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アメリカ経済:1月の雇用統計はサプライズ

失業率は半世紀ぶりの低水準

アメリカの1月の雇用統計はサプライズ


出所:アメリカ労働統計局

 アメリカの1月の雇用統計が発表されたが、非農業部門雇用者数は、事前予想を大幅に上回る51万7千人増となった。失業率も、想定外の低下で、3.4%となったが、これは、半世紀ぶりの低水準である。平均時給は、前年比4.4%ということで、事前予想通りであったが、労働市場の逼迫が依然として懸念される状況であることは、間違いない。
 株式、債券、為替の全てが大きく反応し、サプライズぶりを裏付けることになった。FRBの引き締め姿勢が、再度強化されることや、引き締め状態が長期化することを織り込みつつある反応と理解される。前回のFOMCで、0.25%刻みの利上げにとどまったことや、パウエル議長が比較的柔軟な姿勢を会見で見せていたことなどから、ハト派的な傾向になりつつあると考える市場関係者が増えていたが、これほどまでに強い雇用統計を目の当たりにすると、さすがにFRBの引き締め姿勢が、長期化するのではという見方が広がることになるであろう。
 そうなると、金融引き締めの効果が出てきても、金融引き締めが継続してしまい、限界を超えたところで、景気が急速に悪化し、大不況に陥るというハードランディングシナリオも現実味を帯びてくる。要するに、引き締めすぎになってしまうということだ。現在の景況感が良すぎるために、将来のクラッシュを想定せざるを得ないという皮肉な状況である。

ISM非製造業景気指数も事前予想を上回った

 雇用統計に続いてアメリカで発表された1月のISM非製造業景気指数は、事前予想の50.4を大きく上回る55.2となり、ポジティブサプライズと受け止められた。新規受注が伸びているのが主たる要因だとされている。今のところ景気後退には至っていない数値だと理解される。
 そのため、金融引き締め政策にも関わらず、米国経済の基調は強いまま推移しているとの見方が広がっている。

株式市場の反応

 強い雇用統計の発表を受けて、株式先物は急落したが、企業業績にはプラスであるとの見方もあり、現物取引開始後、ダウ、ナスダック、SP500という主要3指数は、急回復した。しかしながら、やはりFRBの引き締め政策が長期化するという懸念が優り、終値は、主要3指数とも前日比マイナスとなっている。とりわけ、ハイテク銘柄中心のナスダックは、前日比1.59%安く終わり、やや大きめの下落率を記録している。金利上昇の影響を受けやすい銘柄が多いとされているためであろう。

債券安(金利上昇)

 雇用統計発表直後から債券市場では、長期金利が上昇した。やはり、労働市場の逼迫が想定以上であり、しばらくインフレ圧力が強い状況が続くということであろう。さらに、FRBの金融政策については、引き締め強化、引き締め長期化が織り込まれる展開となっている。市場では、先日のFOMCの結果を受けて、FRBの姿勢軟化を織り込む動きがあったが、雇用統計がサプライズとなったことで、流れが一気に変わった模様である。
 主要投資銀行のエコノミストの中には、ピークレベルの10年物国債金利予想を、引き上げる動きも出ている。結果的には、ソフトランディングが難しくなり、ある時点から急激な景気悪化が起こるというシナリオに傾きつつあるとの声が聞かれる。
 イールドカーブの逆イールドが継続しているが、将来の不況リスクの高まりを反映した債券市場の反応だと、私は理解している。債券投資家は、非常に合理的な判断をする傾向が強いので、逆イールドが継続していることの意味は、決して小さくはないと思われる。

ドル円レートは円安方向に

 雇用統計の発表直後から、ドル円レートは、大幅な円安に振れた。発表前は128円台での取引であったが、一気に130円を突破し、131円台で取引を終えている。アメリカの金融引き締め強化と長期化が織り込まれたものと解釈される。
 為替レートについては、円高が進むよりは、(急激ではなく緩やかな)円安気味に推移した方が、日本経済にはプラス効果が大きいため、この動きは基本的には、歓迎できると、私は考えている。

アメリカ経済のハードランディングリスクを懸念

 ただ、アメリカ経済が、急変するリスクもあるため、手放しで喜べる状況でもない。アメリカ経済が、ソフトランディングすることが、日本にとっても望ましいことは、間違いない。現時点では、ハードランディングが確定しているわけではないが、そのリスクが現実的なものとして意識されるようになったとは言える。
 今後もアメリカの経済指標の発表には、十分な注意を払っておきたい。

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