ナノ量子センサーによる哺乳類生体内の細胞温度計測に成功 量子生物学の新時代へ

2024年11月、量子科学技術研究開発機構（QST）の研究チームが、ナノ量子センサーを使用して哺乳類の細胞内温度を直接計測する画期的な成果を発表しました。この研究は、量子技術を生命科学に応用する新たなステージを切り開くものであり、がん研究や再生医療に大きな影響を与える可能性があります。

研究概要

QSTの研究チームは、ダイヤモンドに内包された窒素空孔センター（NVセンター）を利用したナノサイズの量子センサーを開発しました。このセンサーは、量子特性を活用して微小環境の温度を高精度で測定することが可能です。研究では、ラットの乳腺上皮内にこのセンサーを導入し、細胞内および細胞間の温度変化をリアルタイムで観察することに成功しました。

技術的背景

NVセンターを持つダイヤモンドは、温度変化に敏感に反応するスピン特性を持っています。この特性を利用することで、ナノメートルスケールでの温度分布を精密に測定できる技術が確立されました。今回の研究では、この量子センサーが乳腺上皮内の細胞環境の熱的挙動を詳細に解析できることが証明されました。

応用可能性

この技術は、生物・医学分野での幅広い応用が期待されています。特に、がん研究においては腫瘍細胞の代謝活動に伴う温度変化を検出することで、がんの早期診断や治療効果の評価に役立つとされています。また、再生医療では、細胞の活動状態を温度変化からモニタリングする新しい方法としても利用が見込まれています。

未来への展望

今回の成果は、量子技術が生命科学の未知の領域を解明する鍵となることを示しています。研究チームは次のステップとして、この技術を人間の細胞や臓器に応用するための実験を進めており、医療分野での実用化が大いに期待されています。

量子生物学は、量子物理学と生命科学の融合による新しい学問領域として注目を集めています。QSTの今回の研究成果は、この分野の可能性を大きく広げるものとなり、近い将来、病気の診断や治療に革命をもたらすかもしれません。

出典
QST公式プレスリリース