ぬいトリコット生地について
「ぬいぐるみの生地やさん」では、2022年11月からぬいぐるみ用の片面起毛トリコット生地の商品名を「ぬいトリコット」に変更しました。
「ぬいトリコット」は『てづくり推しぬいBOOK』掲載の「ナイレックスぬい(小)」という作品の肌の部分や、髪の毛の部分(ソフトボアと貼り合わせて使う箇所)になどにお使いいただける おなじみの生地です。
これまでの商品名で覚えてくださっていたお客様や
『てづくり推しぬいBOOK』を参考に材料を探しにきて下さった方には少し分かりにくくて申し訳ないのですが、
これからは「ぬいトリコット」をどうぞよろしくお願いいたします。
この記事では商品名を変更するに至った経緯や「ぬいトリコット」という生地の特性についてお話ししたいと思います。
■商品名変更の経緯
「ぬいトリコット」は、当店では以前は「ナイレックス」という名前を、生地の種類を示す一般名詞として、用いていました。
「ぬいぐるみの生地やさん」を開店した当初、「ナイレックス」という名称が登録商標であることを知らずに、結果として誤解を招きかねない表示をしてしまっていました。
これまでぬいぐるみに関わる仕事をしてきた中で、玩具業界やぬいぐるみ業界の慣例としてこのタイプの生地(片面起毛のトリコット生地)が「ナイレックス」と呼ばれていることに疑問を抱いたことがなく、
このタイプの生地一般を示す一般名詞だと思い込んでいたことから、
商品を企画、製造、販売する事業者として当然払うべき注意(商標検索をするなど)を怠ってしまったのが原因です。
このようなことは事業者として本来あってはならないことです。深く反省し、今後このようなことがないよう、取り扱い商品の表示内容にはより一層注意して参ります。
■「ぬいトリコット」にした理由
市販のキャラクターのぬいぐるみやクレーンゲームの景品のぬいぐるみによく使われている、ポリエステル製の、表面が少しだけポワポワしている、ソフトボアじゃない方のあの生地。
あの生地は生地の種類としては「織物」ではなく「編物」の仲間です。
編物の中でも「経編(たてあみ)」「トリコット」というタイプの編み方で、片面を起毛してあります。
「トリコット」自体は編み方の大まかな種類を表す言葉なので、ぬいぐるみによく使われるあの生地以外にも色々なトリコットがあります。
たとえばお料理のレシピに「根菜:100g」と書かれていたら、ごぼうなのか大根なのか分からなくて困ってしまいますよね。それと同じように、「トリコット」とだけ表示するとアバウトすぎるのが困りどころです。
ぬいぐるみによく使われる片面起毛のトリコット生地一般を示す名前として「ナイレックス」に代わるものを考えようと思い、
非常に単純な発想のネーミングではありますが「ぬいトリコット」という名前にしました。
■一般名詞としての「ぬいトリコット」の使用について
私が便宜上勝手につけて呼び始めただけの名前ですが、
もしこのタイプの生地をどんな名前で呼んだらいいか困った時には、法人・個人を問わず、どなたでも自由に「ぬいトリコット」という名称を使っていただいても構いません。
※「ぬいトリコット」は、この記事を書いている2022年11月3日時点では商標の登録申請されていません。
■ぬいトリコットのいいところ
さて!ここからは、ぬいトリコットの生地の特性についてお話ししたいと思います。
切りっぱなしでもほつれない
薄くてハリがあるので扱いやすい
発色が鮮やか
ほんのりと伸縮性があるのでぬいぐるみに適している(綿を詰めたときにシワが出にくくてきれいな形を出せる
オモチャらしくてかわいい
裏も使える(裏面はサラっとした手触りで、ぬいぐるみの服などに使える)
色数が豊富!当店では40色ほどしか取り扱っていないのですが、中国には何百色もあります。
プリントがきれいに乗る(昇華転写プリントなら表面でも裏面でもきれい。裏面にはラバープリントもきれいに出来ます)
軽い(30メートルくらい巻いてあっても余裕で持てちゃう)
シワができてもアイロンですぐにきれいになる
■ぬいトリコットの困ったところ
(もちろん欠点もあります。でもいいんです、好きな人は好きなので…)
ぬいぐるみ業界には、絶対使いたくない派の人がたまにいる
手の潤いを全部持っていかれる。そしてささくれた指先がぬいトリコットの表面のループに引っかかる
表面のループに細かなゴミやホコリが入り込むと取れにくいことがある
(マスキングテープでペタペタして取ったり、細い毛抜きでゴミをひとつひとつ取り除いてください)面ファスナー(マジックテープ)のザラザラの方がくっつくので、面ファスナー付きのお洋服の着脱に注意が必要
■ぬいトリコットとソフトボア
ぬいぐるみのお肌はぬいトリコットとソフトボアどちらで作るのが良いのかと聞かれることがあります。
このように、見た目の印象がちょっと違うので好みで選んでください。
また、手縫いの場合は特に、どちらかというとぬいトリコットの方が縫いやすいです。
ソフトボアはふんわりしていてややリッチな印象、
ぬいトリコット製はオモチャっぽいチープな可愛さが魅力かな、と。
■ぬいトリコット、実は生地の向きにタテとヨコがあります
ぬいトリコットのオモテ面をよく見てみると、うっすらと縞模様が見えます。
市販のぬいぐるみではこの写真のように縞模様が横になる向きで使われていることが多いです。
また、ソフトボアほどはっきりとは分からないので間違えてもほぼ問題はないのですが、表面を手で撫でたときにサラッと撫でられる方向と逆毛になって手が引っかかるような感触がある方向が一応あります。生地に型紙を写して裁断する際に生地の向きに注意しておくと、ほんのちょっと撫で心地がいいぬいぐるみになります。
この辺は、フェルトのように縦と横の区別がない生地に慣れていると、少し戸惑うかもしれませんね。生地の特性を理解して、ぬいトリコットとも仲良くなっていただけたら嬉しいです。
■厚みがあるほど良いぬいトリコットなのか?
