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観劇メモ:月組『桜嵐記/Dream Chaser』

めちゃくちゃ良かったです。


以上。


以下は蛇足。ちょびっと内容に触れてます、ネタバレ。


『桜嵐記』。

宝塚の特殊性であり、良さのひとつでもあるのが(それが悪く作用する場合も時にはあるとは思うけれど)、演者そのものが役に大きく透けて見える点だと思う。ただし「演者」自体が既に男役・娘役を演じている状態で、本人そのものと合致する訳ではない、というマトリョーシカ構造がまた複雑だなぁ、と思っているのだけれど。その辺は書いては消し、書いては消しでまとめられずにいる花組さん公演に関して(あるいは華優希さんについて)で書きたい。

本人のお人柄までも知らずとも、例えば現在の学年であったり、同期にどんな方がいるかであったり、といった手持ちの薄い情報だけを持ってしても、想像できることが色々とある。それが宝塚らしさのひとつだなぁ、と思っている。

月組公演を見るのは、ライビュで『ダル・レークの恋』と『幽霊刑事』を見たきりで、生観劇はこれが初。5組中で一番知識が薄い組で、でも大劇場で見て轟々と泣いた。薄い宝塚観劇体験の中でも、一番に泣いた。

ライビュを経て東京で2回、3回と回を重ね、そうなればいい加減落ちつくかと思えば、泣き始めポイントが前倒しになっていった。この後に続く物語を知ればこそ、の涙が沸き上がるのだから仕方がない(余談ですが、先日見た回では冒頭も冒頭、あの方の後ろ姿が出てきただけで隣の方が嗚咽を漏らしていらした。早いよ、でもとてもわかります……)。

作品内容のすばらしさと同時に、作品が座付作家によりこの時のために創出されたもの、ということも大きな影響を及ぼしているのだと思う。つまり、珠城さんがご卒業なさる、という点において。二重に泣かされた感がある。宝塚ならではの特殊性がそこにある。


と、作品の評価と演者の持つ背景を切っても切り離せないところではあるのだけれど、頑張って切り離してみても実にいい作品だったなぁ、と思う。

まず見る側のストレスが凄く少ない。平安、安土桃山、江戸なんかと比べたら抜群に知識が少ないだろう南北朝時代。大体の教科書年表では室町時代に吸収合併されている南北朝時代。そのくらいなじみがない時代。

周囲の人物の名は知っていても、楠木三兄弟の名前は正しく読めないし、兄弟順に並べられない。というのが私のスタート時点の状態で、でも新たに知識を入れずにパンフも読まずに幕開けして、一切困らない見事さ。どう見るべきか、を実に理解しやすく最初に説明してくれるだけで、こんなにも知らない人の物語はわかりやすくなるのか……!という感動を覚える。演出って凄いですね(語彙力)。

それだけでなく、歌を詠めばその歌について自然な形で解説(捕捉)が入る。雅やかな、古語と紙一重(あるいはそのまま古語的表現)の言葉を使いながらも、物語の理解に支障がないとか、演出と演者の力が凄い(語彙力)。言葉を隅々理解できなくても、目でおよそが理解できる。このままの演出・舞台機構・演者で海外輸出しよう、そうしよう。

史実物だけに、始まった瞬間から完全なる終わりに向かって物語は進むしかなくて、でもその美しいまでのもの悲しさと、そこに生きる人たちの姿は、どこまでも宝塚そのもののようだなぁ、あるいは満開になってあっという間に散りゆく桜のようだなぁ、と、思考がループする。で、まとめると「めちゃくちゃ良かったです」となる。


演じている皆様、本当に研ぎ澄まされたすばらしさで、舞台で流す涙がそのお役として生きているからこその涙で、繰り返しみても新鮮に驚くし、新鮮にその姿に涙する。こんなカロリーが高い物語を1日に2公演もやっているかと思うと、本当にタフが過ぎる。

誰もかれも好きだ!と思いつつ、後村上天皇と尊氏の描かれ方、が、対比構造込でとてつもなく好きだ。二十歳の後村上天皇と、40代の尊氏。後村上天皇、そりゃあ思うところがあったとしても公家の掌握なんぞできっこないし、父の無念に囚われも背負わされもするよな……などと、当時の年齢を計算して考える次第。楠木三兄弟も、長男の正行で幼友達ということは、20代前半、正儀に至っては十代とかか。と考えるに、胸が痛い。

そして正行が言うところの「日の本の大きい流れ」とはなんだろう、ということをずっと考えている。正行(役:珠城りょう)として考えればものすごく単純化できるんだけれども。どうなのかな。やっぱり時代背景から勉強し直しが必要かもしれない。

と、割と根幹にかかわりそうなところがまったく理解できていないのだけれども、それが物語を咀嚼することそのものを阻害していないところが凄い……。なんなんでしょうね、これは。千秋楽のその日まで、ずっと噛みしめていたい。



『Dream Chaser』

シンプルで、でも宝塚のショーを見ているな!という気分をしみじみと味わいました。すごくいい。好き。初宝塚の人にお勧めしたい。

トップコンビ退団、という前提があるはずで、他退団者の方のための演出もある。でも、そこに哀しみを強調するのではなくて、次代への継承を表現されているみたいに感じて、気づけば秒で終わっていた。珠城さんと男役のみなさんとのデュエット的なダンスとか、美園さんが娘役を引き連れて踊っているのとか、とても壮観……気持ちがいい。


以下、特に「好き!!」ってなったところ。オペラで切り取るのももどかしくて、ひたすら肉眼で目に焼き付けていたのだけれど、ズーム機能が欲しいでした。

第2章の「情熱(スパニッシュ)」、暁さんのなにが不満なんだよう!ってなりつつも、「ああでも鳳月さんじゃ仕方ない……でも暁さんのなにが不満なんだよう!!でも美園さん優勝!」って毎回脳がバグる。

第3章の「ミロンガ」、の、いろんなシーンが好きなんですが、どうしても最初に板付きでリフトをしているお二人が気になって気になって追ってしまう病。前でみんなが爆踊りしている時に、後ろで華麗にリフト決めてくるのやめてもらえませんかね!? ラストの決めまで凄い。二人とも体幹とバランスが凄い……。おかげでいろんなシーンを見たいのに見損ねる。

第5章の「Dawn(暁)」の、海乃さんの動きが美しくて好き。首からデコルテにかけてと背中の美しさが、しみじみと筋肉の美しさなんだなぁと思いながらガン見してしまう。どこか大人びた哀しみ、気怠さ、儚さを帯びた人だと思っていたのだけれど、このシーンでは凛とした強さを出されていて美しい。


あー、宝塚は果てしないな。本当に面白い。