![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/172576505/rectangle_large_type_2_e1839ad35c21551fb9675f975e6f1801.jpeg?width=1200)
OKAMOTO'Sのボーカル・オカモトショウが推しマンガ『日本三國』の作者・松木いっかと夢の対談!「こんなに没頭できる面白いマンガはない」
「アナタの推しを深く知れる場所」として、さまざまな角度で推しの新たな一面にスポットを当てていくnuman。2024年11月の深堀りテーマは“推しの推し”。11月4日の「いい推し(1104)の日」にちなみ、誰かの推しとなり得る人が自身の推しに会いに行く【推しに会ってみた】対談を複数本掲載していきます。
![](https://assets.st-note.com/img/1737687096-3L2MPFJHUB.jpeg?width=1200)
今回は、『NARUTO』や『アンデッドアンラック』など数多くの人気アニメの主題歌を担当するOKAMOTO'Sのボーカルであり、ロック界きってのマンガ愛を誇るオカモトショウさんと、オカモトさんが「こんなに面白いマンガはない!」と熱く推している『日本三國』の作者・松木いっか先生との特別対談が実現。
オカモトさんが大のマンガ好きであることを聞きつけ、【推しに会ってみた】へのオファーを提案したところ、思いの丈がつまった“推し作品”リストを編集部に送ってくれました。
そのリストの中で最初に名前が挙げられていたのが、松木先生の描く『日本三國』。近未来を舞台に、消滅した日本を巡る国盗り合戦を描く架空戦記。2021年11月から、小学館のマンガアプリ「マンガワン」にて絶賛連載中です。
「『こういう未来がきたら、きっとこうなるよな』というリアルさも、勧善懲悪の先に踏み込んだ人間の善意と悪意を描いているところもすごい」
並々ならぬ熱量で、そう語るオカモトさん。その手には、今はもう入手できない『日本三國』1巻の初版が握られていました。ときには、松木先生が「そこまで考えていなかった」という部分にまでオリジナルの考察を展開するオカモトさんの姿は、まさに作品ファンの鑑そのもの。
![](https://assets.st-note.com/img/1737687097-wSE0MWBBLL.jpeg?width=1200)
さらに今回、松木先生の顔出しでの取材はなんと初めて! キャラクターを生み出す過程や、事前に作成した年表の存在といった『日本三國』ファン必読の創作秘話に、オカモトさんも大興奮。さらに、先生の意外なモーニングルーティンが明らかとなり、同世代の2人が盛り上がる場面も。
「音楽が好きでミュージシャンになる道しかなかった」と語るオカモトさんと、「マンガを描くのが好きで描いていたらマンガ家になっていた」と語る松木さん。“表現者”として似たタイプだと語る2人の、とっておきの対談インタビューを1万字超えのボリュームでお届けします。
※2024.11.28に公開した記事を一部編集のうえ、転載しています
実は会うのは2度目? 松木いっかとオカモトショウの意外な接点
――今回、“推し”として『日本三國』を選んだ理由をまずは教えてください。
オカモトショウ(以下、ショウ):
今ダントツで俺の中で1位のマンガが松木先生の『日本三國』なんです!
松木いっか(以下、松木):
嬉しいです。ありがとうございます。
ショウ:
マンガが好きで学生の頃から読んでいて、20代後半くらいから「自分って周りの人よりマンガが好きかも」と思い始めて。ラジオでマンガの話をしたり、オススメのマンガを紹介する連載をしたり……そんなことを続けていたら、「マンガ大賞」の選考委員を務めさせていただくことにもなりました。
それくらいマンガが好きで読んでいる俺が、仕事とは関係なくシンプルに『日本三國』連載開始当初に出会って読みました。かなり早い段階でこの作品に出会えたのは、『日本三國』の担当編集をしている千代くん
(※「マンガワン」編集部編集者・千代田修平さん、オカモトショウさんとは飲みに行ったり恋愛相談をしたりする仲)のおかげです。
でも、千代くんの存在を抜きにしても、きっと『日本三國』には遅かれ早かれ出会っていたし、めっちゃ好きになっていたと思います。それくらい「こんな面白いマンガ漫画はない」と思ったんですよ。
千代くんにも以前から「松木先生を紹介してほしい」と言っていたのですが、なかなか叶わず……。今日初めてお会いできるということで、めっちゃ楽しみにしていたし嬉しいです!
![OKAMOTO’Sオカモトショウ・松木いっか対談](https://assets.st-note.com/img/1737687098-EYtpYeJwlM.jpeg?width=1200)
松木:
ありがとうございます。でも僕、実はオカモトさんと初めましてじゃないんですよ。
ショウ:
え!? マジで言ってます?
