木村秋則さんというすごい人②(完結)

(※奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家 木村秋則の記録 (幻冬舎文庫)より)
(★ネタバレ含みます!めちゃくちゃ感動するので直接本や映画を読みたい方は見ないでください!)

※前回の続き


もう八方塞がりだった木村さん。納屋に会ったロープを手に取って、なるべく村の人に悟られないように岩木山を2時間ほど頂上に向かって歩く。

「もう6年目になる。それでも一向に良くなる兆しがない。家族の応援もある。わずかだが期待してくれている人もいる。私が諦めればいいだけだがもうそうもいかなくなってる。みんなの夢だ。これほど長い間研究した農家はいないだろう。だとしたら私は日本代表として無農薬でのりんご栽培法を探求し続けた人間になる。今諦めたら、長い時間をかけた分「りんごにおいて無農薬農法は不可能」を証明したことになる。光明が見えないが辞めてはいけない。でも家族にこれ以上迷惑をかけ続けるわけにはいかない。」
この思いから自らの命を絶つことしか考えられなくなっていた。

ただ、ようやく人里離れた場所につき木にロープをひっかけようとしたところ、あらぬ方向へロープが飛んでいき、ロープを見つけに行こうと駆け付けた場所にりんごの木と錯覚してしまった「どんぐりの木」があった。
どんぐりとリンゴじゃ種類も違うが、同じ木で農薬を散布されてるはずもないのに、なぜ立派に育ってるのか。そこでそこら一体の土の柔らかさに気付いて、自殺のことなんかそっちのけでリンゴ畑を「同じ具合の土にかえることが正解のはずだ!」の思いから行く道の心境とは反対に意気揚々と家に帰りつく。
帰りが遅いと心配していた奥さんはキツネにつままれた様子だった。

どんぐりの木の周りには雑草が自然のままに茂っていた。そうすることが豊かな土を育むために必要だと気付いた木村さんは、そこからまた1、2年間土壌が作られるのを根気よく待つ。

その間何もしなかったわけではない。
雑草が茂ることでどういう害虫が増えるのか、その害虫がどのように孵化して、どの虫に食べられるのか。害虫の生態系を調べた。気温と害虫の行動サイクルまで自宅で虫を飼ってまで調べたりもした。

やるべきことが分かった以上、無駄な時間は使えない。「家族に少しでも良いものを食べさせたい」と町に出てバイトを探し、上手い言い訳や人間関係が不得手な木村さんはバイトをクビになったりで点々とし、なんとかキャバレーでの仕事に落ち着く。

夜の仕事に務めている人というのは、それぞれが様々な事情を抱えているものである。
年下ばかりの中にプライドを捨てて、ロクに食事もしてこなかった細い身体と、場違いな農夫の服装で、雇ってもらうために頭を下げた木村さんの事情も聞かず、店主は採用を決めた。

木村さんは人柄が良く、若い時に取得した簿記の資格もあった為、経理を任されたり「お父さん」という愛称で呼ばれ、店を明るくする存在として重宝された。

だが3年目のある日、店の人手が不足してたまたま街頭呼び込みをしてたとき、地域を仕切っているヤクザに声をかけてしまい、裏山へ連れ去られ顔面を殴られる。(この時に前歯を失った)
そこから命からがら逃げて、あとで分かったことだが、相手のヤクザ組織にミカジメ料を支払うべきなのに、木村さんの務めているお店側が支払っていなかったことが要因だった。

お店からは惜しまれたが、それをきっかけにキッパリとキャバレーを辞め、りんごの木の再起に取り組んだ。

ただでさえ農薬を撒かず荒れ放題だったのに雑草を生やしっぱなしにしだしたものだから周囲の人間は黙っていなかった。

「雑草くらい刈ってくれ」この一言には今までもこと踏まえると、収まりきらないほどの木村さんへの不満が込められていたと思われる。

そこで木村さんは相手に対して「明日、もう一度同じ時間に畑に来てほしい」と伝えた。
そこで相手が見たのは農薬を散布してる畑から木村さんの畑へ蛾が移り住むように飛んでくる様子だった。

その人は、むしろ迷惑をかけているのは自分だと知ったことと、農薬を撒いてる自分の畑に沢山の蛾が生息していたこと両方に驚いたと共に、「木村は何かとんでもないことに挑戦しているんじゃないか」と悟った。

