スマブラ界隈で話題のいじめ疑惑について(法的分析や今後の教訓等)
第1 はじめに
今回の投稿は、非常に、残念なお知らせです。
任天堂が制作・提供する大人気ゲーム「スマッシュブラザーズ」のユーザー間において、インターネットを通じた、いわゆる「いじめ」疑惑が発覚してしまいました(以下「本件疑惑」と言います)。
後で述べる通り、当事者の間では「いじめ」の認識はなく「いじり」だと思っていた、というような弁解が見られました。
たしかに、「いじめ」問題は法的には、「いじり」との区別は非常に難しいところです。不法行為が成立し、損害賠償の請求がなし得る程のものかどうかは頻繁に裁判で争われます。今回の騒動も、安易に「いじめ」と断定することはできません。
参考までに、大津地方裁判所平成 31 年 2 月 19 日判決は、いじりがいじめに発展した事案として、その行為の積み重ねが、全体として、被害者に対して、希死念慮を抱かせるに足りる程度の孤立感・無価値感を形成させ、さらに、 このような関係が今後も継続するなどの無力感・絶望感を形成させるに足りるものであればいじめとして不法行為に該当し得る旨を示しています。
また、他の傍観者に関しても、その問題行為の主要部分を相互に認識しながらそのような行為に及んでいたのであれば、相互の意思関与の下 に共同したと評価することができる、すなわち共同不法行為が成立し得る旨を判示しています。
088609_hanrei.pdf (courts.go.jp)
しかしながら、関係者の間では、およそ不穏当なやりとりが、被害者本人の知らない中でなされていたことは紛れもない事実であり、それを知ったご本人が深く傷ついたことは間違いありません。
今回は、本件疑惑を、拙いながらも、法的に分析させて頂くことで、今後の再発防止につなげたお話をできたらと思います。
第2 関係当事者たちについて
まず、被害者とされる方は、ゲーミングチーム「ムラッシュゲーミング」に所属するうめきさんです。
そして、加害者の主犯格(の一人)とされる方も、同じくムラッシュゲーミングに所属するオムアツさんという方でした。この方は別のゲーミングチーム(Easyness Gaming)も兼任していましたが、同チームからは、本件疑惑が事実であることを前提に、契約解除の処分を受けています。
(ムラッシュゲーミング」、そしてオーナーの加藤純一さんの説明は割愛させていただきますが、加藤純一さんが直接説明されている動画の切り抜きもご紹介させていただきます。こちらは、本人公認で収益も折半されているということです)
第3 本件疑惑の経緯・発覚の経緯
本件疑惑の発端は、さかのぼって調べる限り、こちらのツイートだったんじゃないかと思います。
日ごろから練習や大会参加に熱心だったうめきさんは、突如、大会を棄権しました。異変を感じた多くのファンから心配をされていましたが、その原因として、本件疑惑が浮上したようです。
うめきさんのチームメイトであるオムアツさんは、自身の周りの人間を集めたチャットグループ(正確には、ディスコードサーバーですが、わかりやすくチャットグループと称します)を作成していましたが、そこでは、うめきさんのことを否定的に表現する発言が頻繁になされていたようでした。
端的に言えば、非公開ながらも多数のスマブラユーザーが参加しているコミュニティーの中で、うめきさんの陰口が頻繁に交わされていた、という事実が判明したのです。
第4 本件疑惑の問題の重大性について
弁護士目線も含めて、本件疑惑の問題を以下の通り整理しました。
1 そもそも「いじめ」(不法行為)と評価できるのかは争点
私が確認した限りでは、人格の尊厳を真っ向から否定するような言葉は見られず、必ずしも、民法709条が定める不法行為が成立し得る程の(違法な)表現が頻繁になされていたかは疑問が残ります。
これは、表現の自由や意見の論評を尊重するべき部分があり、両者のバランスをとらなければならないことも理由にあります。
他方、関係者の話では、うめきさんの陰口は日常的に話題に上がり、証拠隠滅のために適宜メッセージが削除されていた、とのことでした。
証拠保全の観点からハードルは残りますが、全ての事実関係を総合的に判断した結果、全体としての不法行為が成立する余地は、十分残されているんじゃないかと思う次第です。
なお、言動に関わっていない傍観者に関しては、必ずしも共同の不法行為が成立するとは言えません。しかし、対象の発言に対して、「いいね」に準じた反応やリプライなどを送っていた者は、加害行為に加担したと言えるのではないかと思います(ディスコードの仕様として、Twitterでいう良いねににた反応を、様々な絵文字で表すことができます)。
2 著名人のアイコン等を利用したなりすまし行為(肖像権侵害、名誉棄損等)は許されない
