西洋の敗北の始まり(承前)
引き続き、ウクライナ・ロシア戦争について書く。
ウクライナ・ロシア戦争の一方の当事者であるウクライナが関与しない形、軍事的なプレゼンスも無く、犠牲を全く払わなかったアメリカがその独善だけでロシアと停戦しようとしている。
では、仮にウクライナ・ロシア戦争が停戦した後、何が起きるだろうか?
ロシアは、停戦後すぐにはウクライナ全土を掌握するような動きは取らず(取れないと言っても良い)、今後は非正規戦、ハイブリッド戦をはじめ、有形無形の形でウクライナへ浸透を図るだろう。
そして、ウクライナ西部は緩衝地帯として残しつつ、5年後にはその東部、中部の併合を一旦は目指すのでは無いだろうか?
もしそうなった場合、ウクライナの一部がロシアに「復した」場合の心配は何だろう?
今もまだ残るチョルノービリ(チェルノブイリ)原発事故の後始末の行く末だろうか?
または、旧ソ連からの分離独立時に自前で空母や多数の核弾頭を持つほどの軍事強国だったウクライナにこの3年で流れ込んだ最新の軍事技術、現代の戦争のあり方を変えたと言っても過言ではない、大小様々な攻撃型ドローンの開発と製造技術、西側の戦車をはじめ、最新且つ大量の兵器や軍事に関わる資源が取り残されることだろうか?
はたまた、大きな犠牲を払ったとはいえ、この戦争の間に実戦を通じて練度を高め、精強を極めたウクライナ軍の人的資源がそのままロシアの傘下に入ることだろうか?
私は、やはり2023年時点で総人口3700万の(全てではないにせよ)ウクライナの軍事的要素、物的人的なものがそのまま残り、ロシアに取り込まれることだと思う。
では、ウクライナ・ロシア戦争の停戦条件として、ウクライナが自国の領土を割譲、ロシアが東部地域の占領地域の一部を一旦放棄するとして、更にはNATOへの加盟を断念し、且つ現在のゼレンスキー政権が去って、ある種「中立的」=ロシアが許容できる誰かが政権に就くようなことが起きた場合、一見するとそれで和平がなったように見えるが、それは単なる戦争の無い状態であり、統治と支配の空白地帯、さきにも触れた通りロシアが望んだ緩衝地帯が生まれ、早晩、今の西洋、NATOを構成する西側、ポーランド、バルト3国とロシアの保護国が対峙する将来の危機が形成されるに過ぎないのではないだろうか?
結局、ウクライナ・ロシア戦争は、ウクライナの敗北、アメリカを初めとする西洋の敗北で終わるのだろうか?
さらに言うなら、ウクライナ・ロシア戦争の帰結を巡って、アメリカが欧州において著しく信頼を失う(だけでなく敵対にまで至る)場合、極右の台頭が見られるように政治的に混沌としつつあるドイツに対してロシア(その背後にいる中国)は更なる工作をしかけ不安定化を図るのではないだろうか?
ドイツは、第1次世界大戦の終結から21年を経て、ナチスドイツ支配下で戦争を起こした。
欧州の第2次世界大戦終結から80年余り、今のドイツが歴史を逆行するようなことを起こしはしないと信じたいが、ウクライナ・ロシア戦争前、天然資源開発を巡って非常に近い関係にあったドイツとロシアがかつての「同盟関係」に戻らないと言い切れるのだろうか?
ロシアの力による現状変更がウクライナのひとり負けに終わってしまうことが、今後の世界、とりわけ朝鮮半島やインド太平洋地域を含む周辺諸国の情勢に無視できない影響を及ぼし、禍根を残すと考える。
このウクライナ・ロシア戦争停戦後の世界に懸念は尽きない。