オシダアヤ『Woman』MV/撮影・編集・監督 フルタヨウスケ

8年の時間を埋める共同作業

アーティスト・オシダアヤが新しいアルバムを企画していると本人から聞いたのは当時彼女が住んでいた代々木駅の近くのカフェだったと思う。
8年前。まだボクが東京にいた頃。ボクとアヤちゃんは、何か面白い共同制作ができたらと、当時出産直前だった彼女の演奏姿を8mmフィルムに納める事にした。その後お互いの多忙のため(特にアヤちゃんは出産を迎えるということもあり)、コラボレーションは一旦休止になり、現像を終えたフィルムは保管箱の中に眠る事となった。
2018年。彼女のアルバム『Woman』制作開始を期に、止まっていた僕たちの共同作業がは再び動き出した。
彼女は出産・子育を経験し、いろいろな変化を重ね、母でありひとりの女性として、今の彼女にしか作れない音楽を記録したいと考えていた。
そしてボクはこのアルバムのタイトル曲『Woman』のMVを制作する事になった。
つくるにあたってボクが最初に思いついたのは、あの時お蔵入りになった8mmフィルムの映像を使うという事だった。
出産前の姿と8年後の姿をいっしょに見せることで、過去、女から母へ、そしてそれをふまえたひとりのオシダアヤの今、それらを全てひとつに表現できると思ったからだ。
この提案を彼女は喜んで受け入れてくれた。ボクはプロジェクターで8mm映像を投影し、その前で彼女に歌ってもらう事を提案した。文字通り彼女の過去と今を重ね合わせるのだ。それを伝えると、彼女は歌わずに、体と手話(それはむしろ彼女独自の言語と言ってもよかったけれど)で表現したいと言った。ボクはそれがとても素晴らしいアイディアだと思った。フィルムの映像的動作と彼女の身体的動作が美しい相乗効果を出すことが想像できたからだ。ワンシーンワンカットでの撮影方法はどちらが言い出すともなく決まったように思う。ボクと彼女の中で、今を切り取る最適な表現方法はこれしかないという事だったのだと思う。
撮影はその時僕がいた岐阜県美濃市の実家の古い倉庫の中で行い、テストを含め数テイクですんなり終了した。おそらく2人の中に見えていたビジョンがほとんど一致していたからではないかと思う。
結果、彼女自身を表現する美しい映像に仕上がったと思う。
そして8年間が投影されたこの映像には、彼女だけでなく、僕自身の8年間の時間も凝縮されている。
この8年間自分の変化も大きかった。東京定住から鎌倉に、そして拠点をなくし、バッグひとつで全国を移動する、そんな暮らし方になった。
いろいろなものを整理し手放し放浪している今、8年を隔てたこの共同作業がボクの生まれた場所で行われたという事がそれを集約しているのだと思う。
作品を作っていると、期せずしてこ自分自身の記録がそのまま定着するようなものができることがある。
それはいろんな流れが作用し、自然に(あたかも初めから決まっていたかのように)作品に定着される…そんな幸福な瞬間に出会える事が、ボクら表現者の特権なのかもしれない。
いずれにしてもこの作品はここ近年で最も気にいっているものの1つとなった。
ぜひ皆さんにも2人の凝縮された8年間を感じてください。

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