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わたしの好きなアルバム 100選

はじめに


わたしが本格的に音楽を聴き出したのは中学1年生の頃だったから、そこから今年でようやく6年ということになる。

ここらで自分の好きな音楽を、あえてアルバムという形式に拘りつつまとめるのも面白いかなと思い、好きなアルバムを100枚公表することにしました。

本当に好きなものを選んだので、雰囲気が偏っているうえに有名なものばかりが並びましたが、これが正直なベストです。もちろんこれから大いに変動するかもしれませんが、あくまで現段階のまとめ。

単純に曲や音が良いというのもそうですが、ジャケットのカッコよさ、音楽的背景、作者のムード、コンセプト、独自性、思い出等々の総合評価で選盤しました。特に順位などはつけていません。つけられませんでした。

あまりここで冗長になってしまうと、いよいよ読みづらくなっていくのでここらで本題に。

ありえないほど長い記事になってしまいました、約55000字です…。

時間があるときにでも、少しずつ読んでくださると嬉しいです。



このような形式で100枚執筆しました
よろしくお願いします







1~25



1.The Velvet Underground & Nico / The Velvet Underground

1967年 アメリカ

ヴェルヴェッツは王道ですが絶対にはずせない。音楽に本格的にハマるきっかけになったわたしのルーツです。

音楽好きの家庭に生まれ、胎内にいるときから、常に周囲ではロックやソウルがかかっている状況におかれていたわたし。しかし幼い頃は音楽にそこまでの興味がなく、それよりもゲームやマンガ、ごっこ遊びに明け暮れておりました。

そんなある日のこと、ゲームのサントラしか聴いていなかった(この時点で音楽好きの片鱗はありましたが)小学生高学年のわたしに、両親が「こういうのも聴きなよ。」と、洋楽のCDを数枚渡してきました。ビートルズやジャズファンクなどのなかに、このアルバムが入っていたんです。

他のアルバムはまだピンと来なかったものの、これだけは衝撃を受けました。そのとき何を感じたのかは忘れましたが、狂ったように何度も繰り返し聴いていたのは覚えています。そこから、全く意識して聴いていなかった洋楽への興味が徐々に膨らみ、後に本格的に音楽を聴き始めることになり、つまり、音楽にハマらせようとした親の策略にまんまと引っかかったわけです。

何も音楽の知識がない状態で聴いたものですから、これがロックのなかでは異端でヘンで難解なバンドと捉えられていることすら知らず、わたしにとっての「カッコいい音楽」のひとつの基準となっていました。それが今でもずっと引き継がれています。

最高傑作は2ndか3rdかの論争がよくありますが、わたしはこの、アンディ・ウォーホルが干渉した1stを選びます。ニコの陰鬱な歌唱も好きだし。

ウォーホルデザインのバナナジャケはもはや完全に一人歩きして、元ネタを知らない人たちがTシャツやバッグを身に付けているのが面白いです。そういうのに苦言を呈する気概がわたしにはないので、まあどうでも良いんですが、ジャケは知ってるけど聴いたことがないという人は、この機会にぜひ一度聴いてみてはどうでしょうか?

こういうのを聴くと、やっぱり60年代の異様さを実感します。

ソフトなようで、攻撃的なフレーズを時々覗かせるギタープレイには耳を傾けずにはいられません。フニャフニャしつつも、終始漂う怪しげな緊張感が最高です。





2.幻とのつきあい方 / 坂本慎太郎

2011年 日本

邦楽アルバムの心のベスト10のなかでずっと第1位を占めているアルバム。

ソウルやファンクの影響が強い1枚ですが、そういったジャンルや嗜好を飛びこえて彼にしか出せない独特の香りが漂っています。

泣けるメロディも盛り上がるパートもあり、基本的にはポップな歌モノ。しかし明らかにこう、我々が住む世界からはズレているとしか思えない要素があり、そこが怖くもあり楽しくもある。本当に奇妙な感触のアルバムです。

それでも根底には淡々とした優しさや暖かさがある気がして、聴いているとなんともいえない懐かしさが一種の喪失感とともに沸き上がってくる。

高校1年生のとき、ゆらゆら帝国を知るよりも先に、コーネリアスと共作していたことから存在を知ったんですよ。はじめて聴いたのが1曲目の、幽霊の気分でという曲で。今の日本にこんな面白い音楽を作っている人がいるんだ!と衝撃を受けて、すぐ近所のブックオフでこのCDを買いました。

奇しくも発売日がわたしの誕生日と同じ11月18日なのもポイントです。





3.Becoming Peter Ivers / Peter Ivers

2019年 アメリカ

もちろん大好きなピーター・アイヴァース、1stアルバムのTerminal Loveが有名でわたしもそればかり聴いていたのですが、これを聴いて一発で引っくり返りました、最初の2曲で号泣。

オリジナルアルバムではなく、死後の2019年になってまとめられた未発表音源集。単なるベストだと思って無視してしまっていましたが、完全に自分好みの音、声、メロディの音源でした。

謎の多い人物ですが、どうやら相当器用だったようで、ラテン語や東洋哲学に精通しハーバード大学を卒業、ブルースハープの名手でもあり、何者かにハンマーで殺される36歳までは音楽番組の司会者として活動していたそうです。

マニアックながら今でもカルト的な人気を誇る彼。唯一無二の存在であることには間違いありません。どこか裏返ったような中性的なボーカルで、わけの分からないコードとメロディをさらりと歌い上げる。マーク・ボランに並ぶ超人ボーカリストです。

作られた年すら分からない底抜けに明るい楽曲が並んで、陽気なコーラスと哀愁のブルースハープが彼の音楽人生を盛り上げているよう。まさにピーター・アイヴァースの総集編を聴いているとたまらなくなります。個人的にはこれぞ胸キュン系。




4.モミュの木の向こう側 / さよならポニーテール

2011年 日本

至高の名盤、何度聴いたか分かりません。少なくとも今年1番聴いているのはこのアルバム、そしてこのグループ。高校3年生のときに知ってから、大学に通っている今でもずっと聴いています。

これはインディーズ時代の自主制作ファーストアルバムです。若干の密室感がある録音がかなり好みで、全ての音色が完全にツボでした。

切ない別れの曲が多いですがメロディは明るい、だから余計に苦しくて感傷に迫ってくる。こういう気分にアルバム通して浸れることってあんまりないんですよね。

時代や国、ジャンルを問わないあらゆるポップミュージックを包括し、それを「カワイイ」に昇華しています。青春や少女性を象徴するような音楽だけど、そこにいやらしさみたいなものは全くない。

完全匿名覆面で、メディアへの露出も殆どせず活動しているのも興味をひかれる。マンガも数冊出しているんですが、それも全部キュートかつ少し不思議な感触ですごく面白かったです。絵柄も好みでした。

歌声も全員とても良い。わたしは初代あゆみんが好きですね、書く歌詞も歌声もキャラクター性も含めて。オリジナルアルバムには入っていませんが、彼女の歌う「ゆめなんです。」という初期の曲があって、それの何もかもが好きすぎて、一時期は毎日何度も聴いてました。本当に良い曲なんですよ。

歌い上げる系でも過剰なウィスパーボイスでもない、真摯で誠実な歌いかたにハッとさせられます。悪意や、拗れたものが、これを聴いている間はみんな溶けていく気がして、そういう意味で助けられました。




5.The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars / David Bowie

1972年 イギリス

彼の活躍に間に合わなかった、後追い世代のわたしにとってもデヴィッド・ボウイこそが永遠のスターです。ルックス、知性、姿勢、センス、彼のすべてが人間離れしているくらい完璧に見えます、まさに火星から来た男といっていい。

アメリカ時代やベルリン時代のボウイも勿論好きですが、これはもう本当にカッコいいとしか言えません。

わたしにとってのロックの理想系は少年的であること。少年といっても、思春期や反抗期の反骨とか、非行とかそういったものではなくて、もっと原点にあるような頭をカラッポにしても楽しい、幼稚園児がホウキや掃除機をギターに見立ててはしゃぐような天才的な感じ。

このアルバムにはそれがある。月世界や異星人をモチーフとしているところなんかまさにそうで、徹底的にワクワクさせてくれます。50年以上前に作られた、あまりにもキラキラしたメロディを聴いていると泣けてくるんです。




6.Electric Warrior / T.REX

1971年 イギリス

T.REXもジギー・スターダストと同様の理由で大好きです。小4の頃、人生で初めてギターを弾いた曲が、父に教わったT.REXの20世紀少年でした。Eのコードをかき鳴らした瞬間に、月並みですが風が巻き上がるほどの感激を受けたのを今でもよく覚えています。

わたしにとって、”ロック”といえば、このジャケットに写るマーク・ボランのギターを構えた立ち姿が不滅のシンボル。

電気の武者という邦題通り、まさにアンプから漏電しそれが耳に伝わってくるようなしびれるエレキギターが最高なんです。Mambo Sunのギターの不完全具合に秘められた完璧さといったらたまりません。

T.REXは全作好きなのでどれか迷いました、変名する前も良いし、晩年も良い。マーク・ボランの、この世のものとは思えない、誰にも似ていない歌声が好きなんです。ある日、マーク・ボランのCDをかけたら、彼が歌った瞬間、実家で飼っている熱帯魚が一斉にスピーカーの方へ寄ってきたことがありました。




7.Ege Bamyasi / CAN

1972年 ドイツ

CANも1枚選ぶならどれにするか心から悩みました、Delay1968かFuture DaysかSoundtracksか…。全作最高ですが結果的には、おそらく1番ポップ(?)なこれを。

ディスクユニオンの壁は洋邦の名盤のシールで装飾されているのですが、そのなかに1つ明らかに奇妙なムードを放った缶詰のジャケットがあって、ずっと気になっていたんです。バンド名もそのまんまCANだし。

そんなとき、YouTubeにCANのBeat-Clubでのライブ映像がオススメされてきた。これがあのCANかと思い視聴した後、これはなにかすごいものを観たぞとショックを受けました。ルックスの強烈さ、楽曲の異色さ、ただ上手いだけではなく決して比類できない演奏力。そこからハマるのはあっという間でした。

クラウトロックもプログレも実はそこまで聴かないんですが、これは全部最高だったんです。ドラムとボーカルのプリミティブな絡み、計算され尽くした幾何学的なベースとシンセ、ロックともファンクともつかない妖しげなギター。曲名やジャケットから漂うドイツ特有のシュールなセンスも大好き。

このアルバムの裏ジャケでは、メンバーが演奏しているなかに何故かジャグリングをしている紳士が写っているんですが、そういう意味があるようでないようなユーモアも面白いです。




8.Corky’s Debt to His Father / Mayo Thompson

1970年 アメリカ

メイヨ・トンプソンの全キャリアを熱烈に支持します。彼がフロントマンを務めるバンドであるRed Krayolaの音楽性、80年代のプロデュース業、音楽業界との付き合いかた、芸術に向き合う姿勢、アートワーク、声、ギター、ルックス。全てが飛び抜けてる。

なかでもわたしが好きなのはこの、彼が唯一出したソロアルバム。まずジャケットが凄まじくカッコいい、新宿のディスクユニオンでレコードを発見したときは興奮して即買いました。

本当に不思議な音楽です、なんとも奇妙としか言いようがない。ブルース、カントリー、フォークを取り込んでいてアメリカの土着感もあるものの、それ以上にメイヨの圧倒的な存在感からもたらされる空気が何もかもを異様に一変させている。まさに、これこそこの世の裏側の音楽。

シンプルなギター1本の弾き語りですら、世界の法則からはみ出している気がします、何をどうしても繋ぎ止めることのできない宙ぶらりんなボーカルとギター、こんな音楽を聴けるのはこのアルバムだけ。





9.Vincebus Eruptum / Blue Cheer

1968年 アメリカ

ハードロックの元祖と呼ばれているサンフランシスコのバンドです。この人たちの出す音はもうブルー・チアーの音でしかなくて唯一無二。音に厚みがあるし、ちょっとしたさりげないフレーズがいつもイカれててすごいクールなんですよ。

1音1音に宇宙の誕生から現在に至るまでの壮大な記憶が詰まっていると言われてもおかしくない全知全能感のあるサウンドです。

聴いてみると意外とテンポは遅いんですが、どこか吹っ切れていて、ボンヤリ聴いているとどこまでも連れ去られてしまう。爆音で聴くのが良いですね。

他のアルバムも好きですが、来日公演の音源を収録したライブ盤があってそれもかなり感動しました。スリーピースでやっているところ含めて凄い、その場にいたかったと心から思いました。

なんていうか、こういうアルバムを聴くとやっぱり音楽ってとんでもない代物だなって考えてしまいますね。このアルバムなんて、音楽に限らないあらゆる芸術、哲学、宗教、科学を超越しているというか、この世に存在する全てのものと全く違う謎めいた存在じゃないですか。あまりにも特殊すぎる。

スピリチュアルな意味合いではなく、目に見えず言葉で表せない音楽というものの神秘性を強く感じさせるアルバムだと思います。それがわたしにとっての名盤の定義のひとつになるわけですが。




10.0 / 青葉市子

2013年 日本

クラシックギター1本と歌声のみで、ここまで充実した内容になるのは彼女の歌唱力と演奏力、ソングライティング、作詞能力が神がかっているから。いや、神がかっているというか古代日本の神様そのものが音の調べを愛でているような、そういった神秘さがあります、さながら鎮守の森のローレライ。

弦を弾き空気を震わす、声が空間に滲んでいく。そんな当たり前の現象が生々しく耳に伝わり、音楽とはなんて幻想的なんだろうと思わされる。

けして和風な音楽性というわけではないのに、ここまで「日本」を感じるアルバムはなかなかない。従来の日本らしさである侘び寂びや諸行無常を超越した恒久の1枚。

彼女の演奏を生で聴く機会が最近あったのですが素晴らしかったですね。弦を押さえる音やさりげない鼻歌からすでに天才的だった。





11.Living The Blues / Canned Heat

1968年 アメリカ

60年代らしい、グレイトフル・デッド系のブルースバンドが出したアルバムなんですけど、なんか森の音楽隊みたいな雰囲気でかわいいんですよ。ゆったり聴けるふにゃふにゃ脱力ブルースです。

ツリーハウスにでも住んでいそうな音楽とルックス。ちょっと「くまのプーさん」っぽいかもしれない。鼻声でこもったような歌声なんか特に100エーカーの森って感じがしませんか?動物っぽいんだけどケモノ感はない、モコモコしたぬいぐるみサウンドです。

演奏も長尺のセッションとかやってるんですけど、ちゃんとカッコよくてずっと聴いていられます。そこらのヒッピーバンドとは全く別モンですよね、ブルースを聴いてうららかな暖かい日差しを感じたのもこのアルバムが初めてでした。

Going Up The Countryって曲が有名でたくさん聴かれています、納得の名曲です。アップテンポの3コードという王道ですが、ギター、ベース、ドラム、笛、声、どれをとっても魅力的で特別。曲の長さが3分足らずという物足りなさが癖になって、何度も何度も再生しました。こういうのどかな世界で人生を終えたいものです。




12.North Wind Blew South / Philamore Lincoln

1970年 イギリス

1970年代にイギリスのレコードプロデューサーが出した、マイナーだけどカルト的な人気がある名盤です。どういう文脈かは忘れましたが、母から教えてもらいました。

カルトではなくて、もっと人気が出て歴史的名盤として扱われても良いと思うんですが、そうならないのが意外。

まずこのジャケットがニクい。本人の顔が分からないくらいの逆光になってるのが面白いし、音楽プロデューサーらしい匿名感があって最高なんです。裏方の人が唯一出したソロアルバムにハズレなし。