松木:
マジです(笑)。僕が一方的に観ただけなので、こうやって対面でお会いしたわけではないんですけど。2014年の「MONSTER baSH」(※中四国最大級の野外ロックフェス、通称「モンバス」)に、友人に誘われて行っていて。そこでOKAMOTO'Sの演奏も観て、いいなと思っていました。
ショウ:
え~、嬉しい! OKAMOTO'Sが「モンバス」に出るのってかなりレアなので、それを観てもらっていたのは本当に嬉しいですね。
――思わぬ接点があったんですね。オカモトさんはマンガをかなり読まれていると思いますが、松木先生の前作『ブクロキックス』(講談社)は……?
ショウ:
(食い気味に)もちろん『ブクロキックス』も読んでいたし、好きでした。
松木:
『ブクロキックス』も……! ありがとうございます。
ショウ:
作品が始まる前に、ブラインドサッカーをテーマにした曲(※『「アニ×パラ あなたのヒーローは誰ですか」ブラインドサッカー編』のテーマ曲「Turn Up」)を書いていたんですよ。ブラインドサッカーに縁がある状態で、ブラインドサッカーのマンガが始まったということで読んだ記憶があります。
そこから、千代くんに『ブクロキックス』を描いていた松木先生の『日本三國』というマンガが始まると聞いて読んでみたら、もう全然テイストが違う。「マジ、同じ人なの!? すごいな」と思いながら、一気にハマりました。
松木いっかが『ブクロキックス』から一転、戦記マンガ漫画を描いた理由
ショウ:
早速質問しちゃってもいいですか?
——もちろんです。
ショウ:
先生はもともと歴史が好きなんですか? というのも、主人公の三角青輝がめっちゃ歴史に詳しいじゃないですか。ということは、松木先生が歴史好きってことなのかなと思っていて。
松木:
いや、歴史好きという自覚はなかったです。でも、ゲームの『三國無双』とかはハマってやっていたな、というくらいの認識でした。
作品が生まれた経緯でいうと、『ブクロキックス』の連載中に、泰三子先生の『シキブアイラブユー』(新潮社)という読み切りマンガの作画を担当させていただいて。紫式部を題材とした物語だったのですが、それを描いたときに、「そういえば昔、歴史が好きだったな」と。そこから三国志や歴史の文献をあれこれ読んで、『日本三國』を描こうと思うに至った感じです。
ショウ:
じゃあ作品としては、三国志からのエッセンスが多いんですか?
松木:
そうですね。そこに中国王朝だったり、日本の歴史だったりを入れていっています。でも、三国志っていろんな作家さんがいろんな描き方をすでにしていて、僕自身もそれを読者として読んで楽しんでいるから、「ここに自分の入る余地ある?」と。だったら、日本を舞台にして三国志をやろうと思いました。
――オカモトさんと同じく、『ブクロキックス』からの振り幅に驚いた読者も多いと思います。
ショウ:
音楽もそうですが、人が持てる手札ってけっこう限られているじゃないですか。その中で、こんなに作品によってテイストが変わるんだというのにびっくりしました。
![](https://assets.st-note.com/img/1737687099-SzzKLSpe3W.jpeg?width=1200)
松木:
音楽でいうとミクスチャーかもしれないですね。いろんなものを取り入れて、自分の味にしていくというか。
ショウ:
はいはいはい、なるほど。
松木:
そういう意味でも、作品に合わせて絵柄を変えているので。また違う作品を描いたら、絵柄が変わるかもしれません。
ショウ:
すごっ!
松木:
僕としてはコンプレックスだったんですよ。昔の編集者にも「毎回、絵柄違うね」みたいなことを言われて。でも、それでいいやと思うようになりました(笑)。
ショウ:
めっちゃわかる。俺らもいろんなタイプの曲を作っているので、「器用貧乏になっちゃうよ」とか「何屋さんかわからないから、人が寄ってきにくくなっちゃうよ」とか、けっこう言われました。
でも、長くやっていたら、あまり言われなくなって。その瞬間を切り取ったら何屋かわからなく見えても、積み重ねて層にしていけば、よくわからない感じもなくなっていくんだなと。
松木:
たしかに一つ“核”みたいなものがあると、ガワだけ変えてもそんなには変わらないですよね。
ショウ:
そうなんです。本当の意味では他人になれないのと同じで、自分の芯の部分って実際はそんなに変えられないんですよね。
「勧善懲悪の先に踏み込んだ、人間の善意と悪意がマジですごい」オカモトショウが語る『日本三國』の魅力
――そんな『日本三國』激推しのオカモトさんに、ぜひ本作の魅力を語っていただきたく……!
