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【白い巨塔2003】最終回の財前と里見について
[サムネイルは白い巨塔(2003年版) 第21話より]
⚠️ネタバレめちゃくちゃあります
⚠️個人的解釈たくさんあります
⚠️かなりブロマンス目線です
初めてこの最終回を見た時2人の関係性に脳を焼かれてしまった私です。
何回も見ると「そういえばあれってこういうこと??」という新しい発見があったりします。
財前と里見に絞って、たくさん深掘りしていきます。
財前が里見の病院を訪れるシーン
〜財前の絶望〜
財前が自分の病状をはっきりと悟り、崩れ落ちて嗚咽を漏らすシーン。
あれは財前が人生の中で最も絶望した瞬間ではないでしょうか。
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白い巨塔(2003年版) 第21話,フジテレビ
この時の財前は「誰も信じられない」状態だったと思います。
この母との電話シーンの前に、更に柳原とのやり取りで財前が疑心暗鬼になっているのが分かるシーンがあります。(再放送だとカットされがちです)
そんな中、再び病院を抜け出して里見の所に行くのです。
財前にとって、里見だけが信じられる存在だったのです。
「ここへ来たのは、君なら事実を曲げず、全てを告知してくれると思ったからだ」
この台詞の通り、里見は「嘘をつかない」「真実を隠さない」人間です。
前編から後編まで、里見のそんな誠実さが財前を苦しめてきました。
しかし最後に財前を救ったのもまた、その里見の誠実さだったのです。
財前に言われるがままに、里見が財前の有利になるような嘘を付く人間になっていたらどうでしょうか?
財前は誰にも救われずに終わっていたことになります。
〜病院にとんぼ返りする里見〜
里見は民間病院に移っても相変わらず残業しがちなことが描かれていました。
ということは里見の帰宅時間は結構遅かったと思います。
そしてあと一歩で家に入れるという時に、財前の電話を受けて、ただならぬ様子を察して病院に戻ってきてくれたのです。
里見の動揺や不安は、誰もいない真っ暗な病院、怪しく差し込む光、小走りの里見などで表現されています。
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白い巨塔(2003年版) 第21話,フジテレビ
これも再放送ではカットされがちですが、フルだと里見が財前のCTを撮るシーンがあり、財前の状態を知った里見が絶望的な表情を浮かべます。
そして里見に真実を告げられ、自分の病院に来るように言われた財前。
「ありがとう里見、嬉しいよ」
この言葉と表情は、財前の本心だと思います。
信じた通りに真実の告知をしてくれたことも、自分を助けようとしてくれていることも、財前は本当に嬉しかったと思います。
〜里見の誘いを断る財前〜
しかし「ウチの病院に来い」という里見の誘いを財前は断ります。その理由は「大学教授としての建前」だと、諦めたような微笑みを浮かべつつ語ります。
確かにそれも本当に理由の一つかもしれません。
でも里見の言うように財前が心から望めば「どうにでもなる」と思います。
令和版の白い巨塔を私は未視聴ですが、令和財前は里見に主治医になって欲しいと頼んだと聞きます。
財前は本心では里見の誘いに乗りたかったと思います。
じゃあどうして財前は里見の誘いを断ったのでしょうか。
可能性①里見と一緒にいたら未練が残るから
残された時間を里見と過ごすのは、財前にとって幸せな終末だと思います。
だからこそ里見と過ごすことは、生への未練と執着が芽生えてしまうと思ったのかもしれません。
後述のラストシーンを見るに、財前にとって里見は「成し遂げたかった夢そのもの」である可能性があります。
