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24.君はニュータッチ凄麺を知っているのか?

「モダンジャズの帝王」と呼ばれた黒人のジャズ・プレイヤー、マイルス・デイヴィスがジャズ史上最高傑作と呼ばれるアルバム「カインド・オブ・ブルー」を1959年に発表した時、このアルバムでの白人ピアニスト起用に対して黒人ファン層からの批判が止まなかった。当時、黒人への差別は酷く、人種対立感情は激しかった。だが、彼はファンの顔色を窺うような事はせず、こう言い放った。

「いいプレイをする奴なら、肌の色が緑色の奴でも雇うぜ」

 長年差別を受け続けていたマイルス自身、白人を嫌悪していた。しかし、黒人としての彼に人種に対する偏見はあっても、アーティストとしての彼には偏見など存在しなかった。彼はとにかくミュージシャンとして「良い音」を求め続けた。まさに一流のアーティスト。かくあるべしと言いたくなる真摯な姿勢だ。

 私もそんなマイルスを見習い、一人のジャンクフード喰いとして

「美味いラーメンなら、スープの色が真っ黒でも喰うぜ」

と言いながら近所のスーパーに並んでるヤマダイ株式会社のカップラーメン「ニュータッチ凄麺(すごめん) 富山ブラック」を購入し、噂に名高い富山ブラックへ挑戦すべきなのだろうが、その黒さに恐れをなして未だ未食の状態にある。ドス黒いにもほどがある。松崎しげるよりも黒いし、そもそも何系の味なのか見当もつかない。
 まあ、こんな感じだからいつまで経っても三流のジャンクフード喰いなのだろう。

 そう言うわけで本日はヤマダイ株式会社の「ニュータッチ凄麺」についてお話したい。しかし、申し訳ない事に今回は貧乏人お断りだ。何故ならお値段がちょっとお高い。感覚的には袋めんの3倍、一般的なカップ麺の2倍ほどのお値段がするので、即席麺としてはハイエンド仕様だ。うちの近所のスーパーだと280円。当然、こんなものを常食するにはセレブのような圧倒的財力が必要になるが、たまに食べるくらいなら庶民でも何とか手が届くのでトライして欲しい。
 
 物凄く雑な説明になるが、茨城県に本社があるのでおそらく関東が主戦場だったのだろう、初めて遭遇したのは神奈川県の某スーパーだ。「CMも広告も見ないけど、色んなスーパーの棚で見かける不気味な存在だな」と思ったものだ。それから10数年後に関東からUターンしたら地元のスーパーでも見かけるようになっていた。「相変わらずCMも広告も見ないけど、気が付いたら棚に並んでいる不気味な存在だな」と思うも、関東でちょくちょく食べていたのでこちらとしては有難いに尽きる。これはヤマダイさんの営業網が拡大した成果なのかは分からないが、私の経験上、田舎でもイオン系列のお店には結構置いてる。食料品売り場が大きい店舗なら7~8種類の商品が置いてる事もある。
 そんなヤマダイさんの主力商品と思われるのがノンフライ麺のカップ麺、「ニュータッチ凄麺」シリーズだ。種類が多すぎて覚えきれないほどに商品ラインナップが充実していて舌を巻く。それでは一覧を下に記載するので、皆様も舌を巻いてほしい。

【ご当地シリーズ】
札幌濃厚味噌ラーメン
函館塩ラーメン
青森煮干中華そば
仙台辛味噌ラーメン
山形鳥中華
喜多方ラーメン
佐野らーめん
新潟背脂醤油ラーメン
信州味噌ラーメン
千葉竹岡式らーめん
横浜発祥サンマー麺
横浜とんこつ家
富山ブラック
静岡焼津かつおラーメン
飛騨高山中華そば
名古屋台湾ラーメン
京都背脂醤油味
兵庫播州ラーメン
奈良天理スタミナラーメン
和歌山中華そば
尾道中華そば
徳島ラーメン濃厚醬油豚骨味
愛媛八幡浜ちゃんぽん
熟炊き博多とんこつ
長崎ちゃんぽん