ショウ:
日本という国が崩壊したあとの近未来で、大和・武凰・聖夷という3つの国が乱世の中で日本再統一を目指す。内容はシリアスだけど、キャラクターの言い回しややり取りで笑っちゃう心地よさもあって。それでいて「こういう未来がきたら、きっとこうなるよな」というリアルさも感じられるんですよ。
読んでいてフッと冷めちゃうような脚色が全然ないところがすごく好きです。そういう脚色って、1回出てくるだけで、頭が作品の世界から現実に戻ってきちゃうじゃないですか。
でも、『日本三國』は、俺らが生きている世界で起き得ることが、ちゃんと起きている。だから、読者として世界に入り込めるんですよね。
松木:
(ニコニコと控えめな笑顔で)嬉しい。
![](https://assets.st-note.com/img/1737687100-387tBRKz6k.jpeg?width=1200)
ショウ:
ただの個人的な感想なのですが、ここまでのめり込める作品って本当に少ないと思います。そこがまず、この作品のすごいなと思うところです。
あと、一歩踏み込んだ善悪の描き方をしているところもマジですごい。昔の作品は勧善懲悪が描かれることが多かったけど、最近ヒットしているマンガの傾向としては、悪い側にも悪いことをする理由があるよねというところを描いている。だけど、『日本三國』は勧善懲悪の先に踏み込んだ、人間の善意と悪意を描いているんですよ。
とくに6巻で描かれる戦いがヤバイ。最新刊のネタバレになっちゃうから詳細は控えますけど……。(6巻をパラパラとめくりながら)そうそう、ここね、このページ!一見すると、善人と悪人の構図で始まるんだけど、最終的にどっちも最悪だし、そもそもこれは戦争なんだから善も悪もあるよなとも思うし……というこの感じ!
そこが、より作品に入り込める要素になっているんだろうなと。人間のリアルさがすごく感じられるんですよ。
松木:
できていますか?
ショウ:
できています! いや、めっちゃごめんなさい。「できています」とか思わず言っちゃいましたけど(笑)、俺はただのファンなので。
松木:
でも、そこは目指しているところでもありますし、善と悪という部分はすごく意識しています。
ショウ:
そうなんですね。
松木:
読者の方からは、「平 殿器(主人公が暮らす大和国の国政を牛耳っている人物、自分を不快にした人物は即処刑する)を早く殺して退場させろ」というコメントがよく届くんです。だけど、僕としては「殺せ」と言っている人も、善ではないだろうと思うわけです。
ショウ:
あ~、なるほど。平 殿器もすごい魅力的なキャラクターですよね。最初はもっと単なる嫌なやつだと思っていたのに、5、6巻あたりから「こいつ実はすごいかも……?」と思い始めています。
松木:
(ニヤリとして)じゃあ僕の思惑通りですね。
ショウ:
(テンションが上がった様子で)おぉ……。
松木:
平 殿器に関しては、1話から「実はすごいかも」の兆候は入れていました。
ショウ:
ちょっと帰ったらまた読み返そうと思います。
![OKAMOTO’Sオカモトショウ・松木いっか対談](https://assets.st-note.com/img/1737687101-Qh2jFavE0e.jpeg?width=1200)
創作秘話① キャラクターは武将がモデル。主人公・青輝のモデルは鄧艾
ショウ:
『日本三國』はキャラクターも個性的で、いいなと思っているんですよ。特に、三角(青輝)とツネちゃんさん(阿佐馬芳経、通称・ツネちゃんさん)のやり取りがめっちゃいいっす!
松木:
僕も描いていて1番楽しいですね。考えずに描ける感じです。
ショウ:
へー! うちの妻も爆笑しながら読んでいます。妻はちょっと変わっているのですが、『日本三國』をギャグマンガだと思っているみたいで、「最近読んだマンガで1番笑える」って言ってました(笑)。でも、「たしかに」と思う部分もあるんですよね。癖になる口調とか。
松木:
そうですね。僕ももちろんシリアスな部分はちゃんと真面目に描きますが、それ以外の部分は割と楽しんで描いています。なので、笑ってもらえていると聞いて嬉しいです。
ショウ:
国家上層部の重鎮が「それま」とか「草」とか、めっちゃギャルっぽい口調なのもいいっすよね。
松木:
ふふふ。
ショウ:
今の若い人の言葉を、作中ではジジイキャラが言うじゃないですか。そこも、近未来の日本という世界観の説得力に繋がって面白いなと。
だって、今俺らが「ジジイ口調だな」と思う喋り方って、きっとその人たちが若いときに喋っていた言葉のはずで。だから、今の若者言葉も3、40年後には若者に「ネット初期民じゃん」って言われていると思うんですよね。
一同:
(笑)。
――オカモトさんがおっしゃるように、『日本三國』は登場人数が多いにも関わらず、どのキャラクターも埋もれることなく個性的かつ魅力的です。キャラクターに関して、オカモトさんから先生に聞いてみたいことはありますか?
