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北方領土での軍事演習と情報戦

(タイトル画像の引用先: https://rgazeta.by/ru/society/boi-bez-pravil-informacionnaya-vojna-vyshla-na-novyj-uroven-cinizma.html)

お久しぶりです。毎日毎日アップデートされるウクライナ情勢に複雑な気持ちになる方も多いと思います。

大韓航空撃墜事件以来のバッシングを受けているロシア関係者の方も居るかもしれませんね。当時、ロシア語を勉強していただけで、「何て酷い事をする人達なんだろう。民間機を撃墜するなんて!」と白い目で見られた世代も居たようです。

私も、世間様からそれなりに嫌われるロケンロールな生活を送っています。

さて、ウクライナ侵攻の最中、
①3月25日にロシアのインタファクス通信社、
②4月1日にイタルタス通信社が北方領土での軍事演習に関する報道をしました。
また、
③1日に北海道のローカルテレビ局UHB等が以下の報道をしました。

今回は、これらの内容から、ロシア側の狙い、つまり演習を通じたメッセージを考えたいと思います。

①3月25日の報道
主な特徴は訳文の後で紹介します。

РФ проводит военные учения на Курилах с 3 тыс. человек
ロシア、3,000人の軍事演習をクリル諸島で実施
25.03.2022 8:17:41
       Москва. 25 марта. ИНТЕРФАКС -
 Более 3 тыс. российских военных и сотни единиц техники привлечены к  учениям на Курильских островах, сообщили в пресс-службе Восточного военного округа (ВВО).
 東部軍管区報道局で、軍人3,000以上及び機材数百がクリル諸島で演習に参加すると発表された。
 "Всего к занятиям по боевой подготовке привлечено более 3 тыс. военнослужащих пулемётно-артиллерийского соединения армейского корпуса ВВО на Курильских островах и задействовано несколько сотен боевой и специальной техники", - заявили в пресс-службе.
 同報道局は、戦闘訓練には、クリル諸島に所在する同軍管区隷下軍団の機関銃・砲兵師団の軍人3,000以上及び兵器・特殊機材数百が参加すると発表した。    Там отметили, что в ходе учений военнослужащие тренируются отражать высадку морского десанта, в том числе уничтожать перевозящую десант авиацию средствами ПВО.
  そこで強調されたのは、演習中、防空部隊の兵器による空挺輸送航空部隊の撃滅を含む着上陸部隊の撃退を軍人達がトレーニングしている事だった。
 "Расчеты 152-мм самоходных артиллерийских установок "Гиацинт-С" в ночных условиях с закрытых огневых позиций тренируются наносить огневое поражение по целям, имитирующим боевую технику условного противника, на дистанциях до нескольких десятков километров. В свою очередь расчёты миномётов "Сани" выполняют стрельбу по укрытиям с личным составом неприятеля на ближних дистанциях", - сказали в пресс-службе.
 報道局は「152㎜自走砲『ギアツィント-S』の各砲班は、掩護射撃陣地から約数十㎞距離で仮想敵の兵器を模した目標への夜間火力撃破を訓練している。迫撃砲『サニ』(投稿者注:82㎜迫撃砲)の砲班は、近距離での敵兵員への射撃を行っている」と語った。
 Там отметили, что в то же время артиллеристы отрабатывают навыки управления огнем противотанковых ракетных комплексов (ПТУР).
 同時に砲兵達は、対戦車誘導ミサイルの射撃指揮を演練している。
 "Помимо этого подразделения войск противовоздушной обороны (ПВО) выполняют комплекс мероприятий по обнаружению, идентификации и уничтожению летательных аппаратов условного противника, осуществлявших выброску воздушного десанта", - сообщили в штабе ВВО.
 同軍管区司令部は、「この他、防空部隊は、空挺降下を行う仮想敵航空機の捜索・識別・破壊に関する複合的施策を講じている」とした。
