かみを切っただけなのに。
例のあいつがわたしたちの世界にあらわれて1年が経った。
きっといろんなことが変わったし、まだいろんなことが変わっていないし、いま・23時前にこうして「あ~あ、罪だなあ罪だなあ」と形式上いいながらバターたっぷりなフィナンシェを齧っている間にもいろんなことが変わっている。
(罪だなあと思いながら食べるものはどうしてこんなに美味しいんだろう)
明らかに変わったこと、というか影響を受けていることの一つに、東京に行きづらくなったことがある。
まあ仕方ない。
わたしもわたしの体裁っちゅうもんがあるし、社会人するならやらない方が(あるいはやっておいた方が)いいことってのはある。ちなみに、秋頃ちょっと波が収まっていた時にこっそり向こうに行ったけれど、おみやげは自分の分と気のおけない人たちだけに購入した。
ふふん、社会人だからね。自分のご機嫌をとることも忘れない。
で、東京に行けないからなんだっていうと、美容室難民になっちゃったってことなのだ。
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わたしは2019年4月まで大体3年間東京に住んでいたのだが、その間ずっと同じ美容室・同じ美容師さんにお世話になっていた。
京都に引っ越してからも妹や友人が東京にいるから平均して3ヶ月に1度はそちらを訪れていて、髪を切るサイクルも丁度いいし、いつものお姉さんは落ち着くから、東京に行くタイミングで髪を切るようになっていた。
「どうしてもそこじゃないと嫌!」って程の執着があるわけでもないので、東京行くタイミングと髪切りたいサイクルが合わなかった時とかはこちらで探して行ったりもした。
けれどパチンとくることはなく「東京行くタイミングでいいや」に収まっていた。
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そしてあいつが登場した。
妹に会いたいのに、友だちに会いたいのに、妹に会いたいのに(そう、わたしはシスコン)、なかなか東京へ行くことがかなわなくなってしまった。
「さみしい…」「いつならいけるかな…」とカレンダーアプリを立ち上げて候補日を確認しているうちにも、ショートはボブに、ボブはミディアムになっていく。
去年の暮れ、「年明けにはいけるようになるだろう」と美容室衝動をぐっとがまんしてわたしは前髪だけ切り視界を確保したのだが、その甲斐虚しく世間はごらんの有様である。
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昨日、バッサリ切った。
ホットペッパーとinstagramを行ったり来たりして、見知らぬ人の横顔と後頭部を見て、「いいかな…」と思ったらそれを手掛けたと思われる人のインスタまでとんで、「いってみようかな…」と予約を取り、
久しぶりに京都で美容室を訪問したのだった。
なお、この「いいかな…」から「いってみようかな…」まで、何人の後頭部をみて、何人のインスタを見たかわからない。星の数。たぶん。
そして、バッサリ切ってもらったのだ。
バッサリ…とてもいい感じに!切ってもらったのだ!
ミディアムまで伸びてしまった髪を
「短めで、いい感じにしてほしいです。それ以外注文はないです。」
という、いちばん難解な注文を(わたしに)付けられたにも関わらず、紺のスタンドカラーシャツにスカーフを差したお兄さんは
「わかりました~じゃあ切ってきますね」
と言ったかと思うと、ざくざくハサミを入れながら、わたしのしょーもない漫画話に付き合いながら、10月にいれたメッシュカラーが生きたショートヘアに仕上げてくれたのだった。
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わたしゃ小躍りである。
美容室のあとによったユニクロの試着室で自撮りしてしまうくらいに嬉しかった。
東京の美容室に次いで、パチンとくる美容室をこちらで見つけることができた。元はと言えば、あいつのせいで新しい美容室を探さねばならなくなったが、いい出会いだ。
ちょーっとだけ、大目に見てやろう。
かみを切っただけなのに、足取り軽やか。気分もいい。