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草の実のような随筆集

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週に一度程度更新するエッセイをまとめました。
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#エッセイ

遺影考

遺影考

実家の祖父母の部屋の長押には、白黒写真で40代くらいの男性の写真が掲げてあった。父そっくりなので、おそらくだが若い頃の祖父だな…なんで自分の写真をあそこに架けてるんだろうと思っていた。祖父は当時健在であったからだ。祖母に問うと、溜息をつきながら「俺の葬式の遺影には、あの写真使ってくれって言うんだわ」と答えた。それを聞いた父は「冗談じゃない、参列者に俺が死んだと勘違いされるじゃないか」。

果たして

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素直にかぶってみた~フルウィッグ事始め~

素直にかぶってみた~フルウィッグ事始め~

45歳を過ぎたあたりから、なんだか気になり始めてはいた。
なにがって、髪の話である。

最初におや?となったのは朝のヘアセットの時であったと思う。なんとなく、前髪の形がつけにくくなっている。いつものブローでうまくいかない。なぜだろうなと首を傾げていた当時の私は、これが老化現象などとは夢にも考えていなかったのだ。

そこからはじまって年々薄々気づいてはいたが、完全に思い知らされたのは今年。忙しくて美

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なんとかしましょう、お義母さん〜ロング グッドバイ編~

なんとかしましょう、お義母さん〜ロング グッドバイ編~

なんとかしましょう、お義母さん~鬼と葛藤編~https://note.com/nuetwt2023/n/n527f2e7ed115 こちらの記事の続き。

よく晴れた爽やかな秋の朝だ。
今日は、業者のトラックが箪笥などの大型廃棄物を引き取りにくる日である。これまでリフォーム予定の義理両親寝室とその納戸の、溜まりに溜まった着ない洋服をリサイクルボックスに持ち込み、カビた着物を捨て、重すぎて使えないバ

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なんとかしましょう、お義母さん〜鬼と葛藤編〜

なんとかしましょう、お義母さん〜鬼と葛藤編〜

なんとかしましょう、お義母さん~業者相談編~|ぬえ (note.com)  の続き。

溜まりに溜まったモノを片づけるにあたり、念のため義理の両親と夫に確認した。骨董的な価値あるものはないですよねと。先々代、先代とおじいちゃんが亡くなるたびに口が巧い正体不明の誰それの訪問があり、その都度やきものだの掛軸だの、なにやかやと持ち去っていった。きっと高価なものだったのだろう。だから今現在、我が家にはそう

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なんとかしましょう、お義母さん~業者相談編~

なんとかしましょう、お義母さん~業者相談編~

「なんだかね、ここがベコベコするんやわ」

始まりは義母のその一言であった。
私達は2世帯同居家族である。同居といっても地方にありがちな形態で、やたらと広い敷地内の母屋と離れ、2棟の家にそれぞれ住んでいる。ここで2世代の夫婦が、夫の祖母の介護、息子娘の育児など、お互い困った時は助け合うが普段は下手に干渉せず、それなりに平和に暮らしてきた。
夫の祖父母を見送り、息子娘が巣立った今は、中年と後期高齢者

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マダム・タイフーン(台風夫人)

マダム・タイフーン(台風夫人)

予想天気図に、次から次へと台風が表示される晩夏だった。被害を受けた地域の皆様には改めてお見舞いを申し上げる。
列島をひっかきまわし暴れ回る台風は脅威だが、人間にも嵐を呼ぶ…というか嵐そのもののようなヒトがいる。私の身近にもそんな女性が存在しており、私はひそかに彼女のことをマダム・タイフーン、台風夫人と呼んでいる。

台風が予想天気図で目立つ存在であるのと同じく、台風夫人の容貌もパッと目を引く。私よ

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紙一重だと知った

紙一重だと知った

タイ・バンコクに滞在中、せっかくだからちょっと遠出してみないかとタイ在住の友人に誘われ、出かけることとなった。
目的地はパタヤのラン島。パタヤはバンコクから車で2時間ほどの人気リゾート地、ラン島には青い海と白い砂浜の、こじんまりしたビーチがあるそうな。