統一感がありながらも全曲全く曲調の違うバラエティ豊かなアルバムが好きで、これなんかまさにそうですね。メロディもアレンジも全部立っていて、1度聴いたら忘れられないフレーズばかり。この完成度の高さに驚きます。実をいうとジミー・ぺイジがギターで参加しているなど、単なるマニア盤と言うには無理がある貫禄。

こういう隠れた名盤をいつか自力で発掘、レコメンドしてどうにか流行らせたいものです。




13.The Blow Up / Television

1982年 アメリカ

わたしの考えうる限りテレビジョンこそが最強のバンドです。ライブ盤を普段聴かないわたしですが、これは例外的に何回も聴いてます。

曲のテンポが速いわけでも、音が重いわけでも激しいわけでもない。なのにロンドンパンクやハードロックを超えた重さと速さと鋭さがある。たぶんこれは永遠のカッコよさです。わたしにとって1番盛り上がる音楽といえばこれ。

うねりまくった複雑怪奇なギターフレーズを聴けば頭が爆発しそうになります、一触即発の空気が張り詰める究極の演奏。

カセットを通して潰れた音質すら極上のノイズに聴こえてきます。知的でクール、しかし野蛮さと熱さが歪んだ音に溢れてる。疾走感を超えて焦燥感に巻き込まれていくライブハウス、もう何も止めることができません。




14.McCartney Ⅱ / Paul McCartney

1980年 イギリス

ビートルズを解散しウィングスも末期を迎える1980年、ポール・マッカートニーがソロでリリースしたアルバム。かなり密室感と変態性があって好みです。

アメリカの無名天才ミュージシャンが自宅で全ての楽器を1人で演奏し作り上げた幻の名盤。みたいな情報が流れたら信じてしまいそう。ジャケットもそれっぽいし。

実験精神とポップネスが見事に融合されていて、聴いていて楽しくなります。これぞ1番好きなタイプのアルバムです。やはりポールはすごい。2曲目を聴いて、こんなものを他に作れる人はいないと確信しました。

塾の帰りに寄った地元のBOOKOFFでLPが500円で売ってるのを見つけたときは嬉しかった。確かこれが人生で2枚目に買ったレコードで、1枚目は中学のとき買ったスタイル・カウンシルの「Our Favorite Shop」。ちなみに、初めてのCDは小4のときに買ったマリオのサントラ。




15.Forgotten Lovers / Gary Wilson

2003年 アメリカ

ゲイリー・ウィルソンの音って、生演奏なのか打ち込みなのかよく分からない変な質感で、月や宇宙ステーションで録音されたとか言われても納得してしまいそうな説得力があります。

1stアルバムのおどろおどろしいジャケットからぐちょぐちょのサイケを想像して再生して、お洒落なAORだったときのあの感動が忘れられません。AORというか、なんとも形容し難いジャンルです。ポップもファンクもジャズもロックもごちゃ混ぜ。

奇抜な格好とシュールなパフォーマンスから繰り出されるのは、これでもかというほど分かりやすくて軽妙なポップス、このギャップにやられました。基本的に自主制作なのも凄い、そしてそれを70年代から1度の休止を得て今に至るまでマンネリにならずいつまでも続けている姿勢に脱帽です。最も敬愛するアウトサイダーミュージシャンの1人。

これは休止期間を経て復活後の2003年に発表されたアルバムですが、70年代から変わらず良かった。ポップにひそみ時折覗かせる狂気といい何もかもが好みです。去年に引き続いて今年リリースされた新譜「A Beautiful Bliss」も最高でした。





16.Swing & A Miss / R.Stevie Moore

1977年 アメリカ

R.Stevie Moore という男をご存知でしょうか。自宅でひとりきり、400枚を超えるアルバムを作った伝説級のミュージシャンです。60年代後半から現在に至るまで50年以上活動していたのにも関わらずずっと無名だったのも凄いです。それでも作品を作り続ける姿勢もまた凄まじい。近年はLo-Fiミュージックが定着したこともあり、少しずつ知られてきていますが、まだまだマイナーな存在ではあります。

そんなとんでもない人がいるという噂をある日聞き、気になって聴いて衝撃。チープな音質の録音ではあるものの、楽曲のメロディが全て立っていて斬新なアイデアに溢れている名曲ばかりでした。これが売れなかった理由が信じられません。本人が表世界に興味がなくてプロモーションを拒んでいた。とか、そういった理由なら分かりますが。

曲そのものがかなり良いので、スタジオミュージシャンを雇ってちゃんとした環境で録れば大ヒットしそうです。でもそれはわたしの好きなムーアじゃない、わたしの知ってるムーアはそんなんじゃない。わたしのムーアをどこにやったの?宅録特有の密室感と、気持ち悪い音選びのセンスあってこそのムーアですから。

わたしはアウトサイダーアートが好きで、それは、反体制的な意味合いではなく、形式から外れた奇想天外な発想や、他人からの評価を意識しない純粋な創造が表れた作品が単純に好きだからです。だからムーアやゲイリー・ウィルソンも好き。この2人、近年アルバムを共作していて嬉しかったです。曲もよかった。

ムーアのアルバムは大抵が、大量の音源の中から選出されたコンピレーションだそうで、これもおそらくそうなんじゃないかと思いますが1番好きなアルバムですね。デモテープ感と曲単体の完成度の高さのバランスが絶妙で、宇宙っぽいシンセの音が面白い。歌モノフォークからグラムロック、前衛的なものまでおさえていて、ムーア入門としては最適かと。2枚組、合計1時間30分という大ボリュームですが最後までダレずに聴けました。



17.Transformer / Lou Reed

1972年 イギリス

ルー・リードの歌唱とソングライティングはテンションが異様に低い。でもそれがとても落ち着くんです。得体の知れない恐ろしさと優しさが共存していて、身を委ねるのが心地良い。

全曲名曲です、歌詞も良い。普段洋楽の歌詞はあんまり意識しません。英語も分かんないし、分かんないからこそ音楽が入ってくるところもあるし。

でもルー・リードの歌詞はつい読んでしまいます。Perfect Day や Satellite of Love の日常をドラマチックに彩った歌詞には感動しました。音楽と歌詞が完全にピタッとハマっていて、感情が否応なしに曲の向くまま導かれる。言葉が曲調を変えるスイッチになっているみたい、逆もしかり。

どれだけ激しい音を鳴らしても、綺麗なメロディを歌っても拭いきれない虚無感や諦めのようなものが彼の音楽には常にある。その美しさが無性に悲しくて、切ない気分で聴いています。




18.Take A Picture / Margo Guryan

1968年 アメリカ

ソフトロックを通った人間なら誰しも1度は彼女に恋をしてしまう。という言葉を聞いたことがありますがまさにその通り、芯の強さを持ち合わせた優しい歌声と暖かいサウンドに身を任せれば恋のような多幸感に包まれます(筆者に恋愛経験はありません)。雨の降る日には部屋にこもってこれを聴くのが1番。

表舞台には出ずにアルバムを1枚出してピアノ教室の先生になったというエピソードもそれっぽい。最近再発や発掘音源がNumeroから出ているのでチェックしています。デモ音源集もとても魅力的なので是非。

高校2年の修学旅行、東京駅まで向かう西武線でこれを聴いた記憶が今も鮮明にある。1曲目のSunday Morningを聴くたびに、あの朝の明けゆく空と冷たい空気に混じる旅行前の特別な、例のあの感じを思い出します。




19.A Rainbow in Curved Air & Poppy Nogood and the Phantom Band / Terry Riley

1969年 アメリカ

現在日本に住んでいるアメリカの作曲家、テリーライリーによる60年代のアルバム。

ミニマルミュージックは有名どころしか知りませんがこういうのは大好き。電子音楽やアンビエントの要素もあり、後のロックにも影響を与えるほど、広い意味で「音楽」してる音楽です。

何か作業をしているときに聴いても集中できるし、暗い部屋で目を閉じて聴いても超体験ができる。いろんな感情や思考が全て音の波に呑まれていくようで、とても落ち着きます。

これを、打ち込みではなく即興演奏を編集して作り上げたことがミソ。指先の細やかな動きがそのまま音に還元されて我々の耳に流動的に届いてくる。生で演奏することの素晴らしさを改めて実感しました。

90歳近い今でも、日本を拠点に新しい生演奏を人々に届けています。その姿がNHKの朝番組で取り上げられているのを偶然見たことがあるのですが、感動しました。音楽に対する真摯な姿勢に脱帽です。





20.Mellow Waves / Cornelius

2017年 日本

コーネリアスは中学のころからずっと好きで、好きなアルバムがPointかFANTASMAで行ったり来たりしていましたが、最終的には普遍的な歌モノのこれに落ち着きました。ミニマルミュージックやアンビエント、エクスペリメンタルな要素もきちんとおさえているバランスが良い。

わたしなんかはモロにEテレで「デザインあ」を見てた世代ですから、こういう音にも馴染みがあったし好きでした。

小学生時代、それと並行して星新一とかも読んでいたんですが、彼の代表作「きまぐれロボット」を実写化したDVDが近所のブックオフに売られていたのを小5のときに見つけて買ったんです。B級感ありつつもアート性を感じる変な短編映画でしたが、監督がコーネリアスのMVを作っている人で、音楽を担当していたのが他ならぬコーネリアスだった。そのDVDについてきたサントラのCDが好きで何度も聴いていたところ、親から、デザインあの音楽を作っている人だと教えられて興味を持ちました。

そのときからずっと好きで、ライブDVDやMV集なんかも買って熱心に見てました。最近の活動も、ずっと面白いことやっていて良いです。

彼のワークのなかでもこのアルバムは優れたメロディメーカーとしての能力が存分に発揮されていて、それでいて実験精神も感じるので何度でも楽しんで聴ける。坂本慎太郎のシンプルな歌詞が乗っかった、「あなたがいるなら」は永遠の名曲です。

コーネリアスというと独特の電子音やアコースティックギターが特徴かなと思いますが、このアルバムではエレキギターがよかった。ぽつぽつとした粒のような音色を出すのが実にうまいです。




21.Silver Apples / Silver Apples

1968年 アメリカ

電子ロックの祖、シルヴァーアップルズ。

原始的なシンセとドラムで構成されたデュオです。ブロマイドに写る2人の力の抜けた雰囲気がお洒落でした。

楽曲の構成からもう前例がありません。既存のロックの概念を何もかも裏切るような大胆なリズムの反復、このアルバムが後の電子音楽やニューウェイブにもたらした影響は大きいでしょう。黎明期にして非常に洗練された電子ロックです。コンピュータのツマミの感触や埃の焦げた匂いがリアルな質感をもって想像できてしまうのも魅力。

CDやサブスクだと白地に黒、ロゴが入っているジャケットですが、レコードだとテカテカと反射する銀紙でできているんです。その的確かつ遊び心のあるジャケットがとても好きで、聴きながらずっと眺めてます。

音は前衛的でめちゃくちゃにクールなのに、ボーカルがしょぼくれた普通のオッサンの声なのも含め最高です。




22.Bull of The Woods / 13th Floor Elevators

1969年 アメリカ

このバンドは3枚のアルバムを出してますけど、どれも大好きなので迷います。今の気分はこのラストアルバム。有名なのは1stの目玉ジャケですね。

あ、なんかトゥクトゥク鳴ってる。あ、宇宙人みたいなボーカルが聴こえる。とか思ってるうちに訳も分からず終わるアルバムです。曲が破綻する直前のギリギリで踏みとどまっているような演奏がスリリング。

それぞれ楽器の音に複雑な上下左右や奥行きがあって、幻聴みたいに頭の中を鳴り響くようになってる。不安定な高揚が怖いです。

決して轟音でもなく、エフェクトが特殊なわけでもなく、音数も少ないのに、地に足がついていない感覚を産み出せるのがすごい。こんな感触の音を出せるバンドは後にも先にも彼らだけなのではないでしょうか。

彼らの所属するInternational Artistsというレーベルは音楽もジャケットも全部好みなので、いつかレコードをコンプリートするのが夢なのです。




23.Shiny Beast / Captain Beefheart & His Magic Band

1978年 アメリカ

あの、悪名高い奇才バンドの10作目です。

中学のときに有名な「Trout Mask Replica」を期待して聴いたものの挫折。音のカッコよさ、面白さは分かるもののヴォーカルのがなり声と狂騒的な演奏の不快感に耐え切れず途中で再生を止めていました。

しかし、このアルバムを聴いて牛心隊長と魔術楽団への見方は一変。急激に良さが分かったのです。キャプテンビーフハートのなかでは比較的聴きやすいアルバムというのもありますが、当時、よくシスコやテキサスのサイケを聴いていて、耳が肥えていたこともあるかもしれません。

「Trout Mask Replica」も最高に思えるようになりました。YouTubeのコメント欄だと彼らの演奏は「バンドが階段から転げ落ちたときの音」「認知症患者が好きな曲を思い出そうとするときの脳内の音楽」など散々な言われ様ですが、それも事実、そして素晴らしいのも事実です。

ちょっと岡本太郎やピカソの絵画と通じるものがある気がするんですよね、不条理で捻れたなかに条理や統一性があるところや、きれいでないものの連続をカッコよく融解し配合していくところ。 

1度ハマれば虜になること間違いなしでしょう。色メガネを外してちゃんと聴くのも良いと思います。





24.Electric Ladyland / Jimi Hendrix

1968年 アメリカ

言わずと知れた名ギタリスト、ジミヘンの生前最終傑作。彼のギターをとことん堪能できるアルバムです。

見たことない人はYouTubeでPurple Hazeのライブ映像を見てみてください。人間離れした動きから余裕に繰り出される圧倒的なギターにもはや笑ってしまいます。

史上最高のギタリストはわたしのなかでジミヘンをおいて他にいません。彼の前にも後にも真似をできる人がいない。指と手首の動き、体の動き、アドリブ、オリジナリティ。全てにおいて超人的です。それを、右利き用のギターを逆さまにして、左手を使い簡単に演奏するんです。しかも、歌うようにギターを弾きながらさらりと歌を歌う。

あまり好きな言葉ではありませんが、「天才」という言葉はまさしく彼のためにあるのでしょう。人類の特異点。単なる超絶技巧ではなく、人間らしさと手クセを残しているものだから流石。

後になって言えることかもしれない、しかしこのアルバムにはどうしても死の香りが一面に舞っているような気がしてしまうのです。

死神にギターのネックを握られた状態で、最後の演奏を繰り広げていると言われても納得の気迫と焦り。地獄の業火に呑み込まれた瞬間に演奏が止まったような終わり方、その後に訪れる静寂がいつも不気味でした。



25~50


25.Led Zeppelin Ⅱ / Led Zeppelin

1969年 イギリス

ハードロックは好きではなさそう。とわたしは身近な人から思われていて、実際高校2年の時までは聴いていなかったんですが、王道をとりあえずさらっておこうという気持ちでツェッペリンを聴き始めたときに、この2ndで完全にハマりました。

王道だけど2ndが1番聴きやすくてカッコよくて好きですね。すべての楽器が巨大な一体となってこちらを威圧してくるようなダイナミックさがたまらない。音に呑み込まれていくうちに、自分という存在がすべてツェッペリンを聴く耳だけに集約されてしまうような力があると思います。

想像以上にベースがファンキーなので驚かされます、モータウンっぽさすらあるかもしれない。その辺が他のハードロックバンドと違うところ。それに、なんといってもジャケットがカッコいい、ツェッペリンとサバスのジャケットは全部最高。

鋭く攻撃的なイメージのあるハードロックですが、これはなんかもっさりしてますよね。ハードソフトロックと言っても良いかもしれない。ハードソフトってなんだろう、グミみたいなやつでしょうか。それでも音圧はかなり感じるので、同時にヘヴィーでもある。飛行船という雄大なモチーフがピッタリだなぁといつも思います。