これは上記ツイートにもある通り、有名なストリーマーさんの釈迦さんやSPYGEAさんの写真や名称を用いて、本件疑惑に加担していた人物がいるようです。これは、端的にいえばなりすましになりますが、他人を装って違法な発言をした場合は、なりすましの被害を受けた方々との関係でも損害賠償責任が生じる可能性が高いです(※「釈迦さんがうめきさんの悪口を言っていた」というのは結局のところ釈迦さんがそのような悪口をいう人物であるという具体的事実を摘示して、その人格に対する社会的評価を低下させていると評価できます)。当然ながら、肖像権の侵害にもなり得ます。
なりすましをして上記の言動をした人物は、一部、ツイッターのアカウントを削除して逃亡を図ったようですが、きわめて悪質な行為に及んだことを自覚していただきたいところです。
3 大会関係者も参加して本件疑惑に加担していた点は倫理的にも適切でない(+個人情報の流出)
また、上記チャットグループには、スマブラの大会(篝火)を運営している関係者も参加しており、この方々も、本件疑惑に加担しているとのことでした。
IPホルダーの任天堂さんの意向もあり、大会はあくまで非公式のものではありますが、数多くのユーザーが参加する大規模な大会を運営する立場の人間が、いじめに加担するというのは倫理的、マナー的にあってはならないことだと思います。
さらに言えば、同関係者は、大会のアンケートを通じて知り得たうめきさんの回答を、チャットグループで共有していたとのことです。
※このアンケートは本来は匿名のものであったのが、誤ってうめきさんが自身の名前が分かる形で回答をしてしまったという経緯があるようですが(※そのため、個人情報保護法との関係では、流出した内容が個人情報データベース等を構成する個人情報とは言い難く(法16条3項)、個人データに前提とした法的保護の対象(法23条・漏洩等の防止措置)になるかは疑問が残ります。もちろん個人データにあたらない個人情報だとしても法19条の定める不適正な利用の禁止規定はありますが19条の解釈はなおグレーゾーンが残ります。菅原貴与著「詳解個人情報保護法と企業法務第8版」64頁参照)、アンケート回答という一般人からしたら知られたくはない事柄を、無断で多数の第三者に公開することは、プライバシーを侵害するものとして、不法行為が成立すると考えられるでしょう。
4 非公開だから何をしてもいいわけではない
本件疑惑に関して、疑惑に加担した人物の弁明や謝罪を見る限り、共通して思った点があります。
それは、「非公開の仲間内でやったことだからこんな大事になるとは思っていなかった」という本音が見え隠れしているところです。
参考までに、名誉棄損や侮辱は公然と不適切な言動をした場合に違法な行為と評価されます。公然と、とは、不特定あるいは「多数」の第三者に対してなされたこというわけで、必ずしも公開である必要はありません。
フォロワー数の多い方が鍵垢で何を言っても許されるわけではないのと同じように、スマブラの著名なユーザーが多数参加しているサーバーで、一個人を執拗に否定的に表現し、話題に挙げることは、一般人の常識からみても、「いじめ」と批判されてもやむを得ない事案であることは、くれぐれも理解していただきたいところだと思います。
関係者の方々はみなさんまだお若いので、あまり言いたくないですが、、はっきり言って、こんなことをしておいて、一言二言謝罪して、あるいはアカウントを転生して、その後は普通の生活に戻れると思っているならば、、、虫が良すぎると思わないのでしょうか。
もっと被害者のことをよく考えて、しっかりと反省してもらいたいところです。この件は、他人事ながら、非常に、不愉快な事案だと思っています。
第5 今後の教訓等
以上の教訓として、仲間内であっても、他人のことを悪く言うことは、その表現や頻度など、十分に注意していただきたいと思います。もちろん、表現の自由や意見・論評の自由が不当に制約されてはならないところですので、どこからが違法になるかというのは非常に難しいところではありますが、難しいからこそ、発言をする前に、もう一歩立ち止まって考えることをお勧めします。
また、大会の関係者におかれては、今回の件を教訓に、しっかりとした対応を心がけるよう期待します。大会のアンケート流出は、その運営団体の信用性を大きく失わせるものであり、あってはならないことだと思います。
非公式でほぼほぼボランティアで活動している団体が多いとは思いますが、個人情報保護法は、小規模であろうが、非営利であろうが、適用され得る法律です。個人情報の取り扱いには十分注意をしてもらいと思います。
話は大きくなりますが、IPホルダーの任天堂さんは、他のゲームメーカーさんと異なり、プロゲームの発展について、一歩距離を置いた考えを持っているように思います。
その原因の一つとして、こうしたユーザー間の無用のトラブルが生じ得ることを懸念している点が考えられますので、業界の発展を目指すためにも、みなさん一人一人が注意することがとても大事なことだと思います。
スマッシュブラザーズ界隈の健全な発展をお祈りいたします。
第6 参考URL等
以下、参考までに。