個展「Nursery Rhyme」 in Frobergue
はじめに
10月1日、日の暮れを早く感じ、歩いていると金木犀の香りがふわりと漂ってきて、今年も季節がふたつ過ぎたことを実感しています。
さて、9月1日には告知をしておりましたが、個展が10月12日(木)よりはじまります。今回はこの個展についてinstagramなどで書いたことを中心に、概要をお伝えできたらいいなと思い記載しました。
まずはじめに、今年は3月から5月にかけて、いつもお世話になっている本屋さんで個展を開催しました。
奈良県cojicabooks、東京都・谷中ひるねこBOOKS、三重県BUMBLE BEE BOOKS。絵本の原画展や、お店の特徴を活かした個展を行いたくさんの方にお越しいただきました。
ひるねこBOOKSさんと一緒に作った絵本『メルシーとすてきなおへんじ』をcojicabooksさんで原画展を行ったり、絵本『かくれんぼハウスへようこそ』(ほるぷ出版)をひるねこBOOKSさんとBUMBLEBEEBOOKSさんで原画展を行い、絵本達と一緒に旅をしているような気分でおりました。とても感慨深い展示巡りとなりました。ありがとうございました。
そして今回が今年最後の展示。開催場所は東京蔵前にある古書frobergueさんです。
東京・蔵前 古書frobergue
frobergueさんは、主に、アメリカ、ドイツ、フランスから取り寄せた海外の古書絵本が中心となりますが、他にも小説、美術書などオールジャンル扱っている古書店です。
2年ほど前、frobergueオーナー中村さんに私家版絵本『わたしのおうちで』
を売り込みに伺ったところ「可愛いから取り扱いましょう」と販売してくださったのがご縁のきっかけで、それからとてもお世話になっています。
重厚な扉を開けると、忙しない時が鎮まり、静かな空間で時を忘れて本の虫になってしまいます。本とじっくり向き合える本屋さんです。
frobergueさんでの個展開催が決まった時、わたしはこの本屋さんでどんな展示をやろうかしら...とあれこれ考えを巡らせていきました。
題材は「Nursery Rhyme」
frobergueさんでよく古書を購入したり、関わる機会が増え、古書の絵本や児童書をよく読むようになってくると、その時代背景を感じながら当時の童話や絵本が人々にどのように必要だったか、愛されてきたのかを知る機会が増えました。
その中で特によく目にするタイトルが「Mother Goose」や「Nursery Rhyme」といった童謡絵本でした。
現在、童謡絵本は本屋さんに数冊置いてある程度ですが、当時はサブスクや、CDやMD(CDやMDも今はもうないですね...)がない時代。お母さんが子守唄などで、歌いながら絵本を読み、子育てに役立っていました。需要があったため、童謡絵本はたくさんの絵本画家によって挿絵が描かれ、多数出版されていきました。当時出版社が力を入れていたことは絵本そのものからもよくわかります。とても美しい挿絵や見返し、装飾、フォントを用いていたり、中には革張りの本まであります。
絵本もその時代の繁栄をよく現しているんだなと、とても勉強になりました。
わたしは、この美しい古書絵本をもっといろんな人に楽しんでもらいたい。可愛らしい挿絵を見て、心躍らせてほしい。
またその魅惑的な世界を各国の先人画家たちが挿絵を手掛け、絵本画家の道を歩んでいることから、私も先人達に倣い、絵本作家として成長したいと思いました。「古きを温めて新しきを知る」そういった気持ちで、過去を知ることで(自分の中で)新しい表現を探求しようと考えていきました。
そもそも「Mother Goose」や「Nursery Rhyme」とは、古くから伝わる童謡のことです。日本で親しまれている「きらきら星」もそのひとつ。幼稚園に通っていた時、音楽室でみんなと一緒に歌っていたことを思い出します。今回は星の数ほどある童謡の中から10点の童謡を描きました。今回選んだ童謡をひとつひとつ調べていくと、その国の歴史や文化が垣間見える歌が多く、その背景を感じながら描いていく、というとても貴重な経験ができました。
新しい試み
今回の展示作品を制作するにあたっては、寒色系を意図的に多く使っています。従来の制作ではオレンジやチャコール系の暖色を使うことが多いのですが、普段使わない色を多く使ったので、いつも以上に色彩構成に時間がかかりました。ラフの段階で塗っては消し塗っては消しの繰り返しでなかなか進まなかったのですが、新しい試みをするというのは、3歩進んで2步下がるというような...想定していたよりも時間がかかる作業なのだと実感しました。
