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2021年6月の北方領土での軍事演習のまとめ(2)
前回の(1)で、この軍事演習のプロデューサーがウクライナ革命の時に「民間人義勇部隊を装ったロシア軍部隊」のオペレーションをしてた経歴があるらしい話をしましたが、今回は演習の背景・目的・想定についての話です。
普通は背景(なぜしなければならないのか?)→目的(何のためにそれをするのか?)→想定(誰が何をするのか?)の順番で考えるのですが、帰納法的に考察する事になっているので、まず想定から考えてみます。
◯ 想定(誰が何をするのか?)について
演習を短くまとめると、「サハリンと北方領土での着上陸とその対処」になると思います。従って、敢えて大掛かりな対抗式演習を実施するような場所は、「敵が着上陸しそうだな」とロシア軍が考えている場所と考えられます。
話は前後しますが、着上陸って何や?と言う話をします。上品に「水陸両用作戦」とも言いますが、要は海を渡って殴り込みをかける事です。
この作戦に必要な要素は、海を渡っている間安全である、つまり海と空で味方が優勢である事、また崖絶壁荒浪バッシャーンの日本海演歌じゃなくて、美ら海砂浜さざ波カモメの声の琉球民謡が似合う上陸適地がある事、そして着上陸部隊にかなり高い確率でそこにある敵の防御陣地をやっつけることができる戦力がある事等(気象海象・陸海空部隊の統合運用能力・何よりも運)です。
ここまでの話をまとめると、
演習実施場所(サハリンと北方領土)=「敵が着上陸しそうだな」とロシア軍が考えている場所
=敵が海空優勢を取りやすく、上陸適地がある場所
=ロシア軍の弱点
と言う事になりそうですね。
当然、演習はそのような弱点の強化のためにするものですから、今回の「サハリンと北方領土での着上陸とその対処」演習の主役は着上陸に対処する部隊の方になると考えられます。
つまり、この演習の想定は「サハリンと北方領土に駐留する部隊が対着上陸作戦をする」となります。
従って、着上陸部隊の方はあくまでもスパーリングパートナーに過ぎないと考えるのが自然だろうと思います。着上陸部隊が、海空優勢の根拠となる空母・潜水艦等の艦艇グループを伴っていなかった事も納得できます。
◯ 目的(何のためにそれをするのか?)について
次にこの演習の目的ですが、国防省機関紙に「ロシア東部国境における国家軍事的安全保障のための陸海空統合部隊グループの運用を学習」とあり、前述の想定からも「ロシア東部国境の島嶼部の防衛」である事が窺えます。
特に島嶼部防衛というのは、孤立無援になりやすく(所詮本土の方が大切ですから)、逃げる事もできず、戦闘が長期化すると部隊が自壊(弾なし・飯なし・燃料なし・やる気なし)してしまう恐れがあるので、短期間に着上陸部隊の戦力を減少し、「こりゃムリ。着上陸ヤメた。帰ろ」と敵に思わせる程圧倒的な強さ(相手十分からの横綱相撲。白鵬みたいじゃダメ)が必要になると考えられます。
一方で経済的な面から見ると「いつ敵が着上陸するか分かんない所に、平時からそんなにカネ出せるか」となります。つまり、もともとそう強くない部隊に過大な成果を求めるのが島嶼部防衛の特性みたいです。
ちょっと話が長いですね。背景の話、つまり、なぜロシア東部軍管区は島嶼部の防衛を訓練しなければいけないのか?の話は次にしたいと思います。
ここまでの話でこの演習の目的と想定は、「ロシア東部国境の島嶼部の防衛のために、サハリンと北方領土に駐留する部隊が対着上陸作戦をする」と上手くまとまっているので、背景まで一貫性が繋がるといいですね。