69年にこれが出たというのが、60年代の凄まじさを実感させます。1960年からたったの10年で様々なメタモルフォーゼを繰り返し最終的にこのような音楽まで生まれたという急激な躍進。改めてとんでもない時代だったんだなということが分かりますね。




26.スピード・グルー&シンキ / スピード・グルー&シンキ

1972年 日本

日本のヘヴィサイケ名盤です。とにかく全部の楽器がめちゃくちゃカッコいい!こういうブルースの影響をモロに受けたハード物はとても好物です。ただただだらしなく、全てがゆっくりと溶けていくような熱さがある。

わりと即興音楽的な趣があるんですが、緩急と粗密が効いていて聴きやすいのが魅力。こういう音楽って、聴いてると盛り上がるというよりはどんどんテンションが下がって気だるくなってくるんですが、それが妙に心地よくて、意外と作業しながら聴いたり寝る前に聴いたりするのにも良いんです。

やったことはないんですけど、もしわたしがバンドを組むなら練習として彼らの曲を演奏してみたいです。難易度は高いかもしれませんが絶対楽しい。ツェッペリンも良いですね。ひとりじゃ決してできない感じが。




27.東京-ニューヨーク / ウォッカ・コリンズ

1973年 日本

日本ロック史に残る大名盤、70年代初頭にこんな日本語ロックがあったのか!と初めて聴いたときは驚きました。(英詞の曲も多いですが)

米英音楽の土俵にいながら本国に引けをとらないレベルだと思います。T.REXやデヴィッドボウイなどイギリスのグラムロックからの影響を強く感じますが、グラムというわりには絢爛としたきらびやかさや派手さはなく、そこが何となく日本らしいなという印象。

邦楽名盤などのリストに入ることも時々あるものの圧倒的に知名度が低い気がします。とにかくカッコいいので是非聴いてほしいです。




28.エクスネケディと騒がしい幽霊からのコンタクト / 井手健介と母船

2020年 日本

最近の日本のロックのなかでは1番良いですね。勘違いされたロックにありがちな、表層の暴力性もスカしも一切ない。本当に原点の、カッコよくて面白い最高のロック。

そのキモにあるのは空回り感かなと思います。服装もなんかヘンだし、曲名も歌詞も相当ヘン。適度に抜けててユーモラスだけどあくまでも大真面目にやっている感じ(それも演出かもしれませんが)が自分にハマりました。

「ぼくの灯台」はひとつ突き抜けた名曲、いろんなアイデアが詰まっていて聴いていて楽しくなります。何から何まですべての要素が完璧にツボ。

70年代の架空ロックスターがコンセプトなのも面白い。わたしはこういう、架空の存在がコンセプトになっている作品が昔から好き。ライブ盤の編集もよかったです。



29.McDonald and Giles / McDonald and Giles

1970年 イギリス

キング・クリムゾンの人の別プロジェクトです。なんだこのジャケットは?男女が腕を組んで歩いている写真ならよくありますが、加工された色のせいで一気に狂った雰囲気に。ポップな歌モノだけどヘンという、わたしが1番好きなやつですね。

つんのめったドラムを耳で追っていると、甘いメロディや童話的なフルートが遠くから聴こえてくるようで、ほとんどの音が幻に感じます。ドラムだけが最後までリアルとして残り続けるんです。どこか牧歌的な曲調なのがまたアルバムの虚構感を増していて、不思議な作品だなぁと思います。

全員がバラバラの方向を向いて互いの音を聴かずに即興で演奏しているのに、奇跡的に曲になっているような、もはやパニックに近い音楽は笑っちゃうほどカッコいい。





30.The Piper At The Gates Of Dawn
/ Pink Floyd

1967年 イギリス

超有名プログレバンドの1st。未だにプログレの良さがよく分からないわたしですが、フロイドは四大プログレバンドのなかで一番プログレ色が薄いですよね。狂気とこのアルバムはよく聴きます。65年~67年あたりのフロイドの音源が好きで、要はシドバレットが好きなんですよ。

当時によくいたようなサイケブルースバンドかと思ってしまいそうですが、彼らは全然違う。ちゃんと新鮮で特別、聴いていると口の中に変な味が広がっていくような不健康さと狂気さを秘めている気がします。バレットのソロも同様。

初期のピンクフロイドは、小さな昆虫や微生物が演奏しているのを顕微鏡で覗いているような感じがするのですがわたしだけでしょうか?





31.Autobahn / Kraftwerk

1974年 ドイツ

これを聴いて反復の妙を学びました。

クラフトワークはドイツ音楽としても電子音楽としても好きで色々聴いてきましたが最終的にはアウトバーンが1位に。

かなり初期ということもあり、従来のテクノポップなイメージとは違いクラウトロック寄りの作風。クラシックや現代音楽の素養がある人が作ったんだろうなって感じがします。

表題曲の「Autobahn」は20分以上ありアルバムの半分を占める大曲ですが、飽きずに何度でも再生してしまいます。ひとつひとつのフレーズが癖になるんです。バンバンバ~ン アウトバ~ン。

ちなみにジャケットが2パターンあって、アウトバーンのレトロ調な絵が描いてあるものと、シンプルなマークが大きく施されたものの2つ。元々は退廃的な前者の方が好きでしたが、今は洗練されたモダンなデザインの後者が好きです。




32.Mother Earth's Plantasia / Mort Garson

1976年 アメリカ

まだ本格的に音楽を聴いていなかった時期、当時使っていた学習用タブレットでYouTubeを見ているとこのアルバムがオススメに上がってきた。ジャケットがかわいいなと思って再生したところ、これが大当たり。当時、ファミコンやスーパーファミコンのゲーム音楽(星のカービィ3はゲームも音楽も最高)をよく聴いていたこともあって即ハマってしまいました。

これは誰も知らない名盤を発掘したんじゃないか?とそのときは興奮していましたが、Mort Garsonが電子音楽のパイオニアであり、未だ根強い人気を誇っていることを知るのはしばらく後のこと。

人間の滅びた世界で、残された機械が献身的に植物を育て続けているような、無機質な優しさを感じます。こういう音楽はどんな気分のときにも合う。今もLPが再発されてるのでいつか欲しいです。





33.Suicide / Suicide

1977年 アメリカ

これはもう完全に変態ですね。1970年代、ニューヨークのアンダーグラウンドシーンにて、ゴミの溢れたアパートの一室でオッサン2人がリズムボックスと安物のシンセを用いて製作したというアウトサイドなアルバム。

容赦なく反復するリズムボックスに乗せられた、攻撃的なまでに歪んだチープなシンセ。そこにアラン・ヴェガの、電話越しにパンツの色を尋ねるような変態ボーカルが乗せられる。

物騒なバンド名といいジャケットといい全体的に不気味ですが、聴いているとじわじわと高揚して盛り上がっていく感じがしてくるんです。ただ、あんまり引き込まれると地獄に連れていかれそう。

これは余談ですが、わたしのペンネーム「ヌーサイド」はここから来ています。元が「自殺」という意味の重い言葉ですから、そこから1つ突き抜けるイメージで、スの棒を1本突き出してヌに。まあ下らない名付けではありますが、スーサイドというカッコいい響きの鋭い言葉が一気にマヌケな印象になるので、そのバカバカしさと痛快さが気に入っています。




34.Why Can‘t We Live Together / Timmy Thomas

1972年 アメリカ

リズムボックスファンクの界隈じゃ名盤と名高いアルバムです。

ポコポコしたリズムボックスにメロウでファンキーなオルガンが乗っかっているだけのトラックに熱唱を重ねるという方法のみで作り上げられたものですが、この即興的で極めてシンプルな方法に、強いメッセージ性と意志を感じました。

何か熱心に伝えたいものがあって作られたものに違いないと思い調べると、反戦的な意味合いを持った楽曲だったので納得しました。一刻も早くメッセージが伝達されることを望んだ結果生まれた音楽なのだと考えると最高にカッコいいです。

楽曲に雰囲気を出すためにリズムボックスを使ったり音数を減らしたりする現在の造形的側面が強い風潮に慣れた身からすると、ティミー・トーマスの意味的側面の強いリズムボックスが特別なものに思えてきます。

そもそもリズムボックスとは、内向的でバンドが組めない者や、事情があってドラムが買えない者が、それでもどうしても音楽をやるために使った道具でもある。そう考えるとリズムボックスってちょっとパンクっぽいですよね。

リズムボックスのファンクは好きでしたが、ティミー・トーマスは聴いたことがなかったときに、近所のスーパーで買い物をしていると、骨太なリズムボックスが流れてきました。慌ててShazamを使うとこのアルバムの表題曲で、これがあのティミー・トーマスか!と驚きました。SEIYUってマニアックなソウルやファンクがよくかかっているのでShazamの準備をしてから入店することが必須ですよ。





35.ON THE AIR / VIDEOTAPEMUSIC

2017年 日本

世界各国の音楽や、発掘したVHS、ホームビデオをサンプリングしてごちゃ混ぜに。古めかしくムーディーなアルバムです。

サンプリングの多用やトラックの反復など、やり方としては90年代っぽいんだけど、その方法こそがすごく現代的だなって思います。Vaporwaveの流行や、VHS、カセットをレトロとして楽しむ風潮など、昔を懐かしみエモーショナルとして消費する現代にこういった作品が産まれるのが、かなり納得できるというか。ただ、もちろん作者にそのような意図はなく、後ろ向きの懐古趣味なアルバムでは全くないということを言っておきます。純粋に、こういった作品が発生し受け入れられたという結果に、現代らしさを重ねざるを得ないんです。

このアルバム自体、大量消費社会の産物みたいなイメージがあるんですよね。ジャケットは異国のリゾートみたいですが、中身は日本の商業施設で流れていそうな人工的な感じがします。夢の中で無人のショッピングモールのエスカレーターを昇っていくような雰囲気がある。

昔をノスタルジーとして消費する風潮を腐すような話をこの文の序盤にしてしまいましたが、もしかするとそれは、かつて何も考えずに消費しそのまま忘れてしまったものを、もう1度拾い上げて見つめ直そうという大切な過程なのかもしれません。少なくとも、これを聴いてわたしはそんな感覚に陥りました。

幼少期をおぼろげに思い出しているときの、あのずっと夕方な感じ。部屋のテレビから流れるコマーシャルソングの曖昧な記憶。そういった感覚と向き合うのはかなり怖いんですけどね、だからこのアルバムもちょっと怖い。すごく重要で良いアルバムを作ってくれたと思います。




36.Wool In The Pool / Wool & The Pants

2019年 日本

これ人気ですよねぇ。4年前に出たアルバムで、それからそんなにこのバンド目立った動きがないんですが、すでに10代、20代くらいの若者のインディー音楽にかなり影響を与えているようで驚きです。チープな宅録感が良いんですかね?この味出すの、相当嗜好や経験に深みがないと難しそうですが。

実際このバンド、かなりジャケットやルックスがカッコいい。2019年リリースですが、わたしにとって2020年代を象徴するアルバムは今のところこれです。今の時代の空気感がよく現れている気がします。

スライなんかの脱力宅録ファンクの影響も大きいと思うんですが、類所に日本のロック好きなんだなってエッセンスがあるのも感じます。じゃがたら、ゆら帝、フィッシュマンズあたりが分かりやすい。歌詞も不明瞭ながらナンセンスっぽくてクスッと笑えるところもある。おそらくKool & The Gangをモジったバンド名も力が抜けてて、それを意識したうえでバンド名をもう1度読んでみるとちょっと面白い。

ベース、ドラム、ギターという基本的な構成のはずなんですがなんかテクノっぽい気がしませんか。演奏というよりトラックって感じですね。ミニマルな反復なのに、聴いているとどんどん前のめりになっていきます。静かでユルい雰囲気のなか、確かにヒリヒリとした焦熱と緊迫感がある。煙の部屋で煙たちが楽器の煙を弾いている空間が、そのままパッケージされて耳に届けられているみたいです。

これは邦楽史に残る名盤になるんじゃないかな、ぜひともなって欲しいです。




37.空洞です / ゆらゆら帝国

2007年 日本

邦楽の名盤では必ず上位に食い込むほど人気の盤ですね。これは確かに凄すぎる。発売から10年以上たった今、音楽性を模倣するバンドや人が後をたたないのにもかかわらず、いまだに唯一無二の存在として君臨しつづける怪物みたいなアルバムです。

もともとかなり実験的な作風のガレージロックバンドでしたが、従来の実験要素がかなり煮詰まり、音楽史にかつてないコンセプトと質感を持った異色のアルバムとなりました。

トレモロギターの単調なリフを反復するだけ、聴いているとどんどんダレていくのに、妙にリズムのノリが良くてそこが癖になります。階段を延々と歩き続けているのに、昇っても降ってもないような気持ち悪さがある。そのまま最後まで着地することなく終わるのが革新的でした。

バンド自体が音楽を通すだけの単なる穴になる。という画期的な実験をなしとげた訳ですが、完全に肉体性や感情を失っているかと言われると、全くそうは思いません。むしろ、ムーディーな歌謡曲や泣きのソウルのような艶かしさと、パンク、サイケデリックの攻撃性と狂気、水木しげるの漫画のようなユーモアと間抜けさを過剰なほど反映した側面もあると思います。

そもそも、ゆらゆら帝国の魅力は、どれだけ攻撃的な曲、実験的な曲、不気味な曲、無機質な曲をやっても根底に確かな優しさ、かわいさがあること。マッチョイズムや、バイオレンスを敬遠してしまうわたしからしても聴きやすいバンドでした。

そして、彼ら最大の功績は、数多のアウトサイダーミュージック、アート、アヴァンギャルドな音楽からの影響をそのまま表現するでもなく、ただポップに昇華するでもなく、「マンガ」にしたこと。難解な音楽に限らず、普通のロックや何気ない歌謡曲ですらもマンガ化しているのでそこも凄い。

高校1年生のときに初めて買ったゆらゆら帝国のCDはしびれ。ねじれた音楽に衝撃を受け、それ以来ずっと聴き続けています。





38.20 Jazz Funk Greats / Throbbing Gristle

1979年 イギリス

過剰なほどチープでポップなタイトルとジャケットは人を騙すためにつけられています。

実際の中身はジャズでもファンクでもない、電子音が唸りをあげ、地獄の入り口へ誘い込むようにボソボソと冷淡とした声が響き続ける恐ろしいアルバムでした。

自殺の名所で撮られたと言われるジャケット写真の”あの世感”が不気味です。実際は死体が写っていたそうですが、問題となり写真からは処理されました。しかし、直接的に死体を写さずとも死の匂いが全体的に漂っています。どこから来たのかどこへ向かうのか一切分からない車も怖い。

インダストリアルノイズと言われていますが結構テクノっぽくて聴きやすいです。これを4人組のバンドが作ったというのも凄いというか…やっぱりヘンなグループだなぁと思います。

共通テスト(2020年以前はセンター試験)の当日、昼休みに何を血迷ったのかこのアルバムを聴いて過ごしたのを覚えています。




39.夜の稲 / 工藤礼子

2000年 日本

この方、あんまり詳しくないんですが、日本のアヴァンギャルドシーンでは有名な方なんですよね?灰野敬二と一緒に活動していて驚きました。すごいジャケットだなと思って聴いたら中身もすごかったです。

ヴェルヴェッツを日本式にするとこうなるんだ。という印象でした。演奏はかなり異常ですよ。不穏なストリングスや呻き声、念仏のように唱えられるコーラス、これは怖い。

宅録感満載の音、というよりはホームビデオみたいな音質と雰囲気で、聴いてはいけないものを聴いてしまった気分になります。子どもがピアノやリコーダーを練習していて、台所でお母さんが歌を口ずさんでいて、そして2階には、明らかに異質な何かがいて何かをしている。そんな家庭を想像しました。事故物件の屋根裏から発掘されたと言われたら、途端に恐ろしくなりそうです。

