日本株復活は続くのか
短期的な過熱感は強いが、円安で業績上振れ期待はある
バブル崩壊後の高値更新
日経平均株価で見ると、バブル経済が崩壊した後の高値を更新している。実に32年9か月振りの水準であり、30,000円台を維持している(2023年5月19日現在)。
短期間に急上昇してきており、過熱感は強いものの、ファンダメンタルズ面からの割高感は特にないため、短期的調整はあったとしても、先行きは明るいとの見方も増えている。
今期予想ベースのPERで見ると、東証プライム全銘柄の平均で、15倍台にとどまっており、株式益回りも6.5%前後に達している。10年物国債とのイールドスプレッドは、依然として6%程度はあるため、株式リスクプレミアムとしては妥当な水準と見られる。
ファンダメンタルズ面のサポートがあるため、短期的な過熱感から株価に調整があったとしても、大きく崩れるとは考えにくいであろう。もちろん、株式投資に絶対はないし、リスク要因もいくつか指摘はされる。本稿では、現状の経済見通し並びに業績展望といったファンダメンタルズ面を概観した上で、リスク要因についても検討し、長期的投資判断のポイントを抽出したい。
円安は企業業績にプラス
このところ、円安傾向が鮮明になっている。ドル円で見ると、1ドル138円台になっており(2023年5月19日午前11時現在)、日本経済全体としては、追い風が吹いている。円安については、物価高を招くとの批判もあるが、それよりもGDPや企業業績を押し上げる効果が優るため、全体としてはプラスだと考えられる。もちろん、余りに急激な為替レートの変動は、企業の事業計画を立てる上で攪乱要因となることもあり、混乱を招く可能性が指摘されるが、現時点で1ドル140円程度の円安であれば、許容範囲であろうと考えている。
円安が基本的には、企業業績にプラスだというのは、特に大企業等に顕著に見られる傾向である。大企業の多くは、海外においても事業を展開しており、現地通貨建ての収益、利益が同水準であれば、円安によって、自動的に業績が拡大する面がある。現在の日本経済においては、輸出の占める割合は小さくなっているが、海外事業の比率は、大企業ほど高い傾向が見られる。貿易依存度は低いものの、世界経済との連動性は高いと言える。
円安による物価高は、一部に非常に大きく影響する部分があることは認められる。原油、天然ガス、石炭などのエネルギー資源については、輸入比率が非常に高いため、円安の影響は確かに大きい。ただし、エネルギー資源は、それ自体の価格変動も激しいため、その影響も考慮する必要がある。例えば、原油などは、代表的指標の一つであるWTI先物価格で見ると、昨年、2022年のピーク時には130ドル台に乗せたこともあるが、現時点においては、70ドル強の水準にとどまっている。円安の影響はあるものの、原油価格自体が落ち着いて推移すれば、物価に対する影響度は限定的となろう。
また、原材料や中間製品の輸入に関しても、確かに円安によるコスト高は認められるが、元々貿易比率が低い日本経済全体への悪影響は、そこまで大きな問題にはならないと見られる。
もちろん、個別企業のビジネスモデルやサプライチェーンの構造によっては、影響度が非常に高いケースもないとは言えない。そういったケースにおいては、業績面での悪影響は避けられないであろう。しかし、日本経済全体として見れば、円安による影響は、プラスであると評価される。
日経平均採用銘柄は、大企業が中心であり、円安の業績面への影響は、海外事業比率の高さなどから、プラスの影響が優るものと考えられる。また、日経平均採用銘柄の今期業績予想ベースPERは、14.4倍程度にとどまっており、東証プライム全体よりもさらに低い水準である。この面からも、現在の日経平均株価に特段の割高感はない。
このまま現状の1ドル140円程度の水準で推移すれば、会社予想の企業業績の前提レートより円安になっているケースが多いと見られるため、全体としては、上方修正要因になるものと推定される。上方修正されれば、その修正分だけ、株価の割安感が生じることになる。現状の株価上昇は、そういった企業業績に対するプラスの影響をも織り込んでいるのかもしれない。
リスク要因:国内
金融資本市場においては、常にリスク要因が存在しているが、現時点においても、内外に複数のリスク要因が観測されている。
まず、国内要因だが、金融政策において大規模緩和策が維持されていることは、安心感があるものの、イールドカーブコントロールについて、メディア等からの批判、攻撃がやまない点は、憂慮される。日銀の判断が、それによって変わることはないとしても、政府側からの圧力が増す可能性は指摘されよう。
景気がさらに力強く拡大し、過熱感を持つほどになれば、金融政策を方向転換することも検討すべきだが、現状は、そこまでの見通しはない。ファンダメンタルズに合わせた金融政策を継続することが基本であり、現在の日銀は、合理的意思決定をするものと期待される。
