36.シン・博多旅行(全4話中最終話)
前回までのあらすじ・・・2泊3日の博多旅行の最終日。「かろのうろん」から始まり、次々と博多グルメを撃破していった筆者が最後に目指すお店とは?
全4話の博多旅行シリーズ。完全燃焼に向かって魂と食欲を燃やす最終話、始まります。
【三日目・最終日】
最終日の朝、体調はばっちり。二日酔いに苦しんだ前日の朝とは対照的だ。朝風呂に入り、サウナも1セット決めてきた。おかげで完全に整っている。いや、整い過ぎてると言っても過言ではない程に状態は仕上がっている。更に腹ペコ。胃液が胃壁を溶かしかねない程に荒ぶっているのが分かる。
この日は最終日。自由に動けるのは15時まで。最後の最後まで諦めない姿勢で臨もう。
○第3日目の予定・・・
・朝食「牧のうどん」
・お昼「天麩羅処ひらお」
これも「12.ふわふわも好きだ」で触れているので重複する部分があり恐縮だが、朝食は博多駅バスターミナルにある「牧のうどん」できつねうどんとかしわ飯だ。うどんと米。炭水化物が二重構造になっているメニューだけど朝なので問題ないだろう。サウナで仕上がってる私のストマックの敵ではない。
讃岐系とは反対のやわらかいうどんの絶品さに関してはすでに語ってるのでかしわ飯について。博多名物と言うより北九州名物らしいのだが、これがまた美味い。鶏肉の炊き込みご飯で、ゴボウやシイタケが良い仕事をしている。鶏の炊き込みご飯なんて色んな地域に存在するが、福岡のそれは何だろう、ずっと攻撃的だ。「ほんのり味が付いている」なんてものではなく「ガッツリと味が付いている」のでそれ単体をおかず抜きでも充分美味しくいただける。しかし、おかずがあれば更に美味しいと思えるギリギリのラインの味付けだ。「機会があればかしわ飯のために北九州を攻めるのもありかもしれない」そんな事を考えながら無事完食だ。
きつねうどんとかしわ飯のコンボを決め、朝からバッチリ満腹だ。そして例の如くピンチだ。己の胃袋を過信し過ぎたようだ。食べ過ぎて次の「天麩羅処ひらお」が食べられるか不安になってきた。そもそも「うどん+かしわ飯」の選択肢しかないのはキツイ。うどん以外の汁物がないとは。「かしわ飯+ちょっとした肉系のお惣菜+お味噌汁」あたりで抑えておきたかったのに。
時刻は10時40分。悠長に朝風呂、サウナを決めてきた自分が呪わしい。起きてすぐに「牧のうどん」に駆け込んでいれば1時間以上早く食べ終えてたはずなのに。帰りの行程を考えれば14時までに入店しなければならない。時間にして3時間と少し。それまでにお腹が空かせなければ・・・
とりあえず、歩いてお腹をすかせる以外の選択肢はないので「天麩羅処ひらお」がある天神へ向かって歩く。「博多駅→天神」は今回の旅行ですでに通ってるが、前は気付かなかった心ときめく飲食店の看板が目に入る。「あれ?あのお店って聞いたことあるな。今度来た時に行かなければ」みたいな発見の連続だ。何て罪深い街なんだ、博多は。この旅行を計画している際、食べたいものを厳選した状態で「全て食べるには9泊10日」と見積もったものだが、改めて博多の街を散策しながら思ったのは「博多のグルメを満喫するには半年くらい住まないと無理」という事。定年したら半年くらいマンスリーマンションを借りようと心に誓った。
「天麩羅処ひらお」で天ぷらを食べたら即座に博多駅に戻れるよう、スーパーで「屋台ラーメン」を購入。次の晩酌が楽しみだ。べろんべろんに酔っぱらった状態でこいつをお召し上がりになってる自分を想像すると人生は悪くないものだと心から思える。
そして例の如く「ウロウロ」を継続。天ぷら定食を食べる容量を確保出来てない自身の胃袋に焦りを感じつつ、天神周辺をテクテク歩き回るが一向に状況が改善する気配がない。「食べても減らない牧のうどん」らしく、消化するスピードよりも早く胃の中で麺が増えているのかもしれない。それくらい、お腹が減らない。なんだろう、伝説のすた丼を食べた日を思い出す。お昼にすた丼を食べたその日、一日お腹が空かなくて晩御飯を抜いたあの日を。
何にせよ、焦る気持ちは鎮まらない。
神様、何故は私はいつも旅先で焦燥感を感じないといけないのでしょうか?「田舎者は罪」なのでしょうか?