古い木造の日本家屋で録っていなければこの音は出ません。カビ臭さ、い草と蚊取り線香の匂い、軋む床、曇りガラスがありありと想像できてしまう。祖父母の家を思い出します。




40.Warm and Cool / Tom Verlaine

1992年 アメリカ

Televisionのフロントマン、トム・ヴァーレイン。やはり彼は凄かった。これを聴いて確信しました。

あの特徴的な、しゃくりあげるような歌声と文学的な歌詞を封印し、なんとエレキギターインストです。普段歌モノをやっている人が突然に出したインストって、その人が音楽を作る上で何を大切にしているか、何を本質としているかが汲み取れるような気がして、わたしの中では結構面白い立ち位置です。

沈む陽をバックにしたリゾートミュージックみたいな趣のブルージーなインストですが、やっぱり都会的に洗練されたムードがどこか漂っています。

夏、海辺のリゾートにバカンスに来たものの、いまだにスーツを着たままで場違いに浮いているよう。つまりヘンです。ハワイアンにしては弦を弾く音が硬すぎるんですよね。ドラムもTelevision的なおどろおどろしさがあるし、こんな音楽は初めて聴きました。でも聴けばしっかりヴァーレインだなって分かりますね、彼の持つセンスが大好きです。

このジャケットとタイトルなんか個人的には何かの優勝です、トロフィーをいくつでも捧げたいくらい。この音楽の雰囲気に非常にマッチしているというか、いや、マッチはしていない、むしろ、なんでこのジャケットなんだ?と思ってしまうような色彩とフォントですが、だからこそアルバム全体のイメージがガラリと変わって、より独自性が引き立っています。

最初見たときは豆電球だと信じて疑わなかった、それで、さすがジャケットの中心に豆電球を1個置くなんて洒落てるなと思っていたんですが、これ、もしかして夜の道路を車が走って向かってくる写真だったりしますか?路面にライトが反射しているようにも見えなくはない。豆電球の方が嬉しいですけどね。

唯一無二のフレーズを弾く奇才ギタリストであると思っています。去年の冬に亡くなりました。いつまでも敬愛しています。





41.不失者 / 不失者

1989年 日本

なんだこのギターの音は!?灰野敬二やLes Paulを聴くと、ギターという楽器がこの世のものとは思えなくなってきます。こんな魔法のような代物が身近に存在することに驚かされる。

震え痺れてかき鳴らされるギターはどこか寂しくて、虚しい絶叫のような残り香を残しながら次の轟音にかき消されていく。こんなギターの使い方があるのかと衝撃。

演奏はめちゃくちゃ硬派でダークでカッコいいんですけど、灰野敬二のボーカルっていつも想像以上に高くてビックリします。このアルバムなんか、中学生男子が歌ってるようにも聞こえなくはない。

前衛的ではあるもの、灰野敬二のワークのなかではかなり聴きやすい方だと思います。クレジット上はライブとなっていますが観客の声などはしないので一発録りみたいな意味なんでしょうか。仮にこのライブを見た観客がいたとしても呆然と立ち尽くしてしまいそうですが…。

一切のノイズを排除したジャケットとクレジットが、現代日本の音楽界にとってノイズな存在になっているような構図が痛快です。




42.Shake It / Imagination

1980年 ドイツ

テンション低めのほわほわディスコ。ディスコも曲単体だと好きなのたくさんあるんですけど、アルバム通して好きなのはあんまりない。アルバムとしてあげるとしたら、やっぱりこういう統一感があって、聴いていても疲れない空気感のものになりますね。ディスコっぽいゴージャスさや盛り上がりもないんですけど、ユルい雰囲気が逆にカッコよくてよく聴きます。

ジャケットも全然ディスコじゃないですよね、大体は肌のテカった男や女がギラギラした部屋にいる写真がジャケットなのに。このジャケットだとどんな人が作ってるのか全く分からない。珍しいです。バナナはやっぱりヴェルヴェッツが元ネタなのかな。Imaginationのなかでもこのアルバムだけ浮いてました。他は結構ディスコしてるんですけどね。このアルバムだけが音もジャケットも異質。

細切れな音とフレーズが配置されて曲の形を成しているのが、1度ハマると癖になるんです。そしてそのフレーズを繋ぎ合わせる流動的なサックスが良い仕事してる。

…あ、すいません。今このバンド検索してみたらなんか全然違った…。黒人3人組のディスコグループかと思ってたら、ドイツ出身の白人5人組のクラウトロックバンドだった。SpotifyやYoutubeだと、なぜか名前で一括りにされてるみたいです。

黒人3人のImaginationを聴いているつもりでしたが、その中に全く関係ないアルバムが1枚紛れていて、そのアルバムこそがここで紹介しているShake Itです。完全に知らないバンドのアルバムを、知ってるバンドの作品だと勘違いして紹介していたわけです。

どうりでこれだけ全く雰囲気違うと思った…。どちらもディスコティックではあるしなと思って納得してました。

まあだからといって冒頭に書いた感想が変わるわけではないので、解釈はそのままにお読みください。このアルバムは紛うことなき名盤です!




43.The Kitchen Tapes / The Raincoats

1983年 イギリス

大好きなメイヨ・トンプソンがプロデュースしているという理由で聴きましたが、度肝を抜かれました。メイヨの音楽そのもの、ガールズ版レッド・クレイオラですね。

これはライブ盤なんですけど、スタジオ盤よりもとんがった印象が軽減されていて、こもった音質がかえってわたし好みでした。

80年代ってわりとこの手のガールズポストパンクバンドが日本含め色んな国にいると思うんですが、彼女たちは別格です。プリミティブかつ斬新でオリジナル。既存のバンドサウンド、ロックというものを文字通りすべて分解し、バラバラのままに再構築しています、それが音楽として破綻せずひとつのスタイルとして確立しているのがすごい。そしてそのスタイルは広まり定着しました。ロックという音楽ジャンルの概念世界を大きく広げた歴史的なバンドです。

トイレに洋服棚があって、浴室に冷蔵庫があるようなチグハグ感はわたしの大好物。常識破りで変なのに衒っている風でもなく、本当に裏側の世界から我々の住む世界に迷い込んだ3人組の演奏って感じがします。狂気というよりは別次元のシラフといった方が正確でしょう。わたしの好きなものは音楽に限らずそういうものばかり、笑っちゃうほど突き抜けて変態なものこそが本物だと思っています。




44.Fresh / Sly & The Family Stone

1973年 アメリカ

わたしのソウルの入り口は、中2のときに聴いていたアーチーベル&ザ・ドレルズとジャクソン5でその次にスライ。Dance to the Musicから聴いていって、このアルバムで驚愕した。それまで聴いてきたソウルとは全く異なる熱さの同居した冷たさ、プリミティブなリズムとビートから繰り出されるアーバンなムード。

なるほどこれがファンクかと思い、その後いろいろファンクを聴きましたがこのアルバムを超える衝撃は未だにありません。特にアルバムをかけた直後に流れる1曲目のIn Timeのイントロはあまりにも凄すぎる。同じ人間が作ったとは思えない超人的なリズム、無機質な反復を続けるリズムボックスを使っているのにも関わらず、極めて野性的で衝動的な感覚が、あらゆるズレを介して甦ってきます。

このアルバムと前作の「暴動」がわたしにとってのファンクの最高峰。アルバム名を知らない人に説明するとき、「これのやつ!」と言ってジャケットのポーズを真似してみせるのはあるあるだと勝手に思っている。




45.There’s No Place Like America Today / Curtis Mayfield

1975年 アメリカ

あまりにもスカスカすぎて度肝を抜かれた作品。音数が少ないのに、ひとつひとつの音にみっちりと情報量が詰まっていて、無音の間すら音楽として聴かせてしまうカーティスの凄さ。

まず声が良いんですよね。ソウルというと声を張り上げたりゴージャスだったりするものが多くてくどく感じてしまうときがありますが、その点カーティスはずっと聴いていられる。アンニュイなんだけど冷めてるわけでもなく優しいハスキーボイス。

アルバムの長さが7曲、35分前後に揃えられているのも嬉しいところ。バランス感覚が優れているんだろうなと思います、あらゆる場面で足し算、引き算が上手い。これぞスカスカファンクの金字塔。




46.Histoire de Melody Nelson / Serge Gainsbourg

1971年 フランス

ゲンズブールは大好きですねずっと。

フランスギャルとかジェーン・バーキンみたいな女の陰にいつもいる、いかにも妖しいオヤジって感じ。なんか水木しげるのマンガに出てくる西洋妖怪みたいな気持ち悪さと色気があるんですよね、ちょっと。そんなゲンズブールの魅力がよく出ているアルバムだと思います。ロマンチックでドラマチックなんだけどやっぱり変態っぽい。いわゆる危険なオトコの苦悩と寂寥。

エキゾチックからフレンチポップスを経て、ジャズっぽいロック路線に行った今作。ギターの音がとても渋い。葉巻の煙を垂れ流すように、だらしなく鳴らされる感じ。

あとはやっぱり声が最高すぎますね、タバコに焼けて少し嗄れた喉から、フランス語特有の空気を漏らすような発音で、ボソボソと喋るように歌うところが好き。こんな声に産まれたかったものです。




47.Inspiration Information / Shuggie Otis

1974年 アメリカ

スライが好きならこれを聴け!と、Twitterか何かで言われて知ってハマりました。

リズムボックスが効果的に使われた、いわゆる密室ファンクです。LPを売っているのを見たことがないし、CDすらもジャケ違いしか売ってない。ずっとレコード屋を探し回っています。

オルガンやストリングスのアレンジも洗練されていて都会的ですよね、全然昨今のネオソウルでも通用するくらい。ちょうど今年から50年前のアルバムという事実に驚きます。

フニャフニャした感じの単調なフレーズが反復するところやリズムボックスなんか、クラウトロックに近いなと思います。ときどき挟まる不協和音も相まって、不思議と愛らしい雰囲気がでてる。このくらい力の抜けたファンク、他にもないですかねえ。




48.Mordechai / Khruangbin

2020年 アメリカ

日本でも現在進行形で人気のある3ピースバンド、クルアンビン。高2のとき、友人からライブ動画のリンクを突然送られて知りました。

演奏力はもちろんですが、曲の心地よさ、メンバー3人の色気、突然瓶を叩いてリズムを奏でる遊び心など魅力がその動画に詰まっていて、すっかり陶酔してしまいました。熱帯夜に溶け出していくようなエキゾファンクサウンド、癖になる生ぬるさです。

ベースの女性の艶かしさがよく話題に上がり、わたしも実際それは感じますが、メンバーそれぞれ違った色気があると思います。興奮をかわし焦らすように、吐息まじりで鳴らされるギター。肝心なところで何か大切なものを抜いてしまう、柔らかくも芯のあるドラム。目玉がひっくり返りそうになるほどに絶妙な感覚で空気を揺らす撫でるようなベース。完璧なバンドです。

いつか生で彼らの演奏を聴きたいですね、フェスみたいなデカいところよりは、野外の夜のバーとか。近所の神社の盆踊りで、夕方に焼き鳥片手に聴いたら最高なんじゃないでしょうか?

このアルバムを今まで2回車でかけたことがあるんですが、なんかすごい良い雰囲気になりましたね。1回目は親戚と川に遊びに行った帰り、2回目は友人の運転する車で気まぐれにドライブをしたとき。どちらも夏の夜のことでした。やっぱりそういうときに聴きたくなります。




49.Hard Candy / Ned Doheny

1976年 アメリカ

AORを象徴する名盤、ネッドドヒニーの2nd。これは日本で人気が高い盤だそうで、意外なことに本国ではあまり人気が出なかったそうなんです。スタイルカウンシル同様、メロディアスでポップなのが日本の音楽シーンでウケたって感じでしょうか。

このアルバムの何が良いかというと、やっぱりアコースティックギターですね。こういう音楽って基本エレキのカッティングが多くて、それも嫌いではないんですけど、聴いていて気持ちがいいのはアコギの弦をかき鳴らす音なんです。エレキ主体っぽいアルバムだとなおさらアコギの音が嬉しい。New York DollsのLonely Planet Boyとか。洗練されたストリングスとシンセのアレンジをうまい具合にアコギが人間臭く中和している。

ハードキャンディってどういう意味なんだろう?と思って調べると、どうやら結構シモいスラングっぽいんですよね…。洋楽のタイトルや歌詞を調べたときのあるあるだと思います。

スティーリー・ダンよりも孤独でさみしくて狭い感じがするのは、なんとなく虚しいジャケットのせいでしょうか。爽やかな夏の情景なはずなのにどこか無機質で閉塞感があって、そんな空間で1人上裸で笑う男(ネッド・ドヒニー本人)には不気味さすら感じます。



50~75


50.Pass the Distance / Simon Finn

1970年 イギリス

これほどまでに寂しい音楽はなかなかないでしょう。夜の墓場から聴こえてくるようなギターと歌声です。

シドバレットのような限界を越えてしまった人の曲も良いですが、こういう限界ギリギリで踏みとどまっているような曲もなかなかに凄まじいです。ニックドレイクとか。

Jerusalemの叫びには思わず再生を止めたくなりました。今にもギターの弦が勢いよく切れてしまうのではないかと思うほどの張り詰めた空気と、人間が壊れていくような絶叫が苦しくて、痛々しく感じたからです。終始眉間に皺を寄せながら聴いていました。

去年(2023)の秋ごろにアシッドフォークにハマっていた時期があって、Spotifyで色々と掘っているときに知りました。ジャケットが好みだったので再生。結局、聴くきっかけはジャケットの良さに惹かれてということがほとんどなんです。そうして中身も良かったときはとても嬉しい。

サイモン・フィンはこのアルバムを発表してから35年ものあいだ消息を絶ってしまったそうです。カルト的人気を誇るような、孤高ミュージシャンの宿命みたいなものを感じてしまいますね。




51.Pink Moon / Nick Drake

1972年 イギリス

高2のとき、はじめて音楽を語り合えるような友人ができました。そのときの彼に教えてもらったアルバムです。

爪弾くギターの優しさと子守唄のような穏やかさがありながらも、繊細な不安定さを秘めており、ちょっと危ない盤だなと思っています。

ニックドレイクは鬱病に悩まされており、症状が悪化していくなか、突如友人の家を訪れ、このアルバムを一晩で焦るように録音したそうです。しかし、その後も全く売れることはなく、結局彼は自殺してしまいました。

そんな、彼の最後の光が灯った夜が、そのまま盤のなかに閉じ込められている気がします。時空を超えて、いつまでもそこにある不思議な一晩が我々に届けられるんです。

シュールなジャケットを見ながらそんな妄想をしました。




52.We've Only Just Begun / Claudine Longet

1971年 アメリカ

ある日、母がブックオフで彼女のベスト盤CDを買ってきて、妹とよく聴いていました。母はそういう音楽が好きだったんですね。最初わたしは別に「ふぅん。」と思って聴いていませんでしたが、ふと流れた彼女の歌うClose To Youのカバーに感動(カーペンターズのClose To Youはこの世で最も良い曲)。急遽その曲が収録されているアルバムを探して聴いてみると全部良かった。

サラサラと歌い上げられるメロディが儚い。名曲のカバーが多いですが、原曲とはまた違った幻想的な魅力を感じることができます。にしてもこの原始人さながらのジャケットは何とかならなかったのか。内容とのギャップに驚きます。

優しい歌声に惹き込まれるうちにあの世につれていかれそうです。実際、このアルバムを聴いていると、あぁ、もうここで人生が終わっても良いかもしれないなと何もかも諦めたくなるんです。聴く人の精神状態をどうにかする音楽です。




53.Ready!Get!Go!