パタヤでは、マリンリゾートを楽しもうという海外からの観光客が大勢歩いていた。日本人と思しきグループもいる。車を降りると、日除け帽子売り・サングラ

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タイ、バンコクにて〜ไม่เป็นไร マイペンライの国〜

タイ、バンコクにて〜ไม่เป็นไร マイペンライの国〜

わずか数日だが、ン十年ぶりに完全なる夏休みを得た。完全なる、とは仕事上の私ではなく、家庭における妻・母としての私でもなく。さまざま社会的な軛から離れた個人としての夏休みである。

頭にぎちぎち詰まった諸々を一旦リセットするか!と、タイを旅することにした。

タイの首都バンコク・スワンナプーム空港に着くと、観光立国タイのバカンスシーズンだけあって世界中から観光客が押し寄せ大混雑。日本のアニメキャラク

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なにがなんでもということか

なにがなんでもということか

コロナ禍で海外渡航の機会を失ったこともあって、パスポートの有効期限が切れたままだった。このたび必要があり久しぶりに更新することにし、そしてついでに娘も一緒に作ることになった。

娘は平日役場に行けないので、私が代理で二人分の書類を窓口まで受け取りに。窓口の女性は、娘の年齢を確認し真剣な眼差しで私に言った。
「あのですね…申請用の写真を撮る時は、カラーコンタクトレンズは使わないでくださいね。女性は写

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偉大なる猫

偉大なる猫

うちで長く暮らす猫の話だ。

彼女についてよその人に話す時は、まず年齢のことから入る。25歳以上。
なにせ、今はもう成人して働いている長男を産む前からのつきあいである。うちに来た時は既に子猫ではなかったから、正確な年齢はわからない。
なんだかんだで我が家で暮らし始めてから、25年はゆうに経っている。
いくら最近のペットは長寿傾向とはいえ、長生きにもほどがあるのではないかと思っていた。

綺麗な三毛

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スマホがなかった時代の夜

スマホがなかった時代の夜

昨夜、Twitterでゆきほ(@yukifox)さん の「スマホがなかった時代の夜、みんな何してたんだっけ 泣いてたんだっけ」という呟きが流れてきて。
その呟きと窓の外に響く雨音に、あの頃の夜が蘇った。

スマホどころかガラケーさえ存在しない。
毎晩私は、実家の暗い廊下で友人のSと長電話をしていた。
家族に聞かれないよう居間から固定電話をできるだけ引きずり出し、2時間3時間だらだらと話していた。

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老いた私の目が見せるもの

老いた私の目が見せるもの

前記事(誰がそこまで見せろて言うた|ぬえ (note.com))に引き続き、
目というか見え方の話。

中学1年生くらいからドがつく近視である。
授業中に、なんだか黒板の字が見えにくいなと思ったら、みるみる身の回りのもの全ての輪郭がぼやけていた。
30代から乱視も加わって、眼鏡やコンタクトレンズを装着していないと、常に水の中で物を見ているような状態である。

50代となり老眼までスタート。近視・乱

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誰がそこまで見せろて言うた

誰がそこまで見せろて言うた

テレビを14年ぶりに買い替えた。
14年前にアナログテレビからデジタルに買い替えた時は、その映像の鮮やかさに驚いたものだったが、人間は慣れるから毎日見ていれば当然驚きはなくなる。
新鮮な感動は失せたものの、映像には特に不満なく過ごしてきた。

しかし近ごろ少々テレビの調子が悪くなり、そして毎週楽しみに視聴してきたNHKBSプレミアムの大河ドラマ再放送がBS4Kにお引越しとなって、仕方なく4Kテレビ

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