14時00分。結局、お腹が空くことはなかったので撤退を決意。残念だが致し方ない。ひらおでは揚げたての天ぷらを提供してくれる。それは文字通りの「揚げたて」。料理人さんがお客の目の前にあるバットに直接天ぷらを置いてくれるので、出来上がってから10秒以内のリアル揚げたてサクサクの天ぷらがいただける画期的なシステムだ。普段はスーパーのお総菜コーナーのベチャベチャとした天ぷらしか食べてないので、どうしてもひらおのサクサク天ぷらを食べたかったが、無理なものは無理だ。畜生、かしわ飯の野郎め。
だが、ひらおを選んだ理由はサクサクの天ぷらだけではない。アブソルート揚げたてな天ぷら以上に魅惑的な逸品、「いかの塩辛」があるからだ。一般的な塩辛と違い、柚子の風味で仕上げてあるこいつを何が何でもテイクアウトしなければならない。
これは抜群に白米に合う、キング・オブ・めし泥棒だ。ひらおでは天ぷらが揚がる前にご飯、お味噌汁、そしてこの塩辛が運ばれてくるのだが、こいつがあまりにも美味過ぎるせいで全ての天ぷらが出そろう前にご飯が尽きるという悲劇が度々起こっているそうだ。極端なケースだと天ぷらが出てくる前に一杯の飯が消えてる事もあるらしい。
そんな白飯キラーのSSランクの「いかの塩辛」。長年にわたる飲酒生活で培った私のシックスセンスが「酒にはもっと合うはずだ」と訴えかけている。そんなわけで冷凍のいかの塩辛を購入。天ぷらは諦めざるを得なかったが、これさえ買っておけば最低限の目的は果たせたと考えるべきだろう。揚げたての天ぷらはまた次回。
博多駅に戻り、お土産コーナーで最終チェックに入る。職場の人たちとの良好な関係を保つためにはお土産は配っておいた方が良いが、限られた予算の中で職場関係の支出は最小限に抑えたいのも事実。とは言え、「安かろう悪かろう」なお土産を配ってセンスを疑われるのも癪だ。そこで私は「めんべえ」をおススメする。おせんべいに明太を練りこんだだけのシンプルなものだが、私の経験上これはかなり喜ばれる。更にリーズナブルだ。2枚入りが8袋入って600円。一袋あたり75円。常温でも大丈夫な上に個包装なので職場のみんなに配るのも容易だ。ちなみにこれも私の経験上の話なのだが、「週末、博多に旅行に行ってきます」なんて言ったら「お土産は『博多通りもん』でお願い」と要求されることが多々ある。私の知る限り何十年以上にも渡り博多のお土産シーンを独走し続けている名作だ。博多お土産界のトップランナーらしく味は非の打ち所がないし、個包装なので配るのも便利。だが、値段に関しては異議ありだ。8個入りの箱が1,350円なので、1個当たり168.75円。ちょいとばかしお高い。お気に入りの事務員さんに渡したりするのならともかく、社交辞令的意味合いを含むばら撒き系のお土産にするにはコストパフォーマンスが悪いので、博多に旅行に行かれた際はその旨を考慮して頂きたい。
やっつけ仕事なのに見事なお土産チョイスをした後は自分へのお土産。職場用のお土産の予算が私が住む寒村の村役場程度とするならば自分用のお土産予算は小さな国の国家予算に匹敵する。規模が違う。ここは大胆に攻めるべしだ。観光地では観光客からぼったくるための商品を日々開発している。それに対して「ぼったくられるな」とは言わない。むしろ、「観光客らしくぼったくられろ」と言いたい。色々と物色した結果、一番心に引っかかったのは「明太子の燻製」。こんなの初めて見た。地元の人たちは絶対に燻製にして食べたりなんかしないだろうと思いつつ購入。これまた酒に合いそうだ。お土産屋さんが集まるこの広いフロアでこいつを見つけ出す私自身の眼力が怖い。
お土産も購入、帰る準備もほぼ完了。そして最後のミッション。帰路につく前に博多駅バスセンターにある「むっちゃん万十」へ。ひらおで天ぷらを頂けなかったので帰りの道中にお腹が空く事は確実。その対策としてのむっちゃん万十だ。どんな商品かと言うと、地域によって呼称が違うが、所謂「今川焼き」「回転焼き」「大判焼き」の生地にハムエッグやハンバーグを挟んだものだ。この短い説明で分かるように部活帰りに買い食いしていたハイスクール時代のパッションが蘇るやんちゃな逸品だ。
