うみふかくにある心地こそすれ
いちはらさん
寝正月,ならぬ,テレビ正月をゆったりと過ごされた由,何よりでございました。
駅伝,見ちゃいますよね。他の局に変えようかな,というタイミングで入ってくるコマーシャルも力作ぞろいで,特にサッポロビール黒ラベルの「大人エレベーター」シリーズが大好きで,毎年たのしみにしています。
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前回いただいたおてがみの,「実在には3つある」のおはなし。
拝読しながら「実在」についてゆらゆらと思考は流れゆき,流れたその先に現れたのは1ぴきのクジラなのでした。
ここ数年,眠りが浅くなりました。
30代までは,睡眠さいこう,いくら寝ても寝足りない!と感じていましたし,「変な時間に目が覚めちゃって,そのあともう眠れなくて…」と辛そうにしている親族友人知人を「たいへんね…(もったいない…)」と眺めていました。
40代になり,まさか同じような苦しさを味わうことになろうとは。いやこれはつらいもんだね,いままでわかってませんでした,ごめんなさい。
深夜の目覚めは,「またか…」という嫌悪感とともにやってきます。
覚醒しきる前に,まだ残っているまどろみのしっぽを捉えようと枕に顔を押し付け目を閉じると,こんどは「不安」がじわじわと脳の奥から染み出してきます。
不安は,「あの原稿に入ってた修正,ちゃんとゲラに反映したっけ??」と明確なこともあれば,「このままでいいのだろうか」という正体不明のものであることもしばしばです。
明確なものであるうちは,まだいいのです(個人的には)。問題は,相手がの姿がいまひとつボンヤリとしているとき。
・これ考えてもしょうがなくない?→でも,いまできることがあるのでは→とにかく気になってるもの片っ端から調べてみよう→"Endless Net Surfing!!"
結果,なにかが解消/解決されることはなく,むしろ「眠れなかった…寝ればよかったのに…」という後悔のぶんだけ重くなった心と,寝不足でぐらぐらする頭を抱えた,なかなかにヘビーな1日がはじまる…
…ようなことが,週に2,3日も出現しますと,日常にそれなりに支障をきたしはじめます。
よくない,これはよくないな。
そう思いながら迎えた,何度目かの夜。
今日はぜったいに携帯電話を手にしないぞ…! と決めたはいいものの,くらやみのなか,脳の中では不安の嵐が吹き荒れて寝付けません。
しばらくそのまま耐えていると,ふと飛んできた「嵐」の文字が額にピタッと張り付きました。
あらし
たいふう
おおあめ ぼうふう おおしけ かいじょうはろうけいほう
…海。そうだ,海。
どれほど荒れようと,その深いところではクジラみたいな大きないきものが,ふだんどおりにゆったりと泳いでいて。わたしがひとり,夜中によくわからない不安に押し潰されそうになっているあいだ,泡の一つもぷかりと吐き出しているのかもしれない。
あぁ それは なんだか よかったなあ
つかれた脳は,ようやくそこで大きな息を吐き,うつらうつらとし始めました。
***
海を泳ぐクジラは,テレビでしか見たことがありませんし,大荒れの海の下で,実際のところどう泳いでいるのかはわかりません。
でも,ほんとうに「ある」かどうかはわからないけど,なんだったら,「ある」か「ない」かは,どっちでもよかったりもするのだけど。
わたしは「ある」気がするし,たぶんみんなも,なんとなく「ある」ものだと思っている。
それってなんだか,ロマンチックねと思ったりするのでした。
*件の本,ようやく入手しました。たのしみに拝読します。
(2023.2.17 西野→市原)