月光の約束
小さな町の外れに、一本の古びた橋がかかっていた。橋の下には、穏やかに流れる川があり、その川沿いにはたくさんの木々が並んでいた。橋のたもとには、いつも静かな少女が立っている。
彼女の名前はリナ。まだ15歳だが、どこか落ち着いた雰囲気を持つ少女だ。普段はおとなしく、あまり人と話すことはない。彼女の大きな瞳の奥には、誰にも言えない秘密が隠されている。
「今夜も、月が綺麗だな。」
リナは静かに呟きながら、空を見上げた。今夜の月は、満月で、銀色の光を辺りに放っていた。その光が川面に反射して、まるで水の中に浮かぶ星のように輝いている。
その時、背後から声がした。
「リナ?」
振り向くと、そこには彼女の幼馴染であるユウが立っていた。ユウは、普段からリナに気軽に声をかけることが多い。おおらかな性格で、リナとは小さい頃からの友達だった。
「どうしたの、こんな遅くに?」
「うん、少し散歩しに来たんだ。月が綺麗だったから。」
リナは微笑んで答えるが、どこか寂しげな表情を浮かべている。
「そうなんだ。僕も、月を見るのは好きだよ。」
ユウは少し照れくさそうに言ってから、リナの隣に立つ。
「それにしても、リナはいつもここにいるよね。こんなに静かな場所、他にないよ。」
「…うん。落ち着くから。」
リナは少し黙った後、川面を見つめる。ユウも黙ってその後ろに立ち、月を見上げた。
「どうして、そんなにここが好きなの?」
リナはふと答えを探すように、空を見つめながら言った。
「昔…お父さんと一緒に、この橋で約束をしたんだ。」
ユウは少し驚いた表情を浮かべる。
「お父さんと?どんな約束?」
リナは少し恥ずかしそうに顔を伏せたが、すぐにまた顔を上げて、言った。
「お父さんが、この橋の下にある川の水がきれいで、そこに住んでいる生き物たちも大切にしなさいって言ったの。その時、お父さんが言ったんだ。この橋の下には、何か特別な力があるって。」
ユウは黙って聞いていた。リナの言葉に、何か深い意味があるのだろうと感じ取ったからだ。
「そして、お父さんが死ぬ前に…『この場所を守り続けるんだよ』って、言ってくれたんだ。」
その言葉を聞いたユウは、リナの手をそっと取った。
「リナ…」
リナはその手をしっかりと握り返し、静かな笑顔を浮かべる。
「だから、ここが好きなの。お父さんの約束を守るために、この場所を見守りたいと思っている。」
ユウはしばらく黙って考え込み、その後ゆっくりと口を開いた。
「リナ、お父さんのこと、まだ辛い?」
「うん…時々、ふとした瞬間に思い出してしまう。けど、それでも前に進まなきゃって思ってる。」
「前に進むって…どういう意味?」
リナは少し視線を落とすと、優しく答えた。
「いつか、私もこの町を出て、新しい場所で何かを始めるかもしれない。お父さんのことは忘れられないけど、その思い出を背負って進んでいきたい。」
ユウはしばらく黙っていたが、その後に強くうなずいた。
「リナ、君がどこに行っても、僕はずっと応援するから。」
その言葉に、リナは驚きと共に温かさを感じた。
「ありがとう、ユウ。」
その時、ふと月明かりの中に何かが光った。リナは目を凝らし、その光が川面に反射しているのを見た。
「見て、ユウ。あの光…」
「本当に…星みたいだ。」
ユウが言ったその時、川面に浮かぶ光は、ゆっくりと消えていった。まるで、リナとユウの心が通じ合ったかのように。
「約束、果たさなきゃ。」
リナはそう呟きながら、ユウの手を握りしめた。
「私は、もう少しだけこの場所にいる。」
ユウは優しく微笑んで、リナの肩に手を置いた。
「そうだね。君が決めたことなら、僕も応援するよ。」
そして二人は、再び川のほとりで静かな時を過ごしながら、未来に向かって歩き出すことを心に誓った。