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ツクモリ屋は今日も忙しい(14-後編)
【side:西松】
ぼいーん。ぼよーん。
《オラオラー》《ナンダテメー》
互いに睨み合い、小突き合いをする若者。
《コッチ見ルナー》《ペッ、シバクゾー》
野次馬に対して威嚇をし罵る若者。
尖り切った彼らに訪れる明日とは!?
「――これで一本動画が撮れたらいいのに」
《アアン?》《ヤルッテノカァ!?》
ぼそっと呟いたのが癪に障ったのか、モガミさん達は食いつかんほどの勢いでがなる。そんなにドアップだとチューしてしまうよ。ぼかぁ、ちょっとだけ期待してみた。
(14)「リベンチャーズ襲来」ナノ! -後編-
「──あぁ。すまない、説明を忘れていた」
店内スペースに顔を出すと、パイセンはレジ会計を済ませたお客さんを見送っていたところだった。モガミさんのことを尋ねると、パイセンは頭をガシガシ搔く。
「たまにあるんだ。あれは、中古品なんだよ」
「へ、ユーズドっすか?」
古くは見えなかった。ツクモリ屋の他の商品にしたって、使った後の品物のイメージはない。パイセンは続ける。
「と言っても、ほとんど未使用の返品物だけどな。大量に売れ残ったり、使う予定だった施設やら行事がなくなり、余った物とか」
「へえ……」
そういう過去があるなら、モガミさんとしては黒歴史と呼べる不快なものかもしれない。こっちの納得している様子に気がついたのか、パイセンがそっと訊いてくる。
「……もしかして、そいつら相当、不機嫌なのか?」
「はい。そのうち初代総長が決まりそうっす」
この前読んだヤンキー漫画を思い出しながら、ぼかぁ答えた。あの感じ……めちゃ強いけど、可愛いー感じ。
バイザウェイ、その漫画って荒木君から借りたんだっけ。荒木君、これ見たいかなぁ? わくわくするかなぁ?
「そうか……。ま、できる範囲でいい、嫌じゃないなら交渉を続けてくれないか。帰るまでに大人しくならなければ、俺がどうにかする」
……あ。パイセン、なんか漫画のキャラクターみたいになってる。ええと、眼光だけで殺せそうで、タトゥーが入った……。
「? どうかしたか?」
「え、あ、ハイ。チャレンジ続行するっす!」
殺気(?)を消して向き直ったパイセンは、すっかり通常モードだった。忘れていた呼吸を取り戻して、ぼかぁ頷く。
それにしても思い出せなかったなぁ、キャラの名前。ま、後で漫画を読み直すか、荒木君に相談してみよう。
***
納品スペースに戻ると、気配で気づいたのか、モガミさんたちが一斉に振り向いてガンを飛ばしてくる。
《マタ来ヤガッタナー》《ヤンノカー》
なんというワイルド系。むき出しのナイフ。マジでバイクを盗みだす5秒前……あれ、ちょっと違う気もする。
「モガミさん」
《ナンダー》《ぶいぶい》《オラオラ》
ハンガーの総数、確か100本。その倍、200の瞳が、らんらんと真っ直ぐに見つめてくる。
ぼかぁ決めた。モガミさんと、向き合う!
「まとめて……どんとこーい!!」
一括で一喝する。モガミさんたちは目を丸くするものの、まだ角を取れずにいる。
《ナンダヨー》《バカー》《イカナイゾー》
「ふうん……来ないんだったら、これで終わりさ」
《……エ?》
素っ気ない振りをしてみる。ぶらぶらと、あさっての方向を眺めたりして、モガミさんに興味ない演技をする。
《ナンダイ!》
モガミさんたちは強硬だった。最初は対抗するようにそっぽを向いたり、出し抜けに嘲笑を沸かせていた。
《……フンッ》
それでも、いくつかのモガミさんは、拗ねたような視線をチラチラとこちらに向けるような仕草をする。タイミングを計って、ぼかぁ不安そうな瞳をゲットすることに成功する。
「はいモガミさんアウトッ!」
《ぴゃっ》
びしっと指を突きつけると、モガミさんは慌てたように目を逸らしていく。その動揺はどんどん伝わって、渋面の部屋が出来上がる。
《……ナンダヨー》
リーゼントやマスクの、装備の派手なモガミさんは、まだ睨みを崩さない。ぼかぁ改めて彼らに進み寄り、提案をしてみる。
「生まれ変わりたくないっすか?」
《……ナンダト?》
ぼかぁ、ちょっと思い当たるのさ。
イヤなことを、リセットしたいという気持ち。
「あったことを無かったことにはできないっすが、切り替えることならできるっす」
《ド……ドウイウコトダ?》
死角に隠し持っていた道具をモガミさんに見せて、ぼかぁキリッと告げたのさ。
「このおまじないをやれば!!」
【side:室井玄】
おいおい。なんだこりゃ。
《オーイオイオイ……》《心ノ友ヨー!》
客がすっかり来なくなったので様子を見に来てくれば、異様な光景が検品スペースに張り付いていた。放心したモガミさん、安らかに居眠りしているモガミさん、泣きむせぶモガミさんらの中心に、せっせと働く西松の姿があった。
「西松、これは一体……」
「パイセン! どうしました?」
奴は言いながら、一つ一つ、モガミさんの本体となるハンガーを丁寧に拭いていた。アルコールティッシュで。
「ハンガーに汚れでも付いていたのか」
「そうっす! 身も心もキレイにお店に来てもらわないと、でしょ?」
西松はにかっと笑いながら、モガミさんを見ていた。俺の目で見る限り、もう話で聞いていたような酷い状態ではない。
西松の手入れが余程良かったのか、モガミさんたちの毒気はすっかり抜かれているようだ。微調整のケアは必要かもしれないが、もう大丈夫だろう。
……まあ、これは西松の手柄かも?
あとできちんと、報酬を渡さないとな。
「さーみんな! きっと明日はいいことあるさ! 笑おう!」
西松が呼びかけて、モガミさんたちに呼びかける。感極まったのか、モガミさんたちは、ワッと西松に寄っていった。
《師匠ー!》《先生ー!》
なんか、こういうドラマを観たことある。
「3年A組……?」
「もしかしてパイセン、B組の方っすか??」