精神科病床の推移について

12月17日の朝、メールをチェックしていたら、以下の記事が来ました。
CBニュース「総合病院の精神科病棟閉鎖相次ぐ、20年で15%減」

恥ずかしながら、有料会員になっているわけではないので、タイトルと冒頭の少ししか読むことができないのですが、「そうかぁ」という受け止め感と「そうなんだよなぁ」という引っかかり感が相まった気持ちになりました。

「日本の精神科病床は世界的にみて、ものすごく多い。世界の精神科病床の2割が日本にある。日本の精神科病床を以下に縮小していくかがポイントである」という認識で、これまでいました。
恥ずかしながら、精神看護を教える身として「その程度の理解でわかったような気になっていた」自分に気づきました。無論、今も問題の深淵が見えていないのは自覚していますが、少しずつでも理解を深めたいと思っています。

①精神科病床の定義が、日本と世界では異なる。
 これは、「そりゃそうだ」ということなのですが、世界的な基準では、精神科救急や精神科急性期病床を「精神科病床」としているのに対して、日本では療養病棟や海外ではナーシングホームと位置付けられる病床も精神科病床に含めている。そのため、「そもそもの基準が違う」のです。国際基準に合わせる必要もありますが、急に病床区分を変えることには様々な難しさがあります(病床区分については医療法第7条2項の5区分を参照)。法律が変われば・・・とも思いますが、それも容易ではないように思います(個人的に)

②精神科病床の多くが民間病院にある
 民間病院は、地域医療を支える極めて大きな存在です。ただ、ある程度の補助金や公的資金の助成があったり、公益性を有していても「企業活動をする組織」である側面があることは否めません。病院の維持費や人件費、その他にも必要な経費を稼がないと組織として成り立ちません。
 日本では1950年の精神衛生法により私宅監置が禁止され、都道府県に精神科病院の設置義務が課されました。ただ、戦後の状況で自治体に多くの病院を設置する余力はなく、民間の病院がその役割を担うことになりました。そこに関与するのが1958年の厚生省通知、いわゆる「精神科特例」です。一般科病院と比べて、「医師は3分の1、看護師・准看護師は3分の2で良い」とするもので、少ない人件費で運営できるメリットもあってか民間の精神科病院が続々と設置されました。その結果、精神科病院の8割が民間病院(精神科病床の9割が民間病院にある)という状況に至っています。

精神科病床のダウンサイジング(縮小)を進めていくためには、公立病院の方が進めやすいのは間違いないと思います。民間病院が「今月で病院やめます」となったら、職員だって患者さんだって困ってしまいます。民間の病院の中には私財を投げ打って創設された病院もたくさんありますし。(すでに役員報酬などで十分な見返りを得ているのでは、という指摘もあるかもしれませんが、それは「場合による」ことですよね)。

そんな中で、精神科病院には精神科の専門病院としての役割があり、病院総合病院の精神科には総合病院の精神科としての役割があります。公立病院だから「担わなくてはいけない役割」や、「担える役割」も同様にたくさんあると思います。そんな中で、総合病院の精神科がどんどん減ったら、日本の精神科医療は更に歪になってしまうのでは、と感じています。
(注:”更に歪に”という表現は、良くないという意味ではなく、様々なジレンマや問題、解決すべき課題を抱えている、という意味で使っています)
「20年間で15%減った」という情報を大きいとみるか、小さいとみるかも人により判断が異なるでしょうが、「採算が合わない」ことで削減してよいのかと複雑な思いになる自分もいます。

 先日のNHKスペシャルでも、日本の精神科医療の難しさを改めて考えました。それぞれの分野の専門家の意見も尤もでありながら、どれか一つの意見が正しい訳でも解決策になる訳でもない。そんな感想でした。精神科医療の在り方は、みんなが「いつか自分が(自分の大事な人が)関わるかもしれないこと」として考えていきたいことだと思いました。

*このコラムは個人の見解であり、所属組織や法人の意見を代表するものではありません。

いいなと思ったら応援しよう!