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ガーシュウィンの名曲'S Wonderful の ’Sとは?...英語ひとくちメモ

表紙写真ガーシュィン兄弟:「ザ・ブロードウェイ・ストーリー」 VOL.7 ガーシュウィンの時代 | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイスより。

ガーシュイン不滅の名曲の一つ ’S Wonderful

 ガーシュウイン(George Gershwin)の’S Wonderful (作詞アイラ・ガーシュウイン Ira Gershwin)は、1927年にブロードウエイ・ミュージカル"Funny Face"で紹介され、以来Ella Fitsgeraldほか多くの大物歌手がカバーしてきました。最近ではDiana KrallRod Stewartがカバーするなど、ほぼ100年の歳月がたった今も繰り返し歌われ、ガーシュイン不滅の名曲の一つと言ってよいでしょう。

Lyrics (筆者和訳できるだけ意訳せずに)

(Verse 1)

Life has just begun 
  人生は始まったばかり。
Jack has found his Jill (*1)
  ジャック(僕)がとうとう自分のジル(君)を見つけたのさ。 
Don't know what you've done 
  君が僕に何をしたのか知らないが、
But I'm all a-thrill(*2) 
  僕はいま興奮の真っただ中。
How can words express 
  ことばがどう表現できようか
Your divine appeal? 
  君の神がかった魅力を?
You can never guess 
  君は想像できっこない
All the love I feel 
  僕が感ずる愛のすべてを。
From now on, lady, I insist 
  これからは、君よ、きっぱり言おう
For me no other girls exist 
  僕にとって君以外に女の子なんていない。

(Chorus 1)
'S wonderful! 'S marvelous! 
  素晴らしい! 驚きだ!
You should care for me! 
  君が僕のことを好きだなんて!
'S awful nice! 'S paradise! 
  とても素敵だ!天国だ!
'S what I love to see!  
  
僕が見たいと思っていたことだ!

You've made my life so glamorous
  君は僕の人生をとっても魅力あるものにした。
You can't blame me for feeling amorous
  セクシーに感じちゃうからって責められない。
Oh,'S wonderful! 'S marvelous! 
  
素晴らしい!驚きだ!
That you should care for me!
  
君が僕のことを好きだってこと!

(Chorus 1)
'S wonderful! 'S marvelous! 
  素晴らしい! 驚きだ!
You should care for me! 
  君が僕のことを好きだなんて!
'S awful nice! 'S paradise! 
  とても素敵だ!天国だ!
'S what I love to see! 
  
僕が見たいと思っていたことさ!

(Verse 2)
Don't mind telling you 
  いいだろう、君に告げても
In my fumble fash (*3)
  ありきたりかもしれないが、
That you thrill me through 
  君は僕を興奮させまくりだってこと。
With a tender pash (*4)
  やさしい情熱で
When you said you care 
  君が僕のことを好きだって言ってくれた時、
'Magine my emosh(*5)
  僕の感情を想像してみてくれ。
I said then and there 
  あの時あの場で僕は口にした
Permanent devosh(*6)
  
永遠なる魅惑の君よ
You've made all other girls seem blah (*7)
  君は他の女の子なんかをつまらなくした。
Just you alone fills me with ah! (*8)
  
君だけが僕をハッとした気持ちで満たしてくれるんだ。

(Chorus 2)
'S wonderful! 'S marvelous! 
  素晴らしい! 驚きだ!
(That)You should care for me! 
  君が僕のことを好きだなんて!
'S awful nice! 'S paradise! 
  とても素敵だ!天国だ!
'S what I love to see! 
  
僕が目にしたいと思っていることなんだ!

My dear, it's four-leaf clover time
       愛する君よ、まさに四葉のクローバー・タイムだ。
From now on my heart's working overtime
  これから僕のハートは超過勤務だ!
Oh, 'S wonderful! 'S marvelous!
  素晴らしい!驚きだ!
That you should care for me!
 君が僕を好きだってこと!

'S Wonderfulは何の縮約か?,インフォーマル,符割上?