 Япония претендует на четыре южных острова Курильской гряды - Итуруп, Кунашир, Шикотан и Хабомаи, ссылаясь на Трактат о торговле и границах 1855 года. Позиция Москвы состоит в том, что Южные Курилы вошли в состав СССР по итогам Второй мировой войны и российский суверенитет над ними, имеющий международно-правовое оформление, сомнению не подлежит.
 日本は、1855年の貿易及び国境に関する条約(投稿者注:日露和親条約)を引用して択捉・国後・色丹・歯舞のクリル諸島南部四島を要求している。ロシア政府の立場は、クリル南部が第二次世界大戦の結果によりソ連に併合されたこと、及び国際法の正当性を有するロシアの主権が疑義がないと言うものである。
За последние годы Россия значительно нарастила военную группировку на Курильских островах.
 近年、ロシアは、クリル諸島における軍グループを著しく拡大した。
 В апреле 2019 года Минобороны РФ сообщило о введении в действие на курильском острове Кунашир зоны боевого дежурства ПВО. 1 декабря 2020 года Восточный военный округ сообщил, что российские военные разместили на Курильских островах систему противовоздушной обороны (ПВО) С-300В4. Газета Тихоокеанского флота "Боевая вахта" осенью 2016 года сообщила, что Россия разместила на Итурупе и Кунашире новые береговые ракетные комплексы "Бал" и "Бастион".
2019年4月、ロシア国防省は、国後島における防空部隊のアラート態勢ゾーンの稼働について発表した。2020年12月、東部軍管区は、防空ミサイルS-300V4をクリル諸島に配備したと発表し、太平洋艦隊機関紙「戦闘当直」は、択捉島と国後島に新型沿岸ミサイル「バル」と「バスチオン」を配備したと2016年秋に報じている。
 В августе 2018 года сообщалось, что в аэропорту "Ясный" на острове Итуруп размещены современные многоцелевые истребители Су-35 (компания "Сухой"). Российские военные сообщали о создании на курильском острове Матуа аэродрома, который принимает легкие военно-транспортные самолеты. В 2016 году сообщалось о планах создать на Матуа пункт базирования кораблей ВМФ РФ.
 2018年8月には、択捉島の「ヤスヌィ」空港に最新型多目的戦闘機Su-35(「スホイ」社製)が配備されたことが報じられた。また、ロシア軍は、クリル諸島のマトゥア島に軍軽輸送機受入可能な飛行場の建設を発表しており、2016年には、同島に海軍艦艇基地の建設計画も発表している。
 На островах Курильской гряды развернута пулеметно-артиллерийская дивизия. В мае 2017 года в пресс-службе ВВО сообщили, что в дивизию поступают новые образцы вооружения и военной техники, в том числе беспилотники.
 Группировка на Курилах была усилена модернизированными танками Т-72Б3.
 クリル諸島には機関紙・砲兵師団が展開しており、2017年5月、軍管区報道局は、同師団にドローンを含む新型装備が導入されていると発表した。
  クリル諸島の軍グループは改良型戦車T-72B3によって強化された。

https://www.militarynews.ru/story.asp?rid=1&nid=571166&lang=RU

海上保安庁のHPを見ると、いつもの海域にいつもの大きさの航行警報が出ています。記事には有りませんけど、いつもの水上目標射撃もしたのでしょうか。

安定の航行警報海域ですね
国後島の警報です。発表日時が2月下旬なので、以前から計画していたみたいですね。
択捉島の警報です。発表は3月下旬です。

今訓練の主な内容とそれから考えられるロシア側のメッセージを列挙してみます。

◯3,000人が参加
     → まとめ(3.3)で紹介したように、師団が3,500人なので、ほぼ師団全員が参加

◯空挺部隊が搭乗した輸送機への対空攻撃を含む対着上陸訓練
     →空母や揚陸艦から旅客機並みの大きさの輸送機は離陸出来ないので、仮想敵は作戦の起点を海上ではなく自軍の基地としている

