【日本馬出走】凱旋門賞2024 有力馬解説・展望
今年もいよいよ、この季節がやってきた。
フランス競馬最高峰のレースにして、欧州競馬12ハロン路線の大一番──凱旋門賞(GⅠ)である。
競馬場にいる日本の競馬ファンに「海外のレースと言えば?」という質問をしたならば、「凱旋門賞」の名を挙げる人が最も多いことだろう。
スピードシンボリ以来、何十頭もの日本馬が出走し、未だに勝利を掴むことができていないレース。
エルコンドルパサー・ナカヤマフェスタ・オルフェーヴル──2着は4回、されど日本馬が1着でゴールに飛び込んだことはただの一度もない。
同じように、日本人騎手による勝利も一度もない。
この重い扉を最初にこじ開けるのは誰か。
この遥かユーラシア大陸の先、フランスのレースが日本競馬界にとっての悲願──呪いとさえ言えるかもしれないが──になったのは、一体いつからであったか。
とにかく、凱旋門賞の制覇を日本競馬界にとっての目標だと考える人も多い。(筆者個人は日本が凱旋門賞にこだわる必要性を全く感じていないし、単純なレースのレベルだけで言えば「今や『世界最高峰の芝レース』は凱旋門賞ではなく、ジャパンカップではないだろうか?」とさえ思うこともあるのだが)
今年も日本国内での馬券発売が行われ、国内での生中継もあり、日本からも人馬が参戦するとあって、凱旋門賞は非常に高い注目を集めている。
Noteは最近サボり気味だったものの、流石にこの凱旋門賞にノータッチというわけにはいかないので、久しぶりに気合いを入れて凱旋門賞の話をしていきたい。
最後までお付き合い頂ければ嬉しく思う。
凱旋門賞(Prix de L'Arc de Triomphe)
2024/10/06 23:20(日本時間)発走
格付け:GⅠ
開催地:フランス・パリロンシャン競馬場
条件:3歳以上・牡牝限(騸馬出走不可)・芝2400m(右)
斤量:3歳56.5kg・4歳以上59.5kg・牝馬1.5kg減
フルゲート:24頭
総賞金:500万ユーロ(約8億円)
コース解説
まずは恒例のコース解説──なのだが、最早このパリロンシャン芝2400mについては、今更解説されるまでもないという人も多いことだろう。
何せ、ウマ娘のゲームにすら登場している。
今となっては競馬に興味がない人の中にすら知っている人がいそうだが、改めて見ておくとしよう。
これまで、数多の日本馬がこのパリロンシャン競馬場の芝2400mコースを走り、あえなく馬群に沈んできた。
その理由を当日の馬場状態に求める人は多く、当然それも原因の1つではあるだろうが、最大の要因はそれではないと筆者は考えている。
数多の日本馬が凡走してきた最大の原因は、このコース形態にあると言えよう。
言うまでもないが、12ハロンのワンターンコースを経験できる競馬場は、日本国内のどこにもない。
日本国内に存在する芝2400mコースは全て1周コース。
ホームストレッチからスタートし、コーナーを4つ経てゴールに到達する。
日本のみならず、香港やドバイなどでも12ハロンのコースはそういう形態になっているのだが、欧州ではたびたびワンターンの12ハロンコースが現れる。
最初のコーナーまでの長い長い直線コース、カーブが緩い大回りのコーナーは、日本馬にとって経験し難いものと言える。
1周コースなら1コーナーの入りで隊列があらかた固まり、息が入った状態でバックストレッチを迎えることになるが、このワンターンコースではそれができない。
そして、パリロンシャン芝2400mのコースが持つ、日本国内で経験できない要素は高低差約10mの坂である。
日本国内での坂といえば京都競馬場だが、あれでも高低差は4m。
平坦なコースを走り慣れている日本馬にとって、この高低差10mが如何に過酷かは想像頂けることだろう。
スタートしてからは1コーナー地点まで上り坂が続き、そこからはずーっと下って直線に向くのがパリロンシャン競馬場のコース形態だ。
つまり、パリロンシャン芝2400mはワンターンと坂、日本国内の競馬場には存在しない2つの要素を備えたアスレチックコースなのである。
最も重要なのは折り合い。
掛かって体力を消耗したり、気性に難があって制御が難しい馬だったりすると、道中で無駄なエネルギーを消耗した分、最後に止まる。
事実、2012年のオルフェーヴルは残り50mで止まり、ソレミア(Solemia)に差されている。
まあ、道中掛かり散らかしてド派手に包囲網を敷かれても、数完歩で馬群から容易く抜け出した挙げ句に最後は流して勝ったシーザスターズ(Sea The Stars)とかいうバケモンもいたりしたが、エイダン・オブライエンのためにも彼のことは一旦忘れることにしよう。
コース形態に話を戻して、このパリロンシャン競馬場で最も有名なのはやはり3コーナーからの下り坂の「フォルスストレート」──「偽りの直線」である。
最終直線は約530mあるのだが、そこに入る前に約250mの直線コースがある。
ハッキリ言って騎手はこんなモンに騙されたりしない(騙されるような騎手には凱旋門賞の乗鞍などないだろう)が、馬は騙されることがある。
なまじ賢い馬だと、直線が現れた瞬間に勝手にスパートをかけていったりするので、このフォルスストレートでそうして折り合いを欠くと非常によろしくない。
最終直線自体は平坦だが、特筆すべきは「オープンストレッチ」だ。
このオープンストレッチは南アフリカのグレイヴィル競馬場や、英国のグッドウッド競馬場などでも見ることができるが、日本には存在しないコース形態である。