 結論から言うと、'S wonderfulの ’sは、"it is”の縮約形(contracted form)の"It's"を更に縮約して’sとしたものです。すなわち、It is wonderful. → It's wonderful. → ’S wonderful.と縮約変形されたもので、元を質せば It is wonderful.「それは素晴らしい。」という意味の文です。縮約されたIt’sの主語に当たる itが省かれ、動詞の'sが文頭に残り大文字表記されたことになります。すなわち’sはbe動詞 のisです。

筆者は長年英語と付き合ってきましたが、主語"It”を省いて "Oh, is wonderful!”とか”Oh,wonderful"なら何度も使ったこともあるし聞いたこともあります。 'S wonderful !"など聞いたことがありません。恐らく、兄弟姉妹、恋人同士など超親密な仲の良い者同士でのみ通用する個人言語(idiolect)の一種ではないでしょうか。ジョージ・ガーシュウインとアイラ・ガーシュウインは仲が良く小さい時から言葉遊びが好きで、Georgeが作曲したメロディーに"It's wonderful!"が乗りにくかったので、兄弟同士の個人語のノリで’S wonderful!で行こうと言うことになったのでしょう。

表紙の写真を見てもとても仲がよさそうな兄弟です。その親密さが'S Wonderful!"に凝縮されているように感じます。ジャズの世界ではそれぞれが歌いやすいようにアドリブで変えるってことはよくあることです。そのためには文法だって破ります。文法の為に芸術があるのではなく、芸術の為に文法があるわけです。'S Wonderfulに込めたガーシュウイン兄弟のメッセージでしょう。

まとめます。'S wonderful!の省かれた主語"it"は"(that)you should care for me"(君が僕を好きだと言うこと)です。すなわち"It's wonderful (that) you should care for me.) (君が僕を好きなことは素晴らしい!)ということになりますが、文法的ですが味気なく無機質で情感が湧きません。それを”’S wonderful! You should care foe me!"に分けるとジャズ独特の4beatのリズムに乗りやすくスイングしやすくなります。同じことが、続く” ’S marvelous!" " 'S awful!" " 'S paradise!"の’sにも言えます。みな縮約形"It's"を更に縮約した’sです。

これはフォーマル英語では非文です。インフォーマルな日常会話でも違和感を持たれるでしょう。ただただガーシュイン兄弟の" ’S Wonderful"という曲の世界では許容され、今でも歌い続けられているのです。"Ah"(*8)と言わせる魅力的な表現になるのです。

(*1)"Jack has found his Jill." 17世紀のナーサリー・ライム Jack and Jillから。


A postcard of the rhyme using
Dorothy M. Wheeler's 1916 illustration より

Jack and Jill went up the hill
To fetch a pail of water.
Jack fell down and broke his crown,
And Jill came tumbling after.
Then up got Jack and said to Jill,
As in his arms he took her,
“Brush off that dirt for you’re not hurt,
Let’s fetch that pail of water.”
So Jack and Jill went up the hill
To fetch the pail of water,
And took it home to Mother dear,
Who thanked her son and daughter.

ジャックとジルは丘の上に行って桶一杯の水を汲みに行く途中、登坂で転んで起き上がります。ジャックは起き上がり、ジルの手を取り、「怪我無いよねさ、泥を払って丘に登って水を汲みにいこう」こうして二人は桶に水をを汲み、お母さんの元に帰ります。お母さんはありがとうと言います。

というたわいない歌です。これが深堀され、Jackをフランス革命のルイ16世に、Jillを王女マリー・アントワネットに関連させたり、はたまた、イギリス市民革命時代の1625年にチャールズ王が"jack"(=money)の価値を下げて税金を上げたことにもじったり解釈しているようです。

一般的には、Jackを若い年頃の男性の総称として、Jillを若い年頃の女性の総称として使っています。そこから”Every Jack has his Jill."(どんなJackにもJillが居る。)という諺が生まれます。

(*2)a-thrill→副詞、ドキドキして、ゾクゾクして

(*3)fash →方法(fashion)

(*4)pash→ 強い恋心(strong feeling of loving)

(*5)emosh→感情、気持ちemotion。 日本語の「エモい」に似ている。

(*6)devosh→ベルギー、西フランダース地方の苗字De Vos(the fox)の連結形(concatenated form).でfoxのこと。魅力的であだっぽい女性のことを指す。形容詞はfoxy(a foxy lady あだっぽい女性)。

(*7)blah →つまらないこと。"Don't read this blah blah blah.” (こんな詰まんないもの読むな!)

(*8)ah→驚きを表す感嘆詞

For Lifelong English 生涯英語活動のススメ (鈴木佑治Website)


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鈴木佑治
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