ショウ:
先生は友達が多いタイプですか? 失礼な質問に聞こえていたら申し訳ないのですが、6巻時点でこれだけ登場人数がいて、この先もまだまだ出てくると思うんです。
これだけいたらキャラクターが似てくるマンガもあるのに、マジで全員違うから、その引き出しがどこにあるんだろうというのが気になっています。
松木:
たぶん地元の友達は多いかな。こっちにはあまりいないですけど。でも、キャラクターに関しては、身近な人というより三国志や戦国時代の武将がモデルになっています。誰か1人、ベースとなる武将がいて、そこにほかの武将の要素を足していく、といった感じです。
ショウ:
そうなんですね。じゃあ主人公の三角青輝にもモデルがいるんですか。
松木:
青輝は鄧艾(とうがい)という三国志の魏の武将がモデルです。マッピングが好きなところや、親を早くに亡くしているところ、実家が貧しいところなどは、鄧艾をベースにしています。
— 松木いっか MATSUKI IKKA (@IKKA_neko) November 20, 2024
1点、大きく違うのは、鄧艾は吃音だったんですよ。それゆえ、なかなか出世できなかったという人物で。「そこを饒舌に変えたら最強じゃん」と思って生まれたのが青輝です。
ショウ:
だからあんなに青輝は口が立つんだ! 戦争の話なのに、青輝が力ではなくて頭脳と雄弁さで勝っていく感じが本当に気持ちよくって。
そこがあったから、導入の部分でこの作品を読む楽しさみたいなものも感じられたし……は〜、なるほど。武将がモデルになっていたんだ。
松木:
鄧艾には対をなす鍾会(しょうかい)という武将がいて。彼は母親の伝記を書くくらいのマザコンなんですが、彼は芳経のモデルですね。マザコンなところや、名族の生まれであるところは、そのまま設定に生かしています。
ショウ:
これは聞いていて「なるほど」となりますね。(しみじみと)面白い。じゃあきっと三国志も面白いんだろうな。
松木:
面白いです。来年1月にゲーム『三國無双』の新作が出るのですが、1人の武将から見た三国志を追体験できるような内容になるらしいですよ。僕も予約しました。
ショウ:
それは気になるな。俺もちょっとやってみようと思います。
創作秘話② 黒髪オンリーのキャラデザはパーツにこだわる
――キャラクター設定のモデルは武将がベースにあるとのことでしたが、見た目はどう作っているのでしょうか。
ショウ:
たしかに! 先ほど初めてお会いしたときに、松木先生のヘアスタイルが三角っぽかったし雰囲気も似ていたので、「なるほど、そういうことか」と思っていたのですが、三角は先生自身がモデルになっているんですか?
松木:
僕は自分では俯瞰的にキャラクターを描いていて、自分を投影していないと思っています。だから、青輝にも自分は投影していないと思って……いたんですが(苦笑)。
でも、最近千代田さんに相談する中で、「あれ、僕って青輝と芳経を合わせた感じじゃん」と気づいてしまって。だから、どこか投影されている部分はあるかもしれないです。まあ、青輝とは分け目が逆ですけどね(笑)。
ショウ:
アハハ! でも、本当に出てくるキャラクター全員に個性がありますよね。
松木:
被らないように気を付けてはいるので、そう見えているならよかったです。絵柄的に「このキャラクターの描き分けができていない」というコメントをもらうこともけっこうあって……。
この作品の場合、全員が日本人なので髪の色が黒い人しか出てこないんですよ。顔はほとんど同じで髪色だけを変えて別キャラクターとするということが、この作品では通用しないので(苦笑)。微調整しながら頑張って違うキャラクターに見えるようにしています。
意外とパーツだけを見ると似ているキャラクターは多いと思います。そこは目のサイズを変えたり、位置を変えたりしながら調整しているんですが……。(単行本をめくりながら)こう見てみると、けっこう頑張っていろんなキャラクター描いていますね(笑)。
![](https://assets.st-note.com/img/1737687102-tt1mEVHV5o.jpeg?width=1200)
――おじさんキャラクターのバリエーションもすごく多いですよね。
ショウ:
そう! おじさんがみんな違う。
松木:
おじさんのキャラクターに関しては、おじさんとして描いていなくて。彼らの若い頃の顔を想像して、それを老けさせるというイメージですね。
ショウ:
それはすごい。“ザ・おじさん顔”のおじさんキャラクターが出てくるマンガって多いと思うのですが、おじさんとしては描かずに、若い頃から老けさせるという作り方をされているんですね。こういうところが推せるんですよ! 細かな芸が効いていて、本当にすごいです。
松木:
嬉しいですね。
ショウ:
背景も全部自分で描かれているし、そういうところも含めて本当にすごいなと思います。
松木:
(はにかみながら)めっちゃ褒めてくれる。
ショウ:
もう今日は、絶賛しに来ましたから!