基本テーマである「豊かな暮らし」から離れてみて、少しおかしな「夢や幻想の世界」を描くために試みた行為ですが、原画が描き終わって今思い返してみると、自分の絵なのに自分の絵じゃないように感じるというか、とても違和感がありました。自分の目が如何に暖色慣れしているのかよくわかって、とても新鮮な気持ちで絵と向き合えたように思います。
そういう(わたしの中では)新しい試みをしているので、普段わたしの作品をご覧いただいている方にはそういう「違和感」や「新鮮味」も感じていただけたら嬉しいな、と思います。
2年ぶりに制作した私家版絵本
個展開催中は絵本原画を収録した私家版絵本を販売します。私家版絵本制作は2年ぶりです。今まで制作してきた事を活かしつつ、思考を深く深く潜らせていきます。
上製本、見返しフルカラー、蔵書票の貼り付け、表紙に金の箔押...などなど、絵本に対する憧れを盛り込んで作っていきました。時折本当にこれで良いのかな、これはどっちが良いのかな?と迷った時は一度立ち止まって、信頼している本屋さん方や、frobergueオーナーの中村さんに相談して方向性を修正したり、これで大丈夫!と自分を納得させながら編集していきました。迷ったところもたくさんありましたが編集していて、本当に楽しい楽しい作業でした。今回製本をお願いしたCLAFT ZINEさんは色々相談に乗ってくださって、わからないところをしっかりと教えてくれたので、その度に納得して製本をお願いできました。
私家版絵本はまだ出来上がっていないのですが、ドキドキ、わくわくしています。今回は限定200冊の販売です。手描きでナンバリングもしたいと思っています。重版の予定も考えておりませんので、基本的に売切です。この機会にぜひお手にとっていただけたら嬉しく思います。
数年ぶりに制作したカレンダー
私家版絵本と一緒に久方ぶりに制作したカレンダーも販売します。たくさんの作家さんがカレンダーを作られているので、私のカレンダーって必要なのだろうか?楽しんでもらえるのだろうか?自分しか作れないカレンダーを作れるのだろうか。と疑問を抱いていて、それが消化されずに数年も経ってしまいましたが、オーナーの中村さんに相談して今年は作ろう...と決めました。
今回紙媒体のカレンダー作りは2回目です。お部屋が彩るような、それでいてちゃんと実用性があるようにフォントはじっくり考えていきます。クラシカルな可愛いカレンダーになるように自分の理想に出来るだけ近づけました。
小さな原画作品「読み耽る人々」
そして、小さな原画作品も作っています。
テーマは「読み耽る人々」
いつものねこくん、ねずみさんも、物語のあの人も。至福の時間を過ごす人々をモノトーンで描いています。
今年2月にひるねこBOOKSで行った企画展「ねこのひるね展」で、モノトーンの小さな作品を展示していました。その時にご店主さんや、イラストレーターさんが「モノトーンもいいね、可愛いね」と仰っていただいて、それが心にずっと残っていました。いつかモノトーンの原画だけで展示を行ってみたい。その第1歩として今回のミニ原画はモノトーンだけで作っていこうと決めました。
こちらもゆったりご覧いただけたら嬉しく思います
おわりに
2023年度の展示はこれで最後です。
秋深の頃、インクと紙の香り、そして、どこか懐かしさが薫る個展になると思います。
10月12日(木)から。どうぞご予定ください。
よろしくお願いいたします。
〖 個展のおしらせ〗
深秋の日に個展を行います。
Maki Numano Solo Exhibition
「Nursery Rhyme」
2023.10.12(thu.)-30(mon.)
東京•蔵前frobergue
open/12:00-18:00
close/毎週水曜日
最終日は16:00まで。
古くから愛される童謡の世界を描き、私家版絵本を作りました。絵本の販売、絵本原画の展示販売を行います。不思議な童謡の薫りを感じる展示しようと思います。新しい古典として楽しんでいただけますように。
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ぬまのうまき
https://lit.link/numanomaki
絵本作家。女子美術大学デザイン学科卒業。
懐かしさを感じるような、動物や人々の暮らしを描く。
2022年『メルシーのすてきなおへんじ』(ひるねこBOOKSレーベル)
『かくれんぼハウスへようこそ』(ほるぷ出版)で出版デビューする。
10月12日に私家版絵本「Nursery Rhymes」が発売予定。