そんな里見と最期の時間を過ごすのは、ある意味ではとても辛いのかもしれません。
可能性②大学教授としてのプライド
教授としての建前とはまた別に、財前には「最期まで浪速大学医学部の教授でいたい」という意地のようなものがあったのかもしれません。
必死で手に入れた何もかもをこれから失うとしても、死ぬ瞬間まで医師でいたい気持ちがあったのでしょう。
可能性③里見の立場を慮った
里見主導で財前を民間病院に移らせた場合、大学病院のメンツを潰された鵜飼が里見の病院(あるいは里見本人)に何らかの圧力を掛けないとも限りません。
大学病院と民間病院の力関係については私は門外漢なので分かりませんが、個人的に何かしらの嫌がらせをすることは可能ではないでしょうか。
しかしそれをそのまま里見に伝えても、里見は「そんなことどうでもいい」と言い張るでしょうし、あえて言わなかったのかもしれません。
今のところ思いつくのはこの3つくらいですが、どれか1つではなくこの全てである可能性もありますね。
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白い巨塔(2003年版) 第21話,フジテレビ
〜里見の熱い想い〜
「なぜ諦めるんだ。どんな時でも、決して諦めず必死に戦ってきた君じゃないか。自分が望む治療を、自分で選ぶべきだろう」
財前の「必死な戦い」とは、里見との戦いでもありました。
財前の戦いは、里見の信念とは決して相容れないものです。それでも、財前が財前なりの信念で戦ったことを称えているのがこの台詞だと思います。
しかし「自分が望む治療を自分で選ぶべきだ」と熱く主張する里見に、財前はキョトンとした様子でした。
「どうしたんだ里見?死を前にした患者を相手に声を荒げたりして、いつも穏やかな君らしくないぞ」
それに対する里見の返事は知っての通り。
「君を助けたいんだ。俺は君を助けたいんだ!それが無理なら、せめて君の不安を受け止めたいんだ。俺が受け止めたいんだ」
これ、医者として以上にただの個人としての言葉ではないでしょうか。
財前が「死を前にした患者に……」と言うのに対して「違う、患者じゃなくて君に言ってるんだ!」と伝えているかのようです。
少なくとも一般の末期患者には里見は絶対これは言わないと思います。
明らかに私情を抑えられていないのは、林田加奈子への対応と比べたら一目瞭然です。
2回ずつ繰り返される「助けたい」「受け止めたい」、ダメ押しのように「俺は」「俺が」と自分を主語にしています。
自分が主語というのはつまり、非常に個人的な想いということです。
そして「俺は」以上に「俺が」という表現は、「他の誰でもなく、俺が」という意味合いが強く含まれています。
あるいは、「君がどう思おうと、俺がそうしたい」の意味かもしれません。
「他の誰かではなく、俺が君の不安を受け止めたい」
「君がどう思おうと、俺が君の不安を受け止めたい」
意味としてはこの2択だと思います。
どちらにせよ、かなり強い愛情とエゴを含んだ言葉です。
【2024/11/29追記】
どちらかというと「受け止めたい」の方に重きを置いて考えていたのですが、よく考えたら「助けたい」の方も相当ですね。
だって、財前が助からないことなんて里見が分からないはずがないんですよ。
それでも助けたかった。100%無理でも、何らかの奇跡に縋ってでも、なりふり構わず助けたかったのだと思います。
科学的でも論理的でもない、里見の感情でしかない言葉なんですね。
その上で「それが無理なら」と言っているんです。
無理だと認めることは本当に辛かったのではないでしょうか。
「無理ならせめて不安を受け止めたい」は、里見自身かなり断腸の想いで絞り出した言葉ではないでしょうか?
