物件の探し方と心得 〜親の移住と、家族の記録#09
移住という夢に向け、大きく一歩を踏み出した父と母。インターネットで情報収集できるようになったことで移住への意識がより日常的になり、その想いと共存しながら日々を過ごすようになった。
移住希望先の自治体や観光協会のWEBサイトを定期的にチェックし、地域のニュースやイベント情報に触れるのも楽しいという。現地の飲食店のブログを教えると、それも楽しみに見るようになった。私もちょこちょこ実家に帰り、両親のデジタルレベルを少しずつアップデートしていった。特にGoogleのストリートビューの使い方を教えた時は、ふたりとも興奮していたっけ。かなり気に入ったようで、母から後日、「自分たちが通っていた小学校の周辺をストリートビューで散策しました」と報告メールがきたほどだ。
移住物件を探す際も、だいたいの住所がわかればストリートビューで周辺環境を見ることができ、イメージもよりつかみやすい。逆に言うと、物件自体が良さげでも、立地場所や周辺環境に難があることもすぐわかってしまう。候補から外すのも早くなり、効率的といえば効率的だが、ワクワクが一瞬で消えることが多くなるともいえる。デジタル化を進めた私が言うのもアレだが、両親の日常に小さな落胆が増えるのはあまりうれしくない。複雑だ。
効率的に物件探しができるようになったとはいえ、そうすぐに理想通りの物件は見つからない。両親が移住を希望する先は、市としてはそこそこ広く物件数も多いが、ふたりが住みたい地域は市の中心部から遠い、いわゆる地方集落。もともと人口が少なく、昔からの住人が静かに暮らしているところなので、都心のように家や土地が次々と売りに出されるような場所ではない。
ピンポイントで探す難しさは予想できていたので、もう少し範囲を広げてみてはどうかと提案したこともあったが、そう簡単に割り切れるものでもないらしい。両親の夢は「地方移住」ではなく、「心に決めたあの場所への移住」であって、そこが揺らぐことはなさそうだった。
中途半端な妥協は、両親の本当の幸せにはつながらないのだろう。長期戦を覚悟しつつ、いつまでも理想を追い続けるほど時間に余裕もないというジレンマを感じながら、私は前向きな言葉と態度で励ますことを心がけた。そして、粘り強く、楽しみながら探していけるように、両親といくつかのことを決めた。
移住物件探しにあたり、家族で決めたこと
●これだけは外せないという条件を決めておく。
両親の場合は、ちょっとした家庭菜園ができる庭があることと、
家から緑が見えること。海が見えれば最高だが、
予算的に跳ね上がってしまうので早い段階で条件から外した。
●妥協はしない。ひとつでも納得できない条件がある時は見送る。
●根詰めすぎない。時には高額物件を冷やかすなどして気分転換する。
●気に入った物件が出てもすぐに契約せず、必ず現地へ行って確かめる。
物件を探す手段も少しずつ増やしていった。
地元の不動産会社に加え、県や市の移住情報サイトもチェックするようになり、行政の移住サポート制度があることを知る。子育て世代・働き盛り世代が対象な場合が多かったが、空き家を有効活用する「空き家バンク」的な制度には年齢条件がないことがわかり、こちらも利用することにした。
市の「いなかぐらし課」に連絡し、担当の方を紹介してもらう。今振り返ると、この担当のSさんとの出会いが、大きなターニングポイントとなった。
両親が役所へご挨拶に伺ったときも、Sさんは歓迎してくれて、ふたりの話を親身に聞いてくれた。「相談があればいつでもメールしてください」と言ってくれたという。自治体の制度だという安心感と、Sさんの感じのよい対応は、両親にとってとても心強いものだった。この制度を使って移住したいと思うようになっていったのも、自然な流れだったと思う。
移住物件の探し方の変化
初期:現地に足を運んで情報収集
中期:地域の不動産会社のWEBサイトで探す
後期:自治体の移住サポート制度で探す
新しい物件が出ると、Sさんからメールで連絡が入る。それを夫婦であーだこーだ検討し、質問や回答を母がメールで返信する。そんなやりとりが続いた。
Sさんという頼れる味方ができたとはいえ、物件との出会いは運とタイミング。両親の物件探しは、結果的に一年ほどかかることになる。
なかなかゴールが見えない状況は苦しかっただろうし、焦る気持ちもあっただろう。理想の物件にたどりつくまでにもあれこれあったので、次回はそのあたりを書いてみます。