◯火砲の夜間射撃
    →24時間の戦闘態勢を強調

◯北方領土支配の正統性、最近の軍事力強化を強調
     →日本に対する演習である事を示唆

◯国後島では1ヶ月前から計画された訓練だが、択捉島ではそうとは言えない
     →急に師団全員で訓練する事が決まった可能性、あるいは海保HPの誤植

以前からここで紹介してきた北方領土での軍事演習の想定上の敵は、海からの上陸作戦のため揚陸艦を中心とした艦艇団を擁する敵でした。
しかし、今回は空挺降下作戦のため輸送機航空部隊を擁する敵に変わったようです。

つまり、今回の敵は、アメリカのようにわざわざ艦艇団を編成して北方領土周辺まで遠洋航海する必要がなく、輸送機やその掩護用戦闘機の航続距離内に飛行場等の自軍の基地を持っている国だと思います。

ちょっと回りくどくなりましたが、これ等のメッセージから考えると、今回の演習は、18師団が総力を挙げて日本に対する抑止力を示しているものである可能性が大きいと思います。

②4月1日の報道

Военные ВВО отрабатывают на Курилах стрельбу из противотанковых ракетных комплексов
Всего в занятиях по боевой подготовке приняли участие более 1 тыс. военнослужащих и порядка 200 единиц техники
東部軍管区の軍人達、クリル諸島で対戦車ミサイル射撃を訓練中
戦闘訓練には、全部で軍人1,000以上と機材約200が参加
МОСКВА, 1 апреля. /ТАСС/. Военнослужащие Восточного военного округа (ВВО) на Курильских островах отрабатывают навыки стрельбы из артиллерийских орудий и противотанковых ракетных комплексов, сообщила в пятницу пресс-служба ВВО.
東部軍管区報道局は、同軍管区の軍人達がクリル諸島で火砲及び対戦車ミサイルの射撃を訓練していると4月1日に伝えた。
"С военнослужащими пулеметно-артиллерийского соединения армейского корпуса Восточного военного округа на Курильских островах стартовали комплексные занятия по стрельбе и управлению огнем. На полигонах Лагунное и Горные Ключи военнослужащие отрабатывают навыки по подготовке артиллерийских орудий и противотанковых ракетных комплексов (ПТУР) к открытию огня, а также выполняют задачи по разведке целей и управлению огнем при выполнении учебно-боевых задач", - сообщила пресс-служба.
同報道局は、「第18機関銃・砲兵師団の軍人に、射撃と射指揮に関する総合的訓練が始まった。ラグンノエとゴルヌィエ・クリュチ(投稿者注:ラグンノエは国後島ニキシロ、ゴルヌィエ・クリュチはゴリャチエ・クリュチの間違いで択捉島の瀬石温泉)の演習場で軍人達は、射撃に向けた火砲と対戦車ミサイルの準備訓練をし、訓練戦闘課題実施に際する目標の偵察及び射撃指揮を行っている」と伝えた。
Как отмечается, в ходе занятий артиллеристам на Курильских островах предстоит провести тренировки по выполнению нормативов в составе батарей и расчетов по подготовке комплексов ПТУР к стрельбе, смене огневых позиций, ведению разведки и выполнению стрельбы.
訓練中、砲兵達は、対戦車ミサイルの射撃準備、射撃陣地の転換、偵察及び射撃に関し、中隊・班の一員としての規定に沿った訓練を行う。
Для корректировки огня артиллерийских орудий и оценки обстановки на поле боя военнослужащие применяют беспилотные летательные аппараты "Орлан-10" и "Элерон-3". Завершатся комплексные занятия проведением тактических учений с боевой стрельбой из самоходных артиллерийских установок, противотанковых орудий и комплексов ПТУР по неподвижным мишенным позициям, имитирующим боевую технику и живую силу условного противника.
射撃修正と戦場の評価のため、軍人達は、ドローン「オルラン-10」「エルロン-3」を使用している。総合的訓練は、仮想敵の兵器と兵員を模した固定陣地標的への自走砲・対戦車ミサイルの戦闘射撃を伴う戦術演習で終了する。
Всего в занятиях по боевой подготовке на Курильских островах приняли участие более 1 тыс. военнослужащих армейского корпуса ВВО и порядка 200 единиц военной и специальной техники.
この戦闘訓練には、全部で第68軍団の軍人1,000以上、戦闘機材・特殊機材約200が参加する。