2013年 アメリカ

サブスクでオススメされて、ジャケットがかわいいなと思い調べてみると、The Shaggsの人だったので驚きました。この人音楽続けてたんだ…。

その演奏力と歌唱力の低さから史上最悪のバンドと評された60年代のガールズバンド、シャグスですが、わたしは彼女たちの歌うYesterday Once Moreが大好きです。下手なりに頑張っているから胸を打たれる、なんてものではなく、それ以上に何かキラキラしたものがあって、聴くとたまらなく虚しくなる。

数えきれない多くの人から酷評され笑われた悪名高いバンドの人が、年老いても音楽を続けていたと知って、なんかすごい感動してしまいました。聴いてみると、バックバンドの演奏は上手いものの、彼女の弾くメロディをなぞるだけの調子外れなギターと、ずっと半音外しているボーカルは健在で嬉しかったです。

曲はなんていうか結構普通のアメリカンなロックなんですが、具体的なジャンルが出てこないんですよね。60年代のガレージっぽさが強いけど、意外と最近のインディーロックっぽいかもしれません。若々しい安定した演奏に、枯れきった不安定な老婆のボーカルが乗っかっているギャップ。なんか分かりませんが羨ましい世界だなと思いました。楽しげで多幸感に包まれている気がします。




54.Love Apple / Love Apple

2012年 アメリカ

Numero Groupが再発し、坂本慎太郎がレコメンドしたことで有名になった、とある発掘デモ音源集。70年代後半に、Hot Chocolateの人が女性3人と組んで録音したそうです。

はじめて聴いたときには腰を抜かしました。慣用句としての意味だけでなく、本当に全身から力が抜けてしまったんです。一応ディスコとなっていますが、それにしてはあまりにも大切な何かが抜けすぎている。音楽に足りなさを感じたのは初めてのことでした。

スライの比でない密室感、狭い部屋に篭って録ったんだろうなとしか思えません。そもそもグルーヴミュージックの要であるベースが欠けている時点でオカシイ。狙っては出せない偶然の作用が重なり、唯一無二の音源となっています。声もギターもちょうど気持ちのいいところを突いてくるけど、何よりドラムが生々しくて耳に残る。

50年前の未完成の音源のはずなのに、未だ誰も到達できていないような、新しい音楽の可能性を感じましたね。




55.アワー・コネクション / いしだあゆみ

1977年 日本

いしだあゆみの歌声は極めてソフトで鷹揚としていてホンワカした演奏に合ってます。サザエさんみたいな、日曜の夜に見る日常系。

このアルバムは演奏がティンパンアレイということもあって、ブルーライトヨコハマのような歌謡曲とは違う趣があります。ここまでスカスカの洗練されたロックを当時のアイドル歌手兼女優が歌っているのがすごい。アメリカンなオッサンの演奏に少女が飛び入り参加して歌っているイメージ。

鈴木茂の、虹をかけるように滑らかかつ鮮やかなスライドギターに耳を傾けると、あっという間、別世界に連れていかれるんです。




56.泰安洋行 / 細野晴臣

1976年 日本

細野晴臣も1枚は入れたいなと思っていたのですが、好きなアルバムを全く絞れず参りました。まあ全部良いんですけど。好きな曲も数えきれないほどあるし。そうして最終的に選んだのがトロピカル3部作の2枚目、泰安洋行でした。選んだ理由は、この記事であげている他のアルバムたちの雰囲気に1番合うから。本当にそのくらいの理由を使わないと難しかったんです。単純によく聴いてるからっていうのもありますが。

トロピカルのなかでは1番統一感があってまとまってますよね、曲単体ではなくあくまでアルバムとして聴いたときに好きなのはやっぱり泰安洋行だなと思います。音の質感がわたし好みの、硬くて密室感があって溜めが効いてる感じ、トロピカル度もちょうどいい。トロピカルというよりはニューオリンズっぽいかもしれません、ちょうど2年前に出たビル・ワイマンのソロアルバムもこんな感じの音だったし流行っていたんですかね?両者お互いに影響を受け合っていた可能性も十分あります、ワイマンは細野晴臣のファンだったようですし。

この時期の細野晴臣が、声もルックスも気持ち悪くて怪しくて好きですね、30代に差しかかるくらいの年代でこの雰囲気はすごい。そして今でもこの時代の曲を歌っていますが違和感がないのがまたすごい。

古い音楽をそこまで聴かない人でも細野晴臣は聴いていたりするものだから、細野御大の偉大さを感じます。この飄々としたユルさと鋭い先見性のバランスが、今なお人気を誇る理由かもしれません。ずっと素敵な方だと思います。




57.The Fabulous Les Paul & Mary Ford / Les Paul & Mary Ford

1965年 アメリカ

今やすっかりレス・ポールといえば有名なギターの名前となってしまいましたが、元はアメリカのギタリストの名前です。レスポールギターを開発した張本人。そんな彼が当時の妻とユニットを組んでリリースしたアルバム。

彼のギタースタイルはとてもクラシック、歪ませずに深いリヴァーヴをかけて速弾きしたりグニャグニャのコードを鳴らしてみたり、そしてその彼のギターが実にうまいこと。ハードロックやメタルよりも技巧派かもしれません。軽々しく難解なフレーズを弾く映像を見て驚愕しました。

高度に発達したギターサウンドは魔法と区別がつかない。そう実感させられました。別世界から届けられるような音なんです。それが楽しくもあり恐ろしくもある。

彼の曲だとLonesome Roadのハワイアン路線も溶けていくような感触が気持ちよくて好きですが、Falling In Love With Loveの遊園地路線も好きで、このアルバムはちょうどその2つの路線をいいとこ取りしている感じがするので、1番よく聴いてます。

寂れたホテルのラウンジで流れていそうな虚無感と物悲しさもあり、最後には破局してしまった2人の関係を思うと、どこかやるせなくなるんです。




58.裏窓 / 浅川マキ

1973年 日本

浅川マキはもう別格ですよね、こんな風に歌える人は他にいない。単純にめちゃくちゃ歌が上手いんですが、「独り」という言葉がここまで似合う歌声もそうありません。

カビ臭い木造アパートというベタな情景が浮かびます。場末の酒場で流れるような、しみったれた曲ばかりですが湿度は低く、非常にカラッとした雰囲気。そういう意味で彼女の歌はとてもアメリカ的、まさにブルースです。アメリカの名曲、Lonesome Roadをここまで粋に歌い上げる様には脱帽しました。

このアルバムは結構ロック色が強くて耳馴染みが良いですが、だからこそ演奏の極上の渋さが引き立っている気がして、1番聴きました。とにかく、じわじわと焦がすような熱がひとつひとつの音に込められています。歌詞もすごいですよ。




59.Arthur Lee / Arthur Lee

1977年 アメリカ

これは、去年の暮れあたりに存在を知ってから異様にハマってしまい、何度も聴いていましたね。レトロな、古き良きアメリカっていうのかな。まあ行ったこともないし、昔のアメリカも今のアメリカも知らないんですけど、なんとなくそんな感じがしました。要するにオヤジ臭いアルバムなんです。暑苦しいわけではなくて、脱力したテンションでどうしようもなくフラフラギター弾いて歌ってる感じがとても良い。

ギターの音の枯れたカッコよさといったらたまりません、ジャケットに写っているSGを使って弾いているんだと思うんですが、エレキなのに“木”を強く感じるヴィンテージな質感が最高。アーサー・リーは、60年代のバンド、Loveのフロントマンとして活動してましたが、そっちよりも断然このソロの方が好きですね。

こういうの聴くとやっぱり自分はアメリカの音楽が好きなんだなぁと実感します。

テキサスとかテネシーの、酒場やガレージにいるような変態を想像するとゾクゾクします。「悪魔のいけにえ」に出てきた狂った家族とか、ああいうのすごい好きですね。悪趣味なんだけど、全然情念や意味はないカラッとした狂気みたいなものがこの手の音楽には内包されてる気がする。




60.Back at It Again / Pepe Marquez

2021年 アメリカ

とにかく陽気、快活でカラッとしているので夏に聴きたい。名前からしてもう明るそうな感じ。これまた行ったことのないロサンゼルスの夏の光景を思わせますね、こうなったらいつか行こうかなアメリカ。明るい人間じゃないけど、クスリ怖いけど。

爽やかな青空も沈む夕日の郷愁もどっちも詰まったチカーノソウルの名盤です。こういう音楽や映画が好きな自分が我ながら意外。中学のときの自分が知ったらビックリするでしょう。

当時、好きな季節は夏と言っていたわたしですが、夏は夏でも、「退廃的で喪失感の漂う呆気ない夏が好きである。ハワイやグアムのそれとは違う、高校球児や受験生のたぎる情熱とは違う、陰鬱で虚しい日本の夏。浜辺に打ち上げられた魚の白い腹に無数の蝿がたかっているのを私は見た。肌に染みいる熱の耽美よ…。」とか言ってましたから、そういう学生でした。

今は逆張りの逆張りか、果たして素直か知りませんが爽やかで乾いた夏が好きです。ただそんな夏はもはや日本にはないのかもしれません。何しろ暑すぎる。外に出るのも危険なのでクーラーの効いた涼しい部屋でくねくね踊りながら聴いています。マラカスとホーンが、失われた爽快な夏を思い出させるんです。肌に染みいる熱の耽美よ、もう一度…。




61.Float Back To You / Holy Hive

2020年 アメリカ

彼らの所属する、Big Crownは現行のレーベルのなかで一番好きです。ブルックリンのレーベルなのですが、まさしく「未来のヴィンテージサウンド」という言葉がしっくり来ます。

50s~70sの影響を強く感じるとともに、単なるコスプレ的な古臭い模倣音楽ではなく、1周して未来から届けられたようなサウンドをやってるのが凄いです。所属しているミュージシャンは全員ファッションもロゴもジャケットも、どこか力が抜けていて、ユルいんだけどお洒落。スカッとしていて全部小気味良いんですよね。

このアルバムもドラムの湿度が絶妙で、ギターもオールディーズのロカビリーやサーフロックにある謎の未来感と新しさをよく捉えたエフェクトと弾き方をしていて、もう、完全に好みにドンピシャです。

かつて、90年代以降の洋楽なんて好きじゃない。新譜で良いと思えるものなんてない。と思っていた恥も現実も知らないわたしは、これを聴いてとても感激したのです。




62.The Shacks / The Shacks

2016年 アメリカ

Big Crownレーベルのなかではソウルよりもかなりロック色が強い。ロックといってもクラシックなもので、類所にヴェルヴェッツの影響が散りばめられています。

実際キンクスをカバーしていたり中期ビートルズ風の音色を用いていたり。ロキシーミュージック的な70年代っぽさもあるかも。しかしこれも全く古臭さや紛い物感がない、わたしにとって理想的な存在でした。

メロディも立っていて頭から離れなくなるし、ジャケットも単なるポートレートとは明らかに異なった、この世ならざるムードがある。

わたしのなかで、雨の日に聴きたいアルバムは名盤というイメージがあってこれはまさにそれなんです。聴いているだけで雨に濡れたコンクリートや土の香りがうっすらとけぶってくる。

インディー系のロックって、結構大風呂敷を広げたような印象のものが多くて、あんまりそういうのは好きじゃないんですが、これは極めてコンパクトな世界で作られたような感触があります。Hands In Your Pocketsなんか箱庭を散歩している気分になりませんか?こういうイヤらしさのないローファイものは大好物です。




63.幸福のすみか / 山本精一 & Phew

1998年 日本

山本精一とPhewの共作という時点で垂涎ものですが、中身が何より凄かった。

もはや世界の本質を掴んでぶらさがっているようにすら聴こえます。メロディやリフレイン自体は美しく、結構正統派なポップスになっている気がしますが、山本精一の鳴らす奇妙なコードといいPhewの独特な歌唱といい突き詰めたテンションの低さに圧倒されました。

聴いているだけで息を殺さなければと身構えるほど緊張するPhewの歌声と歌詞。「飛ぶひと」は背筋が凍るほどの名曲です。

ただそこにあるだけの、それ以上でもそれ以下でもない歌。怖さもあるものの、常に突き放されているようで、傍観者でいられる安心感もあります。

アヴァンギャルド志向な人がポップに行ったときに、どうしてもはみ出してしまうあの歪みが至るところに含まれています。




64.Sort Of / Slapp Happy

1972年 ドイツ

ドイツのバンドのデビューアルバム。ドイツのバンドという言葉で察する通り、このアルバム変です。この時代のドイツに普通のロックバンドっていないんでしょうか?ジャケット、バンド名に至るまで英米のそれとは違う独特なものがありますよね。

変といってもこれはかなり聴きやすいし明るいので、クラウトロックと聞いて想像するようなグチャグチャなものではないです。ユーモラスなアヴァンギャルドといった感じ。

ポップからも前衛音楽からも等しく距離をとって作られたものが、究極の変態サウンドになってしまうという現象がこのアルバムにも起こっています。なんともいえない奇妙さが、明るいメロディと軽快なリズムのなかに潜んでいる。でも、その奇妙さの正体を掴みかねています。なんか変なんだけど、これ何が変なんだろう?男女混声のボーカルからしてなんか変な気がする。特に女性側のボーカルが、澄んでいて明るいはずなんだけど、やっぱり普通の歌番組に出演できる感じではない。

バックの演奏を、アヴァンギャルドな大御所クラウトロックバンド、ファウストが務めているということも奇妙さの原因のひとつでしょう。

隣の家に、いかにもまともで人当たりの良さそうな夫婦が引っ越してきて、話しかけたら全く話が通じなかった。みたいな不気味さと気持ち悪さがありますね。迂闊に近づかない方が良いタイプのポップスです。




65.Memories Of GlenIvy / Richard Powell

1976年 アメリカ

最初Spotifyで見つけたときは今よりずっと再生数が少なくて、これは良いものを発掘した!と例に漏れず思っていましたが、Numeroがコンピに入れていたようで、じわじわそこから人気が出てきましたね。

実際良いアルバムなので、このまま順当に再評価されてLPが再発されることを望みます。そのマニアックさ故というか、発掘音源なので検索しても作者についての情報が出てきませんでした。何人で作っているのか、どういう経緯で作られたのか、今何してるのか気になります。

色々と想像が膨らむのも発掘音源の魅力。誰がどのようにして作ったという情報の一切が排除されたアルバムを聴くのが好きです。

ギターもあんまり上手くないし歌声も独特。オルガンの音もギターのエフェクターも、他じゃ聴けないチープ感で意図的かは分かりませんが、聴けばすぐにこの人だと分かるくらいにスタイルが確立しています。ジャンルは広くいうとAOR、バンドサウンド感が強いのが特徴です。いまいち垢抜けないテンションのコードが大袈裟すぎなくて良い。

World Of Ecstasyという曲が好きすぎてギターと歌を弾き語りできるくらい覚えました。人前でギター1本持って歌ったり語ったりはできませんが、好きな曲は弾いたり歌ったりしたくなります。You Are The Sunshine Of My Lifeのカバーも、ちょっと笑ってしまいますがかなり好きです。




66.I
Hear a New World / Joe Meek

1960年 アメリカ

邦題「あなたの聴かない世界」。

60年代の音楽って70年代以降にはない魔法のようなものがかけられている気がします、当時のヒットナンバーを聴くと、よくこんな狂気的な曲が売れていたなと思わせられますよね。

インターネットで話題のBackroomsをテーマにしたゲームで、この曲がかかっていて感心しました。まさしくそういう世界で流れていそうな音楽です。The ChordettesのMr. Sandmanとかも。ムーディーで明るいメロディのはずなのに不気味。人を地獄に誘い込むための音楽って感じがします。

そんな60年代のポピュラーミュージックの立役者といえばジョー・ミークとフィル・スペクター、両者ともにひとつの境界線を超えて、入ってはいけない領域に踏み入れた人物であるとわたしは踏んでいます。そんな彼がプロデュースではなく自身で製作したあなたの聴かない世界。

まずサウンドの新しさに驚きました。今聴いても全く錆びないどころか年を経るごとに未来感を増していく曲たち、1曲目なんか現代に作れるのでしょうか?