ぬいトリコット(及び、類似するタイプの生地)は全部同じメーカーで生産されているわけではありません。繊維の太さや編み地の目の細かさがそれぞれ微妙に異なったりします。
ぬいトリコットに限らず布地全般について、
薄くてペラペラ = 粗悪品 というイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、一概にそうとは言えないと私は思っています。
薄いということは細い繊維で編まれているということなので、
編み地の目が細かくてなめらかで美しい、小さな人型ぬいぐるみのお肌に使う場合には、薄めのぬいトリコットの方が都合よかったりします。
(厚みがない方が手足の先などの小さなカーブの部分まで丸くきれいな形を出しやすいんです)
ちなみに、ただ単に薄ければ良いというわけでもなくて、
薄いけど編み地の目が粗くて、お肌の部分に使う生地としてはちょっと微妙かな?というものもあったりします。
できれば実際に自分の目で色々見比べてみてほしいです。このぬいトリコットは割とすべすべしているな、厚みがあってふかふかしているな、繊維が太めでちょっと表面のざらつきが気になるな、といった違いが分かるようになると面白いですよ。
当店のぬいトリコットは小さなサイズのぬいぐるみのお肌の部分に使うことを想定して、少し薄めで、編み目が詰まっていて滑らかなものをセレクトしています。
なので、上の写真の通り、ちょっと透けます。
ぬいぐるみの中に詰めるわたは白いので透けても気にしなくていいのですが(むしろ中に白いわたを詰めることで明るくきれいな発色になります)
刺繍を施す場合には、裏の余分な糸をきれいに処理してください。(余分な糸が刺繍の範囲外にはみ出していると、オモテ面から透けて見える場合があるため)
また、縫い代部分にチャコペン等の色が残っていると透けて黒ずんで見える場合があるのでご注意ください。
(型紙を生地に写すのにはフリクションファインライナーをおすすめしているのですが、このペンの跡が縫い代に残っている場合は、完成したぬいぐるみをドライヤーで温めるとインクが透明になります)
■特注カラーのぬいトリコットを作ってみました
こういう色が欲しいシチュエーションが結構あるんだけど、中国の生地問屋さんの見本帳にもありそうで見つからなかった色だったので
思い切って特注で作ってもらったのがこのカラーです。
当店で扱っているぬいトリコットの中で人型ぬいぐるみのお肌の生地として一番人気のホワイトピーチよりももう少し淡くて赤みが少ない色です。
海外の工場さんに希望の色がちゃんと伝わるかという不安もありましたが、幸いかなりイメージに近い色に仕上がったので、よかったらぜひ!!
■あんなところにも、こんなところにも
ぬいトリコットなどの片面起毛のトリコットは「ぬいぐるみ用の生地」というイメージが強いですが、実は他にもいろいろな用途に使われています。
自動車の内装
カメラやパソコンなどの収納ケースの内側
スニーカーの内側
丈夫でほつれにくくて軽くて柔らかく、厚めのものだと少しクッション性もあるので便利な素材なのだと思います。
何かの裏側などの地味な場所に使われていることが多く、あまり目立たないのですが、身の回りをよく見てみると「あっ!ぬいトリコットっぽい生地だ!」と気が付くこともあるかもしれません。
ぬいトリコットについて今お話ししたいことはとりあえずこんなところですが、ほんの少しでも魅力が伝わったでしょうか?
ソフトボアと並べると「柔らかくない方」「チリチリしてる方」「安っぽい方」と言われてしまうことも多いぬいトリコット君のこと、どうぞよろしくお願いいたします。
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