コメダ珈琲」の鬼盛り四天王は個人的にあまりそそらない。彼らとはもっと若い頃に出会いたかった。

 かつやは関東に住んでいた頃、一度だけカツ丼を食べたことがある。かつやのカツ丼は松竹梅でボリュームを表す珍しいサイズ表記だ。とある休日、飲み会まで少し時間がある時に小腹が空いたので「松が大盛り、竹が普通、それなら梅はお茶碗半分程度のご飯に半分のカツだろう」と勝手に思って「梅」を頼んだのだが、実際の松竹梅のボリュームは「特盛り、大盛り、普通盛り」だったので酷い目にあった。
 そもそも、私の「小腹が空いてきたのでカツ丼を食べよう」という発想自体が狂ってるし、その上で「飲み会前にカツ丼喰ったせいで飲み会の飯が喉を通らなかった!」と被害者ヅラするなんてカスタマーハラスメント全開なカス野郎かもしれないが、サイズ感がきちんと伝わらないのはどうにかして欲しい。

 さて、一番小さいサイズが他店の普通盛りに相当するカツ丼を提供することだけでも「盛ること」に対する偏執的なこだわりを感じさせるかつや。四天王の中でも凶悪さがひと際目立つこいつは、小学生低学年の男の子が悪ふざけで思いついたような、「ぼくのかんがえたさいきょうのかつどん」的な商品をガンガン投入してくる大盛り界の愉快犯だ。

 本来ならば実食してないものを記事にするのはなるべく避けたいのだが、かつやの危険性をまだ理解出来ていない読者様へ警鐘を鳴らすため、近年登場したデンジャラスな期間限定メニューを少しだけ紹介したい。

牛丼カツ丼
全部のせカツ丼
かつやののり弁
スタミナ炒めとチキンカツ丼
チキンカツとから揚げの合い盛り丼
カレーうどん×チキンカツ丼
とんこつチキンカツ丼

見て頂ければおおよその見当がつくと思うが、「かつやは足し算が大好き」だ。きっと商品開発を担当している人が「足さないと死ぬ病」にでも罹患しているのかもしれない。「牛丼カツ丼」は良い例で、牛丼とカツ丼を同じ皿に盛っただけの、単純にそれ以上でもそれ以下でもないメニューだ。ロボットとロボットがあれば合体させたくなる子供と同程度の思考レベルだ。
「全部のせカツ丼」もシンプルに色んなものを乗せまくっているだけだ。かつやもその信者たちも「全部乗せるのはジャスティス」と信じて疑わないらしく、定期的にこれ系のメニューが提供されている。その時々によって具材は変わるみたいだが、ロースカツ、ヒレカツ、メンチカツ、海老フライあたりがてんこ盛り。見渡す限り一面の茶色で白米が見えないステルススタイルが様式美として確立されているようだ。
「かつやののり弁」もしっかりとふざけている。プチトマトなんかが入ってそうなOLの手作り弁当の正反対の概念だ。馬鹿デカいちくわの磯辺挙げ、馬鹿デカいハムカツ、馬鹿デカい海老フライ、馬鹿デカい唐揚げが所狭しと配置され、その傍らに何故か可愛らしい赤ウインナーが1つ。これは褒め言葉だが、ほっともっとがたまに出す「のり弁ボリューミーアレンジ」的な商品と比べると遥かに下品、もっと野蛮な印象を受ける。きっと、表面積における茶色の割合が多いからだろう。
「スタミナ炒めとチキンカツ丼」「チキンカツとから揚げの合い盛り丼」は名が体を表すように単純におかずをドッキングさせたメニューだ。やはり思うのは「足さないと死んでしまうのだろうか?」ということ。スタミナ炒め丼やから揚げ丼では満足出来ないのだろうか?
「カレーうどん×チキンカツ丼」に至ってはまったくもって意味が分からない。かつやは「常識的に足してはいけないものを無理矢理足そうとする」悪癖がある。何故にカツ丼とカレーうどんを丼の中で一緒にしようと思ったのだろうか、凡人には理解しがたい。それにこの商品のポスターには「炭水化物満タン!」と、さも炭水化物を摂ることが体に良いかのようなフレーズが書いてある。こんな事ばっかりやってたら、いつかWHO(世界保健機構)から目をつけられそうな気がする。
「とんこつチキンカツ丼」もばっちりバグってる。チキンカツの横にでっかいチャーシュー、メンマや紅ショウガ、挙句の果てにラーメン感を演出するためにナルトまでトッピングだ。これを「濃厚豚骨タレ」でいただくらしいが、そもそも「豚骨タレ」なんて聞いたことがない。豚骨をタレにするなんて、実にアバンギャルドにも程がある実験的丼だ。

