ヴァイオレットのラブレター
1・ギルベルトへ宛てた最後の手紙
戦場で多くの兵士の「これから」を奪ってしまったことを自覚し、「生きていて良いのか」ということに苦しみ、もがき、それでも「誰かを想い」、懺悔するように生きているヴァイオレット。
そんな彼女が最後の最後に報われ、ハッピーエンドで幕を降ろした『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』。
この記事では劇中ラストシーンで描かれた、ヴァイオレットがギルベルトへ宛てた最後の手紙を細かく解説していきたいと思います。
何が書かれているのかはヴァイオレットが語っているセリフ通りですし、BDを購入した方は、テルシス語で書かれた手紙と翻訳された手紙が封入されていますので、ここではそれぞれの単語の意味を細かく分析していきます。
テルシス語をそこまで深く追求したくない人にとっては面白くない記事だと思いますが、少しでも興味を持ってくれると嬉しいです。
前の記事でも触れましたが、テルシス語のアルファベットは解読する際に、ある法則に従って別のアルファベットにする必要があります。
これを便宜上「換字」と表現します。
暗号化されているテルシス語を換字し、ルーツとなる言語で翻訳したのですが、そもそもルーツとなる言語そのものが象形文字のような古代言語であり、少なからず意訳している部分も多いです。
また、アクセントの違いによる意味の履き違えをしている可能性もあり、ここでの翻訳が完全に正しいわけではないと思いますのであしからず。
実際の手紙に書かれたテルシス語とその訳文に、単語、述語の意味をエクセルの表にして画像添付しています。
ピンク背景が実際の手紙と訳文、青背景はヴァイオレットのセリフに合うように単語を述語化したもの、白地は単語単体の意味となります。
単体では意味を成さない単語は、恐らく助詞や助動詞、接続詞といった自立語ではないものだと考え、他の単語と組み合わせて述語としています。
2・宛名~1行目
ここで言う宛名は、封筒に書かれた「○○さんへ」ではなく、手紙の最上段に書いている内容です。日本なら「拝啓」等が書かれる場所で、本文は15行あります。
宛名-①に書かれている「親愛なる」は、作中では4文字で記されていることが多い表現です。
2話での「複雑かつ重々しい女性」wの代筆の際や、スペンサーからルクリアへの手紙も、この4文字が使われています。
この時解読した2話の手紙がこちらです。
この時期は解読がまだ未熟で、アクセントによる意味の違いを識別出来ていませんでしたので少し間違いが多いと思いますが、おおむね合ってるとは思います。
お相手の名前がヴィルヘムってのがカッコイイです。
手紙の書き出しは、「親愛なる」、「自分との関係性や想い」、「敬称」と概ね3つが確認出来ています。
重々しい女性からヴィルヘムさん、スペンサーからルクリア、テイラーからエイミーへは「親愛なる」が使われています。
そして、ルクリアからスペンサーへは「お兄ちゃんへ」、クラーラからアンへは「私の愛するアン」と記述されており、エリカとアイリスがヴァイオレットへ書いた手紙には、女性に対して使う「Miss.(ミス)」が使われています。
これらは全て換字をしていますが、外伝でのテイラーからエイミーへ出した手紙の封筒に書かれている、「マダム(夫人)・バートレット」のマダムの部分は換字をすると意味を持たなくるので換字はしないものとします。
しかし、さきほどのヴァイオレットへあてた「ミス」や、男性に対しての敬称である「ミスター」や「氏」に相当する単語は、「換字」が必要になっています。
テルシス語には人名や地名はテルシス語の「換字」をしないという法則があるのですが、「敬称」に関しても何らかの法則があるのかもしれません。
加えて、カトレアさんにこの敬称を使用していることから、必ずしも「ミスター」という意味ではないかもしれません。上司や上官につける敬称か「~様」という意味として解釈した方がいいのかもしれません。
2話での報告書の解読と、テイラーからエイミーへの手紙の封筒。
封筒には「マダム エイミー・バートレット」と書かれています。
作中によく出る手紙の書き出しをまとめたものがこちらです。
ヴァイオレットの手紙の話に戻りますが、彼女が使ったのは「親愛なる」の中でも最大限に敬意を払った「親愛なる」か、深い愛情を込めた「親愛なる」になるのではないかと思われます。
