楽しいことがないなら作ればいいじゃない、と女は音楽教室に通うことになった
そう、パンがないならケーキを食べればいいように。楽しいことがないなら作ればいい。
享受ばかりじゃつまらない、また何かに熱狂したいとnoteに書いたが約2週間前。そのまま日常を過ごすことだってできたけど、私はもやもやを抱えたまま生き続けられるほど強くない。満足できない部分は可能な限りかなぐり捨てたいし、解決できることだったら解決してすっきりしたい。
ということで、ずっとほしかったガラスペンを購入したのは以前のnoteでも書いた。結果日々の手帳タイムが少しずつ楽しくなっていて、久々に「ときめき」なんてものを感じている。多分だけど、このままインクと万年筆、ノートにも落ちると思う。つまり文具沼。出費…。
さて、次は能動的に動ける趣味づくりだ。ということで、勢いのまま音楽教室の無料体験に申し込んだ。正直、無料体験でちょろっとピアノを触って満足すればいいや、ぐらいに思っていた。
ピアノは小学生まで習っていた。だけどいい思い出はなく、やれ発表会だ、コンクールだ、もっとうまくなれ、とスパルタだったため、ピアノ教室は本当に嫌いだった。先生は優しかったんだけどね。うちの母がね…。
そんな私が何で今回ピアノの体験レッスンを選んだのかよくわからなかったけど、とにかく音楽やってみたい!の勢いだった。
さて、仕事終わりに教室へ足へ運ぶと、若い男性の先生が出迎えてくれた。次に通されたのは、立派なグランドピアノの置かれた部屋。思わず息をのんだ。偶然予約が取れた部屋がそうだっただけ、とは言われたけど、いやこれ体験者に触らせて気分上げるためだろうと私は身構えた。テンション上げて、入会させるためだなと。いやいや、そんな手には乗りません。私はちょろっと弾くだけでいいんです。
「ピアノ、やってました?」先生にそう問われ、私は首を縦に振った。だけど、全然楽しくなかったんです。コンクールのための練習が苦痛だったし、私は本当に才能が、なかったので。コンクールで金賞を取る姉とは違って。それを聞いた先生は言う「じゃあ今回は楽しくやりましょう!」
楽しくピアノ。確かに、楽しみたい。本当はピアノ自体嫌いじゃないはずなのだ。好きになる音楽には、だいたいピアノの旋律が聞こえてくるから。
今なら楽しめるんじゃないか。心臓が少しずつとくとくと速度を上げていく。
先生が譜面台にシンプルな譜面を置き、音符を指し「これは何の音でしょう」とクイズを出してきた。「ド、レ、ミ」「そうそう、さすがにわかってますね。じゃあこっちは?」「…ソ?」「残念、こっちはヘ音記号なので、これが『ド』ですね」「えっ!!!!?」
なんと、この数十年で譜面すら読めなくなっていたとは!!!!!衝撃的すぎて頭を抱える。けどなんだろう、この、途切れていたシナプスがつながっていくような、脳全体に走るビリビリとした刺激は。
「はい、じゃあ譜面も読んだので、弾いてみましょう。鍵盤に手を添えて」そう言われ我に返る。緊張でこわばる手を、鍵盤に添えた。先生の口ずさむリズムに合わせ、鍵盤を叩く。ぽーんと響く音。数十年ぶりのピアノの鍵盤は少しだけ重かった。力を入れる。音が響く。あ、ピアノだ。いや、そう、あたりまえなんだけど、けどなんだか謎の感動がぶわっと沸き上がっていた。
「さすがに慣れてますね」と言われたが、いやいや全然、おぼつかない手でしたよと首を横に振る。
その後レッスンについて簡単に触れ、最後に先生の演奏も少し聞かせてもらって、体験はあっという間に終了してしまった。先生の演奏でさらに心が鷲づかみされてしまったのは、ここだけの秘密。
その後、別の営業さんの上手すぎる勧誘の結果・・・・・・・・・通うことにしてしまった。ちょろすぎる!でもだって、ピアノだけじゃなくてドラムのレッスンも受けられるよって言われたんだもん。ドラムもこの数年ずっとやりたかった楽器の一つだった。それにもう、ピアノを弾きたくてたまらなくなっていた。だったらやったろ!と腹をくくった。月謝は若干高いけど、今までゲームにかけていたお金をこちらに回せば…とんとんになるはず。ただただ虚無だったゲーム課金を、音楽に回そう。
営業さんも話がうまい、というか、楽しませ上手だなと思った。ちょっとした自虐で笑いも誘いつつ、ちゃんとこちらの話を聞いてキャッチボールをしてくれた。それもまたなんだか新鮮だった。そういえば、仕事であんまり会話のキャッチボールしていない気がする。私の一方通行感。これも日常に満足できない要因の一つだったのかもな。
幼少期。コンクールでバンバン賞を取る姉を、ずっと見ていた。ずっと負い目を感じていた。全然楽しくなかった。「ああなれない自分」と比較して、より深い闇に落ちる。ああなりたかった。楽しむなんて、考えたことがなかった。
今度こそ、何かに縛られることなく、”音”を”楽しめる”だろうか。久々に感じたドキドキの火を、消したくない。うまくいくかはわからないけど、えいやと新しい世界に飛び込むことにした。
初レッスンは数週間後だ。先生はぜひ好きな曲やりましょうと言ってくれた。それまでに、改めて譜面ぐらい読めるようになっておこうかな。