パリロンシャン競馬場では芝コースの最内から数mの地点に仮柵が設けられ、凱旋門賞前哨戦のアークトライアルデー開催などは仮柵が備えられたままレースが行われる。
そうした日にオープンストレッチは現れないが、近年は凱旋門賞当日にこの仮柵が外され、最終直線のオープンストレッチが解放される。
内ラチをこのような形状にすることで、最内で進路がなくなるという事態を防ぎ、全馬がスムーズに進路を確保し実力を発揮できるよう促すのだ。
特に出走頭数が多くなりやすい凱旋門賞においては、このオープンストレッチは有効に機能する。
そして、凱旋門賞当日にオープンストレッチを解放するというスケジュールからして、内ラチ沿いの馬場が良い状態で残っているという状況が発生する。
また、凱旋門賞は4Rに行われることが多く、オープンストレッチはそれまで3つのレースでしか使用されないということになる。
距離ロスにもならないことから、誰しもがこのオープンストレッチを使いたがる──ということで、最終直線に向いてオープンストレッチに入った瞬間、馬群は全体的に内ラチに向けて右斜め前に移動する傾向にある。
展開予想の際にはこのオープンストレッチ絡みの馬群の動き、ポジションの変化を考慮に入れることで、精度が高まるのではないだろうか。
しかし、じゃあ最内の先行馬が絶対的に有利かと言うとそうではない。
馬群を縫うタイプの差し馬にとってオープンストレッチが良いのは勿論のこと、大外をブン回すような追込馬にとっても、躱すべき馬群が勝手に内側に向かっていくのだから、大外を回す際の距離ロスが減る。
実際、昨年の覇者エースインパクト(Ace Impact)は馬群の大外をブン回し、内で粘る他馬をまとめて撫できって優勝している。
2021年の優勝馬トルカータータッソ(Torquator Tasso)も外から差し切る競馬を展開しているし、そもそも直線が500m以上あるのだから、内の馬場が良いからと言って単純に内の先行馬有利のレースにはならない。
このオープンストレッチの攻略も、凱旋門賞における大きなポイントになると言えるだろう。
そしてだ。
凱旋門賞と言えば、ということで馬場状態についても述べておこう。
凱旋門賞の時期、10月上旬のフランスは雨季に突入する時期であり、1日の最高気温がコートを着込まなければ寒いと感じるほどにガクンと下がる。
それと同時に雨がとても増え、カラッとした気候になりやすい夏から一変、非常に天気がぐずつきやすくなる。
1週間丸々雨が降り続くような天気も珍しくはない。
これに加え、パリロンシャン競馬場の馬場の土は粘土質のため粘性があり、水はけ能力もさほど高くはない。
よって、凱旋門賞当日に雨が降っていなくとも、当週にまとまった雨が降ったりすると渋った馬場でレースの発走を迎えることになる。
更に馬場自体がデコボコしていることから、全く水を含まない乾ききった状態でレースを行うと、ギャロップする馬の脚への負担が極めて大きく、故障の原因となる。
故に、馬の脚への負担を減らすために馬場状態は稍重に近い良馬場を目指して調整され、雨があまり降っていない場合は散水により馬場の含水率を上げる。
かくして、雨が降り続いた年は勿論のこと、ずっと晴れていようともある程度の水を含む馬場が完成する。
晴れ間が続き、良馬場でのレース開催となれば2分24秒台のタイムが出る一方、馬場が渋れば2分30秒台での決着となることもある。
実際、凱旋門賞のレコードは2011年にデインドリーム(Danedream)が馬場状態:Bon(良)で叩き出した2分24秒4なのだが、馬場状態がLourd(不良)となった2020年の走破時計は2分39秒4。
何とレコードから15秒遅い決着、馬場状態次第で全く特性の違うレースになるということは言うまでもない。
もはや常識とさえ言えることだが、凱旋門賞当日の馬場状態は、必ず考慮に入れなければならない。
2022年のようにレース直前に大雨が降り、馬場状態が前のレースまでとはガラリと変化することもあるので、馬券の購入はギリギリまで馬場状態を見極めてから行うことをオススメしたい。
余談となるが、この凱旋門賞の馬場状態については日本国内のみならず、欧州においても大変不評である。
雨季を避けるために凱旋門賞の開催を数週間前倒しにする案もある上(他のレースとの兼ね合いもあるので、これ以上早めるのは難しいかもだが)、「凱旋門賞は馬場が渋るからイヤ。良馬場で走らせたいからブリーダーズカップに行く」という調教師のコメントはよく見る。
凱旋門賞に管理馬を出走させる際、まず考えるのは馬場状態のことだとさえ言えるかもしれない。
出走馬一覧・オッズ
《出馬表》
①(1) ザラケム(Zarakem)
騎手:C.デムーロ 調教師:J.レニエ(仏)
②(13) アヤザーク(Haya Zark)
騎手:W.ビュイック 調教師:A.フアシェ(仏)
③(2) ファンタスティックムーン(Fantastic Moon)
騎手:R.ピーヒュレク 調教師:S.シュタインベルク(独)
④(9) アルリファー(Al Riffa)
騎手:武 豊 調教師:J.オブライエン(愛)
⑤(12) セヴェナズナイト(Sevenna's Knight)
騎手:M.バルザローナ 調教師:A.ファーブル(仏)
⑥(14) コンティニュアス(Continuous)
騎手:C.スミヨン 調教師:A.オブライエン(愛)
⑦(3) ブルーストッキング(Bluestocking)
騎手:R.ライアン 調教師:R.ベケット(英)
⑧(16) マルキーズドゥセヴィニエ(Mqse De Sevigne)
騎手:A.プーシャン 調教師:A.ファーブル(仏)