 もちろん、それらは足して足して足しまくることで成立するメニューだから量も並みの飲食店の比ではない。おちょこ程度の胃袋しか持たない私には到底立ち向かえそうにないボリューミーさだ。しかし、こんな狂気溢れるメニューが登場したり復刻される度にネット上では「朗報」と歓喜の声を上げる、高性能な消化器官を持ったタフガイたちが大勢いるのも現実。まったく、羨ましい限りだ。私があと30年若ければ、この盛り盛りのビッグウェーブに飛び乗ったのに、無念だ。

 と、弱気な発言をしてみるものの、ちょうど今かつやで期間限定メニューとして「まぐろカツとささみカツの合い盛り丼」を提供しているらしく、ちょっと気になっている。お魚の揚げ物は大好物なので時間が合えば行ってみたいと思うのだが、案の定「合い盛り」のスタイルでの提供だ。私は「まぐろカツ丼」を食べれれば充分なのに・・・。
 これを書きながら「強制的に合い盛りスタイルって俺が勘違いしているだけで、ひょっとしたらシンプルにまぐろカツ丼も頼めるのでは?」こんな風に不安になってしまった。それでかつやのHPで改めて確認してみたのだが、やっぱり「強制的合い盛り」に間違いなかった。かつやに言わせると「まぐろカツを食べたけりゃ、ささみカツも食え」ってことなんだろう。しかし、子供の頃はドラクエ3と抱き合わせでクソゲーを買わされ、大人になったらまぐろカツと抱き合わせでささみカツを喰わされることになるとは、いくつになっても人生とは厳しいものだ。
 そんなわけで「食べる前から残すことを考えるバカがいるか!」と天国のアントニオから怒られそうだが、残した分をお持ち帰り出来るようにタッパー持参で臨む予定だ。おそらく当日は過剰なカロリー摂取が懸念されるので、対決の日までサウナで調整したいと思う。同じ自慢を繰り返して申し訳ないが、私の住む寒村ではサウナが村民プライスで250円だ。
 

 まあ、チェーン店が少ない田舎に住んでいると、こんな風に都会に住んでれば関心を持たないだろうチェーンのことで真剣に悩むほど選択肢が狭まるということだ。田舎暮らしを考えてるジャンクフード好きの同胞がいらっしゃるなら、この事を念頭に入れた上で再度検討してみて欲しい。

 と、締めに入りそうな流れから急な方向転換で恐縮だが、ネットで検索してるとまた別のチェーンが私の生活圏内に進出しているのを発見した。

 メニューに載ってる写真よりも明らかに実物が大きい「逆写真詐欺」で有名な「コメダ珈琲」だ。
 コメダ珈琲は旅行に行った際、何回か利用したことがある。とある有名ラーメン店を訪問する際、昼食時の混雑ピークを避けて14時頃に行こうと思い、その間の空腹を落ち着かせるために11時半にコメダ珈琲で「軽食」の「ホットドッグ」を頼んだのだが、「軽食」と呼ぶにはあまりにも大きくて酷い目にあった。結局、ホットドッグを消化しきる前に移動時間が来たので、泣く泣くそのラーメンは諦めた。
 これは全然私は悪くないはずだ。「2時間程度の間を持たせるためにホットドッグを軽くつまもう」と考えるのは特に不自然な考えではないと思うし、「ホットドッグがデカ過ぎてラーメンを食べるチャンスを失った!」と被害者ヅラしてもいいのではないのだろうか。
 しかし、また大盛系かよ・・・。

 とは言え、かつや程ではない。世間一般の飲食店と比較すれば「クレイジーなノリ」で「常軌を逸した分量」だが、やつは四天王の中でも最弱。胃袋小さめ系男子の私でもなんとか太刀打ちできるはずだ。
 そうなればネットニュースで見て一目惚れしてたコメダのカツサンド、その名も「カツカリーパン」を攻める以外の選択肢は存在しない。私と因縁浅からぬ新宿中村屋が監修しているカレー味のカツサンド、美味しくないわけがない。

よし、かつやは後にして、まずはコメダ珈琲だ。それでは、見せてもらおうではないか、

「ぼくのかんがえたさいきょうのかつさんど」の性能とやらを。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?