それが叶わなかったことは、やはり里見も無念だったのでしょう。
(追記おわり)
〜財前の心に響いた里見の想い〜
里見に「君を助けたいんだ」と言われた時、財前は「何言ってんだこいつ」とでも言わんばかりに「僕は助からんよ」と呆れ笑いを零します。
しかし直後、「俺は君を助けたいんだ!」という里見の強い語気に財前の表情は一変します。
心に突き刺さったような何とも言えない表情を見せ、黙ります。
その後、「それが無理ならせめて(略)」の言葉を聞いている時、どんどん近づいてくる里見に対して一切目を合わせませんでした。
そしてその言葉を聞き終わり、ようやく口を開いて里見の目を見た後に、財前は言葉に詰まるのです。
「里見。僕に不安はないよ。ただ……すまん。ただ……無念だ」
里見が病院に駆けつけてからずっと、表面上はそれなりに平気そうな態度だった財前。
ここへきて財前が必死に堪えながらも里見の前で涙を見せたのは、里見の言葉が財前の心に響いたからだと思います。
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白い巨塔(2003年版) 第21話,フジテレビ
里見に軽口を叩いたり、時折笑みを零していた財前ですが、実際はやはり大丈夫ではなかったのだと思います。
そんな時に里見にこんなことを言われたら、泣かない方が無理ですよね。
〜上がらない右手〜
財前はいつものように右手で里見の肩を叩こうとしますが、脳転移の影響で右手が痺れ、上がりません。
これまで、特に前半では、財前は誰かの肩をポンと軽く叩く癖があることが描写されていました。
それは全てこの瞬間のためだったのだと理解させられます。
代わりに左手で肩をポンと叩き、一瞬微笑みを見せて去っていく財前。
おそらく財前は、「里見に会うのはこれが最後」という想いがあったのではないでしょうか。
あの部屋を出た後は、きっと涙を堪え切れなかったのではないでしょうか。
去っていく財前を、里見は黙って見つめるしか出来ませんでした。
引き止められず、死を覚悟して去っていく患者に、里見は何も言えず、何もできない。
これは林田加奈子の時と同じですね。
財前が出て行った後のドアノブに手を掛ける里見からもまた、「無念だ」という想いが滲んでいるようです。
ただ、財前は里見との対話で間違いなく救われていると思います。
この直後に、再放送ではカットされがちな名シーンが本来はあります。そのシーンでの財前の様子を見れば分かるのですが、
非常に穏やかに、周囲の優しい嘘を受け入れ、周囲の人々と別れの準備をし始めています。
里見の告知を得る前は疑心暗鬼で絶望のどん底にいた財前が、里見と会った後では人が変わったようになり、自分の運命を受け入れ始めたのです。
〜意識混濁の財前〜
財前はついに倒れ、意識を失い、誰が呼びかけても反応しなくなります。
そこに里見が到着し、妻の杏子が「里見先生が来たわよ!」と呼びかけると、里見という単語に反応したかのように財前は目を覚まします。
そして、今度は目の前の鵜飼を認識できずに暴言を吐いたり、メスを寄越せと怒鳴ったりします。
しかし里見が手を握ると、財前は喚くのを止めて、里見を見てから目を閉じます。
この流れを見ると分かるように、財前はもはや里見のことしか認識していません。
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白い巨塔(2003年版) 第21話,フジテレビ
ここで義父の又一が「2人きりにしまひょ……」と言って里見以外全員退室させるのですが、「なんで!?」と思った人も多いでしょう。
又一はそもそも裁判のことで里見を嫌っており、病室に里見が駆けつけた時も「あんた、あんた……」と憎々しい感情を向けているようにも見えました。
しかし財前が里見のみを認識し、里見を呼び、里見に手を握られて落ち着いたのを見て、
息子が最期にそばにいて欲しいのは里見なのだと悟ったのでしょう。
「それにしても2人きりにする必要までは無いのでは?」
と思うかもしれません。
でも、この後の財前の様子を思い出して下さい。
全ての殻が剝がされて、心の奥の全てを曝け出している様子を、財前は他の誰にも見られたくなかったのではないでしょうか?