⑨(8) ルックドゥヴェガ(Look De Vega)
騎手:R.トーマス 調教師:C&Y.レルネール(仏)
⑩(11) シンエンペラー(Shin Emperor)
騎手:坂井 瑠星 調教師:矢作 芳人(日)
⑪(15) サンウェイ(Sunway)
騎手:O.マーフィー 調教師:D.ムニュイジエ(英)
⑫(7) デリウス(Delius)
騎手:I.メンディザバル 調教師:JC.ルジェ(仏)
⑬(5) ソジー(Sosie)
騎手:M.ギュイヨン 調教師:A.ファーブル(仏)
⑭(10) ロスアンゼルス(Los Angeles)
騎手:R.ムーア 調教師:A.オブライエン(愛)
⑮(6) シュルヴィー(Survie)
騎手:T.マーカンド 調教師:N.クレマン(仏)
⑯(4) アヴァンチュール(Aventure)
騎手:S.パスキエ 調教師:C.フェルラン(仏)
※()内はゲート番
《海外ブックメーカー前売りオッズ》
⑨ ルックドゥヴェガ 7/2(4.5)
⑬ ソジー 4/1(5.0)
⑭ ロスアンゼルス 5/1(6.0)
⑩ シンエンペラー 13/2(7.5)
⑦ ブルーストッキング 9/1(10.0)
④ アルリファー 10/1(11.0)
⑫ デリウス 10/1(11.0)
⑯ アヴァンチュール 16/1(17.0)
⑥ コンティニュアス 20/1(21.0)
⑧ マルキーズドゥセヴィニエ 20/1(21.0)
③ ファンタスティックムーン 20/1(21.0)
① ザラケム 28/1(29.0)
⑪ サンウェイ 33/1(34.0)
⑤ セヴェナズナイト 50/1(51.0)
⑮ シュルヴィー 50/1(51.0)
② アヤザーク 66/1(67.0)
※10/5 16:00現在、ブックメーカー「Sky Bet」より
有力馬解説・展望
さて、今年の凱旋門賞は一言で申し上げるならば「大混戦」である。
日本国内でのオッズがどうなるかはまだ分からないが、海外ブックメーカーらの前売りオッズを見る限り、上位人気はほぼ拮抗状態。
2桁人気の馬もオッズの差はあまりなく、まるで夏競馬のような様相を呈している。
なぜ、こんな魔境と化してしまったのか──というと、それは現地パリロンシャン競馬場での前哨戦が行われる「アークトライアルデー」最後の重賞、3歳限定のGⅡ・ニエル賞(芝2400m)に原因がある。
このニエル賞では単勝オッズ1.7倍、圧倒的な1番人気に推された馬がいた。
今年のGⅠ・ジョッケクルブ賞(フランスダービー)(シャンティイ・芝2100m)を無敗で優勝し、約3ヶ月半もの間、凱旋門賞の前売り1番人気に君臨し続けたルックドゥヴェガ(Look De Vega)である。
ルックドゥヴェガはその名の通り、2010年にマキシム・ギュイヨン騎手とのコンビでフランス二冠馬となったロペドゥヴェガ(Lope De Vega)の産駒。
ジョッケクルブ賞では道中3番手付近を追走し、直線に向いてから追い出されると後続を突き放し、最後は2馬身差をつけての完勝を果たした。
ジョッケクルブ賞優勝の直後、凱旋門賞を最大目標として調整されることが発表され、そのステップレースとして選ばれたのがニエル賞。
ジョッケクルブ賞で下した馬たちがその後のレースでGⅠを優勝するなどしていたことから、ルックドゥヴェガは何もしなくても評価が上がり続けていくという状況に置かれていた。
そして、ルックドゥヴェガの評価は欧州の競馬関係者の間でも非常に高く、それを象徴するのがアルシャカブレーシングとバリーリンチスタッドによるシンジケートの結成である。
ジョッケクルブ賞後、ルックドゥヴェガはカタールの馬主組織アルシャカブレーシングが筆頭馬主となり、引退後はバリーリンチスタッドにて種牡馬入りすることが決定された。
アルシャカブレーシングは過去、2013年・14年に凱旋門賞を連覇したトレヴ(Treve)を筆頭に、有力なGⅠ馬の所有権をたびたび購入している。
今年はルックドゥヴェガの他にも、GⅠ・ディアヌ賞(フランスオークス)(シャンティイ・芝2100m)覇者スパークリングプレンティ(Sparkling Plenty)の筆頭馬主にもなっており、フランスのクラシックレースの世界的な評価の高さがうかがえる。
バリーリンチスタッドはロペドゥヴェガの他、2015年のフランスダービー馬ニューベイ(New Bay)や2019年の凱旋門賞馬ヴァルトガイスト(Waldgeist)などを繋養している。
特にロペドゥヴェガは今年17歳になっており、まだまだバリバリの現役種牡馬として多くのクラシックホースを輩出しているとはいえ、年齢的には後継種牡馬が求められる時期になってくる。
ロペドゥヴェガの後継種牡馬としても、ルックドゥヴェガへの期待は大きいと考えられよう。
こうした評価もあり、3ヶ月半の休み明け、かつ初の2400m戦とあっても、ルックドゥヴェガの能力に疑い無し──と、現地では見られていた。
しかし、蓋を開けてみたらどうだ。
ルックドゥヴェガは1着馬から3馬身半放され、3着に完敗してしまった。
レース展開はルックドゥヴェガにとって良いものではなかった。
5頭立てとなったニエル賞は逃げ馬が不在で、スタートしてからしばらくは誰もハナを切りたがらなかったために先頭が決まらない状況が続いた。
結局ルックドゥヴェガは押し出されるように先頭に立ち、手応えよく直線を迎えるも、結果としては後続馬の良い目標にされてしまった。
明らかに貧乏くじを引かされたと言っていいレース展開で、ジョッケクルブ賞と同様に多頭数となる凱旋門賞ではこれほどまでの展開不利は背負わずに済むだろうが──いずれにせよ、負けは負け。