そういえば先日、レコーディングの際に俺以外の(OKAMOTO'S)メンバーの待ち時間がかなりあって。そのスタジオにはマンガがたくさん置いてあって、『日本三國』もあったんですよ。前々から薦めていたのですが、その機会にギターのコウキが既刊を読破していて、「めっちゃ面白い、これやばいわ」と『日本三國』の虜になっていました。
――ファンによる推しの布教が成功していますね。
松木:
こうやってどんどん枝が分かれていくんですね。嬉しいです。
創作秘話③ 方言が多いのは、文明の衰退が理由? 「推察や考察もありがたい」
――主人公の青輝をはじめ、濃いめの方言もインパクトがあります。松木先生は愛媛県出身ですが、それ以外の地域の方言もカバーされていますよね。
ショウ:
そうなんですよね。1話からめっちゃ方言が出てくるから、すごいなと思っていたんですよ。幅広い地域を網羅しているし。
松木:
1人で描いているので、自分で調べています。よくやるのが、Twitter(現X)での検索です。知りたい方言の県名で検索してヒットした方のプロフィールへ飛んで、ポストを遡っていって。フォロワーとの会話も覗かせてもらって、「この方言はこういう使い方するのか」と学んでいます。
でも、難しいです。コメントで指摘されて直すこともよくありますし。なんなら、地元帰ったときに友達に間違ってるって言われました(笑)。「そんなん言わんけん」と。
![](https://assets.st-note.com/img/1737687104-Pdo6iF4bRg.jpeg?width=1200)
ショウ:
そんなことあるんですね(笑)。方言って、地域とか時代とか、世代によっても絶対微妙に違うじゃないですか。だから、全部完璧にっていうのは難しいだろうなと思います。でも、読んでいて、方言が多いのめっちゃいいっす!
これだけ方言を使っているのは、やっぱり近未来という時代的背景があるからなんですか?
松木:
いや、単純に1話で地元の愛媛を出しちゃったからですね。そこで標準語を喋っていたらおかしいだろうと思って方言を使ったら、「ほかの地域にも方言あるやん」と。そうやっていったら、方言だらけになりました。
ショウ:
なるほど。今の時代って、ネットやSNSが普及して、昔より標準語が拡大というか浸透しているじゃないですか。でも、作中ではそこから日本が崩壊して文明も衰退している。
だから、昔のように地域ごとの濃度が濃くなっていって、方言をきつく描いているのかと、勝手に推察していました。
松木:
おお、いいですね。じゃあそうしましょう。
一同:
(笑)。
松木:
そういう推察とか考察ってありがたいんです。もともとこちらが意図していないことも、「こうなんじゃないか?」と、読者さん側がどんどん知っていってくれて、読み進めるほどに「もっと知りたい」と思ってもらえる図ができるので。
でも、方言に関してはそこまで考えていなかったです。
実は打ち切りを想定していた『日本三國』、原点は自作の歴史書
ショウ:
あと、初めて読んだときに思ったのは、絶対に5、6巻じゃ終わらない内容だなと。実際のところ、1話時点ではどのくらい先のことを折り込んでスタートしているんですか?
松木:
実は、連載開始当初は5、6巻くらいで終わればいいかなと思っていたんです。
ショウ:
マジっすか。
松木:
前作が打ち切りだったので、打ち切りが怖くて。だから最初は5、6巻くらいでまとめたいなと思っていたんです。でも、2、3巻あたりの手応えとして、打ち切りはないかなと。
ショウ:
こんな面白いんだから、絶対ないっすよ!
松木:
そこからは少しずつ、やりたいことやろうという感じでシフトしていきました。
ショウ:
じゃあ当初は、もっとコンパクトな世界観というか物語を想定して始まったんですか?