前者であれば、手紙の内容にあるように「あなたのおかげで誰かを想えるようになった」事への深い感謝が込められており、後者であれば「愛しのギルベルト少佐殿へ」となるのではないでしょうか。
個人的には後者であって欲しいですし、上から4文字で「愛」という単語になるのでその可能性は高いです。
宛名-②は「少佐」
宛名-③は「ギルベルト」です。
これらの文字は作中に何度も出てくる単語ですが、さきほどの報告書の画像には、「ギルベルト」の他に「カトレア・ボードレール」「ホッジンズ」「中佐」「ティファニー・エヴァーガーデン」の名前まで確認出来、「アンシェネ」「ライデン」「ライデンシャフトリヒ」の都市国家名も確認出来ます。(中佐や少佐は換字が必要)
また、墓碑でフルネームがはっきり確認出来ます。
ちなみに、ギルベルトのスペルは「Gilbert・Bougainvillea」です。
1行目-②は、「~へ」となり、名詞に対する助詞になると思われます。この手紙においては「少佐」のあとにこの単語が出るので、「少佐へ」と解釈出来ます。劇中での手紙によく出ていたと思いますので、汎用性の高い単語かと思います。
1行目-③は「~によって書かれた」という完了形ですが、この1行目には誰が書いたのかという「一人称」がありません。
よって、一人称が書いてない場合は「私が書いた」となるか、この単語自体に自らが書いたという意味を持ってるかのどちらかです。
残りはエクセルの通りで、④は「最後」、⑤は手紙、⑥は「この」「これ」といった代名詞です。
エクセル蘭に書いているように、「手紙」はアクセントの違いで「建物」と訳せたりします。
この1行目から読み取れるように、妙に長い単語は複数の単語を連結させたり、単語の中に「人称」が混ざっていたりと、非常に難解な言語だと感じています。
3・2行目~3行目
この手紙だけで何度も出てくるのが、2行目-①。
これを文頭につけることで、丁寧な言い回しになるのかと思われます。
例えば「愛してる」が「愛しています」になります。
あと普通に「私」という意味を持ってもいます。
家族間での親しい間柄でも使われており、作中では「愛しています」という表現の前には必ずこの単語が文頭にが使用されます。
4.5話の宛先不明の手紙にも、何度も登場しています。
1行しか見えていないのは「愛しています」。
その下の画像は「ガブリエル」という方へ宛てた愛を伝える手紙。
「あなたに出会えたことで私はの人生は満ち足りていました。それが私にとって何よりの奇跡だった」という事が書かれています。
2行目-②は「今・現在」などの意味となり、2行目-③は「生きている」となりますが、これは「生きる」という動詞と、その状態が「継続している」という意味が組み合わさった単語だと解釈しています。
2行目-④は「わたしが~していられるのは」という意味となり、~の対象は直前の動詞や形容詞だと思われます。今回であれば「生きている」が直前にあるので、「わたしが生きていられるのは」と訳すことが出来ます。
2行目-⑤は「誰か」であり、2行目-⑥は「考える・想う」2行目-⑦は「終わった・完了した」などの意味を持つ単語です。
これらをつなげて考えてみた結果「誰かを想うことが出来た」転じて「想えるようになった」と解釈出来ます。
3行目⑩は2行目から続けて読む述語になっており、「~は」といった接続詞だと解釈。前述の「想えるようになった」に「は」が付きます。
3行目-⑪が「あなた」と訳せますが、上4文字でも「あなた」となり、残りの文字で「報酬・功績」という意味にもなります。
次の感謝を伝える言葉とつなげることで、「あなたのおかげ」となると推察しました。
最後の3行目-⑫はこの手紙の中で最も多く登場します。
意味としては「ありがとう、感謝する」で、この行以外では全て「ありがとうございました」と訳していますが、前述のような言葉の最後に付くことで、「おかげです」という訳になります。
4・4行目~6行目
4行目-①は「自分」という意味ですが、「私」などの一人称ではありません。一人称での「私」は10行目に出てきます。ここでは孤児で身寄りのない私のような「存在」という意味に捉えると、辻褄が合います。
4行目-②は「受け入れる」で、4行目-③は前述の通り「ありがとう・感謝」です。3行目で「おかげです」と訳された単語ですが、4行目以降に出るこの単語は全て「ありがとうございました」と訳されています。