金融政策以上にリスクを感じるのは、財政政策である。財務省を中心に、根強い緊縮財政論者は多く存在しており、政策面での影響も大きいため、要注意であろう。
現時点の日本経済は、回復過程をたどっており、ここで、景気刺激策をとれば、その足取りは確かなものになる可能性が高い。しかしながら、政府側から、大型の財政支出に対する積極的な姿勢は見えず、むしろ、増税の機会を狙っているというのが実情であろう。このタイミングで、増税を行うのは、せっかく伸び始めた芽を摘む行為であり、厳に慎むべきであろう。昨年度の税収についても、相当規模(一部では7兆円と推計)の上振れがあった模様であり、増税を議論するタイミングではないのは明らかである。あえて言えば、景気刺激策として、最も有効性が高い減税を検討すべきタイミングである。
財政面から日本経済にとってマイナスの政策が実施される可能性が否定できないということは、リスク要因として認識しておくべきである。政策判断のミスが起こることで、自律回復過程にある日本経済のファンダメンタルズを損なう可能性があるというのは、非常に残念なことではある。
リスク要因:海外
海外にもリスク要因は、いくつかある。まず、ファンダメンタルズ面から言えば、アメリカ経済の先行きに関して、不透明感が強まっている。現時点におけるアメリカ経済の状況は、経済指標を見る限り、想定以上に堅調に推移していると言える。失業率は歴史的な低水準で落ち着いており、消費についても、目に見えて落ち込んでいるわけではない。一部で、商業用不動産市況の悪化などがあるものの、金融引き締めによる影響は、まだ限定的だと評価される。
しかし、足元が堅調であるが故に、行き過ぎた金融引き締めが実施される可能性が高まっている。FOMCの(投票権がある)参加者からも、現状の経済データで見れば、金融政策を緩和的に変更することを正当化する理由がないという趣旨のコメントも出ており、しばらくは、タカ派的姿勢が強い状況が継続するものと予想されている。
金融政策の効果が目に見えて出てくるまでには、かなりの時間を要することも多い。通常半年から1年程度と言われているが、今回は既に引き締めに転じてから1年以上を経過しているにも関わらず、目立った効果が認められていない。とはいえ、金融政策の効果は、いずれ明確になるはずである。今年の夏場以降、その効果が明確になるタイミングがあるものと見られる。
ただ、景気後退のシグナルが出た時点で、速やかに政策転換ができないリスクが高まっているものと見られる。いくつかの指標の悪化や減速感が見えてきても、FOMC参加者に確信をもたらすものでない限り、アメリカの金融政策は、引き締め傾向が継続してしまうことになると考えている。
これは、アメリカ経済にとって、大きなダメージを招くことになるであろう。過度な引き締めが長期間に渡って継続することで、アメリカ経済が深刻な不況に陥るリスクは無視できない。
アメリカ経済は、世界の主な経済圏として、最も堅調に推移しており、世界経済を支える重要な存在である。そこが崩れてしまうと、世界同時不況に至る可能性もある。
ヨーロッパ経済は、ウクライナ戦争の影響もあり、景気改善の要因が当面は見当たらない。エネルギー問題は、解決したわけではなく、今後も天候次第では、エネルギー危機に至る可能性も指摘される。エネルギー供給に不安がある状況では、経済活動が活性化することは、望めない。
中国経済については、公式統計や公式の経済目標はさておき、実態としては、まだまだ低水準にとどまっているものと見られる。少なくとも世界経済を牽引するような状態にないことは確かであり、むしろ、足を引っ張る可能性もある。また、アメリカ、ヨーロッパ、日本といった、民主主義、自由主義陣営との政治・経済の分断化は明確になっており、経済的な交流についても、今後は制限が強まるものとみておくべきであろう。
日本企業にとっては、中国との関わりをどうやって軽減していくのかというのは、当面、大きな課題として認識される。私は、可能な限り早期の全面撤退を勧めている。
こうして海外要因を見渡してみると、ヨーロッパと中国は、ほぼ期待できない状況であり、最後の砦的な存在のアメリカについてもリスクが高まっているということになる。
さらに、アメリカについては、債務上限問題が、速やかに解決できないと、大きな混乱を招く可能性があるので、要警戒である。現時点においては、解決の方向性が見えてきたというムードになっているが、最終的な解決を見るまでは、安心はできない。
万が一だが、アメリカ政府がテクニカルデフォルトに陥れば、世界の金融資本市場は、大混乱となり、世界経済全体にも少なからぬダメージが生じるであろう。早期の最終的な解決が強く望まれるところである。
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