ルックドゥヴェガにとってはキャリア初の敗戦であり、無敗のフランスダービー馬が「無敗」の称号を剥奪された瞬間であった。
そして、この結果を受けてルックドゥヴェガは凱旋門賞前売り1番人気の座から転落した。
この結果を受けてもなお、ルックドゥヴェガに騎乗するローナン・トーマス騎手は絶対の自信を持っている様子であり、またブックメーカーでは非常に調教が良かったということから、結局1番人気に設定しているところもあるが。
ニエル賞から10kg近く絞ったという情報もあり、凱旋門賞でルックドゥヴェガがどんな走りを見せるか、そしてこのルックドゥヴェガをどう評価するか。
ここが今年の凱旋門賞における1つの大きなポイントとなるだろう。
筆者の個人的な見解を述べさせて頂くならば、最大の懸念材料は距離適性である。
手応えの良さの割に伸びなかった、というのがニエル賞を見た筆者の感想であり、特に残り1ハロンでルックドゥヴェガは完全に脚が上がったという印象を受けた。
ジョッケクルブ賞が2100mに短縮されてから、フランスダービー馬の凱旋門賞はたびたび距離に跳ね返されるパターンが発生しており、ルックドゥヴェガの父ロペドゥヴェガも凱旋門賞は10着に敗れている。
勿論、昨年のエースインパクトや一昨年のヴァデニ(Vadeni)のように、凱旋門賞においても強さを見せるフランスダービー馬も多い。
ルックドゥヴェガは12ハロンをこなせるフランスダービー馬なのか、それとも10ハロンに特化しているのか──その見極め、評価の仕方がルックドゥヴェガを凱旋門賞で買うか買わないかにつながるだろう。
一方、ルックドゥヴェガが敗れたニエル賞で2番人気に支持されており、これを快勝したのがソジー(Sosie)である。
ソジーは2009年の凱旋門賞馬シーザスターズの産駒であり、フランスのオーナーブリーダーであるヴェルテメール・エ・フレール(ヴェルテメール兄弟)の自家生産馬だ。
管理するのは凱旋門賞最多の8勝を挙げているフランスの名門、アンドレ・ファーブル厩舎。
そして、キャリア全戦においてその手綱を取るのが、ヴェルテメール・エ・フレールと優先騎乗契約を結んでいるマキシム・ギュイヨン騎手。
今週に年間200勝を達成し、今年もフランスの騎手リーディングを独走している、今現在黄金の鞭に最も近い男である。
そんなフランス最高のマキシム・ギュイヨン騎手だが、凱旋門賞は意外にも未勝利となっている。
凱旋門賞ジョッキーマキシム・ギュイヨン誕生への期待を今年背負うことになったソジーは、凱旋門賞と同じ舞台で行われるGⅠ・パリ大賞の今年の勝ち馬で、パリロンシャン・芝2400mでは2戦2勝という実績を誇る。
前走のニエル賞は、このソジーとルックドゥヴェガの対決も注目される要素であったが、ソジーはハナを切ることを避け、ルックドゥヴェガの後ろにピタリとつけた。
残り600mくらいからマキシムに追い出されると、ソジーはゆっくりと、しかし確実に末脚を伸ばし、最後は流しての圧勝。
ジョッケクルブ賞でソジーは3着に敗れていたのだが、12ハロンになってルックドゥヴェガと逆転した形である。
パリ大賞優勝直後、マキシム・ギュイヨンは「凱旋門賞でチャンスの大きい馬」だと評価し、その時点でアンドレ・ファーブル調教師も凱旋門賞を目標に定めた。
この時点で凱旋門賞の前売り2番人気にまで浮上していたのだが、ニエル賞でのルックドゥヴェガとの逆転を受け、多くのブックメーカーはソジーを1番人気に設定した。
しかし、不安要素も多くある。
まずはパリ大賞の優勝馬であるということだ。
同じ舞台の割に、パリ大賞は凱旋門賞につながらないレースであり、その理由は例年レースレベルが低調だからだろう。
今年のメンバーレベルとしても、ジョッケクルブ賞覇者のルックドゥヴェガは不在。
後にGⅠ・セントレジャーS(ドンカスター・3歳・芝2900m)で2着となるイリノイ(Illinois)や、ニエル賞で2着だったデリウス(Delius)がいたとはいえ、この時点でGⅠ馬は1頭もいなかった。
現時点で、パリ大賞出走馬の中でのGⅠ馬は当のパリ大賞を勝ってGⅠ馬となったソジーのみ。
今年も例年通りのパリ大賞だったという印象がある。
一気にメンバーレベルが上がる凱旋門賞で、歴戦の古馬たちを相手にどこまで戦えるのか。
そして、ニエル賞組は凱旋門賞で不振傾向にある。
ニエル賞もGⅡという格付けから分かる通り、メンバーレベルが例年高くなりにくく、ニエル賞から凱旋門賞を優勝した馬は2006年のレイルリンク(Rail Link)までさかのぼる。
とはいえ、今年のニエル賞のレベルに関してはルックドゥヴェガとソジーに加え、GⅠ・ダービー(エプソムダウンズ・芝2420m)で2着、GⅠ・アイリッシュダービー(カラ・芝2400m)で3着だったアンビエンテフレンドリー(Ambiente Friendly)が参戦していた。
アンビエンテフレンドリーは本来の走りが全くできなかったとはいえ、単純な出走馬のレベルとしては例年以上に高かったと言えるだろう。
そして、レイルリンクはソジーと同じく、アンドレ・ファーブル厩舎の管理馬だった。
そもそもレイルリンク以前を見れば、ニエル賞と凱旋門賞の連勝は時々あり、1999年にエルコンドルパサーを凱旋門賞で打ち破ったモンジュー(Montjeu)もニエル賞からの参戦であった。
パリ大賞勝ち馬のジンクス、ニエル賞組の不振をまとめて粉砕することができるか。
マキシム・ギュイヨン騎手とアンドレ・ファーブル調教師の手腕に期待である。
