最近の入管法改正の流れや制度の概要


1 はじめに

めまぐるしく改正を重ねる出入国管理及び難民認定法(入管法)ですが、先日(令和6年6月14日・参議院本会議成立)、技能実習生制度を廃止して新たな育成就労制度とする旨の改正が成立しました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240614/k10014480601000.html

これまで、技能実習制度は、国際貢献(労働ではない)という建前と、実際には外国人を安価な労働力で就労させているだけではないかという実態とが、大きく乖離していました。
今回の改正では、就労の実態に合わせる形で、外国人労働者を原則3年で専門の技能があると認められる「特定技能」の水準にまで育成する制度とされました。これは、介護や農業における労働力の確保が狙いとされています。

入管法は、時代の動きに合わせて頻繁に改正を重ねており、現在の制度の概要や改正のポイントを簡単にまとめたいと思います。

2 もともとの制度趣旨

入管法1条は、「本邦に入国し、又は本邦から出国する全ての人の出入国及び本邦に在留する全ての外国人の在留の公正な管理を図るとともに、難民の認定手続を整備すること」を目的としています。そこには国家維持という政策的要因、市民生活や福祉の増進という権利保護、そして人の出入りを円滑に管理するという出入国管理行政、という様々な要素が認められます。
外国人の受け入れはあくまで国家の広範な裁量が認められ、有名なマクリーン事件判決では、国際慣習法上、国家は外国人を受け入れる義務がなく、外国人を自国に受け入れるかどうか(受け入れる場合の条件を含む)は自由に決定できる旨が判示されているところです(最高裁昭和53年10月4日判決)。

そうした経緯もあってか、外国人の在留資格の認定はこれまで厳格にされており、ただ日本で働いて稼ぎたいだけというような単純就労を目的とする外国人の受け入れはしてきませんでした。
(→それが前述の技能実習制度の実態と矛盾するようになったのが現状です)
また、戦争が未だ絶えない世界情勢では他国に逃げようとする外国人をどこまで受け入れるかというのが一つの課題ではありますが、日本はこれまで難民認定の枠を厳しくしており、ここでも外国人の受け入れに消極的な姿勢を示していたのです。
(→それを踏まえた解決策・避難民受け入れとして補完的保護対象者という制度が新たに設けられました)

以下では制度概要を簡単に押さえてから改正内容を説明したいと思います。

3 大まかな制度の概要

(1) 入国・上陸やビザなどの用語

日本に上陸しようとする外国人(日本国籍を有しない者)は、上陸した港におて、入国審査官から上陸の許可を受けなければなりません。
同許可は、基本的には旅券に、上陸許可の証印を押すことを指します。(旅券とは、パスポートを意味し、自国の政府がその者の身分を証明し、渡航先の国に対して不都合が生じた場合の引取りの保障、渡航先における受け入れを要請する文書をになります。
また、ビザ(査証)という言葉もよくききますが、これは日本の在外公館の領事が、日本に渡航しようとする外国人に対して、事前に旅券や渡航目的などを審査した結果、上陸に問題ない旨を旅券上に表示するものを言います。通常は査証のシールが貼られます。
なお、ここまで上陸と言う言葉を使いましたが、上陸は国の領土に入ることを言い、入国は領空・領海に入ることを言いますので、正確には異なります。

(2) 在留資格 

在留資格とは、外国人が日本に在留する間、一定の活動をすることができる入管法上の資格又は一定の身分若しくは地位を有する者として在留することができる入管法上の法的地位を言います。
在留資格の種類や内容は度々法改正で変遷しておりますが、法務省のURLは以下の通りです。

https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/qaq5.html


(3) 退去強制

入管法は、ルールに違反した外国人を国外に追放する制度を設けており、同法24条が退去強制手続を定めています。

在留資格が切れたり、国内で犯罪をしたりした外国人が国内にとどまることは治安の悪化につながるおそれがありますので、法務省は情報受付フォームを設けています。

なお、退去強制事由があっても、例外的に、あるいは一時的に滞在を認める制度も設けられています(在留特別許可や監理制度・仮放免制度など)

(4) 入国拒否・上陸拒否

退去強制とは異なり、新たに国外から入ろうとする外国人の入国や上陸を拒否する制度があります。
拒否事由は様々ありますが、退去強制を受けたことのある場合が一例です。

また、コロナ禍では、保険・衛生上の観点を理由に、外国人の受け入れを大きく制約しました。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/fna/page4_005130.html