https://tass.ru/armiya-i-opk/14250819

結論をいえば、①の報道の実態、実際の中味が②の報道のようです。報道の中にある演習参加人数の規模(1,000人以上)と、訓練内容(中隊・班単位)を深掘りすると面白い結果が出ました。

◯演習参加人数の規模について
そう言えば以前、18師団の砲兵部隊の編制をまとめたことが有りましたよね。(遠い目)

18師団の砲兵部隊を考えると、
◯152mm自走砲及び152mmカノン砲兵中隊(6門編制)×6=大隊×2―360名
◯122mm榴弾砲兵中隊(9門編制)×2―180名◯100mm対戦車砲兵中隊(6門編制)×2―120名
◯122mm多連装ロケット砲兵中隊(9門編制)×2―180名
◯高射ミサイル砲兵中隊(自走高射機関砲、高射ミサイル各6門編制)×2―180名
◯「ブクM-1」高射ミサイル大隊(6基編制)×2―不明

まとめ(3.5)

師団の砲兵数は、1,020人+「ブクM-1」高射ミサイル大隊×2(投稿者注:多く見積もっても200人位でしょうか?)となるので、報道の演習参加人数「1,000人以上」と近く、ほぼほぼ、演習は師団砲兵全員が参加する規模だった事になります。

◯訓練内容について
今演習は「中隊・班の一員として」正しく行動できるか?、つまりこれら部隊単位内での連携が訓練されているようです。従って、指導者は中隊長で、指導対象は小隊長や班長と言うことになります。
部隊訓練の進め方を考えれば、小隊→中隊→大隊→連隊→師団となるはずなので今回の訓練は内容的に見れば中隊レベルと言えます。

今年2月頃にアップした「北方領土駐留部隊、小部隊の訓練終了」の記事の中で、「次は、中隊長が小隊長を指導する訓練になると思います」と書きました。
以前の記事がビンゴしたのは、嬉しいですけど、2月初旬から2ヶ月間でこの訓練進捗度はゆっくりし過ぎ、つまり訓練が遅れている様子が窺えますね。

一方で、演習参加人数の規模は、師団全員のレベルと報道されています。サッカーで例えれば、あるチームの5~6人でのパス回し練習を国立競技場でやるようなものですね。

訓練内容と訓練規模がアンバランスなので、
実際の訓練では、報道よりも参加人数はもっと少なく、内容も初歩的なレベルだった可能性があります。

③そして、1日のUHBの報道

ざっくり言うと、①の結論「18師団が総力を挙げて日本に対する抑止力を示している」+②の結論「実際の訓練では、報道よりも参加人数はもっと少なく、内容も初歩的なレベル」=③の結論です。

③の結論は、内容の低い訓練であるにせよ日本に対して効果的に恐れさせるため、
◯暗視装置を使う時代にわざわざ旧式の照明弾を使い
射撃している事を確認しやすいように、航行警報海域より日本に近い国後島南端で夜間射撃をした、と言えます。

詰まるところ、今回の演習は、その中味より
対日情報戦の要素が大きい
と思います。

それゆえ過大評価してはならないのは当然です。
しかし、この夜間射撃で使用された可能性がある「152㎜自走砲『ギアツィント-S』」の射距離は、以前紹介したように照準可能な最大射程28.5km、最大射程33.5kmであり、国後島南端から北海道の標津海岸までの距離24㎞を越えてます。
実際に射撃するかどうかは別として、能力的には北海道に射撃可能である事も忘れるべきではないと思います。

https://www.shibetsutown.jp/shokai/hoppouryodo/location/



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