しかしながら、前売り1番人気のソジーを管理するファーブル師が、ソジー以上に自信をのぞかせる馬がいる。
それがマルキーズドゥセヴィニエ(Mqse De Sevigne)。
シユーニ(Siyouni)産駒の5歳牝馬で、今年は負け無し。去年から今年にかけて、GⅠ・ロートシルト賞(ドーヴィル・芝1600m)とGⅠ・ジャン・ロマネ賞(ドーヴィル・芝2000m)を連覇しているGⅠ・5勝馬だ。
特に今年に入っての充実ぶりは目覚ましく、復帰戦のリステッドを快勝すると、GⅠ・イスパーン賞(パリロンシャン・芝1850m)で並み居る古馬の牡馬たちを退け、牡馬混合GⅠを初制覇。
ロートシルト賞を完勝し、オッズ1.3倍で迎えた5頭立てのジャン・ロマネ賞は最後方から大外をブン回してのハナ差での差し切り勝ち。
着差をガッツリつけるタイプの馬ではないが、抜かせそうで抜かせない、ギリギリで勝ち切る勝負根性が非常に魅力的な女傑である。
凱旋門賞が引退レース、初の12ハロン戦となる本馬だが、ファーブル師は非常に自信があるようだ。
曰く「馬場不問」「距離適性は問題なし」「非常に調子がいい」──とのことで、インタビュー記事を読むと本命はソジーではなくこちらなのではないか、とさえ思えてくるほどだ。
この馬の最大の懸念はやはり距離適性だろうが、ファーブル師は「ノープロブレム」とする根拠として、本馬の血統を挙げている。
実際この馬の兄であるメアンドル(Meandre)はパリ大賞の他、GⅠ・サンクルー大賞(サンクルー・芝2400m)とGⅠ・オイロパ賞(ケルン・芝2400m)で12ハロンのGⅠを3勝している。
ならば妹のマルキーズドゥセヴィニエも、ということだろう。
個人的には距離が伸びるに連れて着差が小さくなっているところが気になるのだが、この馬の最後の末脚には見るべきところがあるとも思う。
レース展開の鍵を握る馬としては、アヤザーク(Haya Zark)の名前を挙げないわけにはいかない。
アヤザークは5歳牡馬のザラク(Zarak)産駒。
今年のフランス最初の古馬GⅠ・ガネー賞(パリロンシャン芝2100m)にて、オッズ20倍の穴馬ながら見事な逃げ切りを果たし、GⅠ初制覇を達成した。
その後はイスパーン賞でマルキーズドゥセヴィニエ、オリゾンドレ(Horizon Dore)に次ぐ3着となった後、凱旋門賞を競走生活の最終目標とし、復帰戦のGⅢ・ラ・クープ・ドゥ・メゾンラフィット(パリロンシャン・芝2000m)で2着となっての参戦となる。
ガネー賞優勝時に手綱を取っていたアレクシス・プーシャン騎手は凱旋門賞ではマルキーズドゥセヴィニエ、主戦のクリストフ・スミヨン騎手はコンティニュアス(Continuous)──ということで、今回の鞍上にはウィリアム・ビュイック騎手を招聘した。
今年の凱旋門賞出走メンバーの中で逃げそうな馬と言えば、このアヤザークである。
乗り替わり先がビュイック騎手、というのも非常に納得できる采配だ。
ビュイック騎手は先行意識の強いジョッキーで、行く馬がいなければ率先してハナに立つ騎乗をする。
今回は枠順的に外に放り込まれてしまったのだが、何としてもハナに立ちたい馬がいないメンバーなので、外からスッと内に切れ込んでペースを握る可能性が高いと筆者は予想している。
そして、ビュイック騎手の逃げは基本どスロー。
行く馬がアヤザークしかいなければ、道中のペースはかなり落ち着くと見て良さそうだ。
今年の2月に行われたGⅢ・カタールアミールトロフィー(アルライヤン・芝2400m)を思い出していただきたい。
ビュイック騎手が騎乗したレベルスロマンス(Rebel's Romance)はホームストレッチでハナを奪い、そのまま逃げ切りを果たした。
そして、道中のペースは2番手以降の日本馬が頭を上げて掛かり散らすほどに遅かった。
アヤザークがスムーズにハナを切るなら、ああいうペースになるのではないかと考えられるわけだ。
今年の凱旋門賞のペースを決める馬、それはアヤザークとウィリアム・ビュイック騎手になりそうである。
昨年の凱旋門賞は14着に大敗しているアヤザーク。
引退レースとなる今年、どれだけ巻き返すことができるだろうか。
さて、ここまで現地フランスの有力馬をご紹介したが、凱旋門賞は世界各地から馬が集まる権威あるレース。
ここからはフランス国外から参戦する有力馬を見ていこう。
まずはシンエンペラー(Shin Emperor)である。
今更ご紹介するまでもないが、日本の矢作芳人厩舎の管理馬であるシンエンペラーは、2020年の凱旋門賞馬ソットサス(Sottsass)の全弟という血統の持ち主。
今回も前走から引き続き、矢作厩舎の所属である坂井瑠星騎手が鞍上を務める。
日本国内ではGⅢ・京都2歳S(京都・芝2000m)を制し、GⅠ・ホープフルS(中山・芝2000m)とGⅡ・弥生賞(中山・芝2000m)で2着となり、クラシックレースに参戦。
一冠目のGⅠ・皐月賞(中山・芝2000m)で坂井瑠星騎手とのコンビを結成し、これを5着とした後、GⅠ・東京優駿(日本ダービー)(東京・芝2400m)では3着に好走した。
この走りに手応えを得たのか、「ハットマン」こと矢作調教師は凱旋門賞遠征を決断。
そのステップレースとして、凱旋門賞の3週間前にアイルランドで行われるGⅠ・アイリッシュチャンピオンS(レパーズタウン・芝2000m)を選択した。
アイリッシュチャンピオンSは凱旋門賞およびGⅠ・チャンピオンS(アスコット・芝1990m)のステップレースとして、例年好メンバーが集結する有力な前哨戦であるとともに、アイルランド中距離路線の最高峰のタイトルでもある。