(5) 難民申請や在留特別許可

難民とは、人種、宗教、国籍、特定の社会集団の構成員及び政治的意見の5つのうちのいずれかを理由として迫害を受けたおそれがあるという十分の理由のある恐怖を有するために国籍外にいる者で、かつ自国の保護を受けることができない者等を言います。
単に政治体制に不満があって国外に出た者や戦災の避難民は難民としての保護の対象にはなりません。※昨今のニュースでよく見るウクライナ避難民というのは、難民ではないことを前提とした表現です。

在留特別許可(50条)というのは、退去強制事由があっても、国内で築いた関係や事情を理由に、法務大臣が恩恵的に在留を特別に認める制度です。
これも国の裁量が認められる部分ではありますが、検討にあたっては、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなつた経緯、本邦に在留している期間、その間の法的地位、退去強制の理由となつた事実及び人道上の配慮の必要性を考慮するほか、内外の諸情勢及び本邦における不法滞在者に与える影響その他の事情を考慮するものを考慮しなければならないため合理的な裁量判断が求められるところです(5項)。

(6) 収容手続

退去強制事由が疑われた外国人は、基本的には身柄が拘束され、所定の収容施設で暮らすことになります。

※収容施設の居住関係は様々であり、中には過酷な環境を強いられるところもあるようです。

(7) 刑事事件特有の論点・問題

これは私自身が刑事事件を担当する中で何度も直面した問題ですが、外国人の方が罪を犯すと、退去強制事由に当たり得ることがあります(24条4号)。
基本は1年を越える実刑判決を受けた場合は退去強制事由になりますが(リ)、薬物事犯や窃盗・詐欺罪や住居侵入犯等は、刑の重さにかかわらず、判決確定とともに退去強制になることに注意が必要です。また、執行猶予などがついても、元々在留期間が切れている場合は、そのまま入管に移動することになります。

24条4号
リ ニからチまでに掲げる者のほか、昭和二十六年十一月一日以後に無期又は一年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者。ただし、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者及び刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者であつてその刑のうち執行が猶予されなかつた部分の期間が一年以下のものを除く。

単純なオーバーステイだけの場合は刑事手続きに付されることなく行政手続で処理・退去強制されるだけのことがありましたが、最近は、体感的に刑事手続きに付されることが多い印象です。単なるオーバーステイでも別件の容疑や関係者の捜査等の疑いもあり、厳しい態度にならざるを得ない実情があるのかも知れません。

入管に移動した場合は、管理措置制度や仮放免制度を利用して身体拘束を解放する手立てがないかを検討すべきです。(オーバーステイの被告人は保釈が認められる可能性が低いですが、ようやく保釈が認められた場合でも、保釈されたことは入管に通報され、そのまま入管の収容場に収容されることがありますので、同様の問題が生じます)

3 改正の概要

(1)2023年改正

昨年改正され、今後施行されていくものとして重要なものは以下の通りです。
① 補完的保護対象者を認め、難民ではないものの保護が必要な外国人を受け入れるようになりました。ロシア対ウクライナの戦争がおおきなきっかけです。

②収容制度について監理制度を設け、仮放免制度の対象を狭めました。
仮放免制度は健康上の理由に限ることとし、また、その他の理由を扱う監理制度とは別にすることで、保釈金を不要とするようにできました。

※以前は、理由を問わず仮放免制度とされ、保釈金も必要となっていたので、刑事事件を扱う場合は、刑事訴訟法上の保釈金と入管法上の保釈金とが二重で発生するという不具合がありました。今回の法改正ではそのような不都合は減っていくとされています。

(2)2024年改正

マイナンバーカード(各市町村管理)と在留カード(入管管理)を一体化することで入管の一体化した管理が可能となるとされています。

また、技能実習制度にかわり育成就労制度というものが新たに設けられました。(2027年まで、とされています)

一番変わったのは、これまでの国際貢献という建前から人材確保という本音の部分が真正面から認められたところです。
その上で、所定の日本語要件等を満たすことで育成就労の在留資格を得ることができ、その後の活躍に応じて特定技能等の資格を得て、より長期間にわたり日本に滞在することができるようになります。
特定技能の対象となる業種も増えるようであり、対象となる外国人は今後ますます増えていくでしょう。
勤め先の変更も柔軟に行うことができます(よく聞く相談として、せっかく日本に来ても職場のいじめ被害でその場から逃げてそのままオーバーステイになったという事案があります。転籍可能というのは外国人にとって、日本がより住みやすい条件になるといえるでしょう)

https://www.moj.go.jp/isa/content/001415280.pdf


4 最後に

外国人が多くなるというのは心情的に抵抗感がある、という方も一定数いらっしゃるのが現状だと思います。他方、国内人口の減少など様々な時代の流れから、あるべき社会作りというのも求められますので、お互いの理解が大事な分野だと思いますね。

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