人間力を高めて軟式野球の頂点へ
AKIRA・中川太地監督(32歳|東洋大牛久―東洋大・準硬式)
突然の監督交代
「AKIRA、監督代わってる」
天皇賜杯千葉県大会が開幕した日、選手名簿を見て驚きました。
今大会、優勝もあるのでは?思っていたAKIRA。
強豪と次々と倒し準決勝に駒を進めるも、何度も全国制覇の経験がある京葉銀行の壁は厚く、準決勝敗退。
それでも見るたびに強く、どんどんよいチームになっていくAKIRAの新監督はどんな方なのだろう。どんな気持ちでこの数か月を過ごしてきたのだろう。準決勝のあと、振り返りながらお話を伺いました。
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監督就任から約3か月で迎えた天皇賜杯千葉県大会。
コロナ禍で軒並み大会は中止となり、社会人軟式野球では天皇賜杯が今年唯一の大きな大会です。
オープン戦で数試合采配したものの、ほぼぶっつけ本番に近かったという今大会。
公式戦初采配となった初戦は「いきなり強豪(松戸市役所)相手でとても緊張しました」と振り返ります。
戦況を見つめる中川太地監督
死のブロックを突破し、準決勝で王者に挑戦
天皇賜杯千葉県大会、AKIRAの入ったブロックは強豪揃い。
初戦の松戸市役所に快勝すると、勢いに乗って次戦の京葉ガスには大量得点を挙げ5回コールド勝ち。
準決勝で待ち受けるのは京葉銀行。
しかし、この勝ち上がり方を見て「AKIRAは京葉銀行も倒してしまうかもしれない」と、周囲もにわかにざわつきます。
迎えた準決勝。
先発の丸山雄大投手が初回に1点を失いますが、自ら適時打を放ち同点に。
次の1点がどちらに入るかといった展開で、AKIRAはミスが相次ぎ、無死満塁のピンチ。
そこで相手のミスを逃さない京葉銀行に適時打、エンドラン、長打とたたみかけられて5点を奪われます。
「タイムを取るか迷いました。回数が限られているので、ここで取ってしまっていいのかと」
無死満塁のピンチでマウンドに集まるAKIRAの選手たち
丸山投手は制球力がよく、大崩れしたところを見たことありません。
松戸市役所戦を2失点完投。
京葉ガス戦は先発し4回無失点。
ただ、この日は京葉銀行相手に初回、2本のヒットと叩きで先制点を許します。
「少し力が入っていましたね」(中川監督)
5点を失った回は守りにミスが出て動揺もあったのか、高めに浮いた球を長打されるなど、らしさを発揮できませんでした。
深川投手(背番号17)にマウンドを託す丸山投手
救援した深川昌利投手が2死三塁のピンチをしのぐと、その後も無安打に抑える快投を見せます。
京葉ガス戦では10-0と大量リードで5回に登板も、制球が定まらず苦しみました。
中川監督はその試合が頭に残っており、なかなか継投に踏み切れなかったと悔います。
「継投のタイミングも、選手起用も、まだまだ勉強することばかり。結局、丸山に全試合先発させてしまい申し訳なかった」
全国制覇するチームとの違い
点差が開いたことで「選手たちの能力は素晴らしい。あとは彼らに任せよう」と期待を込めて戦況を見守りましたが、1点を返すにとどまり、2-6で敗戦。
AKIRAに勝利した京葉銀行は、決勝も盤石の試合運びで優勝し、全国大会への切符をつかみました。
全国制覇を何度も経験している京葉銀行と相対してみて、多くの気づきがあったそう。
「叩きやエンドランもこの2,3か月で取り組んできましたが、ただ仕掛ければいいわけではない。仕掛けるタイミングや打球を転がす位置。相手の取りずらいところにやってくる。全然違いました」
京葉銀行のようなチームを目指して
AKIRAはここ数年野球部を強化しており、現在は独立リーグ出身者がチームの半数を占め、千葉県内では飛ぶ鳥を落とす勢いで上位常連となりました。
ポテンシャルとキャリアを兼ね備えた選手たちの中で、監督自身は東洋大学時代、準硬式野球部に所属。AKIRA入社当時、チームはまだCクラス(社会人軟式野球では一番下のクラス)でした。
2015年に東日本軟式野球大会(2部・Cクラス)で決勝まで進み(結果は準優勝)Bクラスへ昇格。
2017年に高松宮賜杯全日本軟式野球大会(1部・Bクラス)で優勝してAクラス昇格と、チームが躍進してきた過程を選手として経験。