結果的に、又一は息子の尊厳を守ってくれたのだと思います。
〜財前の夢と最期の言葉〜
今わの際の財前の、うわ言の内容は大きく分けて2つです。
・佐々木さんのこと
・里見のこと
前者は「後悔」、後者は「未完の夢」。
無意識の中で表面化した財前の深層心理、その一番深いところにあるのがこの2つだったのでしょう。
里見に手を握られた財前が見ていたのは、これまでに何度も誘ってきた里見がようやく癌センターの内科部長を引き受けてくれるという幻覚でした。
「これで僕の癌センターも盤石だ」と語る財前。
財前の夢にとって里見がどれほど必要不可欠だったのか、この短い言葉に表れています。
そして、自身がセンター長・里見が内科部長になった癌センターへの入院を佐々木さんに勧めます。
最後まで決して自分の非を認めなかった財前ですが、心の奥底ではきっと佐々木さんに対しての罪悪感と後悔を抱えていたんですね。
そして次に「里見、一言くらい祝いの言葉を……」と口にする財前。
これは、教授選挙に勝利した財前が里見に言った言葉を思い出せば、意味が分かります。
「そういえば、君からまだおめでとうの一言を貰っていなかったな。実は僕は、君に一番祝ってもらいたかったんだが」
里見には「祝えない」とバッサリ斬られましたが、財前の「里見に一番祝って欲しい」という言葉はきっと本心だったのでしょう。
財前はずっと、世間よりも誰よりも、里見に認めて欲しかったのだと思います。
そして、財前の最期の言葉。
「世界は……代わりの人間が……2人で……2人で……里見……」
この言葉には色々な解釈があると思うし、掘り下げるとキリがないですが、以前別の記事で詳しく掘り下げたので、良ければご参照下さい。
私は財前のこの言葉は
「里見と2人で理想の医療を実現し、世界を変えたい」
という意味だと思っています。
財前が必死に教授を目指したのも、センター長を目指したのも、裁判を戦ったのも、最終的には、里見と2人で理想の医療を追い求めたかったからだと思います。
どんな地位を手に入れても、里見が隣にいなければ意味がなかったんでしょうね。
〜財前の手紙〜
財前が里見宛てに残した手紙は、あくまで医師として、公的な立場での言葉のように思えます。
これも詳しくは別の記事で掘り下げているのですが、この手紙には財前の里見への深い信頼が込められています。
まず、「癌治療の発展の一翼を担える数少ない医師」であるとして、里見の癌治療への貢献を願っています。
財前の里見への信頼と評価は、最初から最後まで天井知らずでした。
でも財前の本当の願いは、里見が一翼になることではなく、
里見と一緒に双翼になることだったと思います。
叶わなかった願いを、せめて託したい……手紙に滲んでいた涙からは、そんな想いが感じられて切ないです。
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白い巨塔(2003年版) 第21話,フジテレビ
そして、里見に「能力を持つ者」としての責任も説いています。
これは「民間の小病院なんかでくすぶってるなよ」ということだと思います。
最後に、個人的に1番のポイントなのは、「自分の屍を里見の研究材料として役立ててほしい」という部分です。
自分の屍を、最終的に里見に託したのです。
財前は死後に、里見の献体になることを望んだのです。
これが最上級の信頼でなくて何なのでしょうか。
プライドの高い財前が、自分の屍を捧げても良いと思えるたった1人の人間が里見だったのですから。
〜里見のこれから〜
財前の手を握り、家族を差し置いてたった1人で財前を看取った里見。
財前の最期の言葉は「2人で、里見……」でした。
そして財前からのあの手紙。
こんなの一生財前に縛られて生きるしかないですよね。
強い言葉を選ぶなら「凄まじい呪いを里見に残していった」とも言えます。
だって里見は絶対に一生財前を忘れられないこと確定ですからね。
でも里見はきっと、財前の想いは自分が死ぬまで大切に背負い続けてくれると思います。
最終回後(特別編)の里見については前述の別の記事で語っているので、良ければご参照下さい。
里見は財前の献体で研究したと思いますが、何を思ったのでしょうか。
里見は今でもどこかで医師として働いているでしょうか。
どんな風に生きているでしょうか。
おそらく続きを見られることは無いと思いますが、いつか何らかの形で知ることが出来たら嬉しいですね。
お読み頂き、ありがとうございました。
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白い巨塔(2003年版) 第9話,フジテレビ
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白い巨塔(2003年版) 第21話,フジテレビ
なつめ
白い巨塔(2003年版)
医学界の知られざる実態と人間の生命の尊厳を描いた山崎豊子の代表作「白い巨塔」を、25年ぶりに再連続ドラマ化。
白い巨塔(2003年版)はFODでのみ配信中(上記リンクより)ですが、2024/11/29現在Tverでも無料で順次配信中。
以前書いた財前と里見の記事です↓