現代に匹敵、もしくは超越した高い文明を古代メソポタミアに築いたといわれるシュメール人。そんな彼らの正体が実は宇宙人であった。という噂を聞いたときの、あのワクワクドキドキに近いものすら感じます。




67.Aftermath(UK) / The Rolling Stones

1966年 イギリス

ビートルズとローリング・ストーンズどっちが好き?ローリング・ストーンズのアルバムのなかでどれが一番好き?

何度聴かれたか分からない質問、不毛だなと思いつつもつい考え込んでしまう。そのくらい彼らの影響力は大きかったんだなと実感します。比べること自体意味が分かりませんが、わたしはまあ多分ストーンズ派。リズムがカッコいいから。

1番好きなアルバムも多少の変動こそあれどわたしはこれを選びます。このアルバム、ストーンズのなかでもかなり異色ですよね。サタニック・マジェスティースのときとは全く異なる、狙いのない不気味さとサイケ感が空気に充満してる。上述した60年代の魔法というものが全体にかかっていて、聴いているとそれが耳のなかで増殖していく気がしませんか?




68.Off The Bone / The Cramps

1983年 イギリス

この悪魔的なジャケットからハードなパンクを想像してしまいますが、しかし音楽性はサイケデリックだと言われて気になり聴いてビックリ。まさかのロカビリーでした。音も歌い方もコードもリフもロカビリーそのもの。リリースしたのはイギリスですが、アメリカのバンドです。

ハエの羽音を連想させる痙攣するようなギターと声で変な音楽に聴こえてしまいますが、たしかに60年代以前のロカビリーにもこういう感じの変な音楽ってたくさんあって、それはつまりサイケデリックだと思うのです。

わたしは、サイケデリックはビートルズがリボルバーを出すよりもずっと前から存在すると思っていて、例えばそれはサーフロックの空虚なギターであったり、ロカビリーのしゃくり上げるような歌声であったり、なんというか定義が難しいんですよ。

わたしにとってサイケってドラッグカルチャーやヒッピーカルチャー、後のアシッドハウスやシューゲイザー、ドリームポップとは全く関係がないんです。年代やジャンル問わず存在する、どこか奇妙でヘンで空っぽでカッコいいものって言ったら良いのかなぁ。本当に難しい。そうなるとわたしがここで紹介した盤ってほとんどサイケな気もするし。だからこそ面白いんですが。サイケについて考えるとキリないですね。

で、このアルバムですが、これはまさしくサイケですね。パンクブームが去りニューウェーブが台頭していた80年代でこんなアルバムを作れるのはすごいなと思いました。ブルースを基にしたロックからの脱却を試みるバンドも多いなか、まさかここまで懐古的、それでいて色褪せない作品を残すとは。しかしルックスは時代を感じるものだったので驚きました。色々だらしない感じが逆に痺れます。




69.Psychedelic Moods / The Deep

1966年 アメリカ

まあ、これはサイケの名盤とされているやつで、その筋の人ならみんな知ってるようなやつなんですけど、サイケ云々関係なくカッコいいとしか言いようがない。

タイトルにサイケデリックと入っていますが、このアルバムが発売されたのは、サイケが本格的にロックに持ち込まれるようになり始める年でした。

わたしは67年までのサイケが好きで、68年以降は例外はありつつもサイケではないと思ってるんですよ。ソフトロックの名盤がたくさんリリースされるようにはなりますが、サージェントペパーズに影響されたヒッピームーヴメントが台頭したことで、サイケは完全に薬物中毒者のラブ&ピースロックになってしまいました。極彩色の渦が回るタイプの典型的なやつですね。

このアルバムは、そんなサイケのイメージが定着する前の黎明期のもので、1番好きな時代です。サイケの話は長くなるのでこのくらいにします。いつかサイケデリックについての記事を書くかもしれないのでそのときにまた。わたしにとって因縁に近い言葉ですね。

実はこのバンドには後身となるバンドが存在していて、The Freak Sceneっていうバンドなんですけど、彼らが67年に出したアルバムがあって、わたしはずっとそっちの方が異常で完成度が高いから好きだと言っていたんです。ただ、今年の春、このアルバムを聴き返したときに、急激に良さが分かりこっちの方が好きになってしまいました。

前衛的で狂いつつも、スピード感があるから笑っちゃうくらいカッコよくて、美メロの名曲枠もあるのが良い。怪しげなジャケットも最高だし、ガレージパンク色が強いのはいつまでも聴いていられますね。まどろっこしくなくて頭を空っぽにしても楽しめる。

この時代に、サイケデリックの研究者として真剣に活動を行っていた姿勢もすごいです。




70.Friends / The Beach Boys

1968年 アメリカ

ビーチ・ボーイズで今1番好きなのはこれ。サーフでもサイケでもないポップでソフトなアルバム。

元々は名盤と名高い66年のペット・サウンズが好きでしたが、67年のスマイリー・スマイルを好きになり、今は68年のフレンズです。25分という短さですが、1曲1曲もあっさりしていて、胃もたれせずに聴けるのが良いです。

ペット・サウンズは作り込まれていて音数が多い分ちょっと疲れるんですよね。その性質からか、良さが分からない名盤として名前をあげられることが多いです。わたしも中学のときは良さが分からず、1週間ほど聴き込んで、ある日突然ハマる瞬間がありました。

最近、小山田圭吾氏がこのアルバムを、アンビエント的な感覚で聴ける。とインタビューで言っている記事を読んだので、そうだったっけ?と思い聴いたところ、たしかにこれめちゃくちゃ良いな!と気がついて、それからよく聴いてます。

この時期特有のバロックポップっぽさ、ソフトロックっぽさもありつつ、ビーチ・ボーイズらしい爽やかな仕上がりになっているのが好みにドンピシャでした。特徴的な多重コーラスも健在ですが、野暮ったくも重たくもならず、水の流れのようにサラサラした質感になっています。音と音の切れ間が不明瞭で、途切れることなく流れているような曲調も川みたいです。

そういうところがアンビエントと言えるかもしれない。良い意味で無音に近いアルバムなので、気づいたらあっという間に終わっていることもあります。歌モノなのにこういう感触で聴けるアルバムって、ちょっと珍しいんじゃないでしょうか。面白いから好きです。




71.Plankton / 坂本龍一

2016年 フランス

坂本龍一の膨大なワーク、全て追っているわけではないけれど今のところこれが1番好きです。

ジャケットがカッコいいと思い再生したのがきっかけ。普段聴かない音楽ではあったものの、なんか癖になってしまい、よく寝る前に聴いてました。

これを布団のなかで聴くと、自分がミクロな微生物になったような気がして落ち着くんです、いわば母体回帰的感覚。それと同時に、布団の外が途方もないマクロな宇宙に思え、自分の存在がその構成員である1つの細胞に過ぎないことを実感します。そして自分の体内や環境に巣くう細胞や微生物の存在を改めて意識。

非常に情報が詰まったアルバムだと思います。人間の、生物としての潜在意識を引き出すほどに。

残念ながらなぜか今Spotifyで聴くことができなくなっており、フィジカルも入手困難な状態です。メルカリでLPが100万円で売られているのを見ました。YouTubeに公式がフルでアップしているので、聴く際はそちらで。




72.New York Noise / Soul Jazz Records

2003年 イギリス

すいません、これは正確にいうとオリジナルアルバムではなくてコンピレーションアルバムなのですが、かなり好きな盤なので入れてしまいました。70年代から80年代のニューヨークのディスコやパンクを集めたもの。

60’sガレージでいうところのNuggets的な超人気コンピで、高値でLPが売られたりCDが再発されたりしています。

わたしは元々ニューヨークノイズやノーウェーブ、ミュータントディスコなんかが好きで、Ze Sound of NYC、Mutant Discoシリーズ(これらも名コンピです。)を聴いて衝撃を受けていました。

そんなある日、サブスクでこのアルバムに出会い、ジャケットに書いてあるメンバーを見てすぐに飛びついて再生しましたが、これは凄かった。

音は激しくて原始的なんだけど、やっぱりどこかニューヨーク特有の冷徹な空気がある気がします。それが最高にクールなんですよ、工場の前で、何が何だか訳の分からない配管が絡み合って重厚な雰囲気を発しているのを見ると、圧倒され、ついカッコいいと思ってしまいますがその感覚に近い。

工業的に構築されたパンクって感じがします。とにかくこのコンピは選曲も構成も良いし、いかにもコンピと分かる簡潔なジャケットも良いです。




73.Moondog / Moondog

1956年 アメリカ

ニューヨークのストリートでひとり演奏を続けた盲目の吟遊詩人。ムーンドッグ。

名前といい風貌といい人生といい何もかもが異様で最高にカッコいいです。手塚治虫のマンガに出てきてもおかしくないくらい凄みがあります。

はじめて聴いたときに、ムーンドッグは、我々の行けない複数の次元の音楽をぐしゃぐしゃにかき混ぜてこれを作ったんじゃないかと思いました。そのくらい聴いたことがない音楽、いや、どこかで聴いたことがありそうな音がバラバラになって構成されたような音楽だったからです。

うっかり彼の精神世界の一端を覗いてしまったような気がしました。そこは、街も森もアメリカも日本も隔てるものが一切なく、同位置に重ね合わさっているような世界。記憶も記録も夢も現実も境界線を見失い、全てがねじれ狂っているんです。

つまり、ええと、宇宙人が、地球上の様々な音楽に異国情緒を見出だして、パチモンの地球音楽を作ってみたものとでもいったら良いんでしょうか?深く考えるほど訳が分からなくなります。




74.ムッシュ-かまやつひろしの世界 / かまやつひろし

1970年 日本

当時としては珍しい宅録で作られたアルバム。宅録感満載の音の質感が良いです。

わたしの好きな67年あたりのアメリカのサイケデリックから影響されているのがよく分かります。ジャックスに並ぶ日本の名盤。

赤ちゃんの声が入っていたり、こもった音質にエコーがかかっていたり、どこをとっても変な曲ばかり。それをかまやつひろしのあの独特な声で歌い上げるものだからぐにゃぐにゃの味わいとなっています。

だからといって、気持ち悪いには気持ち悪いんですけど、ドロドロした感じでは全くなくて、むしろお洒落な音楽だと思ってます。気持ち悪いのにお洒落なんじゃなくて、気持ち悪いからお洒落。そういう意味では、かなりゲンズブールやヴェルヴェッツの音楽にも接近しています。

当時の不良やヒッピーのやっていたロックとは一線を画してますよね、音楽オタクが部屋にこもって自分の理想郷を作ったような変態性がある。まさに、”かまやつひろしの世界”です。

この時代特有の、「◯◯の世界」ってネーミングが古臭いようで、簡潔なカッコよさがあって好きです。



75~100


75.ジャックスの世界 / ジャックス

1968年 日本

邦楽ロック史を振り返れば必ず名前を聞くことになるジャックス。聴けば確かに同時代のGSとは全く趣の異なることが分かります。本国アメリカでのサウンドが日本に到達し、それを彼らが日本的な解釈で表現するまでにおよそ1、2年、いかに彼らのサウンドが最先端かつオリジナルであったかが窺えるでしょう。

ドロドロとしている複雑な無常の感覚を秀逸に音楽に閉じ込めています。人も鏡も時間も花も何もかもがうねり崩れてゆく世界で、彼らだけがそれを弄び楽しんでいる。

言語感覚も一級です、1曲目のタイトルが「マリアンヌ」。最後の曲が「つめたい空から500マイル」。これだけで只者ではないと確信しました。

そしてジャケットに写る石膏像がインパクト大。「ラボルト」という名前の像で、デッサン初心者がよく描かされるモチーフです。昔、勘違いして「マリアンヌ」と呼んでしまい恥をかきました。いかにも「マリアンヌ」みたいな名前してそうなものだから紛らわしい…。

はじめて聴いたときは暗い印象でしたが今聴くとそんなことないですね、素直に勢いがあってはしゃいだロックにも聴こえます。




76.ひらく夢などあるじゃなし / 三上寛

1972年 日本

実をいうと、昭和のレトロっぽい耽美やエログロなサブカル、アングラはそこまで好きじゃないんです。弁明に近いですが。

寺山修司の詩は大好きで、ジャケットを手がけた佐伯俊男の絵も好きだったものの、陰鬱な四畳半フォークやまどろっこしいカルチャーを想像してなんとなく敬遠していました。

しかし従兄から「我々のルーツは青森なんだから、これは絶対聴いた方が良いよ」と勧められて聴いてみてぶっとびました。

ドコドコしたおどろおどろしいドラムと悲劇的なギターに、ものすごいがなり声。陰鬱もここまで突き抜けると最早カッコいい。

歌詞も天才的でした、無関係のモチーフをつなげて形を変えていく心象風景の描写にしびれます。

交流のあった寺山修司とともに、三上寛も青森出身でした。わたしの祖父母も青森で暮らしており、帰省の際には寺山修司記念館や海に行っていましたが、原風景にあの広々とした冷たい海があったことを思うと彼らの感覚に納得します。




77.Outsiders / The Outsiders

1967年 オランダ

中学の頃からガレージが好きでよく聴いていたんですけど、そのとき聴いてたのが全部実家にあったCDで、例えばNuggetsに入ってるようなやつとか、Count FiveとかThe KinksとかThe Remainsとか、あとよく聴いてたのはFlamin`Grooviesのライブ盤。要は英米(主にアメリカ)のガレージばかりだったんです。それ以外を知らなくて。

高校に入って、ガレージロックバンドと呼ばれていたゆらゆら帝国を聴き始めると、自分が今まで聴いてきたガレージとは全然違う気がして、違和感を抱えていました。

そんなとき、ちょうどゆらゆら帝国の坂本慎太郎がガレージパンクとしてThe OutsidersとThe Ugly Ducklingsの名前を挙げているのを雑誌で見ました。どちらも全く聞いたことのないバンドでした。オランダとカナダのバンドだったので、英米ロックを聴いていたわたしはまだそこまで辿り着いていなかったんですね。

そして早速聴いてみて「うわーーーーーーっっっ!!!!」と衝撃を受けたのを覚えています。それまで聴いていたガレージになかった疾走感や勢い、凶暴さがあったんです、それはゆら帝のやっていたガレージそのものでした。

思いっきりカッコつけた鋭く早いカッティングと、軽快なリズムを刻むドラム、うねるベース、ボーカルの力が抜けるところも理想的。

ちなみに、勢いがあって凶悪とされているガレージパンクの代表格The Sonicsは全くハマりませんでした。日本のガレージも、ブランキーやTMGEは聴かないし、ガレージはかなり好みが細分化されるジャンルだと思います。似たことをしているようで、バンドによって合う合わないがあるから難しいし奥が深い。

その点、このThe Outsidersは最高ですね。A面はライブ、B面はスタジオ音源という構成なんだけど、どっちも聴くたびに記憶にある良さを超えてくる。ジャケットの、楽器を持ったメンバーがコンパクトな箱に収められてるのもかわいいし、ロゴも洒落てて文句なしの傑作です。




78.Somewhere Outside / The Ugly Ducklings

1966年 カナダ

上述したカナダのバンドです、これもたまりません。極上。1曲目や3曲目の勢いのあるカッティングもたまりませんが、2曲目の手拍子も最高。アルバム後半にいくにつれてガレージサイケ路線になるんですが、そっちもそっちで小気味良くて好きです。サラサラした質感のボーカルといい人を気持ちよくさせるのに特化したアルバム。

