わたしをつくったホラー漫画3選_100日後にZINEをつくる、17日目
「恐怖」という人間の根源を刺激するホラーは、読んだ記憶を五感で覚えてる。
『漂流教室』楳図かずお
小学校3、4年生の頃に母が「懐かしいの買ってきた」と言って、『漂流教室』を全巻もって帰ってきた。
『まことちゃん』とか『へび少女』で楳図ワールドに慣れ親しんでいたわたしは、楳図先生の描く「ぎゃー!」の表情が大好きだった。
極限状態におかれた人間の本性が描かれるこの傑作は、「大人は大人だからって信用できない」ということを心底教えてくれた。
”飛べば鳥になれる”と信じた低学年の子どもたちが、手をつないで屋上から飛び、地面にぐしゃっと叩きつけられるシーンを見たときの不快感は、今でも色褪せず心に残ってる。
しかし子どものわたしが恐ろしいと感じたのは人間の本性よりも、復讐にやってくる怪物。
最終巻に収められていた『ねがい』という短編に登場する「モクメ」。
まず、モクメのビジュアルがこわい。
等くんのママがモクメを見て「ぎゃっ!」って叫ぶのもわかる。
モクメを泣きながらぶったたいて破壊する等くんもこわい。
とにかく「モクメが復讐にやってくる」ことがわたしには恐怖で、漫画からモクメが飛び出してくるんじゃないかと怯えたわたしは、押入れの奥に漂流教室全巻をタオルでくるんで封印した。
すると今度は押入れが邪悪な空間になり、布団を出し入れするために襖を開けること自体が恐怖になり、母に懇願してバザーで売ってもらった。
「せっかく買ったのに、もったいない」ってぶつぶつ言われたけど、漫画が家から消えたことで心から安心したことを記憶している。
『亡霊学級』つのだじろう
ながらく青虫弁当は『恐怖新聞』だと思っていたけど、検索したら『亡霊学級』であった。
検索して知った、内容紹介の『すべての物語が実話がもととなっている』って一文に驚き。
なんか、ただホラーとして消費していた自分が申し訳ない気持ちになる。
『ごらんよ、僕の弁当は青虫さ!』
いじめられっこ青野くんがいうこの台詞のつよいこと!
『やがてきみも青虫を食べるようになるはずなんだからサ!』
いじめられっこに対して放つ言葉としてこれ以上つよい台詞があるだろうか。
この漫画でわたしは「水の中で死ぬとこんな風にふくらんでズルっとむけたりしちゃうんだ」って水死体の悲惨さを知ったのです。
(昔の子どもは現代っことは違った意味でR指定コンテンツにさらされて生きてたな)
『たたりちゃん』犬木加奈子
みんなだいすき、たたりちゃん!
もう、犬木先生の絵を見るたびにノスタルジックな気持ちに包まれる。
犬木加奈子=ホラー月刊誌「サスペリア」の記憶が強かったのだけど、連載は「少女フレンド」だった。亡霊学級はチャンピオン、漂流教室はサンデー、あの時代の少年少女誌のおおらかさよ!
たたりちゃんは、いじめっ子にはお仕置きするけど、陰気内気なこころやさしい女の子。
だから、たたりちゃんの呪いよりも、性根が腐ったクラスメートのいじめの方がよっぽど不快指数が高い。
そして、いじめられてるときのたたりちゃんの卑屈な表情が子どもながらにとても気持ち悪かったので、お仕置き発動時のたたりちゃんがでると「ずっとそのままでいいのに!」という気持ちになる。
「たたり~」の内容は目には目を!以上の残酷さだったりするけど、それでもめげずにいじめつづける奴らも根性据わってるからイーブン。
ホラー漫画全盛期のあの時代
大好きだった『地獄先生ぬ~べ~』、黒魔術学園ヒエラルキーバトルを描いた『エコエコアザラク』、10代のトラウマ本『座敷女』、忘れちゃいけない『うずまき』とか、70~90年代の日本はなんて豊かな時代だったんだろう。
みんながホラーを楽しむ余裕があった。
2000年代以降は、未来の見えない不安や頑張っても報われない空しさが社会を包み込んでしまったから、物語を怖がって楽しむことが難しくなった。
わたしはホラーに囲まれて、ぜいたくな子ども時代を生きていたんだ。
『漂流教室』を全巻買って帰ってきた母の気持ちが今、よくわかる。
わたしも子どもたちにホラーの楽しさを知ってほしい。
30年たった今なら、押入れに隠さずに『漂流教室』を本棚に並べられる。
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