【光る君へ】ドラマレビュー第25回公開されました
クロワッサンオンライン 連載中、大河ドラマ「光る君へ」ドラマレビュー第25回公開されました!こちらからお読みいただけます↓
ドラマレビューで触れましたが、佐々木蔵之介さん演じる宣孝が宴で歌っていたのは『催馬楽(さいばら)』の「河口」。
催馬楽は、奈良時代頃から民間で歌われていた風俗歌が平安時代に入り貴族たちの宴で笛、琴、琵琶の伴奏つきで歌われるようになったものといいます。もとは民衆が歌っていたので、生活に根差した内容、男女の恋愛の歌詞が多いのですね。これは今の歌謡曲、ポップソングと同じでしょうか。
『源氏物語』でも登場人物たちが催馬楽を歌う場面、そして催馬楽の歌詞を踏まえての表現や和歌がたくさん登場します。
巻名の「梅枝」「竹河」「総角(あげまき)」「東屋(あずまや)」は催馬楽からつけられていますし『源氏物語』の主な読者であった貴族たちの生活にはしっかり根付いたものだったことがうかがえます。
ドラマ内で宣孝が歌った「河口」は、レビューで書いたとおり『源氏物語』第三十三帖「藤葉裏」で引用されます。
幼い頃から将来を誓い合った恋人同士・夕霧と雲居の雁。雲居の雁の父親である内大臣は長年ふたりの結婚に反対の立場でしたが、ついに許して夕霧を婿として迎えます。姫の父と兄弟、婿である夕霧が揃った祝宴の席で、雲居の雁の兄・弁の少将が美声で歌い上げたのは催馬楽「葦垣(あしがき)」。
葦垣真垣 真垣かきわけ てふ越すと負い越すと 誰か 誰かこの事を
親にまうよこし申しし……
(男が垣根をかきわけて娘を背負って盗んでゆく。誰がこの秘め事を親に告げ口したのだ)
我が家の娘(雲居の雁)を盗んでいくのは誰だろうね?と、からかって歌ったものでした。それで宴会は盛り上がったものの、これは長年ひそやかに思い合ってきた恋人同士にとって、かなり恥ずかしい。
夜が更けて新婦の待つ部屋に案内された夕霧は、恥ずかしがっている雲居の雁に言います。
夕霧「さっき弁の少将が歌った『葦垣』をお聞きになりましたか。ひどいですよね、私は『河口』と言い返したかったですよ」
そう。ここで出てくる、ドラマで宣孝が歌った「河口」。歌詞はドラマレビューで書いた通り「父親(家)が守っていても、娘はこっそり男と寝たのだ」というもの。私は盗んだんじゃありませんよ、お宅の娘さんが自発的に私と寝てくれたのですと言い返したかった、というのですね。雲居の雁は恥ずかしがりつつ恋人が口にした「河口」をもとに和歌で返事をします。
雲居の雁「浅き名を言い流しける河口はいかが漏らしし関の荒垣」
(私たちの関係を皆に流してしまったあなたの口は、しっかり守れない『河口』のようですわ。一体どのようにしてこの秘密を漏らしたのでしょう)
夕霧は笑って、そんなに拗ねないで……と優しく彼女を抱き寄せたことでしょう。催馬楽をもとに、長年思いを重ねた恋人たちの結婚の夜は深まっていきました。
このように『源氏物語』とも縁が深い歌謡、催馬楽。『光る君へ』でも、これからも登場するでしょうか。歌詞とその場面との関係にも注目です。
26話では、いよいよ彰子……道長の娘が本役・見上愛さんで登場ですね。楽しみです。
(つづく)