離れてもつながるために 〜親の移住と、家族の記録#19〜
実家の売却が決まり、父も無事に定年退職を迎え、あとは移住先へ引っ越すだけとなった。
これから両親が住むのは、東海地方の海沿いにある小さな町。東京近郊に住む私やきょうだいとはだいぶ離れることになる。天気予報の地域も別だし、テレビのチャンネルも違う。日帰りでの移動はまず難しい距離だ。もしお互いに何かあっても、すぐには駆けつけられないかもしれない。その覚悟も含めて、父と母は生活を大きく変えることを選んだ。
物理的な距離は仕方ないとしても、両親との連絡手段はこれまで以上に万全にしておかなくてはいけない。田舎暮らしにこそ、通信環境は重要だ。移住に向けた私の最後の仕事は、両親のデジタル環境のアップデートだった。
●父にスマホを持たせる
会社から供給されていたガラケーの通話機能しか使えなかった人に、スマホが使いこなせるのか。少し悩んだが、父が乗り気だったので思い切って契約した。
事前にいくつかの機種に候補を絞り、その中から好きなデザインと色を選んでもらったら、後はこちらの出番。パソコンデビューの時と同様、店頭での契約から初期設定まではすべて私がやり、すぐに使える状態にして渡した。
とりあえず教えたのは、電話のかけ方と取り方、カメラの使い方、LINEの使い方、そしてネットの見方。これらを実家に一泊して、ゆっくり繰り返し父に教えた。画面をスワイプする動きがまだぎこちないが、パソコンよりも操作が直感的でわかりやすいのか、意外とスムーズに覚えていく。私、きょうだい、父でLINEのグループをつくり、父には一日一回はなにか書き込んでもらうよう約束した。
母が以前から持っているガラケーと、父のスマホ。両親との連絡手段が複数できたことに安心する。グループLINEならみんなで話題を共有できるし、既読表示でとりあえず生存確認だけはできる。父のスマホだが、おそらく母も一緒になって使うことになるだろう。移住を機に、新しいコミュニケーションの形が我が家にやってきた。
●移住先の通信環境を整える
実家で契約しているインターネットプロバイダに問い合わせると、両親の移住先のエリアには対応していないことがわかった。新しい家のネット接続はWi-Fiにすると決めていたが、当時はまだ、大手携帯会社のWi-Fiサービスエリアの範囲外。そこまで田舎なのか・・・と軽くショックを受けつつ、さらに調べ、地元のケーブルテレビ局でネットの契約をすることに決めた。
契約者として父の名前は使わせてもらうが、ネット開通までのやりとりはすべて私の担当。月々の料金の支払いもさせてもらうことにした。父も母もなかなか承知してくれなかったが、近くに居られなくなる代わりに払わせてほしいとお願いした。実際、両親の通信環境が安定して助かるのは私たち子どものほうだし、それで得られる安心と便利を考えたらたいした出費ではなかった。
書類を取り寄せ、申込書を準備する。プランを決め、無料サポートのオプションを迷わず付ける。加えて、パソコン操作で困った時に遠隔で操作してもらえるサービスと、さらに万が一の時には訪問サポートを受けられるサービスも付けておくことにした。それぞれ月額600円の有料オプション。快適なネット生活を手に入れるため、ここは金で解決だ。
引っ越し予定日の2週間後に回線工事に入ってもらうことに決め、なんとか手続きが終了。ネット開通さえしてしまえば、後日私が行ってもろもろの設定をすればいい。引っ越し前にやるべきことは、これですべて完了。移住に向けた私のサポートも、これですべて終了となった。
●実家の通信設備を撤収する
インターネットプロバイダ契約を解約。ネット開通時の手間と比べると、ずいぶんとあっけない。送られてきたダンボールと伝票を使って、モデムやケーブルを返却する。
両親の移住物件探しは、インターネット無しでは到底無理だっただろう。立派に勤めを果たしてくれた機器たちに改めて感謝。
これまでは「パソコンの調子が悪い」とSOSが来るたびに実家に帰っていたが、今後はそうもいかなくなる。会おうと思ったらそれなりの費用と時間をかけて移動する必要があるので、顔を見に行く頻度も減るだろう。
近くでしてあげられることが少なくなるぶん、家族同士がいつでもつながっていられるようにしておきたい。そのための父のスマホデビューであり、家族のグループLINEであり、移住先の通信環境の整備だった。
スマホにはストラップが付けられないと知り、母が少しつまらなそうにしている。父とおそろいで付けたかったらしい。代わりにおそろいのステッカーでも貼る?と聞いたら、すぐにその気になって機嫌もなおった。わかりやすい人だ。背面に貼れそうなものを探しておくと約束してしまったので、私の任務はもう少し続くことになった。
デジタル環境の準備がすべて済み、これでいつでも引っ越せる状態になった。
父と母の前には、もう楽しみしかない。
次回、いよいよ引っ越しです!