松木:
いや、物語としては長いものを用意しているのですが、途中で終わっちゃうかもなと思っていたので、〇〇編を終わらせることで作品も終われたらいいかなという感じです。4巻で「聖夷西征編」が完結するので、そこが終わると同時に完結という形もありかなと、当初は思っていました。
ショウ:
なるほど。たしかに「〇〇編完結」という区切りがありますもんね。
![](https://assets.st-note.com/img/1737687105-iLwwqHAZC0.jpeg?width=1200)
松木:
今思えば、連載当初から〇〇編って作ったのはすごく挑戦的ですよね。打ち切りがあるかもしれないと思っているのに、最初から「聖夷西征編」って出していくのって(苦笑)。
ショウ:
いや、そうですよ。「聖夷西征編」から始まるから、俺としては少なく見積もって25巻はいくだろう。もっと言うと40巻くらいいくんじゃないかなと思っていました。
実際、青輝が何歳でどうなるか、みたいな構想自体はあるんですか?
松木:
あります。連載開始前に、物語の年表を作っているんです。大和暦(作中の年号)何年に何が起きるという歴史書みたいなものを全部作っていて、それをマンガに落とし込んで描いています。
ショウ:
はぁ~(感嘆)。
松木:
途中に休んだ期間があったのですが、その期間は歴史を少し違う展開にする作業をしていました。
ショウ:
ここまでやってみた感触を踏まえて、「もっとこうしよう」と。 松木: そうですね。歴史そのものを改ざんするというより、解釈を変えてみたという感じですかね。大河ドラマで源平合戦を描くにも、いろんな解釈があるじゃないですか。
ショウ:
うわぁ、この先がめっちゃ楽しみです。
マンガ家とミュージシャン、表現者としての違いは「作品づくりに費やす年月」
――マンガと音楽、それぞれフィールドは違いますが“表現者”という共通点があります。同じ表現者として聞いてみたいことはありますか。
ショウ:
松木先生はマンガが好きでマンガを描いているタイプですか。それとも、マンガ以外の好きなものをマンガに落とし込んでいるタイプですか。
松木:
マンガはあれこれ読むタイプではないですね。もともと『頭文字D』(講談社)が好きなのですが、『頭文字D』をずっと読むとか、『NARUTO』(集英社)をずっと読むとか。好きな作品を追っていくタイプです。
ショウ:
マンガ家と同じように、バンドマンにも2つのタイプがあると思っていて。バンドマンになりたくてバンドマンになっているタイプと、音楽が好きすぎてバンドをやらざるを得なくなっているタイプと。
俺は完全に後者なんですが、自分の音楽愛が強いせいで音楽にがんじがらめになっちゃう時があって、その限界みたいなもの をときどき感じるんです。
その点、前者のバンドマンになりたくてバンドマンをやっている人の方が、変なひねくれとかなく自由にやってる印象があって憧れがあるんです。その点、松木先生はどっちのタイプなのかなと。
松木:
その話を聞くと、僕はオカモトさんと同じタイプだと思います。マンガ家になりたいというより、マンガを描いていたら楽しくて、そうしたらマンガ家になっていた感じです。
なんならマンガを描いていた小学生時代、マンガ家という職業を知りませんでした。小5くらいかな。『NARUTO』のオフィシャルブックに岸本(斉史)先生が載っていて、「マンガ家という職業があって、マンガにはそれを描いている人がいるんだな」と、そこで初めて知りました。
ショウ:
『NARUTO』! 松木先生は何年生まれですか。
松木:
1994年です。
ショウ: ちょうど『NARUTO』世代なんですね。俺は90年生まれですが、初めて買ったマンガが『NARUTO』の1巻でした。いやぁ、年代近いのもめちゃくちゃ嬉しいっす!