【逸品シリーズ】
ねぎみその逸品
中華そばの逸品
中華の逸品 酸辣湯麺
中華の逸品 麻辣担担麺
鴨だしそばの逸品

いかがだろう、怒涛のラインナップだ。これだけの商品展開なのに、それぞれの商品に対して「可能な限り再現してやる」そんな意気込み感じさせてくれるのが素晴らしい。まるで完コピを目指して延々と練習を続け、それを動画に上げ続けるギタリストのような熱いパッションが感じられる。
 私の食べた事がある商品はどれもスープの再限度がかなり高く、太さや形状などの麺の特徴にもかなり気を配っていた。トッピングに関しても家系ラーメンを再現した「横浜とんこつ家」には海苔、「徳島ラーメン濃厚醤油とんこつ味」には徳島ラーメンの必需品である卵(実際に入ってるのは卵黄を再現したもの)と、可能な限りこだわっている。いつだって凄麺を食べると「きっと、この完成度へ到達するまでの労力は生半可なものではなかったんだろうな」そんなプロジェクトXで取り上げられそうな執念を感じ、頭の中に中島みゆきの歌声が響き渡る。

 このヤマダイさんの努力の結晶である「ニュータッチ凄麺」は現代の日本で深刻な社会問題となっている「都会と地方のラーメン格差」を緩和してくれる社会貢献型即席麺としての側面も有している。
 私のようなUターン組は都会で様々なラーメンと出会っている。都会に住んでいた頃は色んなジャンルのラーメンが食べられた。当時の私の生活圏内だけでも醤油、味噌、塩、豚骨の基本の4ジャンルはもちろんの事、背脂醤油、サンマーメン、家系、二郎系、激辛系、なんかよく分からないけどドロドロしてる系等々、細分化したサブジャンルまである程度は選ぶことが出来た。休日に電車に乗って少し遠方まで足を延ばせば選択肢は更に広がったし、旅行先で食べ、「もう一度食べたい」と思わせてくれた逸品も数限りない。
 だが、田舎ではそうはいかない。Uターンしてから気付いたのだが、ビックリするほど選択肢が少ない。地元のラーメン屋が数件、そして来来亭しかない。勿論、慣れ親しんだ地元のラーメンの味も愛している。しかし、関東でのシティーボーイ時代に色んな味を知ってしまったので、ラーメンの味に対する欲求が細かくなっている。そんな田舎では満たせない、ニッチなラーメン欲を満たしてくれるのが俺たちの「ニュータッチ凄麺」の広範囲にわたるラインナップだ。私もそんな欲求に対処するために「ご当地シリーズ」の「横浜とんこつ家」「京都背脂醤油味」の2種類を常時ストックしている。

「横浜とんこつ家」は濃厚な醬油豚骨。先ほども述べたように家系ラーメンだ。これがなかったら相当つらい田舎暮らしになっていたかもしれない。
 関東時代に「壱六家」という家系チェーンに沼ってたおかげで私も立派な家系ジャンキーになっていた。だが、都会の人たちからすれば信じられないかもしれないが、田舎には基本的に家系ラーメンがない。理由を考えてみたのだが、田舎になるほど高齢化が進むからだろう。ご高齢の方が油ギトギトな家系ラーメンのスープをガブガブ飲むシーンはちょっと想像できない。そんな「家系ラーメン難民」の私を救ってくれた名作だ。恩人と言っても過言ではない。
 ついでだが「壱六家」は家系なのにストレートの細麺が頼める珍しいお店だ。ラーメンを日本蕎麦さながらに一気に啜り上げる私には有難かった。太麺だと啜り上げるのが大変だし、ちぢれ麺だとスープが自分に、場合によっては隣の人にまで跳ねて大惨事になる。「家系のスープは好みだけど、麺の太さがちょっと」という人は試してみて欲しい。

「京都背脂醤油味」はぶっちゃけて言うとジェネリック来来亭だ。「醤油は醤油でも、背脂が浮いてる醤油しか食べる気がしない」そんな普通の醤油ラーメンで満たすことが出来ない欲望が胃袋を支配している時に重宝する。最近、生活圏内に来来亭がオープンしたので食べる頻度が減ったが、それまでの間、私の背脂欲を満たしてくれた。非常に感謝している。

 しかし、この二つが私の家の近所のスーパーで常に棚を確保しているのが不思議だ。スーパーの棚は弱肉強食の世界。リピーターがいなければすぐに別の商品からそのスペースを奪われるはずだ。きっと私以外にも濃厚な醤油豚骨や背脂が浮いたスープに目がない同志がいて、買い支えてくれているのだろう。いつかその同志と同じ「横浜とんこつ家」を偶然選んで手が触れ合う、なんて漫画みたいな展開があるかもしれない。可能ならば同志が大原麗子みたいな素敵な女性であって欲しいが、そんな濃厚スープを好むのは私も含めてうだつが上がらないおっさんの可能性が高いと思われるので、過度な期待は控えておこう。

