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2021年6月の北方領土での軍事演習のまとめ(3.2)

 お久しぶりです。前回のまとめ(3)で、「18師団が防御陣地で戦うため、どのように組織立てしているかについて、つまり、②編制とその特性は次にします」と見大栄を切ったのですが、今回はその前提の話になります。
 詳しい方はスルーしてください。

「機関銃・砲兵」部隊って何?

 最初は「機関銃・砲兵」部隊って何?。で、それが要塞やら防御陣地とどう関係あるの?と言う話です。
 かなり長いこと色々探して、やっと見つけました。
 wikipediaのロシア語版のカポニールと言う項目です。

Капони́р (фр. caponniere — ниша) или полигональный фронт — фланкирующее сооружение для ведения флангового огня по двум противоположным направлениям.
カポニール(フランス語caponniere 窪み)あるいは多角型要塞形式の戦線とは、2つの別方向での側面射撃を行うための側面攻撃施設である。
Представлял собой сводчатое, присыпанное землей помещение, устраивавшееся внутри крепостного рва и вооружённое пушками[1], для обстрела неприятеля в случае штурма. Такого рода капониры известны с XVII века.
要塞壕の内側に点在して設置された丸天井の建物で、襲撃の際敵を射撃するための大砲によって武装している。この種のカポニールは17世紀から有名になった。

(画像もhttps://ru.m.wikipedia.org/wiki/%D0%9A%D0%B0%D0%BF%D0%BE%D0%BD%D0%B8%D1%80#:~:text=%D0%9A%D0%B0%D0%BF%D0%BE%D0%BD%D0%B8%CC%81%D1%80%20(%D1%84%D1%80.,%D0%BE%D0%B1%D1%81%D1%82%D1%80%D0%B5%D0%BB%D0%B0%20%D0%BD%D0%B5%D0%BF%D1%80%D0%B8%D1%8F%D1%82%D0%B5%D0%BB%D1%8F%20%D0%B2%20%D1%81%D0%BB%D1%83%D1%87%D0%B0%D0%B5%20%D1%88%D1%82%D1%83%D1%80%D0%BC%D0%B0.)

 まとめると、 要塞の周囲に掘った空堀の所々に機関銃や大砲を設置し、空堀に入った敵を逃場のない方向、つまり両サイドから撃ちまくると言う防御陣地がカポニールらしいです。
 穴に落ちて横を見たら、右にも左にも大砲があると言う笑えない感じですね。

 そして、恐らく、要塞の中で機関銃や大砲を撃ちまくっている部隊が機関銃・砲兵部隊だろうと思います。

 前回のまとめ(3)と重複するのですが、「機関銃・砲兵部隊」は、防御陣地とセットになっていると言う点で陣地防御専門部隊であることは間違いないようですね。
 これで安心して話が部隊編制に進めそうです。

一般的な軍隊の編制とイメージ

 もう1つ、軍隊の編制をまず整理します。こんなのを詳しく知っている人の方がヘンですし。
 では、エクストリーム現代社会!軍隊の編制へーん!

 さあ!やって参りました!
 18師団の地位は、上位から、陸軍(国家全土担当)→東部軍管区(シベリア・極東担当)→第68軍団(サハリン・北方領土担当)→第18機関銃・砲兵師団(北方領土担当)となります。一方、サハリンを担当しているのは第39自動車化狙撃(歩兵)旅団です。

 イメージとしては、68軍団が係長で39旅団が同僚、18師団が社員(自分)です。先の「大陸からの増援」とは、自分を助けるために他の係が残業を手伝ってくれる感じですね。まずないけど。
 また、まとめ(1)で出てきた演習統裁官のセヴリュコフ東部軍管区副司令官は、18師団から見れば課長級です。
  「課長がわざわざ、自分の仕事をチェックしにデスクまでやって来る」が、この演習の参加部隊の感じるイメージに近いと思います。来ても目を合わせたくないですね。

 派手に始まったわりに、鬱展開になりました。すいません。うちの職場が悪いのです。

 
で、師団とは、「一定期間、単独」で戦闘できる部隊単位と言われています。
 「一定期間」とは、補給や整備等の後方支援部隊を持つことで、戦闘部隊の消耗を減らし、戦闘を継続できると言う意味です。
 「単独」とは、状況の変化に対処できる各種の戦闘部隊を持ち、それらを自由に指揮できると言う意味です。つまり、師団は自主的な活動を継続できる最大の部隊組織です。

 「自主的な活動を継続できる」と言うのは、アニメの「映像研に手を出すな!」に例えると分かり易いと思います。
 浅草氏や水崎氏がどれだけアニメーションを作れても、部室や道具を調達し、継続的に作品のプロデュースやスケジュール管理ができる金森氏がいないと、映像研は「宴じゃ!宴じゃ!」ばかりで、活動は継続できません。
 んまぁ、それはそれで楽しそうですが。

 (投稿者注:埋め込み出来てうれしいです)

