転職前のしんどいときに、コンビニのおばちゃんに助けられていた
転職前、もう転職すると決心したあと、職場に行くのは結構きつかった。
なんせ、やる気が出ない。もう自分はここには関係なくなるのに、一生懸命やる意味なんてない、と投げやりで、正直ろくでもないやつだったと思う。
毎日朝家を出る時、「あと○○回行けばやめられる」と呪文のように唱えていた。勤務中ですら、「こんなくだらない仕事を、あともうちょっとでやめられる」と、自分に言い聞かせてなんとか踏ん張っていた。
そうでもしないとだめなくらい心がやられていたのかもしれない。
そんな自分にも、一つだけ仕事中にホッとする瞬間があった。
職場の近くにあったコンビニの、社員のおばちゃんと話す時。
ストレスを軽減するチョコ(GABA)をよく買いに行っていた。
コロナ禍でマスクだし、自分の名前すら名乗ったこともないし、もちろん相手の名前は知らない(ネームプレートしてたかもだけどほぼ見てない)。
そんな感じにも関わらず、おばちゃんは昔から自分を知っているような、まるで幼馴染のお母さんみたいな感じで、「おつかれさま!今日大変だった?」などと声をかけてくれた。
その瞬間、自分の張り詰めていた頬がゆるむのを感じた。
仕事中は奥歯が痛くなったりするくらい食いしばっていたんだな、とその時気づいた。
交わすのは本当に2言3言だったけど、次第にその時間が自分にとって唯一リラックスできる時間になっていた。
「おつかれ!あともうちょっとで退勤でしょ?頑張って!」
「今日は寒いわねー、ここ風入ってきちゃってさ〜」
「これ(うどん)、固っっいから、流水につけてから食べなね」
見ず知らずの、目も心も死んだ魚みたいな人間に、こんな優しい言葉をかけてくれる他人。
いつのまにか、そこでばかり買い物をしていた。おばちゃんがいない時はがっかりした。人見知りのくせに、おばちゃんがせっせと品出ししている時に、控えめに「こんにちは……」と声をかけたりしに行くようになった。
「あらーーー、こんにちは!今日は早いんじゃない?いっぱい食べなね!」
話せたのが嬉しくて、その後の仕事がちょっとだけ憂鬱じゃなかった。
最後、転職する時、お菓子を持って挨拶しに行った。
おばちゃんはすごくびっくりしていた。そりゃそうだろう、全くそんな感じ出さないようにしてたし。
「残念。でもまたいつでも来てね!」
と言ってくれた。
おばちゃんは勤務中だったし、熱い感謝の気持ちは伝えられなかったけど、あの時、おばちゃんのおかげでなんとか耐えられた。これは本当。
あのおばちゃんはきっと気づいていない。あの人の言葉には、笑顔には、死んだ魚の目をした人間を奮い立たせる力があることを。
知らないうちに、人を元気にすることができる。
そんな素晴らしい才能を持ったおばちゃんに会えて、本当によかった。
おばちゃんにも、幸せなことがたくさん訪れますように。