「回転焼きの生地+ハムエッグ」と言う設計図だけでも元気ハツラツなのだが、それに溢れんばかりのマヨネーズを加えてくるのだからマヨ好きの私としては頭が下がる思いだ。実際、生地から溢れたマヨネーズが紙袋をオイリーな状態にしてしまうほどの豪快さだった。堪らない。
ちなみに形状はH.R.ギーガーがデザインした映画「エイリアン」に出てくるあいつに若干似ている「ムツゴロウ」と言う有明海に住む珍妙な生き物をデフォルメしたやつだ。一応、魚類らしいのでお刺身や天ぷらで食べられるとの事。ただ、いつも「一度くらい食べてみようかな」思うが、いつまでたっても食べるタイミングが訪れない。まあ、そのうちだな。
これで全ての任務は完了した。後は帰路につくだけだ。とりあえず喰いまくった。この旅行、100点は出せないけど70点程度。及第点は取れたのではないだろうか。次回来るのは定年後、もしくは会社が倒産した時。食べ損ねたものはその時に食べよう。
アディオス、博多。また来れる日を夢見ながら日々の労働を頑張るぜ・・・
【エピローグ】
年の瀬も近い金曜日の夜、博多で買ったつまみを肴に晩酌を始める。「博多新名物」と書いてある辛子明太子の燻製。そいつをチビリチビリと齧りながら高級発泡酒(淡麗グリーンラベル)を飲むと得も言われる多幸感に満たされる。明太子の燻製なんて聞いたこともないし、博多で寄ったスーパーにも売ってなかった気がするので、きっと観光客から金を毟り取るために開発されたのだろうが、実際に食べてみると酒に合いまくりだ。
高級発泡酒が終わったので次は米焼酎のお湯割りを。これに当てるのは「天麩羅処ひらお」のいかの塩辛だ一流の酒飲みだけが持つ野生のカンが「これは絶対に焼酎が合う」と語りかけてきたので焼酎のあてに。白飯と一緒に頂くのが本来の用途だが、やはり間違っていなかった。程よいしょっぱさと鼻を抜ける柚子の風味で焼酎が捗り過ぎる。これはもう二日酔い確定だ。
博多土産のおかげでほろ酔い、いや、べろんべろんになりながら思った。「俺の博多旅行はまだ終わってないな」と。博多から帰ってきて数週間たったのに、旅行時の幸福感がいまだに尾を引いている。ありがとう、博多。
そして日付も変わる頃、週末限定のお楽しみであるインスタントラーメンでの〆の用意を。これまた投入するのは博多で買ってきたマルタイの袋麺「屋台ラーメン」だ。博多旅行で過剰摂取した後遺症だろうか体が豚骨を、そして辛子高菜を激しく求める。
何と言う素敵な週末なのだろう。博多グルメを肴にしこたま飲んで、締めに「屋台ラーメン」を食べ、更に途中で辛子高菜を入れて味に変化を・・・
あれ?辛子高菜を買ってくるの忘れた。
何という失態だろう。気持ちは完全に「本場の辛子高菜で味変」になっている。普通のラーメンでは満足出来そうにもない。それに・・・
そう、自分に嘘をつくのはやめよう。今回の旅行は不完全燃焼だった。計画が甘かった。帰って来てから何週間も経つのに「あれも食べたかった。これも食べたかった」と、仕留めそこなった料理が事あるごとに脳裏にちらつく。つまり体は帰ってきてるが、心はまだ博多に残ったままなのだ。天ぷら処ひらお、名代ラーメン、カレーのチャンピオン、餃子のテムジンetc・・・消化不良にも程がある。及第点なんて自分を騙すための嘘。70点どころか30点未満の赤点だ。俺はまだやり切っていない。
近いうちに行かなければ。この悶々とした状態が続くなんて耐えられない。来年だ。定年後なんて生温いことは言ってられない。来年も行ってやり残した宿題を片付けないと・・・
とりあえず、博多旅行記は一旦ここで。だが、「俺の博多旅行はまだ終わっていない」最後は最終話とは思えないこの言葉で締めさせて欲しい。
「To be continued...」