当日のシンエンペラーの状態は決して良いものではなく、道中も完全に前壁していたが、それでも進路を確保してからは素晴らしい末脚を発揮。
トム・マーカンドをダービージョッキーにするはずだった漢エコノミクス(Economics)、昨年の英愛ダービー馬オーギュストロダン(Auguste Rodin)に次ぐ3着に食い込んでみせた。
アイリッシュチャンピオンSでは伏兵評価だったシンエンペラーだが、この結果を受けて欧州のブックメーカーでは評価が急上昇。
アークトライアルデー終了時点で、シンエンペラーを凱旋門賞前売り2番人気に設定したブックメーカーも数多くあり、現地フランスでも筆頭候補と見られている。
一度叩いたことで状態が上がってきているとのことで、史上初の日本調教馬による凱旋門賞制覇、また史上初の凱旋門賞兄弟制覇への期待は高まるばかりである。
是非頑張ってほしいところだが、ここでは他の馬と同じく、懸念材料も述べさせていただく。
シンエンペラーの最大の懸念点はソラを使うところだ。
ホープフルSが分かりやすいが、シンエンペラーは先頭に立った途端ソラを使い、最後レガレイラに差されて2着に終わった。
まだ2歳だったから、と言いたいところだが、アイリッシュチャンピオンS前の調教でシンエンペラーに騎乗したクリスチャン・デムーロ騎手は「ソットサスに似ている。ソラを使うところが」とのコメントを残しており、ソラを使うところは変わっていないことがうかがえる。
考えうる最悪のシナリオとしては、シンエンペラーが残り100m地点で先頭に立ち、ソラを使い、ギリギリで差し切られて2着という展開。
こうなると、まさしく2012年の悪夢の再現である。
鞍上の坂井瑠星騎手は逃げ・先行を得意としており、早めに先頭に立って押し切る競馬が最も多い騎手だが、シンエンペラーの場合はそれをやるとソラを使い、最後差される危険がある。
また、シンエンペラーは日本ダービー、アイリッシュチャンピオンSと馬群の後ろ目から進めて差し届かずという競馬が続いているので、最後の末脚でピッタリ差し切るという展開が理想的ではある。
しかし、まだ差し・追込では甘いところがある坂井騎手に、武豊騎手やクリストフ・ルメール騎手が見せる職人芸のようなゴール板ピッタリの差し切りを初騎乗の凱旋門賞でやれ、というのはいささか無茶振りであるようにも思う。
個人的にやってほしいのはライアン・ムーア騎手が時折見せる、捕まりそうに見えて並びかけられるけど、最後の50mでもう一伸びしてゴール板では頭一つ抜け出しているという競馬なのだが、筆者にはこれをやってる騎手がライアン・ムーア以外に思いつかない。
前走メチャクチャ強かった!
現地でも評価が高い!
うおおおおシンエンペラーVやねん!
と思って凱旋門賞を見ると、ちょっと精神衛生上良くないことになるかもしれない──というのは、少なからぬ反感を招くことを覚悟した上で、あえて申し上げておきたいところである。
個人的には「上手く乗れば勝つチャンスは大きい」という印象を持っている。
坂井瑠星騎手生涯最高の神騎乗に是非期待したい。
と、このシンエンペラーに最後差されつつも、アイリッシュチャンピオンSで4着に好走したのがロスアンゼルス(Los Angeles)。
今年のアイリッシュダービー馬であり、エイダン・オブライエン厩舎が管理するキャメロット(Camelot)産駒。
オブライエン師は元々凱旋門賞に6頭登録していたのだが、結局はこのロスアンゼルスがバリードイル勢の1番手ということになった。
鞍上は勿論、オブライエン厩舎のファーストジョッキーであるライアン・ムーア騎手である。
前走アイリッシュチャンピオンSは10ハロンでの戦いだったが、この馬は元々、2歳時から12ハロンのダービーを見据えて使われてきた。
オブライエン師も「距離は伸びれば伸びるほどいい」という評価で、12ハロンの凱旋門賞では前走よりも良い走りを見せてくれるのではないかという期待が大きい。
実際、アイリッシュチャンピオンSではシンエンペラーが3着、ロスアンゼルスが4着だったにも関わらず、凱旋門賞の前売りではシンエンペラーよりもロスアンゼルスの方を高く評価しているブックメーカーも多い。
前走のアイリッシュチャンピオンSではディラン・ブラウン・マクモナグル騎手とのコンビで、いつもよりも後方のポジションになった。
今回はアイリッシュダービーのように前目から中団のポジションを取ってくるのではないかと予想され、ライアン・ムーア騎手との再コンビもあり、最後の先頭争いにこの馬が加わる可能性は高いと見られる。
最終的には2頭出しとなったバリードイル勢のもう1本の矢はコンティニュアス(Continuous)。
昨年のセントレジャーを制し、中1週で凱旋門賞に出走して5着に善戦したハーツクライ産駒の4歳牡馬である。
今年は順調なシーズンとは言い難く、復帰は6月のロイヤルアスコット開催まで遅れた。
それでも今年2戦目のGⅢ・ロイヤルホイップS(カラ・芝2000m)を勝ち切り、4度目の重賞制覇を飾ると、凱旋門賞を見据えてGⅡ・フォワ賞(パリロンシャン・芝2400m)に参戦した。
今年のフォワ賞は出走馬5頭中、凱旋門賞への出走権がないセン馬が3頭を占めた。
こうしたメンバー構成から、果たして本番につながるのか大変疑わしいレースではあったのだが、クリストフ・スミヨン騎手との新コンビとなったコンティニュアスは果敢にハナを切る。
行きたがる馬がいなかったので、ニエル賞のルックドゥヴェガ同様「ハナに立たされた」と言えるレース展開だった。