ガレージのなかではこれがトップクラスに好きかもしれません。こういうガレージって他にないのかな?と思って、いろんなガレージのコンピを聴いて探したんですが見つかってません。今のところ1番近いのは初期のローリングストーンズかもしれない。

パンク、オルタナ、グランジ、メタル、サイケ、プログレ、シューゲイザー…。ロックといってもいろんなロックがありますけど、どういうわけかガレージだけは周りに聴いてる人が誰もいないんですよ、Twitterの音楽界隈でもほとんど話題にあがらない。

そもそも50、60年代の音楽を聴いてる人自体かなり少ないですよね、ブルースとかロカビリーとか。70年代はずっと人気ですが、やっぱりそれ以前となると有名どころしか聴かれていない印象があります。たまにいても、いかにも懐古趣味の、昭和のコスプレするほど入れ込んでる人くらいで。もうちょっと軽いフットワークで聴かれるようになって欲しいですね。




79.Begin / The Millennium

1968年 アメリカ

ソフトロックの名盤です。

浮遊感ただよう地に足つかないサウンド、クラクラします。

なぜかよく人に勧めていた記憶があります。現代でも万人ウケしそうな60年代の音楽ってあんまりなかったので聴いてみてほしくて。

日本でも結構人気が高い盤らしいですが、彼らの美しいメロディを聴けば納得です。

気だるい部屋に日が差し込んでゆくいつもの早朝。光、小鳥、木々の粒子がキラキラと脳に沁みいる感覚が実にブリリアント。




80.Sundown / Eddie Chacon

2023年 アメリカ

古い時代のアルバムばかり並んでいる印象があるので、ここらで去年リリースされた盤を。去年の暮れに、このアカウントで「【2023】今年よかったアルバム10選」という記事を出したのですがそこでも触れています。去年出たアルバムのなかではダントツの名盤でした。プロデュースはJohn Carroll Kirby。

60歳になるそうですが、静かにひとりでネオソウルをやっているのが貫禄あってカッコいいです。

サウンドがすべて洗練されていて、無機質さすら感じさせます。磨きあげられて光沢たっぷりの、まさにこのジャケットみたいな音楽。フワッとした感覚になるのが良いです。浮遊感というよりは落下感があって、聴いているだけで内臓が持ち上がるような気分にさせてくれます。

このアルバムからは一切の色や季節、感情を感じません。なんにもなくなってしまった空っぽのソウル。もはや寂しいとも虚しいとも思わない、究極の境地に位置する作品であると今わたしは信じています。ここまで偏執的に漂白された音楽を聴いたことがなかった。だからこそ次にどんな作品を出してくるのかが気になります。この路線をさらに突き詰めるのか、一気に派手なものを作るのか。

こういう肉体性が皆無の音楽を聴いていると気分が下がりますね、生命力が失われていく感じがします。何もする予定がない夕方にでも聴いたら良いんじゃないでしょうか。




81.For You / Prince

1978年 アメリカ

プリンスは本当に全部、ずっと良いんですよね。ジャケットとかすごい変で笑っちゃうくらいダサかったりするんだけど、それでも中身はちゃんと良い。膨大な数のアルバムを出していますが、何も考えず無作為に選んで聴いてもちゃんと満足できます。

ゴージャスで音数が多い音楽は苦手そうと思われているわたしですがプリンスは大好き、ごちゃついているようで、いつも一筋通ったものがあって偏執的な気すらします。

プリンスといえば偏執、まさしく天才型だと思います。自身の名前やタイトル、歌詞の表記にも徹底的にこだわり、演奏もプロデュースも1人でこなし作品を大量に生み出し続ける。そのパワフルなマイペースは、創造という行為がいかなる意義を持ち、表現という行為がどれだけの重要性を持っているかということに考えさせられます。

衝動的でありながら理性的であり、ただ夢中になって作っているわけではなく、極めて複雑な計算と客観視が同時になされている。彼の聡明さと先見性にはいつも感動します。わたしはプリンスの活躍に間に合わなかった世代ではありますが、彼のカリスマ性、影響力、芸術家としての姿勢を今でも尊敬しているんです。プリンスは凄い。

好きなアルバムはたくさん、というか全部ですが、ひとつ挙げるとするならば、伝説の始まりである1stを。まだまだプリンスらしい個性というものは確立していないように思われているかもしれませんが、この時点ですでにこの時代としては独自性が存分に光っており、ソウルやファンクに限らない既存の音楽を革新してやろうという試みが感じられて好きです。ムーディーなバラードも良いし、ジャケットも最高。

彼の音楽って、その音作りや雰囲気から誰よりも80年代っぽさを感じてもおかしくないと思うんですが、不思議と感じないんですよ。新しさしか感じません。80年代っぽさというものの元祖のみならずポップミュージックの元祖であり、今でもその革新性は色褪せていない。奇跡に近い存在でした。




82.Doll's Love Songs / Boys Age

2020年 日本

ここにきてボカロです。これボカロなんですかね?いわゆるボカロっぽい初音ミクみたいな声ではなくて、より生身の人間に近いウィスパーボイスの合成音声です。

ボカロ、中学のとき音MAD経由で有名どころを知って聴いていたくらいで、あんまり通っていないんですが、これはハマりました。

合成音声を、人形というメタ的な設定で活かしている気がします。やはり発音が人間離れしていて、尋常でないほど掠れているのが合成音声らしくていいなと思います。演奏は対照的に結構ナマっぽい。

マック・デマルコとかそのへんの、今のインディーシーンの主流の音ですよね。シティポップというか、甘茶ソウルなんかを経由した70年代っぽい音。

毎アルバム作風が違っていて、ボカロでないものもたくさんあります。作品数が多くてまだ全部は追えていません。ジャケットも曲も全て彼が自作しているそうですが、そういう創作に真摯な方は全員尊敬しています。

その創作スタイルからか、すごい孤独でさみしいアルバムな感じがします。広大な宇宙を永遠に独りさまよっている、さまようことすら諦めてずっと座り込んでいるよう。5億年ボタンを想起させます。

最初は日本オタクの外人が作ってるんだろうと思っていましたが、なんと埼玉に住む宅録ミュージシャンでした。日本を除いたアジアやアメリカでは人気があるそうですが、日本ではあんまり話題になっていない印象が。刺さる人も多いはずなのでもっと聴かれて欲しい人です。

存在を知ったのはTwitter。こういうのってTwitterやってないと見つけにくいですよね。




83.This Old Dog / Mac DeMarco

2017年 カナダ

現行のインディーシーンに全く興味を持てなかったわたしですが、友人に、マック・デマルコは好きだと思うよ。と言われて聴きました。名前は知ってたけど、関係ないと思って聴いてなかった。ところがたしかにわたしの好きな音楽そのもので、そのままハマってしまいました。

このアルバムが特によかった。軽い感触で聴けるんだけど、ちゃんと深みもあって、朝でも夜でもどんなときに聴いても心地がいい。

ドラムの音も、リヴァーヴのかかったギターも、リズムボックスもわたしの好物なのですが、どうやらこういう音楽が今の流行りらしいと気がついたときは面白かったですね。

今の音楽にイマイチ乗れず、部屋にひきこもって古い音楽ばかり聴いていた日々が一転、この時代に生まれてよかったと思えるようになり、テストの点数は上がり、祖父の持病も治りました。

70年代のSSWっぽい静けさがあります。ハリー・ニルソンとかジェームス・テイラーとかその辺の。マニアにも大衆にも万人ウケする軽妙さ。だからといって単調にはならず最新の動向に目が離せない。

今年出た細野晴臣のカバーもすごくよかったです、前回のHoney Moonも。先人の作品に対して誠実な方なんだろうなというのが伝わる表現をずっとしている気がします。そして、そういう人こそが人気を博す時代なんだろうなということもしみじみ感じます。それは音楽家に限りません。




84.Introduction to Escape-ism / Escape-ism

2017年 アメリカ

ある日YouTubeで彼のライブ映像を見て衝撃を受けました。バックにリズムボックスのパターンを流しながら1人でギターを弾いて歌うんですが、ギターの先端に付けられたマイクを使うんです。

アルバムもライブとそのままの音でした。エレキギターとリズムボックスと歌。その不穏な歌声やスタイルから、スーサイドを連想せずにはいられません。

とことんまで歪ませたギターの音がとにかくカッコいい、エレキギターも電子楽器なんだなということに改めて気付かされました。最初聴いたときはシンセかな?と思いましたから。

今こういうヘンな音楽活動をしてくれる方がいるというのがものすごく嬉しいです。アラン・ヴェガ風のロカビリーな歌声がビリビリした音と実に相性がよくて、他にない彼特有の電子世界を生み出しています。ジャケットもMVもそんな感じ。

こういうダークで過激、凶悪な世界を冷淡と作り出せる、その怪しさが羨ましいです。

今のところアルバムを3枚出していますが全部良い、新作のシングルも良かった。今後の活動も楽しみです。




85.胎児の夢 / 佐井好子

1977年 日本

佐井好子もYoutubeで存在を知りました。

1stアルバムのフル音声がオススメに流れてきて、インパクトのあるジャケットだなと思ったら100万回以上再生されていたので驚き再生、コメント欄を開くと海外のコメントばかりだったので「そういう感じか」と理解しました。

シティポップ同様、海外で評価された系ですね。実際カッコよかったのでサブスクで探すと、1stはありませんでしたがこのアルバムがあり、聴いてみたらかなりよかったです。

歌詞世界も音楽も、古い怪奇幻想小説そのものでしたが、ドロドロした情念というよりはシュールで怪奇的な世界が淡々と描写されている感じでハマりました。胎児の夢って言葉自体、厨二臭さを自覚しつつカッコいいと思いますから。

そんな独特の世界を彼女は実に上手く歌い上げるんです。これを雰囲気壊さずに歌える人はそういないと思いますが、優しさと不気味さが同居した彼女の歌声がよくマッチしています。メロディも結構不明瞭で音程の機微が繊細なので、自分で曲を作り歌うシンガーソングライターという特性をよく活かしているように思えます。この歌唱は真似できない。

夢野久作の世界を音楽で表現するというコンセプトで作られたそうですが、わたしは夢野久作読んだことないんですよね。その辺の日本文学全然通ってないというか、小説自体久しく読んでない。青空文庫にあるしこの機会に読もうかな。




86.THE 仲井戸麗市 BOOK / 仲井戸麗市

1985年 日本

RCサクセションが大好きな従兄(わたしも好き)から教えてもらいました。2ndの「絵」も良いですが、この記事を執筆しているのがちょうど夏真っ只中で、そうなってくるとこのアルバムがよくマッチして聴こえるので選出しました。。

高校3年生の夏に、勉強サボって部屋にこもって、ネットのホラー記事なんか読みながらよく聴いてたんですけど、それでなんか「自分は孤独で惨めなんだ、でもそれが美学なんだ。」みたいなこと考えたりして、予備校の夏期講習でも性のメタファーみたいな気持ち悪い絵ばっか描いたりして。

いや、そこまで痛くはなかったかも。流石にそこまで単なるバカではないかも。親戚で集まってBBQ楽しんだり、友人と夜明けまで電話したりも、ちゃんと、してたし、ちゃんと。

とにかくそれこそ「ティーンエイジャー」なわけで、聴くたびにたまらなく懐かしくなります。まあたった1年前の話なんですけど。わたしにとっては若さみたいなものを象徴するアルバムです。鬱屈を晴らすでもなく、鬱屈が寄り添ってくれる感じの曲ばかり。

どうでもいい話ですが、仲井戸麗市って名前や、荒々しいようで文学的な歌詞がすごいカッコいいなと思って、なんかそんな感じのハンドルネームでネットに小説投稿したりも、しました。みんな思い出になるくらいです。




87.I, Jonathan / Jonathan Richmond

1992年 アメリカ

夏に聴きたいアルバムといえばこれ。ジョナサン・リッチマンの力の抜けた歌やギターが堪能できる1枚です。寂れたリゾート地なんかに持っていきたいですね。

デモテープのようなむきだしの音質と演奏ですが、さすが音の鳴らし方が上手いなぁと思います。手拍子とギターのかけ合いが気持ち良い。

最初聴いたときは70年代の録音かと思いましたがまさかの90年代、音圧が高くゴージャスな録音のオルタナティブやグランジが台頭した時代に、こんなチープでローファイなかわいらしいロックが録音されたことは奇跡のように感じます。ヴェルヴェッツへのリスペクトが細かなフレーズから窺えるのもポイント。

今年「After Sun」という映画を観たのですが、なんかめちゃくちゃ感動してしまって、それからしばらくは、あの夏の思い出特有の儚い郷愁に浸りたくてよく聴いてました。そういう曲が好きです。




88.Tender Epoch / Rudy De Anda

2020年 アメリカ

レコード屋のチカーノソウルコーナーにあるのを見つけ購入。ジャケットの色合いと、力の抜けたアーティスト写真がすごい良かったから。

それからよく朝にかけています。いい感じに力が抜けていて、それがかえって聴いていると元気が出るんです。1日の始まりにちょうどピッタリ。

南米出身の人らしいですが、ギターの音から歌の発音まで曲全体に熱帯感があり、空気が震えながらゆっくりと溶けていくようでめちゃくちゃ気持ちいいんですよ。

ボーカルに若干エコーがかかっているところや、演奏のナマ感にちょっと祭りっぽさがあって、それもまたたまらない雰囲気になっています。夜の匂いと炭焼きの香りが漂っているあの感じ。なんか分からないけどなんか楽しいよねというあの感じ。

音像としては、ヴィンテージ感とクリア感が両立していて、これが2020年代の流行かもしれません。Spotifyで彼の作ったプレイリストが公開されていて、その選曲も、らしいなと思わせるものばかりで聴き心地の良いプレイリストでした。




89.Freedom Is Free / Chicano Batman

2017年 アメリカ

底抜けに明るい快活なアルバムです。これもまたチカーノソウル、最近のチカーノソウルばかり聴くブームが自分のなかであったんです。

70年代のソウル的な雰囲気もあってお洒落なんですけど、気取った感じではなくてもっとマヌケなやつです。やっぱり声が良い。ニヤニヤしながら挑発するように歌っていそうなのが聴いていて痛快です。そう思っていたら、MVで本当にそんな感じで歌ってたので笑ってしまいました。このMV最高!