今季も選手としてスタートしましたが、3月に行われた国体の地区予選でまさかの敗退。
その後、前監督の異動。
揺れ動くチームの中、現役を引退してコーチとなり後任を待ちましたが、5月、打診があり監督へ就任しました。
就任して間もなく迎えた今年唯一の大会。
県内で伝統のある強豪チームと多く試合をし、監督としてたくさんの学びを得ました。
企業チームは勝つこと、結果を出すことも求められます。
千葉市内に全面人工芝の専用グラウンドを持ち、練習は土日を含む週5日。
平日も野球に打ち込める時間が十分にあり、強くなるための環境は整っています。
「選手たちの能力は素晴らしいので、技術的なことで僕が教えることはありません。社会人として基本的な挨拶、時間の管理などを徹底して(京葉銀行のように)人間力の高いチームを目指したいです」
AKIRAの専用グラウンド。
軟式野球の頂点へ、再び挑戦が始まります。
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個性豊かな選手たちとともに
AKIRAは独立リーグ出身選手に目が行きがちなのですが、今大会、打撃好調だった岡本拓哉選手は監督同様、大卒で入社。Cクラスから駆け上がってきたチームを知る選手のひとりです。
「実際、彼がチームを引っ張ってくれています。新人の竹谷(翔吾選手)を競わせていますが、まだまだ岡本には及びません」
と全幅の信頼を置いています。
城西国際大出身の岡本拓哉選手。
京葉銀行戦では長打2本を含む3安打の活躍!
また、今年は新人が3人入りました。
そのうちのひとり、植田嵐選手はAKIRAで初めての高卒新人だそうです。
「チームはキャリアのある選手ばかり。いろいろ指導されてパンクしていますが、その姿も初々しくかわいらしいです。若いっていいですね(笑)」
と監督は笑顔です。
京葉工業出身の植田選手(写真右)
個性豊かで頼もしい選手たちが監督を支えています。
準硬式出身でCクラス時代を知り、ポテンシャル高い選手たちと切磋琢磨してプレーしてきた経験はなかなか得られるものでなく、中川監督の下、さらに魅力的なチームになっていきそうです。
あとがき
中川監督の選手時代はうろ覚えなのですが(すみません)、お話しさせていただき、とても謙虚でチームに愛着を持ち、熱心に取り組まれている印象を受けました。
初めてAKIRAの試合を見た昨年の国体予選。
「すごい選手がたくさんいるな」という印象だけだったのですが、試合を見るたびにベンチワークなどチーム力がよくなっているのを感じます。
監督にそう伝えると、大会を運営する千葉県野球協会のスタッフの方々にも「チームがよくなっている」と言ってもらうことが増えたそうです。
一昨年、昨年と私は天皇賜杯(全国大会)を撮影して、軟式野球界のトップチームは技術もさることながら、ベンチワークが総じて素晴らしいと知りました。
グラウンドとベンチの距離が近いというか、一体感、束になって向かっていく圧力があります。
だからと言って、相手をとやかく言うようなヤジは一切聞こえず、自分たちのやるべきこと、「今」に集中して途切れず声かけをしています。
今回、京葉銀行に負けたことを選手たちはどう受け止めているでしょうか。
来春、さらにパワーアップしたAKIRAのみなさん、そして中川監督にお会いできる日が待ち遠しいです。
丁寧にサインを出す姿が印象的でした
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千葉には本当によいチーム、選手がたくさんいて、球場で時間を共有できることが本当に楽しいです。
これからも社会人軟式野球で頑張るみなさんの姿をお届けできればと思います。
中川監督がとても興味深いことをたくさん話してくださったので、頑張って書きました!
最後までお読みいただきありがとうございました。
(おまけ)
記事をある程度書き終え、過去のAKIRAの試合写真を見ていると、中川監督の現役時代を発見しました!
昨秋、初優勝を飾った蒼龍旗の決勝(京葉ガス戦)にスタメンで出ており、こんなツイートもしておりましたので貼っておきます。
ああ、この笑顔が素敵な選手が新監督だったのか~