 師団の保有する戦闘部隊は連隊と言います。師団の一般的編制は、おおざっぱに
  師団=連隊×3~4+戦車・火砲等の連隊+後方支援部隊
  連隊=大隊×3~4+戦車・火砲等の大隊
  大隊=中隊×3~4+戦車・火砲等の中隊
  中隊=小隊×3~4
と見事なピラミッド型になっています。

 小隊が30人程度、学校の一クラスとほぼ同じです。一学年4クラスの中学校なら、一学年で中隊、全学年で大隊みたいな感じです(軍の編制に学校を例えるのは、自分でも不謹慎だと思います。ごめんなさい)。

戦場での中核となる大隊とその防御戦闘

 人員数のイメージが着いたところで、大隊に注目して説明します。
 この部隊規模は、前述のように戦車や火砲も保有していることから、戦闘力に幅がある上、人員数もお互いに直接的コミュニケーションが取りやすい(顔見知りがあちこちにいる)程度にまとまっています。つまり、戦闘力と柔軟性を兼ね備えた最小の部隊単位で、強くて小回りが利くため、戦場での中核部隊になります。決して雑魚キャラではありません。ブラックな職場ダンジョンで仕事に追われる誰かと同じです。
 
 では、大隊は実際にどのように戦闘しているのでしょうか?

 一応、この記事はロシアの防御専門部隊についての話ですから、ロシア軍の大隊の一般的なディフェンスのやり方を下に紹介します。
 「戦史の探求」と言う、古今東西の戦史を詳しくまとめてある立派なブログから、こんな私の記事に使わせてもらって良いのだろうかと恐る恐る引用させてもらったものです。ソ連軍の1987年士官用参考教材『戦術』に載っている自動車化歩兵大隊の防御(投稿者注:要塞形式ではなく、一般的な大隊による野戦での防御)の例だそうです。

2021年02月8日トレフォイル隊形と2梯隊式防御_ソ連軍の戦術的防御改革議論(http://warhistory-quest.blog.jp/21-Feb-09)

 図は、敵側が左として書かれています。左側から説明しますね。

 まず、トゲトゲ線が陣地です。前回のgoogle earthの画像に似てます。短いのが1本、長いのが4本あります。図には反映されていませんが、鉄条網や地雷何かも設置されています。
  一番左の短い1本のトゲトゲ線は、戦闘前哨部隊(第3中隊の第3小隊と書かれています)です。前哨戦なんて言葉によく使いますよね。
 次の長いトゲトゲ線が大隊の第1線陣地で、上から第1中隊、戦車小隊、第2中隊からなる第一線部隊が並んでいます。 頭に何か付いてる三角形が中隊司令部、菱形が戦車、五角形が戦闘車両です。よく見るとこれらも陣地構築してますね。 
 そして、第2・3線陣地の間にいるのが予備部隊です。戦車や戦闘車両が陣地が迂回されないか左右を警戒してますね。もし、相手が第1線陣地迂回したり、突破したりしたら現場に急行してやっつけます。そのため、陣地はないようです。
 第3・4線陣地の間には、第3中隊、大隊司令部、自走高射砲、迫撃砲がいます。第1・2中隊の戦況によって大隊長が第3中隊を新たに投入したり、交代させたりします。
 до 5000мとかの数字は、5000m未満の意味です。
 この図では、大隊は正面幅5kmを防御し、戦闘前哨を第1線陣地から2km前方に派遣(戦車小隊の射程内、つまり戦闘前哨を掩護できる距離)しているようです。

 陣地防御専門でない一般的な部隊も結構しっかり防御してますよね。
 それより、この資料の存在が凄いです。「戦史の探求」の執筆者の方、ありがとうございます。

  

 機関銃・砲兵部隊の名称、軍の編制、その中核の大隊、そして大隊の防御戦闘と来たところで、今回は終わりです。

 実際、軍隊の組織には編制(平時の組織)と編成(戦時の組織)があったりして、ややこしいです。
 言葉の正確な意味より、イメージアップの方を重視して説明したつもりですが、上手くいったか少し不安です。特に「一定期間、単独で戦う」ために必要な機能、つまりマネジメントのイメージを説明するのが激ムズでした。芸能事務所とタレントの関係とかで説明しようとしたのですが、大体私自身がよく分かってない!
 
 軍隊の編制は、民族、時代、期間、地理、相手、戦い方、軍人のメンタル等によって異なります。正解はありません
 例えば、19世紀にイギリスが南アフリカを植民地化しようとしたズールー戦争では、大砲や機関砲を装備したイギリス部隊が、槍と盾で武装した戦士からなる現地軍に敗北した事例もあります。

(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BA%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BC%E6%88%A6%E4%BA%89#/media/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB%3AGuerriers_zoulous.jpg)

 従って、ある部隊の編制を調べれば、その軍隊が、その時、そこで、どう戦おうとしているかが推察できると思います。

 で、次回は、ついに18師団の編制をやります。

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