「ご当地シリーズ」だけでも充分すぎるほど私のラーメンライフに貢献しているのだが、「逸品シリーズ」も名作が多い。特におススメしたいのは「ねぎみその逸品」だ。
 日によって違うが、おおむね筆者のラーメン属性は「豚骨寄りの豚骨醤油」だ。ゆえに筆者の舌と胃袋にクリティカルヒットを与えるためには豚骨or豚骨醤油で攻めなければならないが、「ねぎみその逸品」に限って言えばそれらの法則性を無視してクリティカルヒットを与えてくる、即席麵界の万能属性攻撃だ。これは大原麗子みたいにウイスキーのCMに出てそうな大人っぽい女性が好みのタイプの私に、それと真逆な「あどけなさが残る顔」で「めちゃくちゃ可愛い。結婚したい」と思わせる橋本環奈に通ずる属性無視の貫通力だ。
 味に関してはサッポロ一番のようなあっさり系ではなく、明らかに濃厚系の味噌ラーメンだ。それだけでもオフェンシブなのに、おろしニンニクの小袋まで付いてくるのでその破壊力は通常のカップラーメンの比ではない。晩酌の締めとしてこれ以上ない性能を誇るが、ニンニクがかなり効くので翌日にプロポーズを控えてたりするのなら避けておこう。

 しかし、人間の欲というのは際限がない。これだけの商品数、こんなにも高い個々の完成度に脱帽するものの、私的にはこれでもまだ満足出来ない。個人的には豚骨ベースのスープに焦がしニンニクと馬油をかけた「熊本ラーメン」を更に追加して欲しい。
「そんなのお前の事情だろ」と言われそうだが、いつの間にか近場にあった熊本ラーメンの有名チェーン、「味千ラーメン」が撤退していた。思い返せばもう何年もその店舗に行ってなかった。「喰い支えるべきだった」と後悔しても時すでに遅しだ。しょうがないので熊本モードに突入した際は同じくかの地の名店、「桂花」のカップ麵を食べたりするのだが、一時期食べまくったせいで最近は若干食傷気味だ。たまには違う熊本ラーメンも食べたい。なので、是非ここはヤマダイさんのお力をお借りしたい。

 ちなみに「凄麺総選挙」というイベントをやってるらしく、2023年の1位は「愛媛八幡浜ちゃんぽん」、2位は「札幌濃厚味噌ラーメン」、3位は「仙台辛味噌ラーメン」との事。意外と言ったら失礼かもしれないが、じゃこ天という珍しい具材が入ったマニアック過ぎる愛媛のちゃんぽんが1位なのは驚いた。総選挙のサイトでは「地元の人の熱い応援がこの結果を生んだ」とあり、愛媛県民のちゃんぽんに対する盲愛ぶりが窺える。
 しかし、もっと驚いたのは松崎しげるよりも黒い富山ブラックが10位だった事だ。おいおい、ジャンクフード喰いとして私は完全に出遅れてるではないか。今度スーパーで見つけたら必ず買おう。ドス黒さに気圧されぬよう、自身を奮い立たせながら。


 さて、今回はヤマダイさんの「ニュータッチ凄麺」について語らせて頂いた。この充実したラインナップをどう活用するかは貴方次第だ。大好きだけど、今住んでいる土地では食べられないやつを食べても良いし、まったく知らない土地のラーメンを食べるのも良い。地元の味が商品化されてる幸運な方は故郷を思い出しながら食べるのも良い。
 是非とも貴方なりの「ニュータッチ凄麺」との付き合い方を探し出し、お気に入りの一杯を見つけ出して欲しい。きっと、QORL(クオリティ・オブ・ラーメンライフ)が向上するに違いない。

 そしてお気に入りの一杯が見つかったのなら、もちろんやるべき事は「買い支え」だ。スーパーの棚は弱肉強食の世界。くどい様だが、リピーターがいなければすぐに別の商品からスペースを奪われる。とりあえず定期的に買い続けよう。買い続ければいつか貴方と嗜好を同じくする同志が現れ、互いに力を合わせる事により棚の安定的占拠の実現に繋がるだろう。そしてある日、貴方がお気に入りの「ニュータッチ凄麺」を手に取ろうとした時に偶然同じものを選んでいた同志と手が触れ合う・・・なんて展開があるかもしれない。
 
 その同志が大原麗子のような美人であることを祈る。

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