涙目春秋
いちはらさん
やはり,北海道の方々は金木犀の香りには馴染みがないのですね。
インスタあたりに流れてくる情報によりますと,金木犀の香りがする香水はけっこうな人気があり,さまざまに発売されているようですので,知ってるような知らないような香りがふわっと鼻先をかすめたときに「…どこからかトイレの芳香剤の匂いしない?」とか仰らないようお気をつけください。ことと次第によっては,ぶっとばされますのでね。
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サザエさんといえば,私が幼い頃の実家事情は,わりと磯野家に近い部分がありまして。マスオさん的ポジションに,わたしの父。タラちゃんポジションにわたしと弟が該当。フグ田家は磯野家からほど近い場所に居を構えつつ,就学前のタラちゃんズとサザエさんは,日中は基本的に磯野家で過ごしているイメージ。
当時の磯野家(意:祖父母の家)には,庭にそこそこ大きな金木犀が1本植えられており,花粉症もちのサザエさん(母)は「秋はちょうど金木犀が香る頃に花粉症がひどくなるから,わたしこの香りのイメージ悪いのよ,まったく!」と,まいとし鼻をズビズビいわせながら文句を言っていました。
わたしは,といえば,香る金木犀を見上げながら,しばらくの時間,何をするということもなく,ただただぼうっ……としていたことを覚えています。今にして思うと,あの濃密な香りに酔っていたのかもしれず。いや,普段からぼーっとしている子だったといえば,そうだったかもしれません。
夕方になると,タラちゃんたち(わたしと弟)は自転車の子ども用シートに乗せられ,フグ田家へと送られていきます。
タラちゃん1号(わたし)は波平さんの自転車。タラちゃん2号(弟)はサザエさんの自転車。
「あなたは,ほんとうにおじいちゃん子だったわねえ。帰るよって言うと,いっつもおじいちゃんの自転車にヒョイっと乗りこんでいくんだもの」と,昔を振り返って,母は言うけれど。そして,おじいちゃん子だったのは確かだけれど。
2台ならんだ自転車を前に,2号が毎度毎度あんなに「ママじゃなきゃいやですぅー!!!」って泣かなければ,わたしだってたまにはサザエさんの自転車に乗せてほしかったんだけどな。
……そんなふうに,小さい頃の自分が考えていたことを言語化するようになったのは、わりと最近のことです。
そして,言語化するたびに「そう考えていた,ということにしようとしている」ような,奇妙な感覚を覚えます。
たぶん,当時のわたしはわたしなりに,何かを感じ,考えてはいたけれど,それを言語化する能力はありませんでした。しかし果たして今のわたしが「いやー,あの頃,実はこんなふうに思ってて…」と行う「言語化」は,当時のわたしを,どれほどただしく反映できているのだろうか。
「んー,ハッキリとはわかんないけど,きっとそうだったんじゃないかな,うん」 くらいの,まるで誰か他人の気持ちを代弁しているときのような居心地の悪さが残る曖昧さ……
と,ここまで書いたところで,以前に市原さんがブログかtwitterで「ヒトの細胞はすべて生まれ変わるのだから,数年もすれば同じヒトでもまったくの別人と言える」……というようなことを書かれていたような記憶が浮かび,
「40年前の自分とか別の生き物すぎるから仕方ないな?」 と,おのれの違和感を納得させる方向で調整しようかと思っています。
なお,わたしも母と同じように花粉症を発症したようでして,ここ数年,この時期はまいとし,目と鼻が,とても,かゆいです(ズビズビ)。
(2022.10.28 西野→市原)