そこから少しずつ、周囲の人からの目線が変わっていった。

土壌を整えるために、害虫の生態系は崩す事なく、色々手を施した3年目にしてようやく1本のりんごの木に今までは葉しかつかなかったが、7つの花が咲く。そこへ2つの実がついたため、神棚にあげて家族でそのリンゴを食したが驚くほど美味しかった。
ただ、今までのことがあったため木村さんは来年また順調に実がなると思えなかった。

翌年、木村さんの畑のりんごの木に沢山の実がなっていることを隣のりんご畑を所有する知人から知らされる。
そこで木村さんは夢にみた光景を初めて目にする。
人は本当に感動したとき、表情も言葉も失ってしまう。
木村さんと奥さんはその場に立ち尽くし、目に映ったりんごの木々は涙で濡れていた。

そこからいざ収穫となるが実はなっていたもののピンポン玉ほどの大きさだった為、出荷するにも「それは本当にりんごなのか?」となかなかはんばいにこぎつけることができない。

どうにかして売らないときっかけは掴めない。閃いた木村さんは突如大阪に向かいマーケットの路上販売だったが数人のお客さんに買っていただく。

買ってくれたお客さんから「こんなに美味しいりんごは食べたことがない!また売って欲しい」とのメールがきた。

実自体は小ぶりで味もまばらな時もあった。傷物も中には含まれているのに、「今回のは味は落ちてたけど次は甘いの期待してます」など応援してくれるファンの方ができたり、レストランを営んでいる方から「うちのメニューに取り入れば宣伝になる」と提案をもらったりして、軌道に乗せることができた。

人間は農薬を散布したり、土地を開拓することで、そこにある生態系を破壊してきた。
元々は自然環境の中で、己も自然の中で周りの動植物と同様に生きていることを忘れてしまっている。
自然はバランスをとっていて、リンゴにはリンゴの木を含む自然の摂理の中でこそ正しく生きれる。
「虫が邪魔だから殺せばいい」「雑草が邪魔だから刈ればいい」こんな考えは爆弾を落とすような行為で、必要な物まで壊してしまってると木村さんは言う。
無理やり爆弾を投下するように生態系を崩すとその反動は必ず起こる。そうではなく、刀で不要なもののみを切るように本当に必要なタイミングで必要な分だけ手助けしてあげればいい。
人間も植物も動物もみんな一人では生きていけない。人間だけが自分達だけで生きてる気でいるが、みんな自然に生かされているんだ。

最後に。
木村さんが一つ後悔していることがある。実は木村さんが八方塞がりになってりんごの木に話しかけていた時期、実は800本全てにではなく、隣の農家の人におかしくなったと思われたくないがため、隣の畑と隣接するりんごの木にだけ話しかけなかった。
話しかけなかった事が要因なのかどうかは不明だが、その列のりんごの木だけが全て枯れてしまったらしい。

これにて読了


◎本日の呟き
この本をドラマティックに書かれた石川拓治さんの腕もあるとおもいますが、後半でも目頭を熱くさせられました。
木村さんは著者に対して仕切りに「私はすごくないんだ。謙遜なんかではない。りんごの木が頑張ってくれたんだ。人間にできることなんてたかが知れている。私はりんごの木を管理してる気でいた。そうではなくて主役はりんごの木なんだ。実をつけてくれるのはあくまでリンゴの木。私は手伝っただけなんです。」と口にしたそうです。
土壌が整ったあとのリンゴ畑は、農薬を散布し続けている畑の木と比べて根が長く丈夫で嵐の後、他は被害が出てるのに木村さんの畑だけほとんど被害がなかったともありました。
測ってみたところ一般的なりんごの根は数メールなのに、木村さんの木は20mもあったんだとか。
木村さんの物事に取り組む姿勢や、考え方、ホントの「命をかける」とはこの事です。
感動しすぎてほとんど内容を覚えてしまいました。
下手な映画を見るよりも感動しますし、学びになることばかりで、本当に読めて良かったです。
noteでは省いてしまったんですが、本書は木村さんの人柄を映し出すエピソードも満載ですので是非実際に手に取って読まれるか、映画化もされてるみたいなので映画で見てみるのをオススメします。


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