結局は後方の差し馬の目標にされてしまう形で3着に敗れてしまったのだが、ここを叩いて状態が上向き、かつ多頭数で本来の競馬を展開できればチャンスのある1頭と言えるだろう。
とはいえ、同じオブライエン厩舎のロスアンゼルスが出てきており、かつオブライエン厩舎の主戦ライアン・ムーア騎手はロスアンゼルス──ということで、ラビット(ペースメーカー)役のような使い方をされる可能性も完全には否定できないのも確かである。
かくして父エイダン・オブライエンが2頭出しを敢行する中、覚悟の1頭出し。
調教師として初の凱旋門賞挑戦となるのが、エイダンの長男ジョセフ・オブライエン調教師であり、彼が夢を託すのはアルリファー(Al Riffa)だ。
ウートンバセット(Wootton Bassett)産駒の4歳牡馬で、ジョセフ師自らがセリで見出したというアルリファー。
現在の筆頭馬主はMr. Masaaki Matsushima──日本ではキーファーズとしておなじみ、松島正昭オーナー。
そして勿論、凱旋門賞の鞍上には盟友・武豊騎手を迎える。
アルリファーは2歳時、GⅠ・ヴィンセントオブライエンナショナルS(カラ・芝1400m)を優勝。
クラシックの有力馬となるはずだったが、昨年は順調なシーズンにはならず、しばらく勝ち星から遠ざかった。
その中でも、昨年のGⅡ・ギヨーム・ドルナーノ賞(ドーヴィル・芝2000m)はエースインパクトの2着、今年のGⅠ・エクリプスS(サンダウンパーク・芝1990m)はシティオブトロイ(City Of Troy)の2着など、強敵相手に差のない競馬を展開していた。
そして、松島正昭オーナーが筆頭馬主となった直後のGⅠ・ベルリン大賞(ホッペガルテン・芝2400m)では、相手関係に恵まれた面もあったとはいえ6馬身差の圧勝。
一気に凱旋門賞の有力候補に躍り出たわけである。
ベルリン大賞のレースレベルには疑問符がつく。
しかし、エースインパクトやシティオブトロイなど強敵と戦い続けてきたことと、ベルリン大賞でのアルリファー自体のパフォーマンスは評価できるのではないかと筆者は考えている。
武豊騎手はテン乗りとなってしまうが、久々にチャンスある馬が凱旋門賞で回ってきたという印象で、松島正昭オーナーを無事に成仏させてやってほしいという思いである。
反応が悪いところもある馬で、勝負どころで置いていかれるのではないかという懸念もあるが、こちらも「上手く乗ればチャンスがある馬」と言えるのではないだろうか。
近代競馬発祥国の英国からは、ブルーストッキング(Bluestocking)が参戦する。
4歳牝馬のブルーストッキングは今年まさに充実期を迎えており、重馬場となったGⅠ・プリティポリーS(カラ・芝2000m)でセーフティリードを取ったエミリーアップジョン(Emily Upjohn)を差し切るという強い競馬を見せ、GⅠ初制覇を果たした。
続くGⅠ・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS(アスコット・芝2390m)では牡馬相手のレースとなり、勝ち馬のゴリアット(Goliath)には放されたものの、レベルスロマンス・オーギュストロダン・ルクセンブルクら錚々たるメンバーを抑えての2着。
GⅠ・インターナショナルS(ヨーク・芝2050m)では4着までだったが、前走のGⅠ・ヴェルメイユ賞(パリロンシャン・芝2400m)では有力な3歳牝馬たちを蹴散らし、やはり牝馬の中では抜けた力があるということを証明してみせた。
そして、凱旋門賞には12万ユーロ(約2000万円)を支払っての追加登録を経て出走。
陣営もギリギリまで状態を見極めた上での決断で、状態が良いからこその決断でもある。
凱旋門賞は牝馬優勢のレースでもあり(トレヴ(Treve)とエネイブル(Enable)によるデータ破壊が影響しているというのもあるが)、なおかつ今年は牡馬に抜けた馬がいないという下馬評。
こういう年にこういう牝馬は押さえなければ痛い目を見る、というのが筆者の印象である。
プリティポリーS・KGⅥ&QES・インターナショナルSと後方からの競馬を展開していたブルーストッキングだが、ヴェルメイユ賞で見せた先行策は非常に脅威だと感じられる。
当日もああいう競馬をして、アルピニスタのように華麗な先行抜け出しを見せ快勝するのではないか──という予感がするのだ。
しかし、ヴェルメイユ賞が古馬に開放された2006年以降、ヴェルメイユ賞から凱旋門賞を優勝した馬は2014年のトレヴが最後であり、その前は2008年のザルカヴァ(Zarkava)のみ。
古馬開放から18年が経つ中、歴史的名牝といえる2頭しかいないというのは尻込みするデータではあるが、ブルーストッキングはトレヴ・ザルカヴァに並び立つ牝馬となれるのか──彼女の当日の走りに期待したい。
ちなみに、筆者の本命はブルーストッキングである。
まあボクの予想は当たらないことに定評があるので、それはどうでもいいことだけれども。
最後に、凱旋門賞の大穴といえばドイツ。
ドイツからの刺客、ファンタスティックムーン(Fantastic Moon)を紹介しよう。
ファンタスティックムーンは昨年のGⅠ・ドイチェスダービー(ハンブルク・芝2400m)の勝ち馬であり、パリロンシャン競馬場の芝2400mでは昨年のニエル賞を優勝した実績がある。
今年は地元ドイツにおける凱旋門賞最大の前哨戦、GⅠ・バーデン大賞(バーデンバーデン・芝2400m)にて、今年のGⅠ・サンクルー大賞(サンクルー・芝2400m)などを制しているドバイオナー(Dubai Honor)とトム・マーカンド騎手を撃破しての参戦となる。
