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縁なき土地の、まっさらな台所で、こだわりのオムライス。

正直に言おう。

やっている。
またやっちゃっている。
何って、うつ的なそれのことである。

「『うつ的なそれ』ってなんやねん、うつじゃないんかい。」
と、誰かの(というか、わたしの第二あるいは第三人格くらいの)声が聞こえてくるが、もうどっからがうつで、どっからがうつじゃないかなんてわからないのである。

この春、わたしは新たな土地に引っ越した。
新しい仲間と、新しい仕事が始まった。

この「新しい仕事」は既に走っていたチーム・プロジェクトに合流するのではなく、とある施設が今春オープンするにあたりチームが形成され施設運営というプロジェクトが始まったというもので、「わたしにとって、新しい」だけではなく「みんなにとって、新しい」のだった。
しかも旗振り役も、わたし含めてそこに集まったメンバーもみんな施設立ち上げ&運営ははじめて。「将来的にこうなったらいいな」「グランドオープンはこんな感じで向かていたいね」みたいな話をすることはできても、いざ何をどっからどう手を付けたらいいのかの具体的な知見はどこにもなかったのである。

つまり、オムライスづくり、に例えると。(例えるな)

そもそもオムライスがなんたるか、一般的にどんな認知をされているかは心得ている。その上でわたしたちは今回どんなオムライスを作りたいのか、どうして王道のケチャップなのか、だけど卵は放し飼い飼育されたものを選ぶなど食材にはこだわりたい、それはなぜか…一つひとつ詳細に語ることもできる。材料もレシピもだいたいわかっている。
けれど。
ケチャップはどこで買えるのか、勝手に買ってきていいのか。台所はあるけれど調理器具はフライパンすらない。油もない。いわゆる「材料」以外に何が居るんだっけ。それはどこで調達できるんだっけ。

みたいなことが、メンバーそれぞれの頭の中で起こっているのである。

もちろん認識をすり合わせるために日々コミュニケーションはとっているし、ミーティングもしているが、さすがにわたしと旗振りでは前提情報もちがうし、施設運営以外の経験値も違う。
(わたしは家庭科の授業で習う程度のメニューを自分もしくは家族のために作ったことしかないが、彼は和洋中大体さらえているしひと様からお金をもらって料理を提供した経験が何度もある、みたいなことだ(多分))

新たな土地、新たな仲間、新たな仕事。
アラタアラタアラタ。

よくわからないながらも施設運営マニュアルを作ってみた。これで大丈夫なのか心もとない。しばらくして読み返してみると、自分がこのマニュアルを読んだだけでは何も動けないぞと気づく。だめじゃん!

じょん。

気付けばイベント開催予定日まで1ヶ月を切っている!
告知したいけど、告知するためには何が必要なんだっけ。いやいや、イベント当日をどのように迎えるのか?から逆算しないと準備や動きにヌケモレが出てくるぞ。
こんなんでいいのかな?でも「これでいい」って最終判断するのはわたしじゃない?

じょんじょん。

マニュアルの見本が送られてきたぞ。これをもとに自分たちが管理しやすい内容に調整して、各名称を書き換えれば作ることができるはず。
…ってわかっているのに、やればいいだけなのに、手が動かん。やりたいない?やれない?やらない?

じょんじょんじょーん!

同時に、これとは別の、ずっと続けていたお仕事。
この春からコミットメントも高めたい!と思いメンバーにもそう宣言していた。しかし蓋を開いてみれば、むしろ迷惑をかけ好意に甘えてしまっているではないか。手を差し伸べてくれるけど、その分お給料は下げてもらうように言わないといけないかもしれない。でもそもそもわたしはこっちのプロジェクトもちゃんとやりたいんだ、ちゃんとスケジュール管理してやるだけじゃん!

じょんじょんじょーん!じょじょーん!!

ってなわけで、なかなか手が動かないわ、「わたしだったらこうする」の判断ができないわ、スケジュール管理できないわ、しっかりちゃっかりパニック状態。
涙は俳優ばりにいつでもぽろぽろ、呼吸はあさく鎖骨の下辺りが詰まり、身体はつねにこわばっている。

だがわたしだってこんなわたしとの付き合いはこの夏で満30年(えっ、待って…?)、うつ病診断からは満5年を迎える。
最近の口癖は「やれやれ」だ。

「やれやれ、新しい場所いくといつも落ち着くまでに時間かかるじゃん」
「やれやれ、やり方わかってるのにやれなくなっちゃってるよ。休むしかないじゃん」
「やれやれ、一つひとつやるしかないじゃん」

そう、わかっちゃいるのである。
落ち込みまくり、パニックしまくり、わんわんしくしく泣きまくりながらも「やれやれ」ってわかっちゃいるのである。

というわけで「うつ的なそれ」と呼ぶのです。
(ようやくもどってこれたわ)

精神科医はこれを寛解というのか、それとも麻痺というのか、自分がうつと診断されたことのある人間だということを隠して聞いてみたい。(診断歴があると知ったら、それを前提とした返答しかされないでしょう?)

だけどほんとうは。
「やれやれ」って言いながら時間を重ねるしかない、慣れれば大丈夫、楽しくなっているとわかっていながらも、ほんとうは。

もっと上手にじぶんと付き合いたいし、
こんなしんどい道を選ばなくてもいいんじゃないなって自分自身に問うし、
こんなしんどい道も認知が変われば心持ちも変わるのかな。


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イコカ
この度は読んでくださって、ありがとうございます。 わたしの言葉がどこかにいるあなたへと届いていること、嬉しく思います。