5行目-①は翻訳では「本」と書かれていますが、「本」という単語としては長過ぎるので詳しく調べると「絵本」のようです。
「王子の両目には碧い緑輝(サファイア)、腰の剣には真っ赤な紅玉(ルビー)が輝いていました」
これはヴァイオレットが回想にて読んだセリフですが、ディード兄様に形見分けしてもらった際にもらった本と同じ題名です。元々はギルベルトに読んでもらった「絵本」であり、同じものを買ってあげたのか、ギルベルトが幼少期に読んでいたものと同じものでしょう。(おそらく後者)
この絵本の題名は上段は「ラインハルト」で、この甲冑姿の騎士だと思います。
後半に「L」音がありませんが「D」音が「ト」になり、発音は英語読みではありません。
6話のシャヘル天文台がある国の読み方が「ユースティティア」ですが、その頭文字の「J」音が「ユ」と読むのと同じです。
この本を下段まで合わせて訳すと「ラインハルトの日」になりますが、もっと適した訳があるかもしれません。
ギルベルトも幼いころから好きだったこの絵本をヴァイオレットに読み聞かせたと考えると、ギルベルトが本当にしたかったのはヴァイオレットを蝶よ花よと愛でることだったんでしょうね。
形見分けしてもらった時にすぐに気付かなかったのは、激しい戦闘の影響でしょう。
5行目-②は「読む・読むために」となり、⑤行目-③が最も難解でした。
ここは、文節を2つに分けた上で一つ目の最後の文字を削除、一番最後の文字をつける。こうすると、「書くことや」と訳すこと出来、②の「読み」と合わせることで、「読み書き」と解釈できます。
そして、それらをする「ための事を教えていただいた」という後半の文節につなげることで、「読み書きするためのことを教えていただき」、転じて「文字を教えていただき」という解釈が出来ます。
5行目-④は「色々な」、⑤は「物事」となり6行目に移ります。
6行目-⑥は自分に対してという受動態としての一人称になるのかなと思います。
⑦が教える、⑧は「ありがとうございました」です。
5・7行目~9行目
7行目-①は単純に「ブローチ」ですが、次の②が妙に長い上に、前半部分だけで「買う」という動詞が含まれている。ここも「自分に買って下さった」という意味になるような謙譲語・尊敬語のようなものが、動詞と連結しているのではないかと推察しています。
8行目-①は「いつも・常に」で、②が「側面・横」③が「実行する」といった意味であり、前の動詞を修飾している。したがって「いつもそばにいる」となりますが、過去完了になるための単語が含まれている可能性もあります。
ですが、「いつも」がリフレインされていること、①だけで「いつも」と訳せることから、この③の「実行する」というのは、前の単語を強調する意味が含まれているかもしれません。
9行目-①は前述の通り「自分」、②が「愛してる」です。
また、ここで使われている表現は過去系であり「私を愛してくれてありがとうございました」となるのですが、いかにもヴァイオレットらしい訳文となってます。
「愛してる」という表現は劇中に何度も登場します。4.5話の宛先不明の手紙にも使われていますが、これはこの手紙には登場しない単語です。
6・10行目
10行目-①は直訳すると「素晴らしい」となりますが、愛されたことが「素晴らしい」のか、「あなたのような素晴らしい人」なのかは明確に訳すことが出来ませんでした。翻訳された手紙で判断するとおそらく後者です。
②は何度も出てきてますが「自分」、③は「愛された」です。
「愛しています」という単語と前半が同じですので、後半部分が過去完了を表すものだと思います。
④は3行目に出てきてますが、「~は」という接続詞です。
⑤は「私」であり、これが英語で言う「my」にあたる一人称で、ここで初めて明確な一人称が出てきます。
⑥は「人生の」となり、⑦と⑧は一見するとつながった単語に見えますが、二つの単語に分かれています。前半の⑦が「ルール・目標・決まりごと」などの意味で、後半の⑧が「~のようになった」となります。
⑥と⑦を組み合わせれば述語⑨のように「人生のみちしるべ」と訳すことが出来ますが、⑥と⑧を組み合わせると「人生は変わった」と訳すことも出来ます。
このことから、単語⑧「~のようになった」は、⑥の「人生」と⑦の「目標」両方を修飾することで、「人生のみちしるべになりました(変わりました)」と訳しているのではないかと思います。
