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絵本作家にはなれないと悟った日

俺は絵本がすげ〜好きだ。24歳なのに。あと2週間で、25歳なのに。

本や漫画、映画などのカルチャー(太宰治風に言うなら、カルチュア)は、SNSが身近な現代社会で疲弊した心の拠り所になってくれる。
なかでも絵本というものは、他のカルチュアと比較すると、かなり「余白」があるように思える。小説や漫画、映画は、登場人物のバックボーン、心情、情景描写などが事細かに描かれることが多いため、その世界にどっぷりと入り込んで楽しむことができる。対して絵本は、言わずもがな子ども向けに作られたものがほとんどであるため、かなり抽象的に、明瞭に描かれているので、想像の余地が多い。子どもの頃は少ない情報量でもその世界に入り込めんで楽しめたものだが、大人になると絵本の世界を俯瞰し、「行間を読む」ような別の楽しみ方ができる。同じ絵本でも子どもと大人とで、全く違って見えるのだ。ドラクエ5のサンタローズの村みたいなもんだ。ゲマ、許せねえ…!

主人公が育ったサンタローズの村に、青年期に訪れると魔物に焼き払われているトラウマシーン(DQ5)

学校に勤務しているという仕事柄、児童書に触れる機会が多い。来年度から学校図書館の本が全てバーコードで管理されるようになるというので(逆に今まで、飛鳥時代の木簡みたいな札で管理していた。ありえない)、夏休み真っ只中の現在、本のバーコードをパソコンに登録しまくっている。その作業をしていると、気になった絵本をつい手に取ってしまう。例えば、「ぐりとぐら」ってどんな話だっけ、と思って読み返してみたり、「しゅくだい」(だっこしてもらう宿題が出たもぐらの子の話)って絵本好きだったな〜って具合に。

↑あとたまに、こんなSODのAVタイトルみたいな絵本もあったりして、たのしい。

※この先、絵本のネタバレを含みます

そして、その日俺が何の気なしに手に取った絵本が、「おひさまとおつきさまのけんか」(作:せなけいこ)

せなけいこさんと言えば、「ねないこ だれだ」「めがねうさぎ」シリーズなんかを描いてる、有名絵本作家だ。ちなみに、「けらえいこ」さんはあたしンチの作者なので混同注意。「混同注意」と入力しようとすると、変換候補に「近藤中尉」と出てくることがあるので、混同注意。

これは読んだことがない作品だったが、絵本なんてタイトルと表紙を見れば、内容の大体は想像がつく。舐めるな。俺は国立大出てるんやぞ!!(AAA浦田の、「俺はトリプルエーのリーダーだぞ!!」のテンションで)


〈俺の予想〉
太陽は、「明るくて爽やかなお昼のほうがいい」と主張する。月は「いや、暗くて落ち着ける夜の方がいいよ」と反論する。ささいな口論がヒートアップし、喧嘩に発展し、街は明るくなったり暗くなったり大混乱。なんだかんだあって、見かねた住民に「どっちも大好き」的なこと言われて、お互いいた方がいいね的なノリで、仲直り。ちゃんちゃん。


まぁ、こんなところだろう。図星だろう。せなけいこさん、冷や汗かいてるだろう。この程度、数十秒で思いついたんだが?俺って異端か?この程度でいいならナンボでも思いつくんだが?ちなみに彼女はアスナに似てる(←聞いてねぇw)

絵本作家としてボロ儲けし、家のウォシュレットをシャンパンにしている未来を想像しながら、俺はページをめくる。

はじまりは ちいさな ことだった。
あるひ おつきさまがちこくした。
おこった おひさまは、やっと のぼった おつきさまに「おそいぞ!」と どなった。

「おひさまとおつきさまのけんか」より
絵:切り絵(ややこしい)

なるほど、遅刻ね。悪くないけど、俺のあらすじの方がこの後の広がりあるんじゃない?今から改訂版に携わらせてもろてもええけど…ププ。
これは、あれだ、おひさまが一回おつきさまのいない夜を経験して、おつきさまの重要性を再確認して、仲直りする流れだ。「えなり」には「かずき」しか続かないのと同じように、この展開が続く以外あり得ない。したり顔でガッツポーズをしながら、俺はページをめくる。

(中略)
「おひさまは いばりすぎだ!やっつけなくちゃ!これは せいぎの せんそうだ!」
ーせんそうが いいはずないのに そんなの うそっぱちだ。

「おひさまとおつきさまのけんか」より

これはなかなか深い一文だ。BLEACHの可城丸秀朝のセリフを思い出す。せなさん、アンタ中々ぶっ込んでくるじゃない。児童書にこういうメッセージ性を持たせるスタイル、アタシ嫌いじゃないよ。

どちらか一方に正義があれば それは防衛か征伐と呼ばれるだろう
だが これは戦争だ
戦争というのは どちらも正義だから起こるんだ

BLEACH第56巻「BALANCER'S JUSTICE」より

引き続きページをめくる。

おひさまは、あつーい ひの いきを はいた。「はぁー」
どうじに おつきさまは つめたーい いきを はいた。「はぁー」

「おひさまとおつきさまのけんか」より
絵:切り絵
絵:切り絵

太陽と月の喧嘩のシーンだ。お月様って冷たい息を吐くのか?まぁ、子ども向けの絵本だ、火の息と対照的な冷たい息、いいじゃん。分かりやすい。さぁ、どうだ?どう決着がつく?

おひさまの あつーい いきで おつきさまも ほしたちも みんな もえてしまった。

「おひさまとおつきさまのけんか」より
絵:切り絵

え??月燃えんの??めちゃくちゃ黒焦げになって、星も巻き添えくらってるし。やりすぎじゃない??火力高すぎたんじゃない??太陽も「ウソウソ!!今のナシ!!」ってなってるんじゃない??

おつきさまの つめたーい いきで、おひさまも くもたちも みんな こおって こなみじんに なってしまった。

「おひさまとおつきさまのけんか」より
絵:切り絵

お前もかよ。真っ暗な空にヒビだらけの太陽が浮かんでる絵、怖すぎるって。
相討ちだけど、どうなんの??仲直りは??あれ??

なんにも なくなった まっくらな そらの したで、ちいさな どうぶつが ないていた。

「おひさまとおつきさまのけんか」より

何その描写??「なんにもなくなったまっくらなそら」って怖すぎるだろ。急にディストピアじゃん。
てかあと1ページだけどどう風呂敷畳むの??

これは どこか とおーい よその うちゅうの はなしだよ。
わたしたちの ちきゅうでは こんなことは ないよね。
まさか まさか まさかね ー 。

「おひさまとおつきさまのけんか」より

終わり??おい戦争のメタファーだったのかよ!!
争いなんてほんとうに些細なことから始まるんだよって警鐘。メッセージ性しかなかった。たかが子供騙しのフェアリーテイル、って思ってた自分が恥ずかしい。将来、「パパ、せんそうってなあに?」と聞かれたらこの作品を読み聞かせようと思う。やっぱり、絵本作家は子供騙しのモンキービジネスじゃなくて、名の知れた人にはそれなりの理由があるな、と思った。

ファストなカルチュアが跋扈する現代、ウチと一緒に絵本でchill、せえへん…?

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