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「なぜ、予防は広がらないのか?」の解像度を高めてみる

ミクロな問題として、予防が広がらない要因を今一度深掘ってみます。

テーマはミクロな視点での深掘です。なので、マクロ、つまり、予防が広がると病院に来る人が減って病院の売り上げも減るし、パワーも落ちるから困るといった政治的な話ではありません。

事前にトラブルの目を潰すという予防の視点は、多くの人が重要と認識でいているのにも関わらず、なかなか実践されません。

そうなんです。問題なのは実践ができないことなんですね。その実践に至らない要因にはどんなものがあるのでしょうか?


♦︎”今”が優先される現在バイアス

人間は未来の利益よりも現在の利益を過大評価することが言われています。これは経済学の世界では、「現在バイアス」と呼ばれるものです。

予防の重要性は一定わかっているけれど実践に至らない原因のもっともポピュラーなものじゃないかと思う。

ハイカロリーの食事を控えたり、飲酒の控えたり、日々の運動やケアを継続することは、未来の利益の評価する優先するのであれば、当たり前に選択肢となります。

しかし、頻繁に宴会でお酒の飲んだり、二次会でラーメン食べたり、冷静に考えれば必要度は高くないにも関わらず、宴会など情景が過大評価されて、思わず出席してしまう。また、誘われ時に断れずに出席してしまうってこともあるでしょう。

その積み重ねが、自身の身体に過負荷をかけることになります。

運動の観点からも現在バイアスで考えることができますね。運動不足は良くないことはみんなわかっています。だけど、歩く時間を作ったり、体操やストレッチなど運動する時間を作ることよりも、スマホでゲームしたりyoutubeを見たりなどのスクリーンタイムが伸びていきます。

これも、長期の視点で見ればゲームするよりも運動してた方が利益があると思いますが、目の前のゲームの楽しさが過大評価されてしまい、他のことへの時間が捻出されない。

こうやって、今の利益(になっていないことも含めて)優先されるんですね。

♦︎「そのうちよくなるだろう」という正常性バイアス

予防には、全く何も症状は自覚的なトラブルがない状態から行うものもあれば、ちょっとしたトラブルはあるけど、それを悪化させないようにするところまでかなりの幅があります。

その中でも、「なんかいつもと違うな?」とか「ちょっと違和感あるな」のフェーズにある場合には正常性バイアスに巻き込まれない注意が必要です。

正常性バイアスとは、自分にとって都合の悪い情報や出来事を過小評価すること、つまり、「自分は大丈夫だろ」「そのうちどうにかなるだろう」という思うことです。

特に明確な受傷機転のない方々の多くは、「そのうちよくなる思っていたんだけど」って言います。

この段階は、トラブル発生のつぼみの段階です。まだ花は咲いていません。花が咲く前であればまだ対処することのコストはまだ低い状態です。もし
、「なんか違和感あるんだよね」って方は、なるはやで対処しておいた方がいいです。

ここで、一つ押さえておいてほしいのは、仮にこの段階で病院に行ったとしても、「レントゲンでは特に問題なので、湿布(もしくは痛み止め)出しておくんで様子を見ててください」って言われて終わることが多いことです。

レントゲンで問題がなかったとしても、レントゲンで問題がないってだけであって、動き方や筋肉のはり、姿勢やアライメントといった変化は確実に起来ている可能性が高いです。

医師の仕事の一つは診断をつけることなので、このような細かいトラブルや動作や姿勢の正常からの逸脱を判断するこはしません。むしろ、理学療法士の方が得意分野です。

なので、なるべく調子の良い時から自身の動きの特徴を知っておいて、「違和感」が出た時、もしくは出る前に自身の変化になるべく早く気がついて対象できる準備をしていくことが必要なんですね。

♦︎抜け落ちる”身体のデフレ負け”という観点

先にお伝えしておくと、「身体のデフレ負け」という言葉は、ぼくの造語です。この言葉は、「貯金はインフレ負けする」という表現を文字りました。

貯金がインフレ負けすることは、ご存知かと思います。100万円を1年間貯金したとします。利子の分だけ貯金額は増えますが、それ以上に物価高騰、インフレが加速したら、100万円という数値は変化しないものの購買力は低下します。これがインフレ負け。

身体にはこの逆パターンが起きます。人間は必ず老化するので、特に高齢になればその分年齢を重ねた分だけ身体は衰えます。つまり、デフレが起こるんですね。

この一般的な老化や衰えに対して、同程度の衰えが自身の身体で起こると、それほど問題にはなりません。しかし、適宜、運動したり健康管理を怠ることで、この生理的な衰えよりも加速度的に老化が進行してしまう場合があります。これが、ぼくいう身体のデフレ負けです。

この観点が抜け落ちているから、多くの人はあまり手を打ちません。しかし、それぞれの年齢での適切な運動やケアを実践していかないと、身体がデフレ負けする可能性が高まります。

ちょっとずつこのデフレに勝つくらいの勢いで身体づくりをすることで、仮に怪我や病気をしたとしても回復が早い状況を作ることにもつながるし、リカバリーのロスを減らすことにも繋がります。

ぜひ、毎日のちょっとずつで良いので、未来に元気な身体が残る可能性を高めていきましょう。

♦︎難しいインセンティブ設計

とはいえ、どれだけ予防や生活習慣、運動の重要性を語っても、なかなか簡単に人は動いてくれないんですね。

最後に取り上げたいのは、「インセンティブの問題」です。

大体、人が何かの行動を変える時にはインセンティブがあることがほとんどでしょう。生活習慣を変えると痩せてスリムになる、筋トレすると良い体になって女子にモテるなどなど。

しかし、健康というものには、インセンティブがとても弱いんだと思います。確かに、自身が高齢者になって時に身体が元気だったら長く働けて年金に頼ることはないとか言われても、インセンティブなるかというと多くの場合はそうではありませんよね。

健康になれば大きな問題である医療費の問題も少し軽減すると言われても問題は大きすぎて自分ごとにならない。

行動経済学において、最も効果の高いインセンティブ設定は、「先にインセンティブを与えること」だと言います。例えば、子どものテストの点数に応じて報酬を与える場合、先にその報酬を与えて、目標の点数に達したらそのまま与えたままにし、仮に目標に届かなかったら没収するという方法です。

健康の場合、インセンティブが未来に発生するので、先に与えるということは不可能です。ここが、1つ目の現在バイアスに絡んできますね。

インセンティブが未来にありすぎて手触り感がないので、現在を過大評価せざる得ないという側面もあるかもしれません。

これら4つの問題をいかにして乗り越えていくのか、危機感を持つ医療従事者として発信や行動していきたいと思います。

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