テルシス語では極端に長い単語がありますが、こういう表現の時にあえて単語と単語をつなげて書いているのかと考え、前後の単語との組み合わせも考慮しています。
7・11行目~12行目
ここからは、一つ一つの単語を説明するまでもなく表のままです。
単語⑥の「なぜなら」は、それより前に書かれている「愛を知った」から次に書かれていることをするという接続詞です。何をするのかというと「愛してる」を伝えたいとなるわけです。
「~したい」という意味を持つ言葉が一番最後にあるということ、単語⑦~⑨だけで「あなたを愛しています」となること、「それ」という代名詞があることから「愛してるを伝えたいと思いました」というよりは、
「あなたを愛しています・・・そのことを伝えたかったのです」という方がしっくりきます。
「愛してるを伝えたい」という公式での訳文は、これはこれでヴァイオレットらしさではありますが。
8・13行目~15行目
13行目は説明の必要がなくそのままです。
14行目-③は「ほとんど・全て」という意味で、直訳すると「今までのほとんどの事をありがとうございます」となります。
この単語がこの行の内容を強調して訳すことで「本当に」となるのだと思います。
最後の15行目もそのままです。
ここで使われている言葉は、4.5話の依頼で書いた新作オペラの歌詞に使われています。
これは「いつも愛していた」もしくは「いつまでも愛してる」でしょう。
そしてアニメ13話のラストでは、前述4.5話の宛先不明の手紙と同じ言葉が。
これが、ヴァイオレットの手紙なのであれば、何通もギルベルトへの手紙を書き、その冒頭には必ず「あなたを愛しています」と書かれている、そう考えるだけで感動します。
9・あとがき
最後になりますが、ヴァイオレット・エヴァーガーデンを視聴する上でテルシス語はそんなに重要なファクターではありません。
読めなくて物語は理解出来ますし、当然解読なんてする必要もありません。
ただアニメを制作するにあたり、ソースとなる言語があるとはいえそれを暗号化し一つの言語まで作る、そんな手間も労力もかかることをやってるのが京都アニメーションです。
そしてそこまでして創っていただいた作品なので、せっかくなのでテルシス語が読めたほうがより楽しめると思います。
ただ解読するのは本当に手間で誰しもができるわけではないと思いますので、こういう場で知らせていけたらいいな、と思います。
例えば2話ラストでは、ホッジンズとカトレアさんがバーに行きますが、そのなにげないシーンで酒場の看板が映ります。
読みはは「Rosenkrieg」
「沢山の薔薇」という意味だと思います。
このさかずきに入ってるのが薔薇なんでしょうね。
ヴァイオレット・エヴァーガーデンはアニメ史に残る作品です。
そしてこの作品を創った京都アニメーションも同様です。
今後もテルシス語の解読、京アニ作品の魅力を伝えていける場にしようと思います。
乱文乱筆でしたが少しでも気に入っていただけたら、高評価お願いします。
解読する意欲がわきますw
10・追記
バーの看板に関して、とてもロマンティックなリプライをいただきましたので、ご紹介させていただきます。
私は解読中に「多くの」「薔薇」という単語が分かった時点で、看板の画像と結びつけてしまい、そこまで深く考えませんでした。
ですが、この方のツイートのようにこの看板に含みがあるのだとすれば、「薔薇の戦」「茨(いばら)」、そしてホッジンズが投げかける「燃えてるよ」という言葉に通じるものがあり、「薔薇戦争」になぞらえた親族間での骨肉の争いと捉えることも出来ます。
2話冒頭でのギルベルトとディードフリーヒの不仲、最後にバーの看板が映りホッジンズが「あいつはもう、戻って来ない」と言っていることから、この解釈はとても興味深いものです。
「ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝」においても、薔薇戦争をモチーフにしていますし、ロマンティックな素敵な解釈だと思います。
ちなみに薔薇戦争は実際に「ランカスター家」と「ヨーク家」が権力争いをした史実です。
そのうち記事を書くかもしれません。
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