――では逆に、表現者同士だけどここは違うなと感じるところはありますか。
ショウ:
“長さ”というところはミュージシャンとマンガ家は違うのかなと思います。マンガ家の方って、数年単位で一つの作品に取り組むわけじゃないですか。目の前の作品を描いている間、その先の作家としての展望といったものを考えることはあるんですか。
松木:
考えることもありますが、次にやりたいことであってもマンガに落とし込めるなって思うんですよね。恋愛とか家族愛とか兄弟関係の物語とか、全部今やっている作品に入れちゃえばいいなという感じです。
![](https://assets.st-note.com/img/1737687106-FLxnj3U92b.jpeg?width=1200)
ショウ:
たしかにそうですよね。やっぱりそこが大きく違うのかな。俺らは基本的に、長くても1時間ちょっとのアルバムを作って、それでツアーを回ったら、もう次に進んでいく。
バンドとして昔の曲を演奏することももちろんありますが、マンガ家は一つの作品に何年も費やすじゃないですか。そこがすごいなと思うし、同時にどういう感覚になっていくんだろうなと。だって、一つのアルバムをずっと作っていたら、たぶん俺は気が狂ってきちゃうと思うから(笑)。
松木:
いや、僕ももう狂っています(笑)。
ショウ:
アハハ。やっぱりそういう感覚なんですね(笑)。
松木:
僕も、僕以上にコンスタントに連載しているマンガ家さんはどうしているんだろうって思っています。
ショウ:
本当に想像できないんですよね。だって人って、数年周期で人間関係だったりマイブームだったりが、ちょっとずつ更新されていくわけで。でも、連載が続いている間は、そういった更新を無視して作業する部分も出てくるんだろうなと考えると、いやぁ……。マンガ家さんってどうしているんだろう。
松木:
マイブームは定期的にあるんですが、じゃあそれがマンガに繋がっていくかっていうと、そうでもないことが多いですね。例えばゲームをやるにしても、『三國無双』ならインプットになるけど、『モンスターハンター』はめちゃくちゃ面白いけれど、何のインプットにもならないですし(笑)。
――ちなみに、最近のマイブームは何でしょうか。
松木:
ベイブレードです。去年、新しいのが出て……ってすごく余談になってしまう。
ショウ:
(食い気味に)全然聞きたいです!
一同:
(笑)
松木:
去年から第4世代シリーズの「BEYBLADE X」が出ていて、得点方式も新たに追加されたりしていて。これがもう楽しくて、ずっと1人でやっています。
ショウ:
……っていうことは「3・2・1 GOシュート!」を2人分、1人でやっているってことですか!?
松木:
そうです。
ショウ:
アハハ。
松木:
これがけっこういいストレス発散になるんですよ。亜鉛合金同士がぶつかって響く音が、脳にもいい感じで。とくに寝起きにやるとすごく気持ちよく目が覚めていいです。
ショウ:
起きてからベイブレードをやるまでの姿を、「ウラ漫」(マンガワンの公式YouTubeチャンネル)でぜひアップしてほしい。絶対面白いですもん。
松木:
しかも、シュート力をアプリで計測できるんです。なので、毎朝ちゃんとアプリで計測して、自己ベストを更新できるかチャレンジしています。そうやって心が満たされてから『日本三國』を描いています。もしかしたら、ベイブレードがなかったら3、4巻あたりの『日本三國』は出ていなかったかもしれない(笑)。
ショウ:
ベイブレードとタカラトミー社に感謝ですね(笑)。いやあ、まさかここで先生のモーニングルーティンを聞けるとは思いませんでした。
![](https://assets.st-note.com/img/1737687107-zBmlnGDGiI.jpeg?width=1200)
――逆に松木先生からオカモトさんに聞いてみたいことはありますか。
松木:
僕は単行本にする際にかなり修正を入れていて、先ほどの撮影中に「ミュージシャンでもそういった修正はある」と聞きました。
僕は、ときには「こっちの方がいいな」と、修正というよりページを増やしちゃうこともあるのですが、ミュージシャンの方も同じ曲をシングルとアルバムで変えようと思うことはあるんですか。
ショウ:
あります、あります。シングルって1曲で聴くものだけど、アルバムでは流れがあるので、アルバムとして聴いたときに浮いちゃう場合は、アレンジを変えています。楽器を増やしたり減らしたり、ときには歌詞を変えたこともありました。
最近はサブスクが主流で、再生回数の問題からアルバムバージョンのアレンジを作るのかどうか悩ましいところでもあるんですが……。同じ曲でもシングルバージョンとアルバムバージョンの合計再生数でランキング表示されるわけではなく、それぞれになってしまうから。シングルバージョンがたくさん再生されていると、もったいなさもあって。
松木:
そうか、サブスクの問題があるんですね。僕はサブスクとかのアルゴリズムでおすすめされるのがすごく嫌なタイプです。
ショウ:
わかります。
松木:
自分の好みのものしか出てこないのが嫌で、履歴とか全部オフにしています。
ショウ:
あれってその人の世界を閉じさせていく感じがして、良くないなって思います。
松木:
今のSNSのおすすめとかもそう。
ショウ:
そうそうそうそう! でも便利は便利で、久々にやる曲の歌詞がわからないときに、サブスク開いて自分の曲の歌詞を確認しています(笑)。
松木:
それは僕もよくやります(笑)。久しぶりに出てくるキャラクターの顔を確認するときとか、マンガワンのアプリ画面とか、Webの画像検索とかから確認しています。
「この人が描いているんだ!」推し作品の創造主に会える喜び
――自分を推してくれているオカモトさんとお話しされた心境はいかがですか。
松木:
仕事以外の場だと、友達に作品の話をされるのはあんまり得意じゃなくて。なので、こうやって目の前で自分の作品について語ってもらっている姿を目にする機会というのは、もしかしたら今日が初めてかもしれないです。
![お近づきのしるしに、オカモトショウさん私物の単行本にサインも。](https://assets.st-note.com/img/1737687108-2KePizAfbj.jpeg?width=1200)
ショウ:
これだけの尺と熱量で語られたら、めっちゃ困りますよね。自分でこれだけ褒めといて言うのもアレですけど(笑)、褒められたときの反応って難しいじゃないですか。
松木:
すごく嬉しいんですけどね。褒められたときに困ってしまうから、どういう顔をすればいいのか正解がほしいです(笑)。自分が困るタイプだから、人を褒めることも最近はしていないですね。マンガ家さんとの集まりでも、マンガ自体の話ってしない人が多い気がします。
ショウ:
やっぱりマンガ家の集まりってあるんですね。
松木:
ちょくちょくあります。僕は『アイアムアヒーロー』や『アンダーニンジャ』の花沢健吾先生や『ガンニバル』の二宮正明先生と交流があって、半年に1回くらいお会いしていますね。
ショウ:
おお……! どの作品もめっちゃ好きです。
――ミュージシャンの方も同業の方と交流する機会があると思います。松木先生はマンガの具体的な話はあまりされないとのことでしたが、オカモトさんはいかがですか。
ショウ:
俺は最近、「一緒に曲作ってみない?」と誘うことが多いです。
松木:
一緒にですか!?
ショウ:
そうなんです。最近それが楽しくて定期的にやっています。曲を作るときって、自分の世界に入ってアウトプットの作業をするじゃないですか。その反動じゃないですけど、リリース用とは別に気軽に一緒に作業するのが、新しい発見もあるし楽しいんですよね。
松木:
それはすごく刺激をもらえそうですね。
ショウ:
そうなんですよ。そういったミュージシャン同士の繋がりはあるんですが、マンガ家の方とは普通に生きていたらなかなか出会えないじゃないですか。今回はこうして出会えたので、本当に感謝しています。
――では改めて、推しである松木先生とお話してみての心境を教えてください。
ショウ:
いやもう本当にお腹いっぱいです。大満足。いろいろ聞きたかったこと、疑問に思っていたことの謎が解けて嬉しいです。
![](https://assets.st-note.com/img/1737687109-T2f2Kw9Bm2.jpeg?width=1200)
ミュージシャンの場合は、ボーカリストの声という情報があるけど、マンガ家の方って、作品を読んでも人柄とか喋る温度感とかが見えてこない。なので、今日お会いして「この人が描いているんだ!」と知れたことが、ファンとして嬉しかったです。
今日は本当に貴重な時間でしたし、久々にベイブレードをやろうと思いました(笑)。今度ぜひベイブレードを教えてください!
松木:
ふふふ。
(インタビュー&執筆:双海しお、編集:阿部裕華、撮影:井上ユリ)
リリース情報
■松木いっか『日本三國』6巻 絶賛発売中
![](https://assets.st-note.com/img/1737687111-bRr5GCv8ED.jpeg?width=1200)
定価:792円(税込)
発売日:2024年11月12日
発行:小学館
判型/頁:B6判/224頁
ISBN:9784098537099
▼試し読み&購入リンク:
https://shogakukan-comic.jp/book?isbn=9784098537099
▼小学館のマンガアプリ「マンガワン」にて絶賛連載中
https://manga-one.com
■OKAMOTO'S ニューアルバム『4EVER』2025年1月22日発売
OKAMOTO’S 10th ALBUM『4EVER』 (読み方:フォー・エヴァー) 2025年1月22日(水)発売
【初回生産限定盤】(CD+Blu-ray) レコードジャケット仕様
![](https://assets.st-note.com/img/1737687113-eQEsTfdYpT.jpeg?width=1200)
品番:BVCL 1438~1439
税抜価格:5,000円
税込価格:5,500円
Blu-ray: OKAMOTO’S密着ドキュメンタリー
【通常盤】(CD)
![](https://assets.st-note.com/img/1737687114-nMMjWBYbgc.jpeg?width=1200)
品番:BVCL-1440
税抜価格:3,000円
税込価格:3,300円
▼予約購入リンク:
https://VA.lnk.to/EAVVWd
いいなと思ったら応援しよう!
![numan公式note](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/172880035/profile_93428223e17dd21a399500311fbecd03.jpg?width=600&crop=1:1,smart)