天使にみえた
ホワイトアスパラガスを食べていたら思い出したことがある。
それは忘れようにも忘れられない体験だったはずなのにいつのまにか僕の頭からはすっぽり抜け落ちていた記憶だった。
あの日以来ああゆうことは起きてないし、たぶんこれから起きる確率もぐっと低いだろう。
まぁまた起きたところで驚きはしないだろうが。
僕はその日、池袋の街中で真っ白な髪を持った三人の少年に出会った。それも別々の場所、別々の時間に。彼らは一様に髪が白く、とても端正な顔立ちをしていた。
美しい、まさにそんな一言に尽きる少年たちだった。
一人目は5歳くらいで二人目は小学生くらい、三人目は中学生くらいだった。
そしてみんな男の子だった。(たぶん男の子)
一人目は大通りを歩いているときにすれ違った。彼は母親らしき女性と手を繋ぎながらアイスクリームを食べながら歩いていた。帽子から覗くその美しい髪に僕が目を奪われて、もう一度振り返るまでにそう時間は掛からなかった。
二人目はその後ふらっと入った喫茶店で出会った、僕がお店に入ると同時に店から出てきた男の子。それが彼だ。
ブルーのシャカシャカした上着にジーンズ。足元は白いスニーカー。
上着の色のせいなのか、僕はやはり綺麗な髪に目を奪われた。一瞬、僕はさっきの男の子かと思ったのだけれど明らかに背格好が違うし、何より大きくなっていたのだ。間違うはずがなかった。
あぁたぶん今日僕は死ぬんだと思った。天使か何かなのだと。
でもそれはただの推測に終わった。
最後の一人、3人目だが、帰りの駅で出会った。僕が乗った電車の反対側に止まっていた電車に彼は乗っていて、僕と彼は窓越し1メートルぐらいの距離にいた。
この時になると僕はあまり驚かなくなっていた。
もうすでに二人見ているのだ、三人目が現れても不思議じゃない。
一日にそれも三度も美しい少年に会うなんて。
それも出会う度に彼らは少しずつ大きくなっているのだ。
おそらく生きているとそんな日もあるのだ。
その電車越しに見た彼は喫茶店の彼よりもぐっと大人びていた。耳にネジ型のピアスをつけて、腕にはスタッズのついたバングルをしていた。頭には大きな黒いヘッドフォン。
ヘッドフォンから溢れる髪はやはり白くとても美しかった。オールブラックの服装もとても彼に似合っていた。
僕はアパートに帰る途中、もしかするとさらに大人になった男の子に出会うかもしれないと思った。
その時の僕にはそれはとても妥当なことに思えたし、実際に出会えなくて少し残念にさえ思った。
日に三度、そんなことが起きたのだから忘れようもなかったのだが、僕は今の今までそんなことがあったことすら忘れていた、このホワイトアスパラガスを食べるまで。不思議なこともあるものだ。
天使だと思った彼らも今ごろもっと大きくなっているかもしれない。現に僕だって歳をとっているのだ。
仮にこれから20年先、街中で日に三度あの天使たちに会うことがあったら、そのときは僕はどんな顔をしよう。雑踏に消える前に話しかけようか。いやそれは迷惑かもしれない。
僕はその日帰ってから曽我部恵一BANDの天使という曲を聞いた。
耳元をなまぬるい風が通った気がした。
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