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Ryoji Ikeda "ultratronics" @WWW X
数学的に緻密に配列された電子音からなる美しい音を創り、今や世界的なアーティストとなったRyoji Ikedaの10年ぶりの新作 "ultratronics" が渋谷WWW Xで世界初演とのこと、手元不如意のため親を質に入れて拵えた金で参戦。
サイン波でブリブリした質量のあるビープ音と、生音っぽくはありつつもコンプレッサーをかけまくった重たい破裂音、または抽象的な唸りそのもののようなエクストリームなベース音による美しいコンストラクション。Ryoji Ikedaの音は爆音で浴びてこそなのではと常々思っていたが、ここまで素晴らしいとは思わなかった。
前半部は、これまでの彼の作品にはあまりイメージがなかった踊れるビートに、ハーシュなノイズとビープ音が乗り、更にはボコーダーも重なって、クラフトワークとメルツバウとエスプレンドール・ゲオメトリコが一緒になったみたいな混沌。体の芯の、自分も知らないところから沸き立つようなムチャクチャに踊れるビートだったのに、みんな無機的なノイズが映ったスクリーンを見ながら棒立ちしているのが何とも世界のRyoji Ikedaのライブらしい。皆さんよく訓練されていらっしゃる。
そして後半部は長尺の、相変わらずのハーシュノイズ、ビープ音と、一方で北の夜空にたなびくオーロラのような、淡く美しい音が遠く朧げに鳴り響く不思議な音像。
スクリーンにはジオメトリカルな地形図から描線が抽出、座標化され、これと並行してICチップのような回路図から0と1の配列が生み出されていく。
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ユクスキュルの『生物から見た世界』などに詳しいが、人間が自分の感覚器官から得られた情報から自分なりに世界を構築するように、マグロにはマグロの、蝶には蝶によって構築された各々の認識世界があるらしい。
また18世紀のオランダの哲学者スピノザは、世界とは神そのものであり、これを認識する各々の主体に、それぞれに則した方法で神(世界)が認識されるのだと考えていた。
そうすると、PCにはPCの、入力された情報を独自のやり方で綜合することで立ち上がる、彼らだけの独自の認識世界があるのではないか。もしそうだとすれば、既に現在広く行われていることではあるが、入力された情報とその定義の一対一関係を超えて、情報同士が相互にニューラルネットワークとして連関し合った場合、そこに生まれるものは、我々が軽々しく「AI」と呼ぶ以上の何かとてつもないものなのではないか。
命令したら思ったとおりに動くようになるということと、彼がどんな内面世界を持っているかということは、全く別の次元の事柄であるように思う。
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そんな他愛もないことを考えていると、終盤には音像もスクリーンの記号も無数に細かくなり、それらがやがて一つの有機的な表面を形成したところで、ビッグバンがおきたかのような激烈なハーシュサウンドの嵐。鼓膜を通過して脳が直接揺さぶられ、これ以上これを経験していると自我が溶け出してしまうのでは、というギリギリのあわいで無音、終幕。
やはりそこには何かが、生まれていたのかもしれない。
サウナに行って汗を流すよりも、Ryoji Ikedaを定期的に爆音で浴びた方がよっぽど細胞の配列から綺麗に「整う」んじゃないかと真剣に思いました。
"ultratronics" は12/2発売だそうです。