ドイツ馬といえば重馬場での穴というイメージが強い人も多いだろうが、このファンタスティックムーンに関して、管理するフラウ・サラ・シュタインベルク調教師は「良馬場でやりたい」と語っている。
実際、ドイチェスダービー・ニエル賞・バーデン大賞など全て良〜稍重馬場で結果を出してきた馬で、重馬場になるなら凱旋門賞は回避する可能性すら示唆している。
ただ、昨年の凱旋門賞11着という走りを見る限り、高速決着になるとトップスピード的についていけないのではないかという懸念があり、いっそ馬場が渋って時計がかかった方が面白い馬ではないかと思うところもある。
12ハロンに高い適性のある馬であることは間違いなく、人気しないなら穴として抑えても面白い1頭──だと思うのだが、なまじ日本では「凱旋門賞の穴馬=ドイツ馬」という認識が強くあるので、全然オッズが美味しくない可能性もありそう。
日本には多分、凱旋門賞ではとりあえずドイツ馬を探してる穴党の競馬ファンが少なからずいるんだよなぁ。
展開予想
ここまで有力馬をご紹介してきたが、最後に展開予想を書き記しておこう。
参考レースを見つつ、各馬の脚質をまとめると以下の通りである。
逃げ
② アヤザーク
先行
④ アルリファー
⑤ セヴェナズナイト
⑦ ブルーストッキング
⑨ ルックドゥヴェガ
⑩ シンエンペラー
⑬ ソジー
⑭ ロスアンゼルス
⑯ アヴァンチュール
差し
⑩ シンエンペラー
⑪ サンウェイ
⑫ デリウス
⑭ ロスアンゼルス
⑮ シュルヴィー
追込
① ザラケム
③ ファンタスティックムーン
④ アルリファー
⑦ ブルーストッキング
⑧ マルキーズドゥセヴィニエ
⑪ サンウェイ
⑫ デリウス
⑯ アヴァンチュール
複数回名前が登場する馬は、過去に先行したり追い込んだりと、色んなパターンがある馬だと解釈していただきたい。
上でも申し上げたが、今回は明確に逃げなければならない馬がいない。
過去逃げたことある馬としてはアヤザークで、ゲート番としては外を引いてしまったのだが、それでもこの馬がスーッと行くのではないだろうか。
ブルーストッキングは3番ゲートであることも考えると、恐らくヴェルメイユ賞と同じ先行策を取る。
アルリファーは武豊騎手が騎乗するということも踏まえ、やや後ろ目のポジションを想定すべきか。
ソジーは先行か中団。
俺の脳内に住むマキシムがそうだと言っている。
多分ロスアンゼルスも似たようなポジションにつける。
ルックドゥヴェガは先行し、シンエンペラーは中団か少し後ろになるのではなかろうか。
ファンタスティックムーンやマルキーズドゥセヴィニエは直線での追込に賭けることになるだろう。
ペースは速くならないと個人的には想定している。
典型的な欧州競馬のパターン、直線まで折り合い専念で末脚勝負になるのではないだろうか。
あまり後ろすぎる馬は避けたいところだが、逃げ馬は目標にされやすい。
オープンストレッチも相まって、どのように進路を確保するか、どこで仕掛けるか──世界の名手たちの駆け引きにも注目したい。
最後に、有力視されている馬として名前を挙げた馬以外で、筆者が期待する馬をご紹介しよう。
ヴェルメイユ賞でブルーストッキングの2着に好走し、今年のディアヌ賞(フランスオークス)でも3着に入っているアヴァンチュール(Aventure)である。
父はシーザスターズ、ヴェルテメール・エ・フレール(ヴェルテメール兄弟)の自家生産馬たる3歳牝馬。
そして勿論、ヴェルテメール・エ・フレールということは、その主戦騎手はマキシム・ギュイヨン。
GⅠではまだ結果が出ていないが、GⅢ・ロワイヨモン賞(シャンティイ・芝2400m)とGⅢ・ポモーヌ賞(ドーヴィル・芝2500m)では圧倒的なパフォーマンスを発揮している。
特に前走ヴェルメイユ賞は、ブルーストッキングにこそ屈したとはいえ、エミリーアップジョンに先着しての2着。
5着だったGⅠ・ナッソーS(グッドウッド・芝1980m)覇者のGⅠ・2勝馬オペラシンガー(Opera Singer)や、6着のフランスオークス覇者スパークリングプレンティを上回っているのである。
凱旋門賞はヴェルテメール・エ・フレールが2頭出しとなり、マキシムは今回ソジーの方に騎乗することとなったが、アヴァンチュールは鞍上にステファン・パスキエ騎手を迎えた。
フランスのトップジョッキーの1人であるパスキエ騎手は、マキシムが騎乗停止となっていた時期に行われたポモーヌ賞でアヴァンチュールに騎乗しており、テン乗りではないということも心強い。
パスキエ騎手が騎乗したポモーヌ賞でのアヴァンチュールは最後方からの競馬をしており、マキシムが乗ったヴェルメイユ賞のように先行するかは分からない。
しかし、もしソジーのペースメーカー的な役割を担うならば、前目につける可能性が高いと考えられる。
凱旋門賞当週に行われる牝馬限定戦であるGⅠ・ロワイヤリュー賞(パリロンシャン・芝2800m)やGⅠ・オペラ賞(パリロンシャン・芝2000m)ではなく、あえてこの凱旋門賞を使ってきた理由は「12ハロンがベスト」だと陣営が見ているからだ。
非常に高い能力を秘めている牝馬で、距離適性も文句なし。
凱旋門賞ではもう少し成長してから買いたい、つまり本当のチャンスは来年以降という気もするが、個人的にはオススメしたい1頭である。
では、最後に川田将雅騎手のありがたいお言葉を胸に刻んでおこう。
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