いろんなジャンルが組み合わさっているのが分かり、音楽好きが作ったんだなというのが伝わりますね。わたしは結構そういうアルバムが好き。ルーツや元ネタを結構重視する質なので、その辺の感覚が近しい人の音楽はスッと入ってくる気がします。

当たり前と言えば当たり前ですけど、好きな人の好きな音楽は好きですね。自分の好きな音楽と被ってることが多いし。逆にいうと、ルーツが合わないなと思った人の音楽は好きじゃないみたいなこともある。その点現在のチカーノソウルの界隈は信用できます。自分の好きな音楽の詰め合わせみたいなところがありますから。

膨大な音楽の歴史の延長線上にある音楽、これがさらにどう発展していくのかが今から楽しみです。




90.Vanishing Point / Primal Scream

1997年 イギリス

イギリスのニューウェーブとか、ロンドン物とか、ブリットポップとか、ことさらに90年代以降のUKロックってどうも苦手意識があって聴かないんですよ。わたしにはちょっと格好良すぎるというか。今の日本人の洋楽の入り口って大体そのへんじゃないですか。オアシスとかマイブラとか。わたしも例に漏れず、入り口にいるときに聴いてはみたんですけど、そこまでハマらなかった。

しかしプライマルスクリームだけは別。中学生のときに出会ってからずっと好きですね。フロントマンであるボビー・ギレスピーと趣味が合うのかもしれない。スーサイド、13th Floor Elevators、メイヨ・トンプソンあたりがルーツにあるところとか。

他のバンドにはない凶悪、邪悪な感じがするんです。不良とか暴力とはまた違う、もっと洒落にならないくらい恐ろしく病的で不健康な感じ。

映画、バニシングポイントから着想を得て作ったアルバムだそうで、先日映画館で観ましたがカッコよかったですね。そこに意味はなく、ただ馬鹿みたいに突っ走っていくのが。そういうどこか虚しいくらいの疾走感が彼らの音楽にもある。




91.In Dreams / 猪野秀史

2021年 日本

見つけたとき、こんな名盤あったのか!と興奮しました。もっと話題になってもおかしくないのに。

全体的な印象はエレクトロなファンクって感じです。細野晴臣やコーネリアスからの影響をとても感じる。

ここまで冷静なファンクって珍しいですよ、スライの冷たさとはまた違う。コンクリートジャングルがよく似合う無機質な冷たさです。だからといって情がないわけでは全くない。情と無機質が両立できることをこのアルバムから学びました。けして退屈ではないモノクロームの世界、硬派だと思いますね。

70年代アメリカのソウルやファンクを、現代の東京の情景に重ねればこういう音楽が生まれてくるのかな。スカイツリーから続いていく首都高速、交差と合流を繰り返しうねりながら走っていくイメージです。東京タワーではなくてやっぱりスカイツリーだと思います。東京らしい音楽ではありますが渋谷系のようなものではなくて、なんというか、ビル系?道路系?特定の場所ではない、首都そのもののイメージです。

歌詞も音楽のために作られた歌詞っぽいのが良い。聴き手の感情を煽るようなものではなくて、音の世界に浸らせるためのリラックスした歌詞。

夢やデジャヴといった精神世界がコンセプトにあることで、曲の抽象度が増している構図も面白いです。




92.Moon Gas / Dick Hyman & Mary Mayo

1963年 アメリカ

わたしにとってディック・ハイマンって、ムーグ(電子楽器)の人ってイメージで、ムーグ主体のアルバムは聴いても、それ以前のジャズには興味を持てなかったんです。電子音楽家あるあるですね。

どうも本格的なジャズって分からないんですよ。BGMとして流すにはいいし、ジャズ要素のあるポップスも好きなんですけど、あんまり楽器主体のインストゥルメンタルを聴こうという気分にはならないんです。フュージョンっぽいのもハマれなくて。

その点これは、一応ジャズっぽいんですけど、何もかもがちょうど良くてスッと入ってきました。エキゾチックなムード音楽として聴ける要素が多いからかも。テルミンや、シンセっぽいオルガンも入っているから電子音楽的な感覚でも聴けるし。艶かしいボーカルとウッドベースの絡みもエロくて良いです。

聴くきっかけとハマるきっかけになったのは、なんといってもこのタイトルとジャケット。「ムーン・ガス」ってカッコよすぎるでしょう。60年代のSF映画やマンガっぽいし、なんか色っぽい。最近聞かないタイプのロマンがある言葉ですよね。「銀河鉄道999」とか「ゲゲゲの鬼太郎」とか、簡潔で創造性があってカッコいいタイトルのマンガが昔はたくさんありました。そういう感じ。

このタイトルで読み切り短編とかいつか描きたいですね。月よりの使者として、全身奇抜なタイツのグラマーな女の集団が地球にやってきて、香水瓶につめたムーンガスという月の地中から取れるピンク色のガスを、夜の街に散布していくとか。狼男やかぐや姫の伝承なんかとも結び付けられそうです。そんなイメージをこの妖しげなジャケットからも、摩訶不思議な音楽からも連想させられます。完璧なムード。




93.Chapel of Love / The Dixie Cups

1964年 アメリカ

60年代のガールズコーラスも親の影響でよく聴いてました、The ChordettesとかThe Shangri-lasとか。

そのなかでも1番良かったのはこれ、コーラスものはストリングスが古臭かったりするのもあるんですが、これはすごい。音数が少なくてシンプルだからか、まったく色褪せないサウンドのポップソングが聴けます。

細切れのギターのリズムが産み出すスカスカ感が素晴らしい、いつでも楽しい気分にさせてくれるのはこういうもの。結婚式ソングということもあり、キラキラした多幸感に包まれています。

表題曲なんか聴くと、究極の名曲って案外これくらい素朴なものなんじゃないかなと思ってしまいますね。映画「フルメタル・ジャケット」で突然流れてきた時は驚きました。




94.真空パック / シーナ & ロケッツ

1979年 日本

日本のロック名盤として名前があがることの多い真空パック。シナロケって聴く前はもっと激しいロックってイメージがあったんですが、いざ聴いてみるとどちらかといえばニューウェーブ寄りの音で、良い意味でオモチャっぽくてかわいらしい印象のロックだったので驚きました。

YMOがバックアップしていることもあって、テクノ的な要素もあり、シンセのインスト曲もあるという独特な存在感のあるアルバムです。

楽しげなノリの曲ばかりですが、楽しい瞬間を現行で体験しているのではなく、楽しかった瞬間を回想しているような郷愁があります。能天気で屈託のないボーカルと、少し切ないメロディの組み合わせがそうさせるのかもせれません。

特にMOONLIGHT DANCE。王道ですがこういうコード進行にわたしは弱い。悲しいけど今だけは踊ろうみたいなムードが逆に痛々しくて辛いです。キラキラしていているギターの音も。

ボーカルのシーナと夫婦であるギターの鮎川誠は、最高にカッコいいロックミュージシャン。去年に亡くなるまで生涯シーナとロックを愛し活動を続けていました。

わたしの伯父が鮎川誠と話す機会があったそうなのですが、最高にカッコいい方だったと言っていました。シーナの死後でしたが、シーナの惚気話をずっとしていたそうです。聴けば分かりますがこのアルバムもすごくロマンチック、こんなロマンチックなロックのアルバムってなかなかありません、名盤です。




95.Miss Abrams and The Strawberry Point 4th Grade Class / Miss Abrams and The Strawberry Point 4th Grade Class

1972年 アメリカ

子どもボーカル作品の名作。アメリカにある平和な小さい村、ミル・バレーにやって来た女性教師が、学校の子どもたちを巻き込んでアルバムを制作。結果、予想とは裏腹に大盛況、知名度と人気を得て今でも名盤として扱われることになったといいます。

子どもたちが歌っているポピュラーミュージック特有の、多幸感と儚さがたまりません。

ミル・バレーってどんな村なんだろう?とか、どんな学校なんだろう?とか気になります。無償の郷土愛を感じるアルバム。

紙ジャケのCDが実家にあり、その可愛らしさに引かれて再生しましたが大当たりでした。なんでこれが家にあったのか分かりませんが、買った人のセンスが光ります。

子どもがロックを授業で合唱しているアルバムや、親がプロデュースしたようなキッズソウルのアルバムは結構ありますが、わりと「やらされてる感」が強いものが多い。もちろんそれが子どもボーカルの魅力のひとつでもあります。

でもこのアルバムはそういう感じがしない。みんなが音楽を楽しみ、大好きな先生と親しんでいる様子が伝わってくるんです。あとめちゃくちゃ歌が上手くてクオリティが高い。




96.God Bless Tiny Tim / Tiny Tim

1968年 アメリカ

死んだあと、神々しく美しい楽しげな音楽がどこからか流れてくる。あぁ、天国に行けるのだな。と思ったが、よくよく聴くと何かがおかしい。過剰なほどに陽気で、骨の凍りつくような笑い声がする。実際それは天使の讃美歌などではなく、悪魔がわたしの地獄行きを祝っている歌だった。

タイニー・ティムの曲ほど音楽の持つ狂気と美しさを感じるものはない。愉快な世界、理想郷で流れているような歌。でも時々、いや、その気になれば常に、恐ろしさも感じることができる。なんとなくボスの「快楽の園」を連想させます。遠くから見てる分には良いけど、中に入りたくはないですね。

他のアルバムも好きなんですけど、LP持ってて1番聴いてるものなので1stを選びました。家で流すと家族にウケます。

なんといっても声がすごい、喋っているときの声からして異様。ルックスといいキャラクターといい、ジャケットやファッションのセンスといいティム・バートンの映画から飛び出してきたような人ですよね。ジョーカーやペンギン男、ビートルジュースなんかを思い出します。もしかしたら彼らのモデルになっているかもしれない。

こういう人が人気を得てテレビに出ていた60年代って、やっぱりちょっとヤバいなと思います。

わたしは大好きな歌手で、別に下手だと感じたことはなかったんですが、最悪の音痴歌手リストに入れられているのをインターネットで見たことがあります。オペラの真似事みたいな歌唱法をしているんですけど、得体の知れない何かが讃美歌を模倣して人間を誘い込んでるようで、これまた怖い。

ただ、精神を病んでいるときほど、状況が絶望的になるほど、救いを求めてしまいそうな曲だなぁとも思います。それはそれでかなり恐ろしいのですが。




97.Now / Astrud Gilberto

1972年 ブラジル

去年、2023年に他界したブラジルの歌姫、アストラッド・ジルベルトの72年の作品。

「イパネマの娘」や「おいしい水」なんかのボサノバって印象が強いですが、これには1曲目から驚かされました。全体的な音の質感、特にベースラインなんかがまるでアメリカ的なソフトロックだったからです。ファンキーなコンガやさりげなく挟まれるギターのフレーズがことごとく秀逸。

元々ボサノバ含めブラジル音楽が大好きなわたしですが、これはそうブラジルを意識することなく聴けるのでブラジル音楽の入り口としては良いのかもしれません。英語詩が多いですし民族音楽感もそこまでない。

しかし再生してみればやっぱりブラジルの風景を想像せずにはいられません。行ったこともない国ですが、なんとなく緑色の川と、青い空の冴えた古い都市の情景が浮かびます。

ブラジルというと日本の裏側の国としてよく話題に上がりますが、なんとなく日本の音楽に通底するような要素がある気がするんですよね。ホーンやストリングスひとつとってもどことなく控えめで小声でボソボソ歌ってる感じが。そしてそれを真面目なムードで、かつユルくこなしてみせるあたり。

この、ミニラスクみたいな色彩のジャケットも奥ゆかしくて好きです。チェアに腰かけてくつろぐ彼女の写真も良い。終始リラックスして聴ける安心感があります。力を抜いて舌を巻いているような独特の発音が耳に馴染みよくて素晴らしいです。

アメリカのソフトロックに例えた評をしましたが、彼女の雰囲気、演奏のもこもこ感、発音もあいまって、それ以上にソフトかもしれません。ここまで柔らかい質感のアルバムはなかなか珍しいんじゃないでしょうか。




98.Honey / Ohio Players

1975年 アメリカ

甘茶ソウルとファンクがいい具合に融合した、温かくも甘くとろける、まさにハチミツのようなアルバムです。

シンプルなフレーズのなかに溜めが効いていて気持ちがいい。Sweet Sticky Thingのアルペジオが本当に好きなんですよ。こういうのにどうもわたしは弱い。ファンキーなブレイクからメロウなメロディに移り変わるあたりとか、超名曲です。

中身もですが、このジャケットとか見るとなんかとても懐かしい気分に襲われます。多幸感のようなものですが、あくまでそれは昔感じた多幸感を思い出しているだけであって、同時に強い喪失感を感じる。冬っぽいからかもしれない。

冬が1番好きな季節です、寒い季節だからこそ1番暖かさを感じる瞬間が多い。ロマンチックだし。でも寂しい感傷もあり。そんなムードがこのアルバムにはあります、冬に聴きたい名盤です。

今年の冬、受験に使うための証明写真を撮った商業施設に併設されているハードオフにてLPを安く購入。手や耳を刺すほど寒い日のことでしたが、家に帰ってすぐに、震える手で針を落とすと、あっという間に暖かい感覚に包まれました。たしかその日の夕食はおでん。




99.Blind Moon / さかな

2000年 日本

日本のアシッドフォークです。しっとりした囁くような感じでは全くなくて、通る声で渋く歌い上げる感じです。このアルバムと出会うまであんまり聴かないような歌声でしたが、すぐにハマりました。

叙情的なギターの音がさらっとしていて気持ちが良いし、ボーカルも決してうるさいわけではなくスッと耳に入ってくる。清流のようなアルバムです。

抽象的ながらも真摯で、日常にある大切なものたちを歌ったフレーズに何度もハッとさせられました。「友達」について歌っている表題曲にものすごく感動してしまい、これにはどうしようもなく泣かされました。この曲をプレイリストの中に入れたら、それを聴いた友達が、この曲好きって言ってくれたことがあって、それがすごく嬉しかったです。

そして、沈黙の樹という曲にある「あらゆる国の言葉を 繋ぎ合わせても わたしがもらった優しい沈黙には敵わないだろう」というフレーズがあまりにもすごすぎる。

音楽を聴いて泣くってそんなにないんですが、このアルバムはどうしても泣けてしまいますね。やっぱり声が良いから説得力があって刺さります。耳のすぐそばで爪弾かれているような距離の近いギターも優しくて良い。




100.Out of the Blue / "Blue" Gene Tyranny

1978年 アメリカ

アルバムを再生した瞬間に流れる美しいイントロで、名盤であることが確定しました。

1曲目がめちゃくちゃに好きで数えきれないほど聴いています。長い曲だけど、初めから終わりまですべての展開に無駄がない。

4曲で48分というプログレ的構成ですが、プログレッシブ・ロック感はありません。調べたら、プログレッシブ・ポップという聴いたことのないジャンルでした。

アメリカの前衛作曲家の作品ですが、前衛としては驚くほどポップ、聴いたことがないくらいに美しく眩しいほど明るい。そういう意味で前衛かもしれません。誰も到達できなかった領域のアルバムではあるので。

何もかもが綺麗すぎて、こんな世界があればいいのにと願います。何もかもが光り輝き、すべての問題が片付いた穏やかな世界。ジャケットも素晴らしいでしょう。

最後の曲なんか、ゆっくりと天国へのエスカレーターを昇っていく感じがしませんか?今までの人生で起こった出来事がひとつずつ頭の中で現れては消えていくようで、何もかもがどうでもよくなってきます。

肉体も精神も記憶もだんだんと失われていく、長いようで短かった人生のエンディング。こういう死に方が良いです。何も感じずいきなり死ぬのが怖い。自分の意思でドアを開けて、光の世界に足を踏み入れたいものです。最後には、好きな音楽を聴きながら。




おわりに


以上、わたしの好きなアルバムを100枚、記事に書き残しました。

正直、この記事の需要を筆者自身分かりかねている状況ではあります。単なるディスクガイドと呼ぶには、あまりにも個人的な思い出話や語りが多すぎるし、かといってエッセイと呼ぶにはあまりにも短く専門的すぎる。

音楽に興味があってもわたし自身に興味がなければ読む気がしないし、わたし自身に興味があっても(そんな方がいらっしゃるのかも分かりませんが)音楽に興味がなければ読む気がしない。

そんな自己満足のためのものですが、それでも、できるだけ読みやすくさらりとした滑らかな文章になるよう工夫したつもりです。これまでの音楽人生を、全て総括するつもりで文章にまとめあげました。

自己紹介文として書いたような記事ではあるものの、もちろん音楽を紹介している記事なわけで、これを読んで新しい音楽との出会いがあれば嬉しいです。

紹介したアルバム、曲をSpotifyとYouTubeにプレイリストとしてまとめました。サブスクにはないアルバムも多い(8枚程度)ので、探すならYouTube推奨です。

Spotify


Youtube




最後に、長い記事をここまで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました!

わたしの好きなアルバム 100選




































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